第371話 第4回精霊杯を見に行った
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新年の挨拶会の3日後、私達は家族総出でドミナス分領へ向かった。水晶像品評会、通称「精霊杯」に招待されているためだ。
お父様、お母様と私は毎回特別審査員を務めているので、必ず参加するが、お祖父様は現在ドミナス分領で新素材の研究を行っているため、ドミナスへの移動も兼ねている。お義姉様は初めてなので観光として来ており、そこには当然お兄様も一緒に来ることになるわけだ。
なお、今回は広報用の冊子に撮像画を使用したいということで、ネリスにも来て貰っている。実家にいる時間を減らして申し訳ないところもあるのだが、本人は嬉しそうに撮像具を持って来ており、移動中もたまに私達を撮っていた。あちらでは撮像具の講習も行うらしい。
セイクル市から2時間程でドミナス分領の中心街に到着し、その日は太守のオペラミナー子爵達の歓待を受けて過ごした。ルカも顔を出してくれたが、太守邸とは別の場所に住んでいるため帰って行った。まあ、お兄様が結婚してしまったこともある……可能性もあるが、そこは言わない方が良いかもしれない。
今日は精霊杯の初日、審査日となっていて、一般客の立ち入りは禁止で、審査員や招待客のみが作品の鑑賞を行うことが出来る。今日のうちに審査結果を発表して表彰し、明日から3日間は一般公開され、商談や出店も設置されて、大変賑わうそうだ。まあ、私達は明日には帰るのだけれど。
精霊杯は4回目の開催であり、初回の頃からするとかなり規模が大きくなっている。参加工房は現在30あるそうで、初回から比べると倍になっているが、工房ごとに1作品だけ出展するそうなので、作品数自体は減少したくらいだが、そこは実施要領の検討結果によるものだから、特に注文を付けることは無い。
会場は3倍以上の広さになっているが、それでも相当混雑すると聞いている。宿泊施設もかなり増築しているそうだが、精霊杯期間中はそれでも足りず、馬車に寝泊まりする人達も少なくないそうで、そのための施設もあるそうだ。まあ、隊商の人達も結構多いらしく、安全が確保出来る分だけマシだという話だ。
私達は、朝食後に会場入りし、それぞれの行動を始めた。お父様、お母様と私は審査、お兄様とお義姉様は通常の鑑賞、お祖父様はネリスと一緒に、まずは全ての作品を撮影した後、会場の風景を撮ったり、撮像具の使い方を希望者に教えたりするそうだ。
「やはり前回よりも技術が上がっておりますわね」
既に私よりも上手く作れるようになっているので、新しい方向性を示したりすることは難しいが、こちらの審美眼も上がっているし、引き続き技術面を重視して審査させて頂こう。
一旦全ての像をじっくり見て、全体のレベルを把握してから、それぞれの像の評価を始めた。私が見たところでは、技術的に甲乙つけ難い作品が5つ程あり、他はそこから少し落ちるような感じだった。
現在は重力魔法なども同時に使用しているので、制作時に重力で歪む箇所がほぼ無いようにしている状態だ。従って、大きさの限界は加熱時にどこまで作業を行えるか、という所に左右されるわけだ。
細かい作業を増やせば像は小さいものになり、おおざっぱな作業が増えれば像は大きくても良くなるという感じだ。更には着色の要素もあるから、それらの取捨選択は全体のバランスを考えて行うことになるわけだが、上位の作品は、これらが非常に上手く嚙み合っていて、洗練されている。
そこから選ぶとすれば、後は題材のセンスや好みくらいなので、今回の私の審査としては5作品に最高点である5点を付け、そこから概ねレベルに応じて下げて点数を付けて行き、終わった所で集計係に採点結果を提出した。
昼食については、他の審査員の方々との会食だったので、それぞれ感想を言っていた。基本的には他の方も、毎回同じような視点で審査を行っているようだ。例えばお父様は何となく堂々とした感じ? まあ、ぶっちゃけ好みらしいが、お母様は綺麗に光りそうなものを選んでいる。
なお、最近は光魔法を使って像に光を当てる演出も多い事から、どこにどんな光を当てると映えるか、などという研究も行われているそうで、そういった観点から、これまで様々な宝石を見て来たお母様の視点は非常に有り難い、と以前水晶加工士の一人が言っていた。
また、今回もメイリースの旦那さんであるクライドさんから私に挨拶があった。近年は非常に忙しく、あまり家に帰れていないと嘆いていたが、この精霊杯は最近では外国からも商談にやって来る人達がいて、そういった所は大抵大口の契約となるので、非常に稼ぎ時だという話だった。家族の為にも頑張ると言っていたクライドさんは、立派な父親の顔をしていた。
午後は集計と、表彰の準備が終わるまでは暇だ。表彰の際は、審査員毎に一言感想を述べる場があるらしいので、何を言うか考えておくとして、他の様子を確認してみた。
お兄様とお義姉様は……まあ夫婦水入らずのようなので、お邪魔虫は近寄らないように……と。
お祖父様はネリスが行っている撮像具の講習を受けている。それなりに盛況なのは、現在ドミナスには水晶像制作や石炭素材研究所関連で優秀な火魔法士が集まっているからだろう。そして、私も講習を少し聞いてみたが、撮像具の取扱いだけでなく、写真の撮り方のような話もしていた。
恐らく今後は水晶像を販売する際にも撮像画を資料に添える形になる筈なので、そこに焦点の合っていない撮像画とか、全体像が良く分からないものとか載せられても困るからね……。これまでは文字やイラストだけだった資料が、実物に近い情報を持つことになるわけだから、取引も容易になるのではないかと思われる。
今はまだ白黒だが、ネリス的には今の研究が終わったら、改良して色を付けたいと言っていたので、そのうちカラーの撮像画が見られるかもしれない。
講習も終わり、控室で待機していたところ、表彰式の案内係が来たので、お父様達とともに、入場した。工房の人達は既に入場し、整列していた。
特別審査員席に座って暫くすると、品評会運営責任者である商工組合ドミナス支部長から開式の辞があり、表彰式が開始された。以前とは異なり、工房ごとに作品が一つしか出品出来ないので団体部門は無くなり、単純に上位5作品が表彰されるようだ。
発表された内容は、私が上位に挙げた5作品のうち4つは表彰されたが、1つは別の作品だった。他の審査員が高評価をしていたのだろう。
審査長であるオペラミナー子爵が表彰を行い、会場は大きな拍手に包まれた。
その後、審査員毎に感想が伝えられ、暫くすると私の番が回って来たので、拡声用の魔道具を持って話した。挨拶などはいつもと同様に話したが、今回の技術的な話は、温度管理に関するものにした。
水晶については、一定の温度で相転移を起こし、構造が変化するので屈折率や内部透過率が変わって来る。それを使い分けることで、光学的な効果を与えることが出来るのだ。今後は光魔法による演出も重要になって来るので、その辺りの研究も行って、反映して貰いたい旨の話をさせて貰った。
とは言っても、正確な数値は私も覚えていないから、今後職人達に研究を丸投げにすることになるので、心苦しかったのだけれど。
表彰式終了後、解散する前に、表彰された工房の人達にそれぞれお祝いと感想を一言述べていった。皆感激? してくれていたが、ある人からは
「お嬢様は来る度に益々お美しくなられるので、お嬢様を讃える像がなかなか作れませんな」
と、賞賛なのか苦情なのか判らない話をされたりした。
それと驚いたのが、ワターライカ島に移住した地人族のうち、水晶像に興味を持った人が何人かいて、こちらに来ているのは聞いていたが、既に幾つかの工房で活躍しているそうだ。職人気質な人達で、よく衝突したりもするけれど、それが作品に反映されて、レベルも上がっているらしい。切磋琢磨するのは良い事だ。
その日の夜、出品された水晶像をライトアップするというイベントがあり、見学させて貰ったが、非常に幻想的な光景が広がり、やって来た皆が楽しんでいた。なお、これを企画したのはルカだそうで、流石という他は無い。
次の日、一般公開の状況を確認したが、事前の話の通り、非常に混雑していたので、昨日ゆったりと鑑賞出来て本当に良かったよ。
そしてオペラミナー太守達やお祖父様が見送る中、私達は帰路に就いた。セイクル市に到着し、ネリスを家まで送った後、私達は家に帰った。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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