第360話 飛行兵団は着実に力を付けているようだ
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貝の研究については、暫く私に出来ることは無い。マーク叔父様の所には、ヴェルドレイク様からも話が行き、概要を説明して貝の養殖に詳しい人を派遣して貰えるようになったらしい。公表は止められているが、何せ陛下からも承認を頂いた研究だからね。
とりあえず私については、施設を作る際に協力するから、その時までに貝の改良の構想を練っておこう。どういう風に願えばいいのだろうか……?
秋の御前会議も恙なく終わり、10月に入った。冬なので、王都でもかなり寒い中、国軍総合演習が行われる。今回は勢力が大きくなってきた飛行兵団を、他の兵科と連携させて行動させるのが目的らしい。
飛行兵団は、ウェルスーラ国の無敵艦隊を破ったことから人気の部隊で、地属性で魔力が高めの男性だと、かなりの割合で入団を検討するらしい。
現在魔法学校に通う貴族間での人気も高く、家を継ぐ必要が無ければ、卒業後は飛行兵団を目指す者が多いので、重力魔法を熱心に練習していると、テトラーデ家の次男坊であるセディが言っていた。最近校内に貼られた国軍宣伝用のポスターが、颯爽と二人乗り空動車を乗りこなす飛行兵と、後部座席に乗って行先を指示している風の精霊術士を描いたもので、非常に格好良いらしい。
なお、セディも地属性であり、飛行兵団志望者のうちの一人だ。危険な仕事に就いて貰いたくない気持ちもあるが、貴族として生まれたからには避けては通れないからね……。
精霊課の多くの者が演習に参加しており、私も適宜感覚共有を行って観に行くとともに、魔法大臣と一緒に視察に行く予定だ。特に、部隊が大きくなり、運用の区分けを増やす予定なので、飛行兵団に配置する精霊術士の枠を増やしたいという国防省の調整が入っているため、しっかり活躍出来るのか確認しておかなければならない。それに、セクハラが蔓延していても嫌だからね。
演習は大きく前段4日と後段1日に分かれ、前段は国軍が飛行兵のいない他国軍と戦闘になる場面、後段は飛行兵同士が戦闘をする場面だそうだ。騎士団と歩兵団は前段で終わり、魔法兵団は後段も飛行兵の後部に乗ったり、地上から魔法で援護する役をやったりするそうで、精霊課は魔法兵団の予定に準じている。4日目には陛下も視察されるので、魔法大臣や私はそこに合わせて視察するという流れだ。
演習初日だ。私は書類業務をやりながら、合間に風精霊と感覚共有を行い、演習実施場所であるステアシード訓練場に飛んで行った。状況としては、防御態勢を取っている敵軍を撃破するため国軍が前進中であり、先行して飛行兵が偵察を行う場面だったかな?
それにしては飛行兵達が飛んでいない……と思ったら、遠くから飛行兵の小部隊が訓練場に向かって飛んで来ていた。どうやら遠方に飛んで行くことを模擬するために、一度訓練場を出て違う方に飛んで行って、そこから折り返して戻って来ているようだ。
飛行兵の小部隊は、敵の地上部隊を発見して散開し、低速で敵部隊上空を暫く飛んでいた。当然、敵地上部隊から矢や魔法が飛んで来た。的をぶら下げている飛行兵がいて、そこに魔法や矢が当たれば撃墜される、という判定方法らしいが、高度があるため当たっていない。
そして散らばった飛行兵の後部席にいる人達は……何と、撮像具を使って撮影していた。確かあのような使い方は、前世でも航空偵察の際に実際にあった筈だ。やっぱり同じような道具は、使い方も似て来るのだろうか?
航空偵察? が終わり、帰投する飛行兵達に付いていったのだが、先頭の空動車には、導き手としてフェルダナが乗っていた。フェルダナは私に気付いたのか、一旦こちらに会釈したが、その後は警戒と誘導の業務を行っていた。フェルダナも出会った当初の自信なさそうな雰囲気は無くなったな……。
大きく回って訓練場の国軍側がいる地域に戻って来た飛行兵達は着陸し、偵察結果を報告し、併せて撮像具を提出した。印刷した航空写真? を見て、国軍側が軍議を始めていた。その様子を国防省の人達が確認していたが、よく見ると違う服装の人もいた。
あれは、サウスエッド国軍の制服なので、恐らくは来月の共同指揮所演習に合わせて、視察に来ているのだろう。サウスエッド国軍の人は、飛行兵や撮像具に非常に関心を示していた。そう言えば、サウスエッド側が重力魔法の開示を求めていると聞いたけど、そのうち結果を聞いておこう。
初日は航空偵察? をくり返し行うと聞いているので、1回だけ観て戻ることにした。
演習2日目だ。今日は地上部隊の開戦に伴い、飛行兵団が後方の司令官がいる本陣や、輸送部隊を襲撃する場面を行う日だったかな。訓練場の国軍側の地域に行ってみたところ、まだ状況が始まっていなかったが、航空偵察? のその後の様子が本陣の天幕で確認出来た。
どうやら敵国軍側は、上から見られないように偽装を行っていたらしく、最初の様子より見えている部分が少なかった。ただし、他の資料を見たところ、別に全てが見えなくても、概ねの勢力は予測出来るそうで、そういった所を偵察出来るよう、今後は訓練していくようだ。なるほど。
状況が開始されたので、現場を観に行った。前線に食糧などを輸送する部隊の襲撃は、飛行兵の小部隊で上空から魔法を撃って荷物(を模擬した藁と石)に当てて燃やすか破壊していた。本陣への襲撃については、飛行兵団主力で向かっていた。
地上部隊の開戦に合わせて数百の空動車が、一糸乱れぬ様子で敵国軍側の本陣に向かっていくのは何だか心躍るものがある。
空動車には幾つか細かい役割があるようで、本部に油壷(を模擬した木箱)を落とす役、その油壷役を護衛する役、焼き払われた本陣から恐らく逃げるであろう司令官を捕縛する役に分かれているそうだ。
役割の分担に応じて、それぞれ導き手として精霊術士が複数配置されていた。数が多くなると、安全距離を取る関係上、幾つかの組に分けて誘導する必要があるために、導き手が必要となるのだそうだ。故に今回は風の精霊術士を定員より増員して配置している状況だ。
導き手の乗る空動車は判り易く赤や緑などで彩色されて区分されており、間違って付いて行かないようにしているそうだ。
途中何度か地上部隊からの魔法や弓により、幾つかの空動車が命中判定を受けて地上に降りたものの、殆どは本陣に辿り着き、模擬油壷を落とした。その後本陣から脱出する敵司令官役の人を捕縛し、地上部隊の戦闘も止まった。
本来は捕縛の後に敵司令官を空動車にぶら下げて、戦闘している所まで飛んで行って停戦を要求するという流れだそうだが、流石に敵司令官役の人が可哀想なので、遠隔談具で連絡するだけにとどまったようだ。
演習3日目だ。今日は偵察から襲撃までの一連の行動を流して、明日の陛下達の視察に備えるという予定だ。まあ私は感覚共有して今日も観ているけれども。
初日よりもスムーズに偵察が終了し、一旦演習時間が進み、会敵前になった。国軍側は偵察結果に応じ、敵の弱点を突くように陣形を変え、また、飛行兵団は敵本陣に向けて出発準備をしていた。オスクダリウス殿下も慣れた感じで指揮している。
地上部隊の戦闘が始まったという連絡が遠隔談具から入り、団長であるオスクダリウス殿下率いる飛行兵団は一斉に飛び立ち、昨日と同様に敵本陣を襲撃し、成功したので戦闘が終了した。
なお、オスクダリウス殿下の後部席にはリゼルトアラが座って導き手を行っていたが、こちらも慣れたもので、細かい誘導を的確に行っていた。
その他、陛下の視察に備えて設置された観閲台の様子などを国軍総司令官であるサウルトーデ伯爵が点検し、よく状況を確認出来るよう修正などを行ったりしていた。
演習4日目、今日は陛下の視察日だ。私はその動きに合わせて現在魔法大臣と一緒に動いている。他にも王太子殿下や宰相閣下、国防大臣であるお父様やサウスエッド国大使なども同席すると聞いているが、何故かその中に商務大臣であるヘキサディス伯爵もいるね……。
王城から陛下達や私達の乗る空動車が出発し、訓練場まで移動した。総司令官が観閲台まで陛下を案内し、席に座った。私達もそれぞれ準備された席に座った。総司令官は配置図や現在の両軍の実際の位置を説明するとともに、航空偵察? の写真を陛下に見せた。
「成程。このように鮮明に敵情が把握出来るのであれば、敵の態勢に応じた陣形も取り易いな」
「ご明察にございます。敵情を早期かつ的確に入手し、遠隔談具を用いて連絡することで、敵に対応の暇を与えぬ布陣を取っております」
「……これは従前の様式の軍が相手にならぬ程の進化よの」
「お褒めに与り、この上無き光栄にございますが、これからが本番にてございます」
「そうであったな。続けよ」
「はっ!」
総司令官は引き続き、状況を説明した。そろそろ地上部隊が戦闘を開始するが、ここは概ね本陣が見えるよう、少し離れた位置にある。双眼鏡の形をした、遠くを見る魔道具が手元に置いてある。この魔道具は、以前から通常の道具である望遠鏡はあったところ、光魔法の普及に伴い開発された魔道具だ。「望遠具」と言われていて、気になった所は逐次望遠具で確認することになっている。
遠隔談具により、戦闘開始の連絡が入る。皆が望遠具で遠くを見た。地上部隊の戦闘に併せて、多くの二人乗り空動車が一斉に飛び立ち、移動している。当然先頭にいるのは、オスクダリウス殿下達だ。
「飛行兵団長の統率は見事でございますな」
「実は先頭で誘導の任に当たっておりますのは、我が娘にございます」
と、微妙に父兄参観の体を見せつつ、飛行兵団が敵国軍の本陣に到達して襲撃し、逃亡する敵司令官役の人を拘束した。それから人の代わりに人形をぶら下げて地上部隊の第一線に戻り、状況が終了した。
「飛行兵団は、我が国軍に相応しい力を備えておる。また、国軍自体も変化に即応した新しい形を取り入れておる。今後も励むよう伝えよ」
「誠に有難きお言葉にございます」
「時に精霊導師よ。飛行兵団の導き手は、精霊術士が行うのが適当か」
おっと、陛下のご下問だ。
「恐れながら、現段階では適切であると判断しております。上空では方角の把握が難しく、また、地上に降ります際も、平地であればともかく、あのような森林では、人の目では状況の把握は困難にございます。その他、荒天時や夜間など、視界が制限される際には、必須と思われます」
「うむ。精霊術士達にも更に励むよう伝えよ」
「誠に有難きお言葉にございます」
その後陛下は飛行兵団や地上部隊を労い、視察は終了した。
5日目は飛行兵団と魔法兵団だけの演習で、2組に分かれて交戦した。まあ、他国に空動車は無いのでありえない状況だが、技量の向上という観点で行っているようだ。一定時間内で入り乱れて魔法などを撃ち合い、残数が多い方が勝ち、ということだったが、双方大きな力の差は見られなかった。
ただ、混戦になると、地精霊も混乱するのか、たまに怪しい動きの空動車があったので冷やりとしたが、事故には繋がらなかった。この辺りは検討する必要があると思いながら、演習は終了した。
次の日魔法兵団と飛行兵団の合同打ち上げがあった。精霊術士達は、飛行兵団の人達とも仲は良好で、特に問題は無いようだった。精霊酒を差し入れしたところ、非常に喜ばれた。お疲れ様でした。
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