第353話 武術大会2回目の参加 3
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準決勝は、騎士団の人だったのだけれど……問題無く勝利し、もう一方の準決勝、獣人族の冒険者と、やはり他国……こちらは人間族だが……の冒険者の試合を観るため、私は感覚共有を行い試合場付近に移動した。さて、じっくり見させて貰おう。
双方入場し、激しく闘志をぶつけ合う中開始の合図があり、試合が始まった。互いに得物は剣だが……人間族の冒険者はなかなか試合巧者の様だ。しかしながら、獣人族の冒険者は力と速度が勝っており、終始優勢に試合を進めている。
おまけにスタミナも相当あるようで、疲労により対応力が落ちた所を攻撃し、獣人族の冒険者が勝利した。今回は獣化を使わなかったようだ。出来ればもう一度くらい見ておきたかったが、初見ではないので対応は出来るだろう。
ともかく、決勝の相手は獣人族の冒険者に決まった。確か名前はラセルグ・アノークだったかな。
それから私は、感覚共有を解いて決勝戦の為に調整を始めた。今回は予選も無かったので、前回より体力も魔力も十分残っており、問題無い。テルフィと一緒に軽く体を動かしていると、お兄様が遠視で様子を見に来たので、やはり軽く手を振っておいた。
3位決定戦も終了したようで、係員が私を呼びに来たので、試合場まで移動した。ラセルグも同時に入場した。彼の魔力も普通に感じられるな。よし、問題無く戦えそうだ。
試合開始位置に移動したところ、話し掛けられた。
「あんた、帝国の第2皇子に勝ったんだってな」
「ええ、昨年勝たせて頂きましたわ」
「俺も戦ってみたかったんだけどよ、あっちの武術大会は他国の冒険者が参加出来なくてな。で、去年あんたが勝ったって言うから、なら参加してみっか、ってことではるばるやって来たってわけだ」
確か彼の出身は、カナイ大陸にあるタワノーク国といったかな。国民は獣人族が主体で、我が国とは国交は無いが、国交のあるサウスエッド国を経由してやって来たのかな。移動だけでも大変だろうに。
「まあ。それは光栄ですわね」
「来たことが無駄にならねぇ様、あんたには期待してるぜ」
「では全力でお相手させて頂きますわ」
主審である、騎士団長シンスグリム子爵による、開始の合図で決勝戦が始まった。
ラセルグは猛然と攻撃を仕掛けて来た。これは……速度と力だけなら、エルイストフ男爵よりも上だな。そして、私が反撃をしようとすると、それに応じた体勢を取る。勘も鋭そうだ。ただ……剣術の腕は我流というか粗削りで、色々隙が見える感じだ。ならば……!
「はあっ!」
ラセルグが剣を振った際に、手が剣を持て余していた所に棒を当てつつ、払う動きを利用して剣を撥ね上げた。剣を落とした隙にそのまま突こうとしたが、ラセルグは距離を取った。
「ははっ、そうでなくっちゃな!」
「剣の扱いは不慣れなのでしょうか?」
「ああ、俺はいつも、徒手で戦っているからな!」
そう言うと共に、これまで以上の速度でラセルグが殴り掛かって来た! 流石に言うだけあって剣を使っていた時のぎこちなさは無く、自然な動作で連撃を繰り出している。棒だけでは対処が追い付かず、常に動きながら躱さないとこちらが危うい。だが……!
「はっ!!」
リズムを掴んで来た所で、拳撃に合わせて片手を棒から離し、速度重視で魔力波を放った! 残念ながらラセルグに躱されてしまい、掠っただけで終わってしまったが、次の一撃を警戒したのか、ラセルグは距離を取った。
「やっぱり獣化を使わねぇと駄目か。……本気を出させて貰うぜ!」
そう言うと、ラセルグは獣化……最大限に身体強化を行った。恐らく体毛が逆立っているのだろうが、今は見えない。しかしながら、最大限の身体強化というだけあって、体組織を魔力が包み込み、さながら鎧の様に見えた……来る!
「しぃぃっ!」
先程とは比べ物にならない高速の突きが私を襲った。こちらも思考加速をしつつ、身体強化を最大限に行うが、躱すのが精一杯で、攻撃に繋げられない。とにかく躱し続けた……おや? これは……。
「くそっ、何故当たらねぇ!」
「それは貴方の動きが雑になっているからですわ」
「舐めるなぁっ!」
ラセルグは拳撃を続けるが、急に方向変換して躱すと、反応に時間が掛かった。よし、ここだ!
「えぃ!」
反応する間にこちらから高速接近して棒を突き出すと、ラセルグは辛うじて躱したが、体勢が崩れた。
「やぁ!」
そこに、棒を離してラセルグの右腕を掴み、正面打ち一教の要領で投げた後に床で体を固定し、右肩を極めた!
「ぐわあっ!」
ラセルグは力で私を撥ね退けようとしたが、当然そんなことは許さない。やがて
「……参った……」
と降参した。
「勝者、一子!」
主審であるシンスグリム子爵の勝名乗りを受け、観客の大歓声が聞こえて来た。私は手を離し、棒を拾って試合開始位置に戻った。
「いててて……くそう、負けちまった……」
獣化を解いたラセルグも、試合開始位置に戻った。
「獣化は、身体能力が飛躍的に上がりますが、隙も大きくなるようですわね。正直な所、獣化をする前の方が戦い辛かったですわ」
「そんな事を言われたのは初めてだ……もっと精進して、次は勝ってやるぜ!」
「では、次の試合を楽しみにしておりますわ」
そう言って互いに礼をして退場した。
それからは、表彰式やらインタビューもあったが、まあ家名非公開者なので去年と同様にすんなり終わり、そそくさと王都邸まで戻った。
自室に戻り、汗を流した後、部屋着に着替えると、カールダラスが呼びに来たので、談話室に移動したところ、やはり家族が揃っており、優勝を祝ってくれた。
その後は、ささやかながら、祝勝会が行われた。
「今回は蓋を開けてみれば、去年より危なげなく優勝した形となったが、あの決勝戦、相手の動きが速過ぎて良く見えなかった者も多かろう。我が娘ながら、良く勝てたものだ」
「私も見えなかったわね。でも、最後にフィリスが相手を抑え込んでいたから、安心したわ」
「そう言えば、試合を記録していた……確かコルドリップ子爵令嬢かな、決勝戦ではなかなか撮れないと言っていたね。まあ、最後フィリスが抑え込んでいた場面は撮れたようだから、後で記録を貰えないか確認しようかと思うのだけれど、いいかな?」
「儂も来年はあの魔道具を使って、フィリスを撮りたいものじゃのう」
優勝を喜んでくれるのは有難いけれど、写真を残されるのは少し恥ずかしいかな。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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