第036話 レイテア、善戦する
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武術大会は、王都多目的催事場で開催され、大会の為に、幾つかの試合場が臨時に設置される。試合は予選・本選に分かれ、予選で勝ち残った者32名が勝ち抜き戦を行い、優勝者、準優勝者、3位が陛下から表彰され、副賞として賞金が贈られる。
予選は同じ組の者の数が多ければ乱戦方式、数が少なければ勝ち抜き方式だ。今回予選の組は4人だから勝ち抜き戦だ。武器は、大会指定の模造剣又は槍、若しくは個人所有の刃引きした武器、又は刃のない武器を使用する。防具は任意。参加中は魔法や魔道具は使用不可。
相手を戦闘不能にするか、試合放棄させるか、急所に有効打撃を加えられる態勢で寸止めすれば勝利、ただし、相手を瀕死又は死亡させた場合は失格となる。その他は審判の指示による。
予選では試合場でそのまま戦い、勝者が控室で待機、後は呼ばれたら試合場で戦う、という流れだ。開会式の後、午前中に予選と本選1回戦を行い、昼食後、決勝戦まで行い、表彰式に入るそうだ。準々決勝までは複数の試合場で実施するが、準決勝以降は中央の試合場で実施する。
今回の大会は、優勝候補と言えそうなのは騎士団副団長、あと、凄腕の冒険者がいるそうだ。
早朝、レイテアは軽く体を動かしていた。見た所、魔力循環は問題ない。早めに朝食をとって、兄様や護衛達と共に、会場に向かった。開会式後、各予選試合場に向かう。当然私達はレイテアのいる試合場に向かった。予選は、2回勝てば本選出場だ。早速、各会場で試合が開始されたようだ。
レイテアの最初の相手は……何か大男みたいだけど……相手が大振りすぎて隙だらけだった。あれならレイテアの敵ではない。あっさり喉元に剣を突き付け、勝利した。次は……レイテアを見てニヤニヤしている……どこかで見たような気がしたが……ああっ、先日の……と考えている間にレイテアがあっさり相手の脇腹を打って勝った。本選出場決定だ。これならいい所まで行けるかも?
レイテアは一度控室に戻ったので、激励しに行ってみた。確か14番だったよね……。ん?何やら控室の前でレイテアと知らない男性が話をしている。私は立ち止まったが、レイテアがこちらに気づいて礼をした。微妙な雰囲気だが、顔を出してみよう。
「レイテア、調子は良さそうね。そちらの方は?」
「お嬢様、有難うございます。こちらは私の父です」
「あら、お初にお目にかかります。私はレイテアさんに護衛をして頂いている、フィリストリア・アルカドールと申します。レイテアさんには日頃から大変お世話になっております」
「侯爵家の方からそのようなお言葉を頂けるとは。私はオズワルド・メリークスです。恥ずかしながら、娘が大会に出場すると聞き、心配になって観に来たのです」
「それは大切な方の晴れ舞台ですもの。当然のことですわ。当家のレイテアさんの同僚たちも、日頃から熱心に鍛錬されている姿を見て、ぜひ応援したいと、こちらに来ているのです」
「それは有難いことですが……、正直、私は試合に出るのを止めて欲しいと言いに来たのです」
「あら、それはご心配になるのも致し方ありませんが……今のレイテアさんを見て、どこまで戦えるのか、知りたくありませんこと?確か、貴方も騎士であると伺っておりますわ」
「その通りですが、女性が剣を振るうのには、限界がございます」
「限界を決めるのは、他ならぬ彼女ですわ」
「お父様……納得するまで、試合をやらせてもらえませんか?この通りです……!」
「……分かった。ただし、危険を感じたら、そこで終わりだ。いいな?」
その後、レイテアのお父さんは一度観客席に戻った。レイテアは……特に気落ちしている様子はない。私は、一戦一戦に集中するよう激励して、戻った。
本選一回戦が始まった。レイテアの試合場は……うちの護衛達がいるからあそこか。暫くするとレイテアが入場して来た。相手は、冒険者らしい。レイテアの試合が開始された。レイテアは様子を見ながらきちんと相手の剣をいなしている。うん、しっかり剣筋が見えている。
相手は……あれは恐らく我流だな。力や体力はあるようだが、構えに隙が多すぎる。あれなら……よし、隙をついて態勢を大きく崩し、喉元に剣を突き付けた。レイテアの勝利だ。まだ余裕がありそうだ。
二回戦の試合場は別の所なので移動した。レイテアの試合が始まるまで、軽食をとりつつ、他の試合を見ていよう。そういえば、レイテアが勝てば、次は優勝候補の騎士団副団長と当たる筈。彼の試合を見よう。
……あっさり試合が終わった。確かにあの人は強いわ。少し見ただけでは戦い方が把握できない。正直勝ち目は薄いだろうが……それ以前に、目の前のレイテアの試合だ。
レイテアの相手は……武器は槍で、歩兵団の人らしい。長物は私とも対戦しているから、それなりに対応できるだろうけど、どうなるか……試合が始まった。
レイテアは、相手の突きを躱したりいなしながら、懐に入る隙を狙っているように見える……うまい、入るように見せかけて相手が槍で払って来たところに、槍を持つ左手を打った!あれは痛いんだよな。相手は戦意を喪失したようで、剣を突き付けたレイテアが勝利した。次は準々決勝、相手はあの騎士団副団長だ。
暫くして両者が試合場に入場した。流石に副団長は人気が高いようで、声援が多い。あっ、あそこにレイテアのお父さんらしき人がいる。何だかんだ言っても、娘が頑張るところは見たいよね……。
試合が始まった。暫く様子見していたが、副団長が斬りかかる。速い!だが、レイテアも対応している。暫く打ち合っていた……が、え?副団長もレイテアの剣をいなし始めた!レイテアも副団長の動きが変わったことに気づいたのか、二人は先読み・先取り合戦を始めた。
思わぬ接戦に観客が興奮する。何合も打ち合っていたが、次第に副団長の態勢が有利になって来た。レイテアの剣の打点が後退して来ている。表情を見ると、かなり苦しそうだ。ただでさえ鋭い斬撃、受けるだけで消耗するのだ。次第にレイテアは追い詰められ、遂に捌き切れなくなったのか、大きな隙が出来た。そこを突いて副団長が斬りかかる!
一瞬の出来事だった。レイテアが態勢を強引に戻し、逆に副団長をいなしたのだ!
副団長が大きく崩された態勢を戻そうとしたところに、レイテアが剣を喉元に突きつけ、勝利した!あの時、レイテアは敢えて捌き切れなくなったかのように見せかけ、攻撃を誘い、その賭けに勝ったのだった。
観客の興奮醒めやらぬ中、控室に戻るレイテア。私は、控室に様子を見に行った。控室に入ると、レイテアは椅子に座り、辛そうにしていた。やはり、魔力が滞留している。あの斬撃を、捌いていたとはいえ受け続けたのだから、相当な負担がかかった筈だ。あのように動けただけでも凄い事だと思う。しかし、これでは準決勝で勝つどころか、負傷したり、下手をすれば命に関わる事態になる可能性すらある。
「レイテア、先ほどの試合、見事でした。ですが、その体で次の試合を戦ってはいけません」
「お嬢様!私はまだ、戦えます。やらせて下さい!」
「今、貴女の体は魔力がまた滞留しています。大会規定で、魔法での治癒はできませんから、すぐには治りません。恐らく碌に戦えないでしょう。怪我をするのは目に見えています。貴女は、私の護衛の仕事を放棄するのですか?」
「ですが……」
「先ほどのお父上の言葉を忘れたのですか?貴女には、心配して下さる方がいるのですよ?」
「それは……」
まだ戦いたいというのは解っていたが、お父さんの言葉を持ち出すと、レイテアは棄権を認めてくれた。なお、お父さんは控室の扉の向こうにいた。やはり心配だったのだろう。棄権を係員に告げた後、お父さんと少し話したようだ。これからも、うちで働きながら鍛錬を続けるので心配しないで、と言ったらしい。
入賞は出来なかったが、優勝候補を破って堂々4位、初出場の女性としては快挙と言える成績だった。次の目標は、大会で3位以内の入賞だそうだが、この様子なら、もっと上を目指せるだろう。
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(石は移動しました)




