第357話 ネリスが新たな魔道具の開発を始めた
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セントチェスト国から帰った後に行われた月末の政府定例会議では、ヴェルドレイク様がワターライカ領主となり、領の統治を本格的に開始した話や、セントチェスト国の式典の話などが行われていた。
当然資料には、撮像画を使用しており、文章だけの時より情景が良く分かったが、撮影の構図についてはもっと検討した方がいいかもしれないと感じた。まあその辺りは総務省がやってくれるだろう。
9月に入った。精霊課は10月の国軍総合演習に向け、魔法兵団や飛行兵団との協同訓練を行っている。どうやら今度の総合演習は、本格的に飛行兵団とも連携した作戦を行ってみるらしい。どうなるかは判らないが、必要な事だとは思うので、頑張って貰いたいものだ。
飛行兵団と言えば、オスクダリウス殿下は領主選定戦で負けたのがショックだったのだろう、暫くは気落ちしていたのだが、吹っ切れたのか私にも普通に接してくれるようになった。ただ、以前言おうとした何かについては「もう終わったことだ」と言って教えてくれなかった。ならば聞くまい。
ということで以前とあまり変わらない状態になったオスクダリウス殿下は、当初の予定通り臣籍降下し、法服公爵となる予定のようだ。それと、こちらについてはお父様から話を聞いたが、臣籍降下に合わせて飛行兵団長を引き継がせるという話らしい。まあ、うちの現在の軍の形を考えると、公爵が軍にいたらやり辛いからね……。それまでに兵団長を任せられる人材を育成するそうだ。
私は魔道具研究所準備室に視察にやって来た。どうやら人材の確保は進んだものの、現在はその育成で大忙しらしいので気になったのだ。私の方に支援を要請されていたこともあり、今回やって来たわけだ。
実際に見てみると、魔技士の養成だけではなく、撮像具の使用法などについても、余剰の撮像具が無いことから最初はこちらで行っているそうで、かなり雑然としていた。たまに怒号が聞こえるのは、新人が何かやらかしたとかなのだろうか? 案内をしてくれている室長が、何度か顔をしかめていた。
「導師様には、新人達に精霊の存在を認識させて頂きたく、わざわざお越し戴いたのですが……監督が行き届かず、申し訳ございません」
「宜しいですわ。それよりも用件を済ませてしまいましょう」
私達は集まった新人の室員達に、精霊が姿を見せた状態で魔道具を発動させることで、魔道具の性能は魔法と同様、精霊との連携が必要であることを教えた。初めは精霊達の姿に驚いていた新人達も、試しに作った簡単な魔道具を発動させたところで精霊からダメ出しを喰らったりしたことで、魔道具と精霊の関係を強く認識したようだ。
ちなみに私が講義? のように教えていたところ、どこからともなくネリスが現れて、撮像具を使って私を撮り始めた。まあ総務課長からも頼まれているので撮らせるとして……ネリスの仕事はどうなっているのか気になったので、聞いてみたところ
「はい! 現在は撮像具の普及に目途が付いたため、次に開発する魔道具の構想を練っております」
ほう。面白そうなので、お邪魔してみようかな。こちらの方も用が済んだし。
「まあ。そちらの方を確認させて頂いて宜しいかしら?」
「勿論でございます! さあ、こちらですわ!」
ネリスは嬉しそうに私を案内してくれた。暫くすると、小部屋に入った。ネリスの研究部屋らしい。
「現在は散らかっておりますが……こちらは魔道具の構造について記載された書類ですわ。これらを読みながら、魔道具の構想を練っていたのです」
ふむ……なるほど。確かに様々な魔道具のことが書いてある書類が並んでいる。構造自体はよく判らないからタイトルなどで判断すると……計算具や遠隔談具など、ヴェルドレイク様が開発した魔道具が多いな。何か意図があるのかな?
「ワターライカ伯爵が開発された魔道具が多いですわね」
「ええ。私が申すのも憚られますが、彼の方の才能は飛び抜けておられます。どうしたらこのような魔道具が開発出来たのか……魔道具の構造を見て、それにあやかろうとしていたのですわ」
やはりネリス達の目から見ても、ヴェルドレイク様の魔道具開発の才能は素晴らしい様だ。それと、こういうふうに他者、特に自分と異なる属性の魔道具の構造を見ることは、開発の構想を練る時にはよく行うことらしい。魔道具も基本的には属性毎に存在していて、別の属性で同じような構造の魔道具を作ると、効果が異なってくるため、良いアイデアに繋がるそうだ。
暫く部屋の中を見ていると、見慣れないものがあったので聞いてみた。
「はい! これは周囲の魔素を吸収する効果を持たせた魔石ですわ。通常の魔石を魔道具に行うような加工を行ってこの状態にしますので、厳密には魔道具の一種に分類されますわ」
「これはどのような役に立ちますの?」
「実は……今の所、大して役に立つものではないのです。この石が貯めた魔素を魔力にでも変換できれば、魔力を生み出す魔道具が作れたりするかもしれませんが……いかんせん、魔素自体は無属性ですので魔法の様に操作することが出来ないのです。ちなみに、今は黒色をしておりますが、魔素が貯まる前は白色ですわ。加工した内容を壊すことで、通常の魔石に戻すことが出来ますの」
なるほど。確かに魔素が貯まっているように見えるな。試しに、奪魔掌の技術を使って、魔素を操作してみよう。
「この石に触っても宜しいかしら?」
「勿論です。どうぞ」
許可を取ったので、手に触れて魔素を操作してみる。魔物達に行った時と同様、魔素を外に放出することに成功した。説明された通り、一旦白くなったものの、暫くすると黒くなった。何度かやってみたが、同様の動きを見せたので、特に壊れず、周囲の魔素を吸収できるらしい……ふと強い視線を感じて確認したところ、ネリスや室長の様子がおかしいな。
「どうかなさいましたか?」
「……ど、導師様……今、何をなされたのでしょうか……?」
「ええ。この石に貯まった魔素を外に放出させていたのですわ」
「……っ! それはどのようになされたのでしょうかっ!」
ネリスと室長に、魔力や魔素を操作する技術を使って放出させたことを話した。ネリスも、色々細かいことまで質問して来るので、実際の奪魔掌なども見せたりしたところ、非常に感激した様子だった。
私は深く考えずやったことだったが、魔素を操作すること自体、これまであり得なかったことらしく、どうやら魔素の操作が出来れば、物凄い発明に繋がるようだ。
「流石導師様ですわ! もしかするとこの技術を魔道具で実用化できれば……そうだわ! 室長、確かワターライカ伯爵が開発された魔道具の中に、風を魔力に変換する魔道具がございましたわよね? あれの構造図はここにはありませんが、どこにあるのですか?」
「あ、あれは確か、ワターライカ領にある筈……」
「ならすぐに取り寄せなさい! 魔道具の歴史が変わるかもしれませんわ!」
「は、はいっ只今! っ申し訳ございません導師様、席を外します」
「え、ええ。お忙しい様ですし、宜しいですわよ」
私が原因で、ネリスの魔道具開発の構想が決まったようで、申し訳無い。しかし室長……ネリスにこき使われているな……聞くところによると、魔道具課の研究員の力関係は、家柄や役職より、その技術力で決まるそうだ。その辺りは、職人気質な人が多いからなのだろうが……ネリスは撮像具を開発した実績があるからか? 酷いパワハラにならなければ、職場の流儀の範疇なのかな?
その後暫くネリスの所で、魔法で魔素を動かすことを検討したのだが、恐らくは光魔法を応用すれば、貯まった魔素を一定の方向に流すことが出来るだろうとネリスは結論付けたようだ。確かに光自体は全ての属性が混ざった状態だからね。ネリスも光魔法を使えるから、丁度良い。
光を当てることで魔素を取り出す……何というか、太陽光発電みたいな感じだが、今回開発するのは、大魔力を作り出す魔道具のようだ。実は大魔力を作り出す魔道具は、多くの研究者達が研究しているが、成功に至っていない命題で、だから先程ネリス達が驚いていたのだろう。
以前から考えていた大魔力があれば実現可能だった移動手段なども、ネリスが魔道具を開発すれば実用化出来るかもしれないな……。
そのようなことを考えていると、処置を終えた室長がやって来たので、魔法省に戻らせて貰ったが、ネリスの発明は凄い影響を及ぼしそうなので、今後も確認させて貰うことにしよう。
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