第365話 1527年予算審議が行われた
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公私ともに各種調整が入って忙しくしているうちに、1527年予算審議の週となった。
会期などはいつも通りで、全般で特に注目すべき点は無いが、強いて言うならワターライカ領の振興支援関係だろうか。各種魔道具の実用試験や、あの貝の研究などもあるからね……。
審議初日の総務省と財務省関連は大きな変化無く終わったが、審議2日目については、外務省の方で幾つか来年の動向に関係する案件が報告された。
現在、ロイドステア国では留学を認めていないが、最近は同盟国であるサウスエッド国や、グラスリンド帝国などの幾つかの友好国から門戸を開いて貰いたいという要望が多いそうだ。
特に目的は新魔法関連の知識らしいので、外交上有利な立場を保持するため、要望を無下にするのではなく、当初は短期間で、留学者の属性を限定するなどの処置により対応する方向で検討しているそうだ。
ただし、併せて魔法学校などの警備体制を検討しなければならず、人員や設備を増加するための予算が必要のようだ。確かに国際交流は基本的には良い事だけれど、情報漏洩や治安悪化を招く恐れがあるからね……。私も気を付けよう。
国防省については、引き続き飛行兵団の増加、海兵団の海軍化を進めるようだ。新造艦が既に3隻建造され、旧式の船はワターライカ領に引き渡されるらしい。まあ、あの領は警備隊にも船が必須だからね……。
あと、歩兵団を中心に希望者を募り、ワターライカ領警備隊に異動して貰ったことから国軍の充足率が低下しており、回復させるために当面は募集を活発化するそうだ。
それと、麻薬の密輸の取り締まりを強化しているが、現体制では追い付かないので、予算を付けて体制を強化するそうだ。
審議が終わった後にお父様に詳しい内容を聞いたところ、東公領を中心に麻薬が広がっているそうだ。あそこは今景気が悪いから、民心も不安定のようだ。しかしながら、仮にも公爵領だから、それなりの証拠や法的根拠、編成を整えないと大規模な捜査は難しいため、今回の予算を計上したそうだ。場合によっては私も捜査に協力した方がいいかもしれない。
審議3日目、建設省関連については大きく変わらなかったが、昨年はワターライカ島開発となっていた部分が、ワターライカ領振興支援という形になって、かなりの予算が計上されていた。来年にも入植が予定されているそうなので、更に発展するといいな。
いよいよ魔法省関連だ。魔法教育の拡充は昨年同様で、魔道具研究所の創設事業も来年で完了の予定だ。魔道具の実用試験なども、ワターライカ領などと連携して行われることが言及された。
そして精霊課については、例年実施されている事業に加え「精霊術士の定年に関する検討」について挙げさせて貰った。これ自体は特に予算には関係しないものの、精霊術士の所属数や規則改正などにも繋がるために、この場で一度話しておくことが良いだろうと、大臣や精霊課長に言われたためだ。
一先ず、現在の確認体制を継続すれば運用上必要とされる数は確保出来ること、また、精霊術士が各領に配置されることは、領の発展及び更なる精霊術士誕生に繋がるため、決して無駄にはならないこと、そして、この国の一般的な通念上、女性は20才までに結婚しなければ行き遅れ扱いされるため、業務への意欲が低下する者もいることなどを説明したが、当然この場で決まる話でもないため、今後も各省と調整しつつ検討することになった。
なお、この日の夕食の際にお父様から
「お前も20才で嫁に行きたいのか?」
と聞かれた時は、正直どう答えて良いか判らなかった。何せまだ相手も決まってないので何とも言えない……というのは建前かな。前世の私なら、結婚する気など無いとすぐに答えた筈だけれど、この世界に生まれて、結婚しないといけないという雰囲気に染まったのかな……?
まあそれはそれとして、私の結婚については国家としても非常にセンシティブな内容らしいので、そういった観点からも結論はすぐには出ないそうだ。難儀だねぇ。
審議4日目については、商務省関連で、1つアルカドール領にも関係する話があった。炭素素材の件だ。商務省とアルカドール領は、カーボンナノチューブとグラファイトの複合素材の研究で協力体制を作っているけれど、ダイヤモンドの研究についても協力することになったようだ。
まあ、アルカドール領だけがダイヤモンドを作れるようになった場合、利権や流通などの話が厄介だからね……。研究協力という名目で商務省を取り込んで、うちの利権を確保しつつ、国内の流通体制を整えていこうという考えらしい。流石お祖父様、その辺りの調整は抜かりがないようだ。
なお、この件については、炭鉱を持つ領についても巻き込むようで、特に先日結婚によりアルカドール領との結び付きが強化されたウェルスカレン領は、その筆頭らしい。あそこは帝国を始めとする諸外国との交易を行っているため、取引先が格段に広がるからね。そういった意味でも有難いことだ。
また、商務省としてはワターライカ領の可能性についても注目しているようだ。これまでのロイドステア国とは異なる気候、魔物の発生しない平坦な土地、豊かな鉱物資源もそうだが、新たな交易港として、外洋に面した良港となり得るターレス港の整備を建設省と合同で検討したいそうだ。
ただ、国内法上、一伯爵領に交易の権限を委任するわけにはいかないので、政府職員を派遣して勤務させる方向で調整するらしい。この辺りはもしかすると、政府として鈴を付けるような感覚なのかもしれない。
農務省についても、ワターライカ領での南国系植物の栽培を強化することで、今後の安定的かつ安価な入手を可能にするようにしたいそうで、農地開発に関する振興予算を確保するようだ。
既に作物研究所との連携が始まっているので、妥当な話ではあるけれど、この辺りは政府内の勢力争いでもあるようだ。個人的には、カカオ豆や各種南国フルーツ、香辛料などが手軽に入手出来るようになるのは有難いことだけれども。
審議5日目については、法務省は……例の魔力循環不全症関連の話は継続だが、ワターライカ島振興特別措置法が、ワターライカ領振興特別措置法に改正されたという話があった。内容も、国王直轄地から伯爵領に変化したことから、一定期間内の租税の減免などの項目が追加されているそうだ。
この辺りは、財務省との事前調整で非常に揉めたという噂が入っていたが、ここで発表している以上、形に出来たようだ。まあ、初めてのことだから揉めるのは判るけれどね……。
宰相府は……災害対処関係については変化なし。あと、特別補佐官であるオスクダリウス殿下から、重力魔法の今後の活用について、国民議会を通じて検討した内容が提示された。特に目を引いたのは、主要都市間の人員輸送用重空動車の定期便運航と、荷馬車の重量軽減を行う魔道具の普及を検討するものだった。
定期便については、前世で言うところの高速バスのようなものだから私も考えていたけど、荷馬車の重量軽減は考えていなかったな。まあ、複数の魔石を使う空動車は魔道具の中でも特に高価だし、作るのにも手間が掛かるから、国内に行き渡るまでに相当な時間が必要だし、操縦技能も必要になってくる。
そうであるならば、これまで利用していた馬車を使ってハイローミックスのような感覚で重力魔法を利用する手段があった方が現実的だ。こういう感覚は、一般市民の方が気付き易いよね……。
そして最終日、陛下が予算案への幾つかのご下問をなされた後、裁可された。この際
「暫くの間、ワターライカ領への特別措置が行われることになる。これは新領への移行に伴う措置とも言えるが、それ以上に我が国の将来を見据えての措置である。新しい環境にはこれまでに無かった多くの可能性が眠っているのだ。皆それを承知し、励むように」
と仰られた。特に関連する言葉は含まれていなかったが、恐らくあの貝の話も含まれているような気がする。今後、更に魔道具を広く活用していく為には、魔石が大量に必要だが、輸入に頼らず大量に生産出来るようになるのは国家として非常に有り難いわけだ。現状だとラルプシウス国頼りになってしまい、国家間のバランスが崩れてしまうかもしれないからね……。
予算審議が終わり、政府全体定例会議が行われた。その際、予算審議の結果に応じた政府としての動きを話すため、予算審議の概要なども資料として配布されるのだが、今回からは撮像画も使用されていたため、微妙に新聞っぽかったのだが……何か魔法省の所は、一番の主要事業である魔道具研究所の記事? を差し置いて、私の撮像画と発言が大きく記載されていた。
確かにあの時はネリスが嬉々として私を撮っていたけど……発言の内容も相俟って、私自身が早く結婚したいと言っているかのようなイメージを持ってしまった。もしかして、皆にはこう見られていたのか……? うーむ、気を付けないと。
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