第352話 武術大会2回目の参加 2
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
地精霊と感覚共有をして、早速試合場の方に飛んで行った。というのは、ランドリック子爵の弟子と思われる人は、順調に勝ち進めば準々決勝で試合の相手になるからだ。今のうちに少しでも戦い方を見ておけるのは有難いからね……。
ふむ……なるほど……確かに素晴らしい剣の腕に見えるが……性格に難がある、というのも正しい様だ。あれならこちらとしても対策は立てられるかな。他に気になる試合は……もうすぐ時間か、戻ろう。
感覚共有を解いて、次の試合の準備をした。相手は、騎士団の人だそうだ。
暫くすると、係員が呼びに来て、試合場まで移動し、合図により入場して、試合場の中央まで進み、互いに礼をした。
「昨年の優勝者殿と試合が出来るとは、光栄です」
「こちらこそ、誇り高き騎士と試合が出来るのは、光栄ですわ」
どうやら相手は正々堂々と戦う、正統派タイプの騎士の様だ。試合が開始され、様子見に何度か突きを放ってみたが、牽制だと読まれているようだ。それなりに魔力と意志を感知する能力を身に付けているのだろう。魔力波を覚えると、それを切っ掛けにして感知能力が高まるからね……。
「ではこちらも……はあっ!」
剣の間合いに入った所で、騎士も私に攻撃を仕掛けて来た。しかし、こちらも牽制が主体だったため、いなそうとしても不十分になり、逆にこちらの態勢が悪くなるため、通常は軽く弾くだけなのだが、今回は、敢えていなして隙を作った。
「せいっ!」
私の隙を突くため、騎士が突きを放ったが、予期していた私は、すぐに間合いを切ったが、その際に棒先を軽く右膝付近に当て、奪魔掌を応用して魔力を奪ったのだ。すると、やはり騎士の右足の動きが鈍くなった。
「な! 右足が!」
「はあっ!」
私は騎士の右手に回り込みながら棒で連続して突きを放った。すると騎士は受けに回ったが、右足の踏ん張りが効かず、体勢が崩れた。その隙を見逃さず
「やっ!」
呼吸投げの様に棒で体勢を崩しながら体さばきと連動させて騎士を投げ飛ばして、床に背中を叩きつけ、棒先を騎士の喉元に突き付けた。
「勝者、一子!」
審判が私の勝利を宣言して、試合は終わった。私は騎士の手を取って起き上がる手助けをした。
「右足の痺れは、暫く魔力循環を行えば治りますわ」
とアドバイスをしてから礼を行い、退場した。やはりあれは、崩しの中に織り交ぜて使うのが今の所効果的かな……。棒越しに行うのは、瞬時の対応が必要な時には今の所困難なので、その辺りは今後の課題かな……。
この後は暫く休憩になるので、とりあえずはまだ行っている試合を観に行くことにした。地精霊と感覚共有し、後半の試合を確認したが……何と、近衛騎士隊長が、獣人族の冒険者に負けるという大番狂わせが起こった。
当初は近衛騎士隊長が優勢だったのだが、獣人族の冒険者の体が突然変化して獣の様になり、そこから素早さや力が格段に上がったらしく、その結果、近衛騎士隊長は敗退したというわけだ。
確か獣人族の特徴として、人間族より身体強化の能力に優れており、最大限に身体強化した時は、体毛が逆立ち、獣の様に見えることから「獣化」とも呼ばれている、と聞いたことがある。恐らくはその「獣化」を使ったのだろう。
あの速度は正直、常人には対応が難しいかもしれない。思考加速が使えた近衛騎士隊長だからこそ、粘ることが出来たのだ。私が勝ち進んだ場合、あの獣人族の冒険者に当たる可能性が高いかもね……。
と言っても、まずは次の対戦相手である、ランドリック子爵の弟子であるアストリーク・エルイストフ男爵に勝つことを考えるか。
休憩となり、軽食を取って体を動かしていると、お兄様が遠視で私のことを確認に来たので、手を振っておいた。
試合の準備が終わり、暫くすると係員が呼びに来たので、これまで通り試合場まで前進し、中央で互いに礼をしたのだが……それからが少々異なっていた。
「なあ、あんた、精霊導師様だろ?」
「……家名非公開者の素性を探る行為は、反則負けとなりますが、宜しいでしょうか?」
「……一子さんよ、俺はこれでも剣にかけちゃあ結構いけるんだが、先日領主になり損ねたんでな、俺を選ばなかった奴等に、目に物見せてやろうと思ってこの大会に参加したのよ。あんたにも勝たせて貰うぜ」
「そうですか。貴方がワターライカ領主に選ばれなくて幸いでしたわね」
「言ってくれるじゃねぇか。女だからって手加減はしねぇ!」
「位置に付け!」
私とエルイストフ男爵は試合開始位置に付き、審判の合図で試合が開始された……が、剣の方が棒より間合いが近いにも関わらず、エルイストフ男爵は猛然と斬り掛かって来た。
「おりゃあー!」
通常の斬り込みであればその力を利用し、投げ飛ばしていたところだが、エルイストフ男爵の瞬発力と柔軟性は人並外れており、私がいなそうとすると剣の軌道を変え、柔軟に対応して来たのだ。少々驚くも予想の範囲内であったため、気にすることなく受けの姿勢に入った。
エルイストフ男爵の剣撃は凄まじく、荒々しいものの剣筋はしっかりしており、一撃一撃が強力な打撃となって私を襲った。しかしながらこの程度であれば対処は可能だ。隙を見て間合いを切り、再び構えた。
瞬発力と柔軟性という身体能力を生かした果断かつ即応性の高い攻撃がエルイストフ男爵の持ち味のようで、これは確かに従前の剣術であれば、かなり有利な戦いが出来たのだろうね……しかし私の本質は合気道家であり、相手の力と争わずに相手の攻撃を無力化する者だ。そういった手合いにも対応出来ないとね。
「逃がさねぇよ、でゃあー!」
エルイストフ男爵は再び斬り掛かって来た。そこに棒を合わせようとすると、剣筋を変え、棒を薙おうとして来た。その流れに乗って、体勢を維持しつつ棒を合わせると、エルイストフ男爵の突進力が私の回転力に変換される。その勢いを利用して懐に入り、棒を離してエルイストフ男爵の手を掴んだ!
「やっ!」
剣取りにより、エルイストフ男爵を投げ飛ばしつつ剣を取り、そのまま剣先をエルイストフ男爵の喉元に突き付けた。
「……勝者、一子!」
よし、今回は剣取りが出来た。
手を離しても魔力が残っているため、今の目隠しした状態でも棒は視認できる。そのまま棒を拾って開始位置に戻る。
「そ……そんな……」
エルイストフ男爵は、私に負けたことが信じられないようであった。
「貴方は、自身の身体能力を過信した結果、中止して引き返すという判断をしない、例えるならば猪の様な者であったのですわ。私はその力を利用したまでのことです」
私はそう言い残し、礼をした後試合場を去った。控室に戻り、一旦仮面と帯状布を取る。
「流石はお嬢様です。昔私や同級生達が、あの技でよくやられましたからね……」
「貴女はそれが判るようになっているのだから、今では掛けることは難しいわね」
「退く時を見誤れば負ける、当たり前の事です」
テルフィとそのようなことを話しながら休憩をして、軽く体操を行い、次の試合に備えた。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。