第381話 魔力炉の起動実験に立ち会った
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家で夕食を取っていた所、お母様から
「フィリス、来月にはアレクの婚姻式があるから、出席して頂戴。あの子も喜ぶわ」
と言われた。今の所大きな予定は入っていないので、了承したが……そうか、アレクもとうとう結婚か……従弟だけど、本当の弟みたいに感じていたので、なかなか感慨深いものがある。
相手のデカントラル伯爵令嬢は、一応見たことはあるが、話したことは無いな……確か3女だったかな。嫡男はメグルナリアと結婚していてそのうち領主を継ぐと聞いているし、次男は領主選定戦に出場していたのを覚えている。テトラーデ家とデカントラル家は、両方とも容認派だし隣の領だから交流もそれなりにあるそうなので、順当な感じだろうか。
休日は何も予定が入っていなかったので、例の体術の検証を進めていた。神官兵達は、通常の身体強化とは異なり、姿勢制御に大きくリソースを割きつつ、大きな力に振り回されないような取り回しを行っていた。断片的とは言え、十分に見せて貰ったので、真似なら今でも出来るが、これを自分の物にしないと危ないからね……。
「ふぅ、とりあえずはこんな所かしら。リーズ、ナビタン、見ていておかしな動きは無かったかしら?」
「正直、見ただけでそれほど動きを真似ることが出来るお嬢様が一番おかしい気はしますが……見えていた限りでは、力に振り回されるような動きは無かった気がします」
「それは良かったわ……人の動きを見て覚えるのは得意なのよ」
「お嬢……俺もその体術を学んでいいか? 獣化と相性が良さそうなんだよな」
「正直私も、教えられる程消化出来ていないから何とも言えませんが、特に大きな力で動く際の取り回しを覚えれば、獣化をした際に非常に役立つと思いますわ」
こんな感じでリーズやナビタンにも意見を貰いつつ、習得を進めていった。この体術を習得出来れば、身体強化時にはこれまでとは比べ物にならないほど移動速度を上げることが出来るから、武術大会でも役に立つだろう。
週が明けて通常の業務を行っていたところ、魔道具研究所準備室から、明日魔道具の起動実験を行うので、来て欲しいという連絡があった。特に問題は無いので行かせて貰うことにした。
次の日、魔道具研究所の建物に向かうと、室長から案内を受け、広間のような部屋にやって来た。そこでは、中央付近に恐らく今回の起動実験を行う魔道具が設置されており、周囲ではネリスや他の研究員達が作業を行っていた。計測器材のようなものを取り付けていたり、魔道具に使う魔石などをチェックしているようだ。暫くするとネリスがこちらに気付き、手を止めて挨拶に来た。
「導師様! 私達の起動実験を見守って下さるそうで、非常に感激しておりますわ!」
「ふふ、こちらを気に掛けて下さるのは有難いのですが、準備を万全にして実験を行って下さいな」
「はい! 手抜かりなどごさいません! では作業に戻りますので、失礼します!」
ネリスはそう言って作業に戻って行った。正直、髪も肌も手入れしておらず、貴族令嬢としては宜しくない状態だったが、何と言うか、目が生き生きとしていて、非常に充実している感じがした。
暫く見ていると、準備が完了したようで、皆、配置についた。今回の魔道具は火属性のものなので、私は火精霊に現状を確認して貰った。
『う~ん、今の所問題無いよ~』
現状ではおかしな動きはないようだ。
「もしあの魔道具が壊れそうになるか、外に何か影響を及ぼしそうなら、動きを止めて下さいな」
『分かったよ~』
火精霊にお願いして、改めて魔道具……としては大型の装置? を見てみた。これは大きく分けると3つの構造を持ち、1つ目は周囲から火属性のエネルギーを集めてレーザーを作る部分、2つ目はレーザーを火属性魔力に変換する部分、3つ目は発生した火属性魔力を蓄積する部分だ。
レーザーを魔力に変換する部分は、ヴェルドレイク様が発明した、風を魔力に変換する魔道具の構造を応用して使われている。火属性エネルギーは、周囲に置いてある石炭から取るようだ。あと、蓄積した魔力は、最大量を超えると魔素として放出される仕組みらしいので、蓄積しすぎて爆発することは無いようだ。
「では……仮称『魔力炉』の起動実験を始めます」
ネリスは緊張した面持ちで、起動するために装置に魔力を流した。すると、周囲の石炭から火属性エネルギーが集められているのが分かった。順調かな? と思ったのだが
『あ~、あれは駄目だね~、えい』
と、私の近くにいた火精霊が魔道具を止めた。聞いてみると、どうやらレーザーを封じ込めるための部分に隙間があったようで、あのまま動かすとレーザーが周囲に漏れてしまうところだったらしい。
私が皆にそのように説明すると、そこの修正はすぐに終わったので、起動実験が再開される運びになった。今度はきちんとレーザーが発射されたものの、変換された魔力は期待された出力より遥かに小さいものだった。火精霊に聞いたところ
『ん? そんなに強い光を出すようなものじゃなかったよ』
と言ったので、皆にそのことを話すと、今度はレーザーの出力の調整を点検した。すると、今回使う強力なレーザーを出力するための魔石が壊れていたそうで、新しい魔石に交換しつつ、その付近を点検したところ、魔力を伝達する配線が短絡していたので、そこも復旧させてから、改めて起動実験を行うことになった。
さて、今度はどうだろう……見ている限りは上手くいっているようだけれど……?
「現在の魔力量、402000、安定しています!」
「やったわ~! 導師様! 成功しましたわ~!」
「成功だ! この数値なら大きな魔法も使うことが出来る!」
「やりましたね!」
どうやら成功したらしい。後は継続的に動きを見て、異常な動作を行わないか点検をするようだ。ネリス達はひとしきり喜んだ後、再び配置に付き、各種計測用魔道具の数値を確認しだした。とりあえず今回は1時間連続で動かしてみるそうだ。
また、現在溜まっている魔力を使用することも行われた。『魔力炉』に魔道具を接続し、スイッチを切り替えて魔力を伝えた。室長は、様々な魔道具を接続して使用していた。初めは威力の小さい物から、次第に高威力の物を使ったが、問題無く使えているようだ。
最後に行ったのは、沢山の石ころを砂に変えたり、その砂を集めて1つの岩にする魔法だった。確かにこの多さの量を一度に扱っている所は、魔法では観たことが無い。まあ、私の魔力量なら、魔法で同じことが出来るとは思うが、地精霊と同化すれば簡単に出来るので、そちらの方法でやった方がいいからね……。
本来なら魔導師が何人かで協力しないと行えない魔法を単独で行うことが出来たので、魔道具の実験は終了した。現段階では大魔力が必要な魔道具が作られていないため、終了するようだが、今後は大魔力を使用しなければ起動しない魔道具を作って再び実験を行うようだ。
「そういえば導師様は……素晴らしい魔力量をお持ちだと伺っております。ちなみに現在は、おいくらでしょうか?」
「私は体質上、勝手に増えるのですが、最近は測っておりませんでしたわね……」
ということで、簡易的な測定具で測ってみたのだが
「何と! 導師様の魔力量がこれほどとは……」
ということで、大魔力が必要な魔道具の起動実験については、私が試しに使ってみて、普通に使えるなら今度は魔力炉から魔力を供給して起動させるという流れになってしまった。一体どのような魔道具を作るのか……出来れば環境に優しい物にして頂きたいものだ。
結局、1時間連続稼働して特に問題は見られなかったことで、起動実験は成功として終了した。後は様々な微調整を行ったり、大魔力を使用する魔道具を作ったりした後に、最終的に確認した後発表となるようだ。
『魔力炉』が社会を変えて行く将来を思い浮かべつつ、魔道具研究所準備室を後にした。
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