第358話 殿下の魔法教育を支援した
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
精霊課は協同訓練を問題無く終え、今後は何回か認識統一や練習などを行って、国軍総合演習に臨むらしい。安全に気を付けて下さいな。
私はこの週は大きな予定は入っていないが、少々依頼されていることがある。それは、王族として様々な教育を受けているリーディラゼフト殿下に対して現在行われている、魔法教育の支援を行うことだ。
殿下も5才になっており、王城へ行くとたまに姿を見かけることがあるが、将来国王になられる方であるという皆の期待を一身に背負っていて、かなり息苦しそうな感じだった。仕方ないとは言え、同情を禁じ得ない。
それはともかく、今回は魔法授業の一環で、実際に精霊を認識させた上で魔法を使うことで、意識を高めたいそうだ。まあ、魔法学校における精霊概論の講義より子供向けなので、最初は精霊と遊んで貰うくらいで丁度良いだろう。
リーディラゼフト殿下の授業の日となった。私は王城に行き、受付の人に確認し、侍従の一人に案内して貰う。暫く移動すると、リーディラゼフト殿下のいらっしゃる後宮の庭に着いた。どうやら魔法の練習を行っているようだ。魔法課長がリーディラゼフト殿下に教えているらしい。案内していた侍従が
「殿下、精霊導師様が来られました」
声を掛けたところ、二人がこちらを見たので、近付いてリーディラゼフト殿下に挨拶した。
「リーディラゼフト殿下、精霊導師フィリストリア・アルカドール、僭越ながら殿下の御学業をお支えに参りました」
「……ああ」
反応が鈍いが、身体に異常は無さそうだ。とりあえず、様子を見ながら進めよう。
「私については、精霊に関する知識をお伝えすることとなっております。殿下は、精霊についてはどのように理解されていますか?」
殿下に問いかけると
「……いるとは聞いているが、よく判らん」
と、見えない人としてはごく普通の回答だった。なら、当初の予定通り進めようかな。
「魔法課長殿、では、まず精霊達を殿下にご覧戴き、精霊を理解して戴いてから魔法をお使いになられた方が宜しいですわね」
「導師様、宜しくお願いします」
私はいつもの様に近くにいる精霊達に魔力を与え、姿を見せて貰った。すると
「うわぁっ、何だこいつら!」
リーディラゼフト殿下は大変驚いたようだ。説明して、暫く遊んで貰おう。
「殿下、この者達は精霊ですわ。この赤い者が火精霊、緑の者が風精霊、青い者が水精霊、茶色い者が地精霊ですわ。皆、暫く殿下と遊んで頂戴?」
すると精霊達は、殿下に近寄り
『おう、俺っちは精霊よ!宜しくな!』
と、まずは同属性だからか風精霊が挨拶し、他精霊も同様に挨拶した。最初は驚いていた殿下も、精霊達の姿をまじまじと見つめ、その後は違いを確かめたり、色々質問したり、庭を駆け回ったりしているうちにかなり時間が過ぎたので
「殿下、精霊達、そろそろお時間ですわ!」
と声を掛けた。殿下は遊んで楽しかったのだろうか
「えー? もっと遊びたい!」
と言っていたが決まりごとは守って貰わなければならない。与えられた時間の説明をすると、その辺りはしっかり教育を受けているからだろうか、しぶしぶといった感じで了承してくれた。
「殿下、精霊達は、姿は見えませんが、様々な所にいて、私達のことを見ております。また、私達が魔法や魔道具を使えるのは、精霊のおかげなのです。殿下は『活性化』がお出来になりますわよね?」
「ああ」
「あれは精霊に自分の意志を伝えるための準備なのです。そして、活性化が成され、魔法として発生させる事象を想像すると、精霊がその事象を起こしてくれるのです。殿下は風属性ですので、その時は近くにいる風精霊が想像を受け取って事象を起こすのですわ」
「そうか、精霊はすごいのだな!」
「ええ。これから魔法の練習を行われますが、精霊のことを慮って練習して下さい。あやふやな想像では、精霊は何をして良いか判りませんので、明確に想像してあげて下さいな」
「分かった!」
「では、魔法課長殿、宜しくお願いしますわ」
「承りました」
その後、風精霊以外は元に戻って貰い、風精霊だけは姿を見せたままでリーディラゼフト殿下の近くにいて貰った。最初はうまく発動出来なかったが、魔法課長が手本を見せたりしているうちに、初歩の魔法である、つむじ風を起こす事が出来た。
「やった! 出来た!」
『おう! 今のはしっかりやることが判ったぜ!』
「殿下、流石でございます。このように魔法は、精霊に起こす事象を伝えることで発動するのです。このため、活性化をしっかり行った上で、起こす事象を明確に想像するのです」
「分かった!」
それから何度かつむじ風を起こして、その日の魔法の授業は終了することになった。殿下を部屋に送り、魔法課長と一緒に魔法省まで戻ったのだが、その際、改めてお礼を言われた。
「導師様、今回ご足労頂き、有難く存じます」
「いえ、殿下の教育に助力出来たことは、誠に光栄ですわ」
「魔法の習得に際しては、躓き易い所が幾つかございます。その中の1つが、精霊の存在を理解出来ない所から来るものなのです。事象を明確に想像する所を、精霊に伝える事であると認識出来ないために、どうして魔法が成功しないのかが判らず、苦手意識を持ってしまい、その後の魔法の習得に大きな影響を及ぼすのです」
「成程、私は精霊の姿が見えておりましたから、そういった事はございませんでしたわね」
「ええ。私自身、思い返してみれば、その点の理解が不足していたことから悩んだ記憶がございまして……それで、いっそのこと精霊の姿を見て練習して戴いた方が良いのでは、と思い立ったのです。丁度精霊の姿を見せることが出来る導師様がいらっしゃるので、ご足労頂いたのです」
そう言えば思い出したけど、殿下が誕生された後、魔法教育をどうするか色々検討していたね……私が呼ばれたのも、その一環だったということらしい。確かにどうせ練習するなら、効果的な方がいいからね……。
精霊が簡単に姿を見せることが出来ればいいけど、基本的に精霊が姿を見せる時は精霊女王様に命じられて行うらしい。それと、精霊女王の加護を持つ私が魔力を与えてお願いした時くらいだそうで、まあ、非常に珍しい場面なわけだ。魔法の授業の度に私が出向いていたらきりがないから仕方ないが、王族や高位貴族の魔法教育の際には支援を依頼されるかもしれないな……。
それから数日後に省の定例会議があったが、魔法課長から、リーディラゼフト殿下の魔法教育に関して情報共有という形で話があった。そう言えば殿下が誕生された後も、定例会議が殿下の魔法教育をどうするかで盛り上がっていたな。まあ、上手くいっているなら良い事だ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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