第375話 麻薬生産組織の壊滅 2
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神域から戻って数日後、大聖堂から神官がやって来て、来光軍が神域を出発したという連絡を受けた。
私については、ロイドステアとサウスエッドの間に設置された転移門を利用して移動し、来光軍に合流する予定だが、その際は私の他、護衛にリーズや近衛騎士8名が同行する。いくら来光軍に参加するとは言え、私を直接護衛する者が必要だという判断らしい。
なお、この半端な人数は私が使っているワゴン型空動車の乗員数から来たものた。現地でも空動車を運用させて貰えたら、色々便利だからね……。
来光軍がサウスエッド国王都にある港に到着する日に合わせて、転移門で移動した。
この世界において、来光軍に参加することは大変な名誉らしく、転移門の前では陛下やお父様を含めた各大臣、家からはお母様や、わざわざ転移して来たのかお兄様も見送りに来ていた。面映さを抱きつつ、陛下に出発の報告をしてサウスエッド国に転移した。
転移先では、王城にやって来ていたサウスエッド国の大司教台下の所に案内されて挨拶をした後、用意されていた馬車で港の方に移動した。そこで今回の来光軍司令官となるジェストラーク・ノープレド神官将と合流した。神官将という役職は、神官兵達のトップらしい。
「おお、精霊導師殿、今回は宜しくお願いします」
「ノープレド神官将殿、お久しぶりでございますね。こちらこそ宜しくお願いしますわ」
この方は、以前教主猊下と対戦した際に審判をしていた方だ。あの時は神域警護長という役職だったらしいが、そこから更に出世して現職に就いているそうで、立場上、今回の司令官を命ぜられたようだ。
「神子様は、本当は自分が行きたかったと、何度も呟いていましたよ……」
「まあ。あの御方であれば、そう思われても仕方がございませんわね」
教主猊下は神官兵出身だったそうだからね……。そういった関係で、神官将になった今でも、度々教主猊下の所で鍛錬に付き合っているそうで、かなり親しい仲のようだ。
ノープレド神官将と話しつつ、今回の移動で使用する軍艦の所にやって来た。今回サウスエッド国海軍が全面的に来光軍の輸送に協力するそうで、10隻の軍艦に乗艦して、移動するということだ。勿論風魔弾発射具を搭載した最新艦で、操艦要員以外にも多くの人員を乗せることが可能だ。
輸送支援の間は海上戦力が減少することになるが、支援の間は海軍自体が来光軍の証である来光旗を掲げることが許されるため、基本的に敵対されることも無くなるそうだ。それなら安心して支援出来るよね。
「精霊導師殿、今回は私も輸送支援に参加させて頂きますわ」
「あら、宮廷魔導師長殿。貴女もいらっしゃるなら、道中の安全は間違いなく確保されますわね」
「これでも海上の魔法戦は得意ですから。貴女には、移動間の安寧を約束致しましょう」
「宜しくお願いしますわ」
宮廷魔導師長は、変に近付いてさえ来なければ頼りになる存在だ。彼女? がいるだけで戦力がかなり違うからね……。安心して、船旅? を楽しませて貰おう。
港で民衆に盛大に見送られ、グリタニア大陸に向けて出航した。
好天が続き、航海は順調に進んだ。基本的には読書をしたり、部屋の中で出来る鍛錬を行ったりした。たまに甲板の上でリーズと鍛錬をしたりしたが、すぐに周りに観衆が出来てしまうので控えることにした。
その他、精霊達とも色々話して情報を集めたり、たまにやって来る宮廷魔導師長と魔法に関する話をしたりした。勿論魔法の知識はあちらの方が詳しいので、色々勉強をさせて貰ったが、こちらも精霊に関する知識などを提供したりしたので、あちらも得る物はあっただろう。
たまに、海賊船が近くに寄って来たりもしたが、精霊達が事前に警告してくれる上に、大抵は風魔弾で撃沈されてしまうので、私どころか宮廷魔導師長が出る幕すら無かった。とは言え、油断は禁物だ。
サウスエッドを出て25日目、漸くグリタニア大陸が見えた。私は一足先に、風精霊と感覚共有を行い、ブールイスト国を確認することにした。
まずは港だが……この軍艦が入港することは出来るようだ。かなり賑わっているようだが……近付いてみると、かなり殺気立っているような感じもする。精霊達にこの周辺の様子を聞いてみるか。
ほう、あの船に麻薬が積み込まれているのか……念のために覚えておこう。他には目ぼしい情報は無かったが、精霊達も、長い戦争にうんざりしているという話だった。
港から離れると、寂れている感じだな。若者が少ないように見える。まあ、戦争中だしそうなるのも当然か。何で戦争を続けているのか知らないけど、限界に近付いているような気もするから停戦した方がいいと思うけれどね……。
私が港を確認している間に、ブールイスト国側の船が近接し、来光旗が掲げられているのが見えたからか、攻撃を受けることは無かったようで、確認が終わった時には交渉が終わり、港に誘導されていた。
入港して、ノープレド神官将が下艦し、そこに宮廷魔導師長や私も同行したため、結構な一団が港湾を管理しているらしい施設に集まった。建物の中に入れたのは一部だけで、周囲は神官兵達で囲まれた状態になったけれども。
あちらとしては、予告も何も無かったので、大慌ての状況だろうと予想されるが、暫くすると、話を聞く態勢が整ったのか、会議室のような所にノープレド神官将が案内されたので、来光軍支援国の代表として宮廷魔導師長と私も同席することになった。会議室には港の管理者らしき人がいて、挨拶を受けた。
「カラートアミ教から来られた方々、お初にお目に掛かります。私はこちらの港湾都市をブールイスト国王より預かりし、ブラハリート・ベスプライザ伯爵です」
「ベスプライザ伯爵、私は今回、来光軍を率いているジェストラーク・ノープレド神官将だ。こちらについては今回来光軍の支援国から来た、サウスエッド国の宮廷魔導師長、ウィルアスナ・ザルスアージ伯爵と、ロイドステア国の精霊導師、フィリストリア・アルカドール嬢だ」
ベスプライザ伯爵は、当然のことながら我々を非常に警戒している。まあ、いきなり来光軍がやって来たらそうなるよね……。ただ、会談の場に来たうちの2名が女性だったからか、多少侮りを感じたのだが、私が紹介された時、逆に恐怖を感じた。どうやら私の情報は、こちらにもそれなりに伝わっているようだ。
それからノープレド神官将が、今回の来光軍の目的である、麻薬の生産、密輸組織及び施設等の撲滅について話したところ、顔には出さなかったが、べスプライザ伯爵からは、非常に動揺している感じがあった。まあ、恐らく国ぐるみで麻薬の生産・密輸を行っていたんだろうな……。
「それで……来光軍司令官殿、こちらの港に立ち寄られた理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「ああ、それなのですが……残念ながら、立ち寄ったわけではなく、この国が目的地なのですよ」
「な、何と! それではまるで、我が国が麻薬を生産しているかの口振りではございませんか! いきなりやって来てそれは、暴言が過ぎます! 事によっては、抗議させて頂きます」
「ほう? 精霊導師殿? 現在港に停泊している船の中に、麻薬を積んだ船があったそうですな?」
「ええ、精霊達が教えてくれましたわ。証拠として、今からそちらに伺わせて頂きましょう。宜しいかしら?」
「そ、それは……陛下に報告してから承認を頂きませんと……」
「隠し立てなさるか? その場合は問答無用で神敵と見做すが、それでも宜しいか」
「しょ、少々お待ちを! 馬車を用意いたしますので!」
ベスプライザ伯爵は、一旦部屋を出て、暫くした後に部屋に戻って来て
「只今馬車を呼びましたので、お待ち下さい。船旅はお疲れでしたでしょうし……」
と言って、お茶などを持って来させ、手持無沙汰だったのか、この港の説明などを話し出した。ただし、何かを隠している雰囲気が伝わって来たので、風精霊と感覚共有して、先程発見した、麻薬を積んだ船の所に向かってみると、急いで出港準備を始めていた。これは駄目だな、一旦眠って貰おう。
乗組員達を弱い雷魔法で気絶させていき、終わった所で意識を戻し、必死に時間を稼いでいるつもりのベスプライザ伯爵に話し掛けた。
「伯爵、件の船の様子を確認したところ、慌しく出港準備をしておりましたわ。乗組員達には眠って頂きましたが」
「は?!」
「ほう……それは直ちに行ってみませんとな……馬車の準備が遅いですなぁ」
「え、いや? ……」
暫くすると、ベスプライザ伯爵は諦めたのか、私達を馬車の所まで案内した。私が船の位置まで誘導した時は、既に死刑執行を受けたかの様に、絶望した表情だった。
乗組員達が全員気絶している状態を見て、ノープレド神官将達も少々引いていたが……船に乗り込んで、麻薬が積まれている所に案内して、ノープレド神官将に中身を確認して貰った。
「これは間違いなく、阿片だな。ベスプライザ伯爵、申し開きはあるか?」
「こ、これは違うのです! 医療用のものでして……!」
「これほど大量にあるのに医療用とは片腹痛い! 連行しろ!」
ぺスプライザ伯爵は、言い訳を続けていたが、神官兵達に捕縛されて、船の外に連れて行かれた。来光軍は、暫くはこの港の建物を幾つか接収して拠点にするとともに、王都に向けて進軍の準備を進めるそうだ。
私については、この国の状況を把握して、麻薬生産施設などの場所を確認することにした。
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