第351話 武術大会2回目の参加 1
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収穫祭2日目、待ちに待った武術大会開催日だ。
体調については全く問題は無い。昨年同様、早朝にテルフィやナビタンと一緒に軽く体を動かし、早めの朝食を頂いた。
しかし今年は昨年とは違い、出発の際には家族全員が私を見送ってくれた。会場にも応援に来てくれるようだ。まあ、一応今回も家名非公開で出場するから、大々的に応援するというわけではないそうだが、そこは貴族として培った体面を保つ技を使い、表面上は平然とした感じで応援するようだ。
会場に到着し、テルフィと一緒にフード付きのマントを着て馬車を降り、指定された控室へ向かう。今回も控室は個室で、私は今年も「一子」と名乗ることになっている。
控室で昨年と同様の試合用の服に着替え、昨年同様帯状布で目元を覆った上で、仮面を装着した。視覚に頼らず、魔力によって相手を知覚して戦うのは変わりがない。軽く体を動かし、服装などにも異常が無いことを確認した。
今回は予選をパスして本選に参加出来る分、時間に余裕がある。様子を見るため地精霊と感覚共有を行い、観客席の方に行ってみた。いつも通り、既に多くの観客が入っている。それに加えて今回は、ネリスや他数人が、撮像具を持って試合を記録しているようだ。まあ、そうなるよね……。
貴族用の席には、やはり家族がいた。お父様がお母様に、試合の要領などを説明しているようだ。それと、昨年もいたミリナやダリムハイト様、レイテアやリンダ、ティーナやパティがいた。ここはやはり、話が出来るパティの所に行ってみようかな。
『パティ、ごきげんよう』
「あら、……今年も『一子』なのかしら? ごきげんよう」
『ええ、今年は予選免除で本選からですので、とりあえず予選の様子を確認させて頂いておりますわ』
「今年は昨年より余裕なのね。勝てそうなの?」
『事前情報を聞いている限りでは、昨年のカルロベイナス殿下以上の強者はいないと思われますが……実力が未知数の方も結構参加していらっしゃるようですので、油断は出来ませんわね』
今回はカールダラスに頼んで、主要な参加者についてはある程度調べている。昨年は殆ど事前に試合を観ることが出来なかったからね……。
それによると、昨年戦った実力者のうち、参加しているのは近衛騎士隊長だけのようだ。昨年よりも腕を上げているようなので、当たった際には良い試合となりそうだ。また、今回については、遠方からやって来た強者が結構いるらしい。
その中で注意すべき人物は、4代前の騎士団長で、現在イクスルード領で後進を育成しているという、トレアモース・ランドリック子爵の弟子で、現騎士団長であるシンスグリム子爵と互角以上の腕だとも噂されている人が参加しているそうだ。ただし、少々性格には難があるようで、ワターライカ領主候補には推挙されなかったらしいが。
他にも、他国からも高名な冒険者がやって来ていたりするらしい。中には獣人族の人もいるらしいから、変わった戦いが出来るかもしれない。
「パティ~、『精霊さん』が来ているの?」
「ティーナ、今回は予選免除らしいから、暫く試合の相手を見るために観戦するそうよ」
「そうですか~。今年も頑張って下さいね! 最初はどこで試合を行いますの?」
『有難う。私の最初の試合は第2試合ですから、中央の試合場ですわ』
「最初は第2試合で、目の前の試合場とのことですわ」
「なら、そのまま応援できますわね」
その後も暫く話をしていると、予選が始まった。今年も参加者が多数いるようで、それぞれの試合場で乱戦方式により予選が行われている。私は精霊が立ち入ることが可能な所まで近付いて、各試合場の試合を確認した。
流石に実力者がいる所の試合はあっさり終わった様だ。あれは獣人族の冒険者かな? それと、あそこは近衛騎士隊長かな? 当然なのだろうけれど……あまり観ることが出来ず、残念だ。
おや? あそこは何やら激しい戦いが繰り広げられている。一人は騎士風、もう一人は冒険者風だな。確かあの人は見た事がある。以前レイテアとも試合をしたことがある冒険者だったかな。初優勝をした時の決勝戦の相手だったと思う。
あの時は、比較的対人戦が不慣れな所に付け込んで揺さぶりをかけて勝ったのだけれど、今の試合を観る限り、対人戦も相当出来るようになったようだ……が、それ以上に相手が強かったようだ。結局、騎士風の男性が勝利した。もしかすると、あれがランドリック子爵の弟子かな?
予選が終了し、暫く休憩時間を取った後に、いよいよ本選が開始される。私は第2試合なので戻らないとね……。
感覚共有を解いて暫くすると、係員が呼びに来て、試合場に移動した。昨年同様、テルフィも入場口付近まで同行し、精霊達も試合場近くまでは付き添ってくれる。心を落ち着けつつ、歩いて行く。
第2試合場までやって来た。すると、観客席からの声援が、昨年より段違いに大きい。まあ、一応昨年の優勝者だからね。声援を聞いている限りでは、女性の方が多い様な気もするが、これはレイテアの時も同じだったな……もっと女性が剣術などを行っても良い雰囲気になれば良いのだけれど……それはともかく、試合に集中しよう。
最初の対戦相手は、テルフィの報告によると、冒険者だったかな。強い冒険者は基本的に高名なので、今回の人はそれほど強くないという話だが……油断せず、いつも通りを心掛けよう……よし、あれが対戦相手の魔力だな。問題無く把握出来る。
合図により入場して、試合場の中央まで進んだ。得物は剣の様だ。まずは中央で礼をした。
「もしかしてあんた、昨年の優勝者かい?」
「その通りですわ。貴方にも、勝たせて頂きますわね」
「ってーことは、あんたを倒せば俺の名も上がるってか! やってやろうじゃねーか!」
と、軽く挨拶をしつつ、少し離れて構えたところで、開始となった。冒険者という所から、好戦的なのかと思いつつ、相手は様子を見ているようだ。まあ、こちらの方が間合いが遠いし、攻め辛いというのもあるだろう。よし、単に攻めるというのも何なので、あれを試してみようか。
軽く様子見で牽制の突きを何度も放つ。当然相手は避けるが、時折反撃で剣を振って来る。ここに合わせて投げることも出来るが……今回は……これだ!
「せいっ!」
相手が剣を振った時に出来た隙を突き、棒で左足を軽く払った。相手の防具付近に当たったためか、あまり痛みは無いように見えたが……
「な、何だ? 足が、痺れる?」
左足が動かなくなったところを何回か棒で突いたところ、左腕を棒が掠めた。
「ぐっ! 左腕が!」
相手の動きが急に鈍った隙を突き、喉元に棒先を突き付けたところ
「勝者、一子!」
と、審判の判定があり、私は試合に勝利した。相手はまだ混乱していたので
「暫く魔力を循環させれば、元に戻りますわ」
と言って礼をして、退場した。控室に戻って、一旦仮面と帯状布を外した。テルフィから
「お嬢様、先程の試合、もしやあれを使われましたか?」
と質問されたので、簡単に答えた。
「ええ。左足と左腕から魔力を奪うことで、一時的に麻痺させたのですわ」
「あれは存在を知っていても対処に困りますから……さぞや相手も混乱したことでしょうね」
「まだ改善の余地はありますし、更に応用を効かせることが出来る筈ですわ」
「恐ろしい技ですが……現段階でお嬢様以外に使えないのが不幸中の幸い、といった所でしょうか」
「何ですかそれは……私は暫く観戦しますので、次の対戦相手を確認して頂戴」
「承知致しました」
テルフィを確認に行かせて、私は再び感覚共有により、他の試合を観させて貰った。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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