第364話 身の回りで結婚関連の話が続いた
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共同指揮所演習が終了し、予算審議のための各種調整が増えているところだが、精霊術士達との会話の中で、今後検討しても良いのではないか、と思う話があった。それは、精霊術士の中央での勤務期間についてだ。
現在の法律では、精霊術士は25才になるまで精霊課で勤務することになるが、結婚は退官後になる。しかしながら、この国や、これまで行った外国でも大抵そうだったが、結婚は20才までにするのが普通で、それ以降は行き遅れと呼ばれることになる。当然精霊術士達にとっては大きな不満の要因であるので、出来れば改正して貰いたい法律のようだ。
今年に入ってコルテアが出身のディクセント領に帰って有力な商家に嫁入りしたし、来年2月にはエナが出身のブラフォルド領で行政官と結婚する予定だが、ちょうどそれらの話と一緒に出たのが
「あの法律、せめて20才までにして頂けないでしょうかね……」
という、皆の切実な意見だった。
25才という数字の根拠は、聞いたところ明確ではないが、中央に多くの精霊術士を確保しておこうという考えから来ているものだそうだ。ただ、そうであるならば、多くの精霊術士を確保出来ているならば20才で退官しても問題無い筈だ。
ここ暫くは、各領巡回助言の際にも結構確認出来ているから、毎年10名以上の精霊術士を確保出来ているし、たまに精霊視を持つ貴族令嬢も出て来るから、20才になるまで勤務するとしても、中央に100名以上の精霊術士を確保出来るわけだ。
まだ推測の域を出ないが、人と精霊が良好な関係にあれば、精霊術士も生まれ易いと思われるので、この状態を維持しつつ、更に各領にも精霊術士達がいれば、この状態を維持出来る筈だ。
魔法強化などにより精霊術士の活躍の場所は広まったが、それでも100名を確保出来れば通常の業務に支障を及ぼすことは無い。それに、各領に分散しても、そこでも基本的には精霊術士として活動するから、長期的に考えれば、国全体を豊かに出来る筈だ。そう考えると、案外良い話に思えて来た。
精霊術士の働き方改革……とまでは行かないが、精霊課長や魔法大臣達とも相談して、法改正を考えて行こうかな……。
そういった話をしていた矢先、今度は私付のメイドであるクラリアから、実家で見合いをして、恐らくはそのまま結婚するという話があった。
「正直なところ、ずっとこちらで仕事を続けていたかったのですが、親からいい加減戻って来いと怒られまして……」
どうやら、暫く結婚の話を断っていたらしいのだが、断れなくなったらしい。確かクラリアは現在21才の筈だったから、ご両親の要望も非常に強く、どうやらお母様の所にも話を通したそうだ。それはもう断れないよね……。仕方ないと言っていいのかは判らないけど、良い人と結婚出来たらいいね……。
相手は領行政舎で勤務している人らしいから、身元はしっかりしているし、領主家の目が届く範囲でもあるから、基本的には大丈夫だろうけどね……。ということで、クラリアは今度の帰省に合わせてメイドを辞めることになった。メイリースの時のように、何か贈り物を準備しておこう。
休日となったので、テルフィとナビタンを伴ってビースレクナ領で奪魔掌関連の練習を行っていたのだが、練習が終了して王都に転移しようとした時に、ビースレクナ側の護衛のうち一人が、テルフィに対して話し掛けていた。
「テルフィ・ドロウズさん、私と連れ添いになって頂けないでしょうか」
どうやらテルフィは、プロポーズを受けていたようだ。テルフィは、それに対して
「か、考えさせて下さい!」
と返していたが、まあこんな周りに人がいる中で返事はし辛いよね……。今しか話す機会が無いのは判っているのだけれど。
ということで、王都邸に戻ってから、テルフィに実の所どうなのか、聞いてみた。
「これまで護衛の合間に結構話をしておりまして、気が合う人だとは思っていたのですが、婚姻となると少々考えてしまいますね。もっと剣を学んでいきたいと思いますし……」
相手としては悪くないが、もっと剣の腕を磨きたいわけか。けれどテルフィももう20才だったかな? この世界の常識に照らせば、いい機会だとも言える。あとはご家族の考えも聞いてみよう。
「そうですか……ところでご両親は、貴女の婚姻について、何か言って来てはいないのでしょうか?」
「ここ暫く、来る手紙には必ず、いい人を紹介するから一度帰って来なさい、と書かれていますね」
やはり結婚して貰いたいようだ。個人的には、テルフィにこのままいて貰いたい気持ちもあるが、本人の言う通り、剣術を続けられるのであれば、結婚という考えもあるのではないかと思う。ビースレクナなら、ミリナなどもそうだったが、女性が剣術を行っていても問題無いだろうし、案外良いのかもしれない。
「私としては、このまま専属護衛を続けて貰いたいところですが、この機会に一度考えた方が良いのではないかと思うわ。そうね……テルフィが、婚姻後も……例えばレイテアの様に剣術を続けても良いか、あちらの方にも確認して、問題無ければご両親にも相談してみるのはどうでしょうか? ビースレクナ領との連絡については、私からも言っておけば、すぐに届く筈ですから」
「……そうですね。一度話をしてみます」
その日はそのような話をして終わったが、さて、どうなるかな……。
週も終わりに差し掛かった日、テルフィから、返事が来たという報告があった。
「あちらの話によると、剣術を続けて良いかという件については、むしろ歓迎するということでした。どうやら、元々ビースレクナの女性達には、護身のために剣を学びたいという要望はあったそうなのですが、教えられる者がいなかったようです」
なるほど、あちらの女性にとっては願ったり叶ったりといったところか。まあ、魔物に襲われる可能性が高いビースレクナ領では、そういう考えでも当然だよね……。
「では、テルフィは、どう思っているのでしょうか?」
「そうですね……正直、お嬢様や教官殿と比べる……のは烏滸がましいのですが、まだまだ未熟だと考えています。しかしながら、あちらの女性達も剣を学びたい、ということに驚かされました。それで、こういう生き方もあるのかもしれない、とも考えるようになりました」
「確かに貴女は、まだ伸びると思うわ。ですが、レイテアもそうでしたが、自身の鍛錬だけでなく、人に教えることで更に伸びることもあるでしょう。その機会を得られるのであれば、進むのも悪くないと思うわよ。勿論、婚姻相手との相性が一番大事なのでしょうけれど」
「……確かに、あの人とは趣味も合いそうですし……一度両親と話してみます」
ということで、テルフィは一度休みを取って、ご両親に相談に行った。ご両親は商会を営んでいるが、基本的には王都にいるそうで、アポ無しでも会えるようだ。
業務が終って戻ったところ、テルフィから報告があった。
「親としては、反対はしないということでした。むしろ、こちらから婚姻の相手について相談されたので驚かれました。ついでに、ビースレクナ領に支店を作ろうという話までされましたよ、全くもう……」
やはりご両親は、とりあえず娘に身を固めて貰いたかったようだ。そして支店の話は流石商人、転んでもただでは起きないといったところか。
確かドロウズ商会は、最近取引が増えていると聞いた。まあ、私や騎士団長夫人であるレイテアとも懇意になっているし、国軍も女性の待遇を改善したり、飛行兵団が新編されたりでいろいろ入り用だったからね……。
そういった実績もあるから、常に魔物暴走に備える必要があるビースレクナ領に支店を作っても問題は無さそうだ……とは言うものの、本音としては、娘との繋がりを持っておきたかったのかもしれないが、そこを言うのは野暮かな。
そして、次の休日についても、何も無かったので奪魔掌の練習の為にビースレクナ領に赴いたのだが、テルフィが相手に承諾することを伝えたところ、騒ぎになって練習どころではなかったので、森には行かずにフィル叔父様達と話をすることにした。
やはり、女性の護身の関係から、テルフィがこちらに来るのは歓迎されそうなので、一先ずは安心したが、練習にはならない状況は変わらないので、今日の所は早めに王都に戻ることにした。
さて、テルフィの結婚話に関しては、個人的には喜ばしいところではあるのだが、専属護衛の後任を決めないといけないからね……。話しついでに、恐らく人材の伝手を広く持っているであろう、レイテアに相談に行くことにした。休日なら、大抵は館で鍛錬している筈なので、顔を出させて貰おう。
やはりレイテアは旦那さんと鍛錬をしていたので、挨拶をしがてら、テルフィの話をさせて貰う。
「ほう、テルフィ、おめでとう!」
「有難うございます」
「お目出度いのですが、後任の専属護衛も必要ですから、レイテアに相談に来たのですわ」
「成程。やはり女性の方が望ましいのでしょうか?」
「ええ。どうしても私にとっては女性の方が勝手が良いから、頼ってしまうのよね……」
「承知致しました。現在教えている者の中で、希望者を募ってみましょう」
「宜しくお願いしますわ」
こうして、騎士学校でレイテアが教えている女子学生のうち、今年卒業する人の中から候補者を選ぶことになった。まずは実力を優先して選定して貰うので、後はこちらで人柄を見て決めよう。
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