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第382話 美髪について検討した

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

朝起きて、鍛錬を行った後は当然のことながら、手入れを行う。早朝とは言えそれなりに気温が高い中で動くと汗もかなり出るが、私については導師服という素晴らしい品があるので、さっと浄化して簡単に髪をまとめるだけで手入れが終わってしまう。


私は非常に有り難いと思っているが、どうも歴代の私付のメイド達はそれを不満に思っているようで、現在の私付のメイドであるローゼイラもそうらしい。


「何故お嬢様の御髪は、特段手入れしなくてもこの様に美しいのでしょうか。これでは私のいる意味がございません……」


「私の髪は、精霊達も気を配ってくれているので、有難いことにその分手入れが不要らしいですわ」


「私の仕事は精霊達に取られてしまっているのですね。複雑な気分です……」


最初の頃はあまりしゃべってくれず、その上麻薬撲滅の一件でかなり家を空けたから帰って来た頃は結構気まずかった。あまり感情を表に出さないタイプなのでどう対応して良いか判り辛かったが、実はかなり熱望して私付のメイドになったらしいと、丁度各領巡回助言を終了して王都に戻って来たパティから聞かされた。


それから少し見る目を変えてみると、確かにやる気はあるし、丁寧に仕事をやってくれていた。なので、こちらからこまめに感謝の言葉を伝えたりして様子をみたところ、最近は少しずつ喋ってくれるようになった。


どうやら、もっと私の世話を行いたいらしいが……前世の記憶もあるので、私はあまり世話をされすぎるのも好きではないんだよね……。




その日は特に大きなこともなく、通常通り仕事が終了し、お父様、お母様と夕食を取っていたのだが、お母様から話し掛けられた。何と言うか、言葉に表し辛いような思いを感じる。


「ねえ、フィリス、少々相談に乗って貰いたいことがあるのだけれど」


「……はい、何でしょう、お母様」


「実は……最近、どうすれば貴女の様な美しい髪になれるのか、茶会の時に多くの方から聞かれるのよ。精霊が勝手にやっている、と言っても聞いてくれなくて」


「……それは、何とも申し訳ございません」


「貴女が悪いわけではないのだけれど……ただ、貴女のおかげで美肌魔法が作られたでしょう? そのこともあるから、最近、何だか圧が厳しいのよ……」


げに恐ろしきは女性の美に対する執着かな。ただ、それを私が口にすると、多くの女性を敵にしてしまうのは残念ながら理解出来ているので、最近は思っていても言わないことにしている。まあ、何かしら方策があるかもしれないので、前世の知識を思い出しつつ、精霊達にも話を聞いてみよう。




夕食が終了して自室に戻ってから、いつも私の髪の手入れをどのように行っているか、精霊達に聞いてみたのだが


『髪に属性の偏りがあったら、元に戻しているだけだよ』


と、皆同じような事を言っていた。話を総合すると、どうやら髪は全ての属性が調和した状態だと美しくなるようだ。ただし、髪はその人の属性に影響されやすいらしく、そのため、きちんと属性のバランスを取らないと、結構荒れてしまうようだ。


そして、驚いたことに、実は精霊達は、あまり私の髪を手入れしていないと言っていた。何故なら、私は全属性なので、よほどのことがない限り、偏りは発生しないらしい。つまり、私の髪が綺麗なのは、本当に体質だったらしい。……このことは言わないようにしよう……。


あと、精霊術士達の髪は大抵綺麗なのだが、その理由は、精霊が髪の属性のバランスを取ってくれているからだそうだ。例えば地属性の人なら、放っておくと髪が地属性になりがちなので、地精霊が地属性のエネルギーを取り除いて、バランスを取っているということだ。なるほど……。


一方、前世での知識を思い出してみると……主成分は殆どがケラチンと言われているタンパク質だったかな。髪に必要な栄養素は多岐に亘っているため、タンパク質やミネラル分はもとより、バランス良く多くの食材を使った料理を食べると良かった筈だ。


シャンプーとかは正直殆ど覚えていないし、こちらの世界で再現するのは現状難しいだろうから考えないことにして……あと、髪に栄養が送られるために血行を良くするとか、睡眠は大事とか、日差しに当たりすぎるのを防止したりとかもあるが、それらは普通の貴族女性なら理屈は知らなくても大概やれていそうな感じだな。


つまり、必要な栄養や休息を取り、日々の手入れをきちんと行っている場合は、この世界特有? の、髪の属性の偏りを何とかすることが出来れば、自然と髪が美しくなるのではないだろうか? ただ……こういう話は、魔法で行うよりも、魔道具で行った方が良い案件かもしれないな……。


この辺りの考えをまとめて、その日は就寝した。




次の日、相談に乗って貰いたかったので、様子見がてら魔道具研究所準備室長の所に顔を出した。先日以降、魔力炉の調整を行っていて忙しい所だったが、皆元気に動いていた。ネリスの様子を見ると


「導師様ではございませんか! 態々お越し頂けるとは、誠に幸甚ですわ~」


と言って作業を止めて嬉しそうにやって来た。ただ、今回は魔力炉関係では無いので


「コルドリップ研究員もお変わりなく。今回は少々別件で室長に用件がございますの。研究の続きをしていて下さいな」


と言うと、ネリスは悲しそうに礼をして去って行ったが……まあ、こういうこともある。


その後、応接室に案内され、簡単に現状の話を聞いた後、話を切り出した。


「室長殿、物体の属性を確かめる魔道具と、過剰に存在する属性力を低下させたり、不足する属性力を追加させる魔道具を作ることは、可能かしら?」


「……うーむ、似た機能を持つ魔道具は存在しますから、現状でも可能ですが、用途に合わせて形状や出力、追加の機能などを検討する必要がございます……一体何に使用されるのでしょうか?」


「髪の手入れに使用するのですわ」


「はて? こう申しては何ですが、導師様は特段の手入れが不要なほどにお美しいと思えるのですが……」


「私には不要らしいのですが、他の方から相談を受けまして……」


「……成程、深くは聞きますまい。そうですな……髪は女性の命ともいうべき物と言われますし、研究の話を持って行くのであれば、女性研究員の方が良さそうですな。貴族であれば、なお望ましいとは思われますが……」


「恐らくコルドリップ研究員には向いておりませんわね……」


「私もそう判断します。そうですな……そういった方面に明るいのは……」


と所長は少し考え、私に断りを入れた後退室した。暫くして、一人の女性研究員を連れて戻って来た。


「導師様、恐らくこの者であれば、ご要望にお応えできるのではないかと考えます」


「導師様、お初にお目に掛かります。私はクリマフロア・クインスールと申します」


「クインスール、というと、教育課長殿の関係者かしら?」


「はい、魔法教育の改革などで導師様にはお世話になったと、父が申しておりました」


まあ、魔法教育に関しては、魔法課と一緒になって教育の大元である教育課と調整していたからね……クインスール子爵家は、クインセプト伯爵家の分家筋にあたると聞いているが……クインセプト家は体制派だから、面倒な政争などが発生することは無さそうだ。話を進めよう。


「……室長殿、クインスール研究員殿が適任者ということで、宜しいのでしょうか?」


「はい、昨年魔技士試験に合格したばかりですが、魔道具に関する知識もございますし、現在本人が研究しているのも、美容に関する魔道具を作れないか、というものなのです」


「成程。貴女自身はどう思っていらっしゃるのかしら?」


「室長から少し話を伺いましたが……もし宜しければ、私にお任せ願えませんでしょうか?」


そうだな……ネリスとは違って身なりもきちんと整えているし、何より強い意欲を感じる。


「では……少し話をさせて頂いて宜しいでしょうか?」


それから私は、精霊から聞いた話や前世の知識を元にして、髪の手入れに関する仮説を話した。


「成程! 髪が荒れるのは、人が持つ感化力や環境の影響などによって属性に偏りが生じた結果だったのですね! それなら……とりあえず私自身が被験者となれる水属性で作ってみます。恐らく機能的には今の私にも作成は可能なのですが、程度が判りませんので、調整にそれなりの時間が必要となりますが、宜しいでしょうか?」


「それで宜しいですわ。ところで……経費の方はどの程度負担すれば宜しいかしら?」


「いえ! こちらとしては元々行っていた研究に示唆を頂いたようなものですから、むしろ有難いくらいですよ!」


……とはいうものの、それでは少々心苦しいので、まだ残っていた魔石のうち幾らかを寄付しておいた。

それから、今後の研究の流れなどを話し合ってから、準備室を後にした。




その日の夕食の際に、お母様に現状を報告すると


「そういった理由で髪が荒れるのね……洗髪剤や整髪剤についても、仮に属性毎に傾向が出るのであれば、そういう商売が出来るかもしれないわね」


「そちらはお母様にお任せ致しますわ」


「成程……人の感化力が髪に影響を与えるというのであれば……同属性同士の婚姻が不幸に終わる、という俗説も、あながち嘘ではないのかもしれんな」


そういえばそんな話も聞いたことがあったね……要は、同じ属性の人が髪を触ったりすると、更に荒れやすくなるのでそれが不和に繋がるということか……なるほど。


そんな微妙に考えさせられる話をしつつ、夕食の時間は過ぎて行った。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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