第378話 麻薬生産組織の壊滅 5
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準備が整い、来光軍の進軍が始まった。
王都までは大きな道路があり、歩きだと10日くらいの距離だそうだが、途中に幾つかの大きな町があり、守備部隊がいるそうなので、それらに対処しつつ進むようだ。
私については、麻薬関連施設を破壊しながら同行するが、所々で精霊との感覚共有などを使って情報収集などを行い、気になった所などは助言する予定だ。
進軍は順調に進んだ。各町の守備部隊については、事前にノーブレド神官将が
『抵抗するならば、神敵として討つことになる。神の教えに従いなさい』
と、伝声して勧告した後に、開門して受け入れれば武装を一旦解除させるとともに、神官達による再教化が始まり、魔法では為しえない強力な治癒の力を目の当たりにして、抵抗する意志を挫いていた。
中には抵抗して閉門したまま守備を固めた町もあったが……来光軍により、守備部隊が簡単に排除された。来光軍の神官兵達は、1000名くらいしかおらず、外壁に囲まれ、多くの兵で護られている町であれば、常識的には撃退できるのでは、と考えていてもおかしくはない状態だった。
現に私も、負けないまでも多くの犠牲が出るのではないかと心配したので、風精霊と感覚共有を行って戦場を確認し、助力の準備をしていたくらいだった。
しかしながら、終わってみれば神官兵達の死傷者は無く、守備部隊長らしき人は数時間後には討ち取られた、という圧倒的な結果だった。その秘密は、来光軍司令官には特別な神の恩寵が与えられているそうで、それは「来光軍全体の強化」を行うものらしい。今回、戦闘が始まる際に、ノーブレド神官将が来光旗を掲げて
『神よ、㒒たる来光軍の信仰、御照覧あれ!』
と叫んだところ、神官兵達が微かに輝いた途端に、もの凄い速度で攻撃を開始した。正直、魔力お化けの私が身体への負担を度外視して限界まで身体強化を行っても、勝てるかどうか判らないレベルの動きになっており、常人では恐らく対抗出来ないだろう。
その超人達が1000人で攻撃するのだからたまったものではない。門も簡単に壊され、抵抗しようとした相手兵士は簡単に屠られ、恐れおののく町民達をスルーして町の中心部まで攻め込み、守備部隊長らしき人も、ろくに状況の把握が出来ずに討ち取られたようだ。
この戦闘……とは正直呼べない、圧倒的な蹂躙を見たら、大抵の人間は抵抗が無意味だと悟るだろう。ただ、私としては、この状態の神官兵達と対戦してみたいという思いもよぎったのだが、神敵にされるのは御免被りたいので、その思いは気のせいということにした。
また、恐らく殆どの人達は知らなかったと思うが、来光軍が攻撃を始めた時に、町にいた精霊達が一斉に避難していたのだ。そのため、魔法で神官兵達に対抗しようとした人達もいたが、魔法が発動せず、排除されたという場面も見られた。あれは恐らく、精霊達が神敵に協力することを恐れたのだろう。
精霊は神様には逆らえないから、さもありなんという所だが……これは恐らく、私が神敵認定されたとしても当てはまる筈だ。そう考えると、私が精霊の力を借りて色々好き勝手にやっているように見える事があっても、実際は神様の掌中にある、ということだろう。改めて、神様に逆らうことなど出来ないのだ、と思い知らされた。
それと、これは思ってもみなかったことだが、神の恩寵で強化された来光軍の動きは、身体強化した際の身のこなしに、大いに活用出来ることが判った。
物凄い力で身体能力を強化されたとしても、身の丈に合わないものであれば、その力に振り回されてしまう。しかしながら神官兵達は皆、我が力の様に使いこなしていたように見受けられた。
そして、感覚共有しながら間近で見ていた私は、その秘密が高速機動に高度に対応した身のこなしと、それをサポートする魔力操作にあることに気が付いた。それからはもう、神官兵達の動きを目に焼き付けて、現在の自分の動きの改善点などを割り出すことに夢中になってしまった。気が付くと戦闘が終わっていたというね……。
戦闘が終わってから、そのことをノーブレド神官将に話したところ
「流石は精霊導師殿、と言ったところでしょうか。神官兵の秘伝を一度で見破られるとは」
と言っていたので、神官兵が恩寵を受けた時の為に習得している高度な技術なのだろう。
ということで、私としても大いに得る物があり、早く鍛錬して物にしたいとは思ったが、任務もあるのでまずはそちらに注力させて貰い、とりあえずは進軍経路沿いの麻薬関連施設などはこれまで同様に破壊させて貰った。
進軍開始から20日経過し、現在は王都前に到着したところだが、当然外壁の門は閉じられ、守備兵達が張り付いている状態だ。そして、来光軍以外にも、幾つかの領軍が布陣していたが、全てこちらに共同で王都を攻撃すると連絡してきており、敵対の意志は無いようだ。
私が感覚共有を使って各領軍を率いている領主らしき人達の状況を確認したところ、国王が倒れた後の権力闘争を考えていたようではあったが、来光軍の邪魔をする考えは無かったようなので、それをノーブレド神官将に伝えておいた。
あと、少々予想外な事が起こっていたので、そちらも併せて伝えた。
「まさか、サウスエッド国海軍が、反対側から進軍して、王都攻撃に間に合うとは……」
何と、ウェルステッド国と連携するために向かった筈のサウスエッド国海軍の陸戦隊を宮廷魔導師長が率いてやって来たのだ。確かに反対側の海岸にあるブールイスト国の港からは王都とそれほど距離が離れていなかったけれど……まあ、後で話を聞いてみよう。
やがて、サウスエッド国海軍の伝令がこちらにやってきたので、ノーブレド神官将と一緒に状況を確認したのだが……どうやら、ウェルステッド国側に向かう途中で、両国の海上部隊が戦闘を行っていた場面に遭遇し、ブールイスト側を風魔弾であっさり撃破したところ、ウェルステッド側も恭順の意を示したので、今後の動きを伝えた後にブールイスト国の港町を抑えることにしたそうだ。
ウェルステッド国も、ブールイスト国の麻薬使用と各国への密輸は腹に据えかねていたらしく、来光軍の動きを知ると、すぐに国王に伝えて対応する、と言って帰ってしまったそうだ。ということは、そのうちウェルステッド国軍がブールイスト国の混乱に乗じて攻め込んで来るのは間違いなさそうだ。
それと、ブールイスト国はどうやら、来光軍の王都進軍に備え、周辺の町などから兵を集めていたそうなので、反対側からやって来たサウスエッド国海軍陸戦隊が来光旗を掲げていたことから、それだけで戦意を喪失してしまったそうだ。確かに守備兵を取られて手薄になった所に攻め込まれるのは嫌だよね……。
次の日、これまでと同様、ノーブレド神官将の勧告が始まり、暫く待ったが反応は無かった。周辺にいる幾つかの領軍は、手出しをしないことを事前に連絡して来ていた。
もしかすると漁夫の利を狙っているのかもしれないが、あれは実際に見ないと判らないだろうからね……。サウスエッド国海軍陸戦隊には、国王などが逃亡することのない様、警戒して貰うことになっていた。
そして、一定時間を過ぎても開門されなかったことから、来光軍による攻撃が開始された。とは言え、王都であろうと、兵士を集めようとも、神の恩寵を得た神官兵達にとっては物の数では無く、やはりこちらでも蹂躙と言わざるを得ない状況が生まれ、程無くして国王が捕縛された。
私も感覚共有を行って見ていたのだが、国王は想像を遥かに超える神官兵達の強さに慄き、隠し通路らしき所を使って逃げようとしたものの、その判断は間に合わず、敢え無く捕縛されてしまったのだ。当然高位貴族を含めて、この国の多くの人達が来光軍の圧倒的な強さを見ていたため、王都制圧後に、神の教えに逆らおうとする人達はいなかった。
こうしてあっけなく王都制圧が終了し、麻薬製造・流通の咎により、国王以下、多くの重鎮達が公開処刑され、来光軍の進軍は終了した。王都に一応残っていたが、既に寂れてしまっていた大聖堂は、急いで復旧作業が行われるとともに、改めて神域との間に転移門が開設された。
ブールイスト国には大司教となる方が赴任され、以降の業務を引き継ぐことになり、私は任を解かれることになった。来光軍は現在サウスエッド国海軍が入港している港に移動した後、海路を使って神域まで戻るそうだが、私については、転移門でそのまま帰国することになった。
ノーブレド神官将や宮廷魔導師長、護衛のリーズ達と一緒にまずは神域まで転移して、教主猊下に報告を行った。
「神子様、我々は背教者達を滅し、神の教えを伝えて参りました」
「大儀でした。助力された方々も、それぞれの国王に、宜しくお伝え下さい」
「我が国として有り余る光栄にございます。今後も我が海軍の力が必要な際は存分にお使い下さい」
「我が国として有り余る光栄にございます。そして、精霊達の神を讃える声が止むことは無く、今後も事が起これば私も付き従うでしょう」
そのような応答があった後、私達は教主猊下の書状を持って帰国した。大聖堂から出ようとしたところ、大司教台下から呼び止められた。どうやら、事前に連絡があったらしく、凱旋の準備が行われていたそうだ。
私やリーズ達は、王都の皆が出迎えてくれる中、オープン馬車に乗って王城まで移動した。その尾後は謁見の間において陛下に復命するとともに教主猊下の書状を渡し
「大儀であった。そなたは我が国の誇りである」
と陛下に喜ばれ、私の任務は完了した。
その後は各所で報告したり不在間の状況を聞いたりしてから王都邸に戻ったところ、お兄様やお義姉様、お祖父様もアルカドール領からやって来て、誕生日の分も含めたささやかなパーティーが行われ、改めて無事を祝って貰い、その後は休ませて貰った。
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