第356話 セントチェスト国の式典に参加した
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収穫祭が終了し、王都は通常の状態に戻った。
ということで私についても平常運転だが……今週は以前調整があった、セントチェスト国の式典への参加が予定されている。以前行った時は何と言うか、精霊に対する不信感が根底にあったような雰囲気だったが、現在はどうなのだろうか。
わざわざ地の大精霊にも姿を見せて貰ったりしたから、流石に精霊が実在することくらいは信じて貰えたのではないかと思うが、まあ、実際に見てみるしかないかな。
そしてセントチェスト国に出発する日となった。今回は警護部隊も含め、空動車による移動になるから、こちらの王都からセントチェスト国王都まで、5日で到着する予定らしい。あちらで3日滞在するから合計13日かな。
使節団の長である外務大臣は、以前と比べて非常に短期間の行程となったことを非常に喜んでいた。まあ、以前は王都はおろか、国内すらあまりいなかったのだから、仕方ないだろう。
今回の式典には、要請があったため、私以外にも各属性の精霊術士が来ている。火属性はアナ、風属性はリゼルトアラ、水属性はマリー、地属性はパティが来ている。つまり、各属性のエース級、かつ貴族令嬢を選定している。要は国威発揚を考えての編成なのだが……セントチェスト国がどのように捉えるかはやってみないと何とも言えないかな。
予定通り5日でセントチェスト国王都に到着した。途中、鉱毒汚染のあったポールテミナ領近辺を通過したが、様子を見る限り、順調に回復していたようだった。
フティール銅山については鉱毒を除去する技術を我が国が供与したことから、操業が再開されたらしく、騒動を起こして代替わりしたポールテミナ公爵が使節団に表敬に来て説明してくれた。
王都に到着した日は歓迎の宴が開かれたわけだが……私は鉱毒による自然破壊がこれだけ回復した、という政府高官達の話を聞いたり、精霊達を見せて欲しいという貴族達に囲まれたりと、思っていたより好感触だった。
ポールテミナ公爵が、私に対して複雑な感情を持っていたように見えたので、面従腹背的な感じかと思っていたのだが、当事者でない所は案外切り替えが早いということだろうか。精霊術士達も、精霊の話やこれまでの仕事の話などを色々聞かれたらしい。調査というより、興味や憧れを持った質問のような感じだったらしい。セントチェスト国の精霊に対する姿勢が変わったと考えて良いのだろうか?
その疑問は、次の日国王との謁見後、設けられた会談の中で解決した。セントチェスト国側は国王や王太子、宰相などの主要人物がおり、こちらは使節団長である外務大臣と私が参加しており、改めて国内の状況の説明があった後、国王からの発言があった。
「精霊導師よ、我が国はこれまで、あまりに精霊という存在を知らな過ぎた。故に先般の事象が起こったと考えているのだ」
「と申されますと、以前は精霊をどのような存在と認識されていたのでしょうか」
「自然を操る存在で、限られた者しか存在を認知できず、また、会話の内容は自然に対する深い造詣はあるもののあまり知性を感じず、交渉に値しないと考えていた。ところがあの地の大精霊の話を聞いて、それが誤りであったことを、思い知ったのだ」
なるほど、確かに精霊術士を介してしか存在を認知できない一般の人が持つ印象に外れていないように感じる。ただし、為政者としての視点は、精霊の知性や情報収集力などを内心侮っていたことが今回の結果に繋がったと考えているようだ。
「基本的には、精霊は自然と共にある存在ですわ。しかしながら、それは精霊がこちらを見ていないということではございません。幸い、精霊視を持つ者がいれば、御存じの様に精霊が偽りを申す事もございませんから、何を考えているかは容易に読み取れますわ」
「その通りだ。しかし我が国は、精霊の言を利用することしか考えていなかったのだろう。それでは再び同様の事案が発生するであろうし、我が国は衰退することになる」
そういえば、鉱山関係の技術供与などに際して、セントチェスト側はこの会談にも参加している王太子など、結構な地位の人がやって来たと聞いている。そこで、うちとの格差を見て、危機感を覚えたことが精霊への認識を改めた件に繋がったのだろう。そう考えていると、外務大臣からこのような発言があった。
「我が国は、建国当初から精霊への畏敬を常に抱いておりますし、妖精族の国であるウォールレフテとの関係も良好な状態を保っております。その上で、自然と共に歩みつつ、国家を発展させております。特に現在は、この精霊導師の存在により、大きく歩みを進めている所であります故、貴国とも良い関係を持てるでしょう」
今回の式典は、鉱毒汚染の回復や汚染防止の施策が整ったことを知らしめるために開催するものだが、我が国としては、恩を売ることによりセントチェスト国への影響力を強め、資源を安定的に入手することや敵対関係に陥らないことを目的としているので、こういった発言も出て来るわけだ。
その他、今後の協力関係などについて認識の統一が図られ、会談は終了した。
その後私は、式典の打ち合わせをするとともに、セントチェスト国からの要請で、精霊が見えると自己申告のあった少女達を確認させて貰った。実際に精霊視を持つと判断されたのは、火属性と地属性の子が1人ずつだった。
なお、地属性の子は、ファルカーム領出身らしい。あそこは今、件の影響で地精霊が多いらしいから、その影響もあるのかもしれない。
この子達については、サウスエッド国のように、精霊課で修行して貰う方向で話が進められている。精霊術士としての能力が上がることもそうだが、魔法強化を使うことが出来るようになることも大きな理由になったようだ。
ちなみにこの件では、使節団の一人であった商務省官僚が、対価としてこちらにかなり有利な交渉を進めているそうだが、私としては与り知らぬことなので勝手に進めて貰うとしよう。
そして次の日、式典が開かれる日となった。私達は準備をして、会場に入った。
会場となっている王都の広場には、多くの人がやって来ており、また、設置された舞台や演台などには主要な貴族達や使節団が集合し、国王がやって来た所で式典が始まった。
「集いし民よ、我が国において発生した鉱毒汚染は終息した。今後は発生することは無い。見よ!」
国王が拡声しながら広場の中央、私や精霊術士達、セントチェスト国や使節団にいた魔法士達がいる場所を示した。ここからが本番だ。私が精霊達に魔力を与えて、姿を見せて貰うと、民衆が驚きの声を上げた。精霊達にはそれぞれの精霊術士達の所に移動して貰った。これで私の役目は終わったので、後は見ていよう。
すろとまず、パティが魔法強化を始めた。地精霊が輝いたので皆の目はそちらに向かう。すると、周囲にいた地魔法士達が、その場にあった土塊を何かに変えて行く。
みるみるうちに姿を変えていくので民衆は驚いていたが、舞台の方にいた貴族達は、恐怖を感じたようだ。まあ、通常ありえない速度で何かが出来上がっていくからね……。
そしてあっと言う間に完成したのは、国王に直訴する地の大精霊という構図の像だった。土の石化も素早く行われ、皆が驚いているうちに、次にマリーとリゼルトアラが魔法強化を始めた。
すると、近くにいた水と風の魔法士の魔法により、小雨が会場に降り注いだ。小規模ながら天候を変えるかの如き魔法に、民衆すら恐怖を感じているようだった。
しかしながら少雨はすぐに終わり、次にアナが魔法強化を始めた。そして、うちの魔法士達の光魔法によって、空に虹がかかった。
「我が国の未来は栄光に満ちている。民よ、誇りと共に進むのだ!」
国王の言葉に、民衆は歓声をもって応えた。いい感じで国威発揚と不安の払拭を行えたようだ。
そして今後の国の方向性を国王が演説して、式典は終了した。
その後の祝宴で、私はこの事案の発端となった精霊術士、リサルティア・ファルカームと話す機会を得た。
精霊術士と話をすることで、親交が深まるという配慮らしい。それで本人からも色々話を聞いた所、確かに政府で働いていた頃はかなりブラックで、最後には追い出されてしまったが、結果としていい旦那さんと結婚出来たし、領でもしっかり精霊術士として働き、幸せに暮らしているという話だった。
魔法強化についても非常に興味を持っていたので、パティも呼んで一緒に話したりして、説明しておいた。
セントチェスト国の式典はいい感じで終了し、使節団は帰国した。
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