第359話 不思議な貝が発見された
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今週はワターライカ島改めワターライカ領の開発支援だ。正式に領となったことで今後は頻度も減ると思われるが、現状は領民が少ないためにまだ支援が必要だし、魔道具の実験場としても使われているから、それなりにステア政府と繋がりを保った方が良いと認識されているので、当面は継続の方針らしい。
まずは領主であるヴェルドレイク様に挨拶に行き、島の現状を聞きつつ、支援の内容について調整した。今回は田んぼを作成する作業が主だが、それと、相談したい内容があるそうだ。
「実は、先日ボルク漁港の近くで、このような貝が発見されました。そして、この貝の中から、これが発見されました」
私は行政官が持って来た貝を見た。真珠貝に似ているようだ。そして、この小さいかけらは、普通の石には見えないけど、何だろう?
「こちらの貝は、テトラーデ領で見た、阿古屋貝に似ている気がしますわね。そしてこの欠片は……魔素の流れが見えますが、一体何なのでしょうか?」
「流石導師殿。この貝は、阿古屋貝と同種の貝であると、貝に詳しい漁師から情報を得た。そしてこの欠片は、魔石だ。勿論、この大きさでは魔道具に使用出来るものではないが」
「……魔石が、貝の中から発見された、ということでしょうか?」
「その通りです。そして、調べたところ、同種の貝はボルク漁港周辺に生息しておりますが、導師様がお作りになった石柱の内側から発見されたものだけが、この小魔石を含んでおりました」
「……もしや、この貝は、魔素の多い場所で育てると魔石を生む、ということでしょうか?」
「我々もそのような結論に至り、この貝の研究を先日開始した。もし、魔道具として使用可能な魔石を生産することが出来れば、我が国のみならず世界にも影響を及ぼすこととなる。導師殿については、この研究に協力して頂きたいのだ」
現在ワターライカ領では、生活にも使える魔道具が数多く使用されているが、それらは試作品であり、特殊な例だ。一般の家庭で使うには魔石が高価すぎて難しいが、貴重な魔石を生産出来るならば、魔道具を広く普及させることが可能になる。ヴェルドレイク様に強い思いを感じるのは、領主であると同時に優秀な魔技士でもあるためだろう。
「勿論、協力させて頂きますわ」
「貴女ならそう言ってくれると思っていた。感謝する」
それから、その貝に関する情報を行政官から詳しく教えて貰うことになった。
「すると、小魔石を含んだ貝は、全て死んでいたのでしょうか?」
「はい。石柱範囲外で採取した貝は基本的に生きておりましたが、石柱範囲内で採取した貝は殆どが死んでおり、死んだ貝からは小魔石が発見された、という次第です」
「その貝は、魔石を体内に入れると死亡する、というわけではないのですね?」
「そちらも確認致しました。魔石を体内に入れ込んで水槽内で生活させましたが、生存しております」
「では……死亡理由は、魔素であると考えた方が自然ですわね」
「恐らくは。しかし……魔素に当てられていない貝は、魔石を作ることも無い様です」
「つまり、強い魔素を当てると、貝は小魔石を生成するが、その影響で貝は死んでしまう、ということですわね?」
「我々もその様に推論致しました。そこで、導師様にはこの貝に通常の大きさの魔石を生成させるための研究に協力して頂きたいのです。しかしながら、現在は今後の研究の方向性を検討中という状態でして」
なるほど……ということは、まずはこの貝が魔石を作る仕組みを考えないといけないわけだが、この貝は真珠貝と同種らしいから、真珠と同様に作られると、仮定してみようか。
「行政官殿は、真珠がどのように作られるか、御存じでしょうか?」
「……いえ、存じません」
「真珠とは、貝が体内に入れられた異物の影響を減少させるため、異物を特殊な液で包み、その結果生成される物です。ですので、真珠を作るには、ある程度成長した阿古屋貝を母貝として、その中に核となる小球を含ませるのですわ。そして、数年生活させ、作られた真珠を取り出すのですわ」
「な、成程……」
「今回については、この貝も同様なのではないかしら? そうであるならば、今後行うことは差し当たり3つ、まずは阿古屋貝の養殖、つまり真珠の生産法を知る者を招聘すること、次に魔石の核となる物質を特定すること、そして、強い魔素に耐え得るよう、貝の改良を行うこと、でしょうか」
「つまり、真珠の生産法を参考にするとともに、貝の改良を行っていくということですな!」
「ええ。幸い、私は阿古屋貝の養殖を行っているテトラーデ領に伝手がございますし、貝の改良も行えますわ。後は核となる物質ですが……」
「恐らく……魔石の核は、魔法銀ではないかと思う。証明されたわけではないが、魔石には大抵魔法銀の欠片が含まれているから、魔技士達の間では昔から言われていることだ」
「では、当面は研究のための人材と施設を整えるという方針で、如何でしょうか? 私はテトラーデ伯爵に人材の招聘を相談致しますわ。そして、環境が整い次第、貝の改良を行うことと致しましょう」
「その方針で良いと思う。後、恐らくあの海域には、魔法銀の鉱床のようなものがある筈だ。それを探索しようかと思う」
「それは、水精霊に確認して貰えば、判ると思いますわ」
「成程、頼めるだろうか」
「承りましたわ」
それから、ボルク漁港に空動車で移動し、現地で水精霊にお願いして探ってみたところ、やはり魔法銀の鉱床が海岸から少し離れた場所にあった。恐らくはここから欠片が石柱付近に流れて来た結果、貝が欠片を含むことになったのだろう。
推論を裏付ける事象を確認しつつ、私はテトラーデ領のマーク叔父様に手紙を書いたり、元々の仕事である田んぼを作ったりした。米はワターライカ領で主食として広く受け入れられており、食事の際には大抵出て来る。元日本人としては非常に嬉しい限りだ。
その間ヴェルドレイク様達は、魔石の核について調べていたようだ。ボルク漁港沖に発見された鉱床から採取して使わないといけないのか、それとも別の所から取れる魔法銀を使っても問題無いのか検討しているそうだ。魔法銀というだけなら、地人族の村近くの鉱脈からも少量ながら採掘出来るから、手間がかからない方がいいよね……。
あと、人材や施設を運用するための予算を確保する算段を検討していたらしい。当面は何とかなりそうだが、不足分はヴェルドレイク様の私財を充当することにしたそうだ。
作業の間は、新設されたワターライカ領主邸に宿泊しており、食事もヴェルドレイク様と一緒に取ったりした。その際に、仕事だけではなく、色々話をしていたのだが、先日のネリスの研究の話をしたところ
「そうか……そんな凄い研究を始めたのか……最近は領主の仕事ばかりで、魔技士としての仕事はおろそかになっていたが、私も励まないといけないな」
「彼女は新人ながら、撮像具を開発しましたから、魔技士としての評価は高いようですわね」
「それもあるけれど、私は彼女の魔道具に対する情熱を買っているんだ。同じ職場にいた期間は少しだけだったのだけれど、用事があって呼びに行った所、鬼気迫る様子で研究に集中していたのが印象に残っているよ」
どうやらヴェルドレイク様は、ネリスの魔道具に対する姿勢を評価しているようだった。少々扱いに困るところはあっても、同郷の友人が誉められているにも関わらず、何とももどかしいような感じがした。
今回の分の田んぼを作り終えたので王都に戻ることになったが、貝の研究については報告しておかなければならないため、ヴェルドレイク様と一緒に王都に戻った。まずは宰相閣下に報告したところ、事の重要性を鑑み、陛下にも報告することになった。
陛下についても同様の認識を持たれたようで、確固たる成果が出るまでは内密に研究を行うこと、状況については逐次報告することを条件に、研究を継続することになった。
それと予算については、ワターライカ島振興特別措置法に基づく交付金から使用出来るそうで、ヴェルドレイク様が私財を投じる必要は無くなった。負担が少なくなるなら良かったよ。
ヴェルドレイク様を転移門でワターライカ領まで送ってとんぼ返りで王都まで戻り、将来魔石が生産出来るようになることを願いながら、休んだ。
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