第374話 麻薬生産組織の壊滅 1
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東公領での一斉捜索を行ってから暫くが過ぎた。今日は神域であるカラートアミ教本部において、魔力循環不全症の治療を行うため、大聖堂にやって来た。転移門を使って神域に行く前に、大司教台下と少し話をした。
「貴女が、神の教えを良く守られていることは当方にも届いております。先日は、我が国に広がりつつあった麻薬の排除に助力頂いたとのことですね」
「神から生を受け、生かされている者として当然の事をしているまでですわ」
「それは重畳。今後も貴女に健やかな未来があらんことを」
カラートアミ教は、前世の価値観から考えても正しいと思えることを説いているし、知っている関係者はどの方も人格者で尊敬できる方ばかりだから、特に教義に反しようと思う要素が無い。教義に従っている限りは特に問題無いのだろう、と思いつつ、話を終えてキュレーニル研究員達と一緒に神域に移動した。
神域に到着し、担当の神官達に話を聞きつつ準備を整え、施術を行っていった。今回も3日間ということで急ぐ感じではなく、患者達についても待っていれば施術を受け、回復することがこれまでの実績から保証されているので、順番が遅くても文句などは無く、体操の指導についても普通に受け入れてくれた。
今回の患者達への施術を全て終了した所で、教主猊下から呼び出された。
「今回も皆の幸福の為助力頂き、感謝しております」
「勿体ないお言葉です。私はただ、自身に出来る事を行っているだけでございます」
「これまでの貴女の行いで、少なからぬ人々が神の教えに目覚め、また、神の教えから遠ざかっていた人々が悔い改めることが出来た様だ、と報告を受けております」
「私の行いは単に、真理の気付きの一つであったに過ぎませんわ。人は誰しも神の御子ですもの」
一応警戒はしているのだが……これまでの仕事に対して評価をしてくれている、ということだろうか?
それから魔力循環不全症の話などをしたり、ユートリア大陸以外の大陸の情勢について話を伺ったりした。大きく情勢が変わったのは、以前私も風龍様から依頼を受けて魔物暴走対処を行ったモリコルチ大陸だろうか。
先日、大陸内の統一国家が誕生して、カラートアミ教からも多くの神官達が派遣されているそうだ。通常は統一国家が出来るには小国家同士の争いを経るものだけれど、今回は風龍様が後押ししたため、表面上は平和的に統一されたらしい。そう言えばピリコノーメはどうしているかな……。
「貴女もモリコルチ大陸の安定に助力されたと伺っております」
「風龍様の、魔物暴走対応は人の手で行うべきだという考えに従っただけですわ」
「本来それを大陸の人々に悟らせるのは我々の役目なのですが、力が及んでいなかった所、貴女のおかげで役目を果たせそうです。本当に感謝しております」
「勿体ないお言葉です」
……ん? 少し雰囲気が変わった? ということはこれから本題に入るのか?
「……今年に入り、我々に対して神託が下りました。麻薬の流通が目に余る、と」
「成程。先日我が国に対してもそのような話がございましたが……神託に基づくものだったのですね」
「神託を果たすため、神官兵達により来光軍を組織するとともに、各国にも協力を要請しており、その結果、ロイドステア国を含めた主要な国々では治まりつつあります」
先日一斉摘発をやっておいて良かったよ。放置していたらカラートアミ教が組織した軍、神域のあるクェイトアミ山のご来光の様に神の教えを伝導するということから「来光軍」と言われているが、それに攻め込まれかねなかったわけだ。だから陛下以下、会議の際に非常に深刻な表情をしていたのだろう。
「そして、各国からの情報を総合した結果、麻薬流通の大元は、グリタニア大陸、ブールイスト国にあるということが判明したのです。従って、近日中に来光軍は、ブールイスト国に赴きます」
グリタニア大陸というのは、南半球側の大陸で、経度的にはカナイ大陸とほぼ同じ位置にあり、この世界に8つある大陸のうち7番目の大きさで、現在ブールイスト国が大陸を治めていると聞いている。そしてこの国は現在、海を隔てた隣国のウェルステッド国と長期の戦争を行っている筈だ。
なお、ウェルステッド国は、ルーランド大陸という、最小の大陸を治めている国だ。現在両国ともロイドステア国とは国交が無く、殆ど情報は入って来ていない状態だ。
「ブールイスト国もそうですが、ウェルステッド国も戦争が長期化しているため、戦争に利用されることを忌避して支部を引き払ってしまったのがいけなかったのでしょう。神の教えから遠のいた状態を作ってしまいました。それを正すためにも、今回の説教は必要な事なのでしょう」
カラートアミ教は、戦争自体は禁止していないけれど、無闇に争ってはいけないとも説いているからね……。戦争になると当然死傷者が増えるが、それを神官達が治療をしてしまうと更に戦争が長期化するから、戦争を終わらせるために一旦支部を引き払ったということなので、それが間違いとも思えないけれど、今回の様なことがあるなら考えてしまうよね……。
「そこで、お願いしたことがあります。本来我々だけで説教を行わなければならないところなのですが、今回については、貴女にもご助力を頂きたい、と考えているのです」
え? 私も参加するの?
「……それは……来光軍に所属する、ということでしょうか?」
「形としてはそうなりますが、貴女のお力を借りたいというのには理由があります。どうやらブールイスト国は、大きな麻薬の生産拠点を作っているとのことでして、この排除をお願いしたいのです。生産組織を抑えるのは私達だけで可能なのですが、生産拠点自体を排除するには相当な時間を要します。貴女のお力を借りることで、一気に排除したいと考えているのです」
なるほど。確かにそういう事には私の力を利用した方がいいかな。よく行っている各種工事などとあまり変わらないわけだからね……。
「お話は理解致しました。しかしながら私も国に仕える身ですので、報告と許可を頂かなければなりません」
「その通りですね。こちらに書状を準備しております。ロイドステア国王にお渡し下さい」
こうして私は陛下への親書を渡され、帰国した。
帰国して真っ直ぐに陛下の所に報告に行った。流石に教主猊下からの親書を持たされていたので対応は早く、陛下だけでなく宰相閣下や外務大臣、魔法大臣、法務大臣、お父様なども陛下の執務室に呼ばれることになった。皆の前で報告させて貰った。
「……成程。精霊導師よ、来光軍に加入し、我が国の威徳を高めよ」
「拝命致しました」
親書には、今後の大まかな予定も記されており、来光軍は編成完結後、サウスエッド国の港から出発し、グリタニア大陸のブールイスト国に向かって出港するそうだ。私はサウスエッド国で合流することになるようだ。今回はサウスエッド国の海軍も協力する予定だそうで、同盟国ということで、私としてもやり易い。
「出発が決まり次第、大聖堂からの連絡が来るとのことだ。それまでは準備をせよ」
「承知致しました」
それから、私が不在にする間の大まかな業務調整などが進められ、退出した。それから私は精霊課長やニストラム秘書官に状況を説明し、業務予定を変更したりした後、家に戻った。
夕食時には当然、来光軍の話題も出た。
「今回は来光軍ということで、相手からの反抗は少ないと予想されるが、それでも危険が無いわけではない。十分に気を付けるように」
「承知致しました。ご心配をお掛けしますが、務めを果たして戻って参ります」
「今の予定だと、貴女の今年の誕生日は祝えそうにないわね。来年はその分盛大に行いましょう? だから無事に帰って来て頂戴」
「ふふ、今から楽しみにしておりますわ」
家族を悲しませることのないよう、無事に帰って来ないとね。
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