第363話 共同指揮所演習は色々変化していた
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お兄様の婚姻式も恙なく終え、業務なども通常に戻っている。当面の大きな行事はサウスエッド国との共同指揮所演習だ。
日程などについては、まずは事前調整のために一週間前からサウスエッドに向かう、国軍の担当者達を転移門で送り、本番の際に主要な演習参加者達や、人材交流視察なども含めた体制で移動する予定だ。
共同指揮所演習は、始まって以来基本的に隔年で、開催国を交互に入れ替えて実施しているのだが、前回ロイドステア側で行った時には、あちらの国王の機嫌がかなり悪かったらしいが、今回は恐らくそのようなことは無いだろうと見積もられている。まあ、恐らくあちらの国王は娘と孫に会えればいいのだろうからね……。
担当者達の輸送支援やら政府全体定例会議なども問題無く終わり、11月に入った。恒例の合同洗礼式においては、火の精霊術士候補を1人確認した。
共同指揮所演習の移動日となった。いつもの様に、王太子殿下一家や国防省、国軍総司令部の一行を数回に分けて転移門で送りつつ、私も一緒に移動する。……いつもと同様、娘と孫目当ての国王が出迎えたりして、大まかに共同指揮所演習と人事交流視察の2正面に分派し、業務に取り掛かった。
私については、今日の所はその流れとは別に活動を開始した。
宮廷魔導師長に案内されて、まずは魔力循環不全症の治療に向かい、キュレーニル研究員達と一緒に4名の患者の施術を行った。中程度が1名、軽度が3名であったため、問題無く終了し、その後はキュレーニル研究員達に任せた。
その次は精霊視を持つ少女を確認させて貰った。今回もかなりの数が集まっていたが、風属性の子1名が精霊視を持つことを確認出来た。この子についても、サウスエッド国で基礎教育を受けた後、2年間ロイドステア国で研修する予定だ。
それと、ロストナやセナデアも今日はこちらにいたので、いろいろ話をしたが、やはり忙しいようだった。とりあえず年明けには1名の研修が終了して帰国する予定だと話したりした。
なかなか盛沢山な内容を終わらせつつ、共同指揮所演習の方に合流した。到着すると、演習参加者達に対し、演習の認識共有が行われていたので、内容を把握させて貰うことにした。
今回の演習も、兵棋演習形式で行われ、兵棋盤を戦場、兵棋を部隊に見立てて司令官や指揮官役の人が命令を与えて行くようだ。
演習の期間は3日間、会場は大きく5区画に分かれ、ロイドステア国軍、サウスエッド国軍、敵国軍がそれぞれの司令部として運用する区画、統裁部が使用する区画、ロイドステアとサウスエッドの両国が会議をする際に使用する区画があり、それぞれ兵棋盤が置かれている。味方の配置は判るが、敵の配置などはきちんと偵察しないと判らない、という状況を作為するのは、前回同様だ。
司令部が1回命令を与えると、一定時間が経過した後に命令の結果が兵棋盤や兵棋に反映され、また、実時間と戦場の時間の差異については実時間が1時間過ぎると戦場では4時間が経過しているという風に計算されるのは前回と変わらないようだ。
ちなみに今回は、前回置かれていなかった遠隔談具がロイドステア・サウスエッド国軍の司令部に置かれている。以前見た時は伝令を出してやり取りしていたので、その時間の分だけ情報伝達が遅れていたし、双方向ではないから意思疎通に時間がかかった。しかし今回は遠隔談具で通話することにより、早期の意思疎通が図れるようになったわけだ。地味に画期的になった感じがした。
今回も、ロイドステア側、サウスエッド側ともに、兵棋は10個あり、共通の兵棋として、司令部の兵棋が1個、騎士隊の兵棋が2個、歩兵隊の兵棋が5個、魔法兵隊の兵棋が1個ある。それに加えて今回はロイドステア国には飛行兵隊の兵棋が1個、サウスエッド国には海上部隊の兵棋が1個ある。
それぞれ最初は兵棋1個当たり千人、つまり両軍とも総員1万人いるという想定だ。実際の飛行兵団はまだそこまで多くないが、今後も増員してそれ以上の数にする構想なので、今回は気にしないでおこう。
戦場は実在の地形ではない、中間国であると設想されているが、この中間国なる設想上の国は、ネクディクト国とセントチェスト国を足したような地形だ。そして、敵国である某海軍強国が中間国に侵攻して流通を妨害していることから、両国が共同作戦を行い、中間国から敵国を追い出すというシナリオらしい。まだウェルスーラ国は仮想敵国のようだ。
今回の作戦の概要は、敵の海上勢力を牽制しつつ、地上部隊を撃破するという流れになるらしい。特に、サウスエッド国は自国の防衛も行う必要があるので、結構面倒な状況だ。
演習準備が終了したので、それぞれ指定された宿泊施設で休んだ。
今日から状況が開始される。私の役どころは、これまで同様、精霊に関する知識を必要とする所で尺度や意見を出すというものだが、基本的にはのんびりと見学させて貰おう。
演習時間で2日、つまり実時間で10時間が経過し、演習1日目が終了した。
今回ロイドステア側は主要な陸路を制する砦の奪取で、サウスエッド側は港湾を守りつつ、一部は占領された都市の奪還に向かっている。戦場は基本的に離隔しているものの、一部で共同作戦が行われていた。特に、飛行兵隊は大きく2つに分離し、1つは地上部隊の敵情解明、もう1つは海上の警戒に当たっていた。
そして海上において敵海軍の一部を発見したため、サウスエッドの海上部隊を誘導して、船に搭載されていた風魔弾発射具を用いて撃破した。やはり飛行兵を活用することは、これまでの戦場を変えてしまうようだ。
なお、この際私はサウスエッド側から、海上の監視を風精霊や水精霊の力を借りて行う要領について相談を受けたので、現状で行っている要領を回答しておいた。
演習2日目については、サウスエッド側の陸上部隊については攻撃が継続していたが、ロイドステア側の砦の奪取が成功したため、両国軍で一度作戦会議を行うことになった。というのは、ロイドステア側の進軍速度が予想以上だったため、当初の作戦計画を見直す必要が生じたからだ。
本来だと、この後は戦果拡張、つまり撤退する敵軍を撃破する予定だったのだが、それを行った場合、サウスエッド側の敵国の残存兵力が多い事から後背を突かれる危険性が高く、相当な被害が発生するからだそうだ。
飛行兵を使うと作戦の進展が以前とは段違いになるけれども、共同作戦を行う場合は、程度を考えないと危険な状況に陥るわけだ。この辺りは、遠隔談具があったために双方の状況がすぐに共有出来たことからその判断に至ったようだ。確かに前回は途中の会議は行われなかったな。
今回については当初の計画を修正し、ロイドステア側は歩兵隊で砦の防衛をしつつ、機動力のある騎士隊主体で占領都市の奪還に協力することになった。敵国の退路を制する、所謂包囲の態勢をとることで、早期の奪還を目指す様だ。
演習3日目、占領都市の奪還に向けて総攻撃が行われた。ここで特徴的だったのは、それまで魔法兵隊に同行していた精霊術士10名が、飛行兵隊によって戦場まで早期に移動し、サウスエッド側の魔法兵隊の魔法強化を行い、魔法攻撃により大きな戦果を挙げたのだ。
これにより、占領部隊を撃破して、状況が終了した。なお、飛行兵隊が都市を油壷で空爆をするという案も当初あったのだが、一般民も都市内に残留しているという想定だったために、その案は無くなった。実際に人が死ぬわけじゃないけど、良かったよ……。
演習は終了し、最後に演習統裁官である、両軍の総司令官から双方の成果や今後の演習の方向性などが示された。今後は相互の連携や運用性を高めていくらしい。そのためには、やはり飛行兵がサウスエッド側にも必要になるということで、重力魔法はともかくとして、空動車を現物供与する方向で検討するようだ。
まあ、重力魔法を使えなくても、空動車自体は動かせるからね……。勿論重力魔法が使える人ほど上手く扱えるから、そこは様子を見て追々、ということかな。
演習が終了した夜には、宴が開かれた。まあ、私についてはサウスエッド首脳からの挨拶対応は勿論のこと、国軍関係者からの「空動車を供与して頂きたい」という陳情? が大きかった。どうも空動車関連は私もかなり関わっているということが知られているようだった。まあ、途中からお父様が隣に来たので分散されたようだ。お父様有難う。
なお、今回も4日間愛娘や孫と過ごすことの出来た某国王は、大層ご満悦のようだった。
次の日、撤収も終了して帰国する際、国王夫妻以下、軍関係者などの多くの人達に見送られ、転移した。こういった交流が他の国とも続けられれば、戦争は起こらないのだろうね……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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※ 補足
フィアースは、1日が20時間という設定です。