第348話 研究開発の現場などを確認した
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
モリコルチ大陸の魔物暴走対応が終了して帰国し、暫くは通常の業務だ。ということで、時間が空いたら見に行こうと考えていた、商務省の継続事業である大型船の開発現場に行ってみることにした。精霊術士も協力しているから、そちらの現場指導という名目もある。
商務省工業課が大型船の開発を行っているので、事前調整をしたところ、開発はプレドックにある造船所で行っているということなので、空動車で向かうことにした。海兵団の基地の隣らしいから、場所は判るし、空動車ならそれほど時間はかからないからね……。
造船所に行く日となった。王都から空動車でプレドック造船所に移動すると、造船所長らしき人が入口に待機しており、挨拶などをした後、造船所内を案内して貰った。
現在は実際に造った大型船に対して、強風や高波を魔法で発生させたりして、耐久度を確かめているそうで、大型船を入り江に停泊させているそうだ。現場に向かうと、風魔法士や水魔法士が何名かいて、その中に、風の精霊術士としてフィズナが、水の精霊術士としてルイーズがいた。
「二人とも、調子は如何かしら?」
「導師様、特に問題ありません。先程、強風の耐久試験を行いましたが……かなり強い風が吹いたにもかかわらず、帆や帆柱は耐えておりました」
「現在、船の細部を点検しておりますが、終了後、今度は高波を模擬して水を移動させるそうですので、その際私が魔法強化を行います」
フィズナとルイーズが、それぞれ現状を報告してくれた。どうやら大型船については、今の所高い性能を持っているようだ。併せて、造船所長から補足があった。
「導師様、以前はこのような耐久試験を行う際は、もっと多くの魔法士を必要としました。その上、それほど高負荷の環境を模擬することが出来ませんでした。精霊術士の支援によって、高負荷の環境を簡単に作り出せるようになりましたから、船の信頼度を増すことが出来ました」
「それは好ましいことですわね。造船所の方々も、今後は更なる高みに向けて、技術を蓄積されていらっしゃるのね。精霊術士達もそれに協力出来、光栄でしょう」
「導師様よりそのようなお言葉を頂くことが出来、誠に有難き幸せに存じます。造船所一同、更に励ませて頂きます」
暫くすると高波への耐久試験が行われたが、数人の水魔法士が一斉に海水を持ち上げるように移動させる魔法を使い、ルイーズが魔法強化を行うことで、停泊していた船は激しく揺らされ、傾いたが、魔法が終了した後は問題無く浮いていた。どこも壊れた所などは無さそうだ。
それから再度点検を行った後、今度は強風と高波を同時に発生させたが問題は無かった。今後はこの船に風魔弾発射具などを搭載して、軍艦が完成するわけか……国防の体制が強化されるのは、喜ばしいことだ。
今回の目的であった大型船の試験を見た後、ついでということで、造船技術を研究している部署に案内された。船や帆の形や資材などを研究し、より良い船を作っているらしい。
造船の現場や研究室については、サウスエッドとの人材交流によって技術が向上したそうで、今回の大型船についても、それが無ければ作れなかったということだ。人材交流が国の発展に役立っていて、良かったよ。
あと、造船技術研究室も見学させて貰ったが、この世界においては「不思議な形」と表現されるであろう船の模型があった。即ち、帆が無かったのだ。
現在の船は、基本的に帆で風を受けることで進む。人力で漕いで進む船もあるが、それは小さい船だけの話だ。ここでは、風の影響を少なくするため、帆で風を受ける以外に何か動力が無いかということを研究しているそうだ。
前世の話をするならば、エンジンなどによりスクリューを回転させて進む方式のものが思い浮かぶが、少し古いものだと外輪式の蒸気船などもあった。何にしろ、動力機関が発展すればそういう船も作られるのだろうが……この世界は魔法があるからね……魔法を利用する方が良い気がする。
それと、現在の技術の方向性からすると、火を使う技術は洋上の使用には向かない気がする。何せ、火精霊がいないからね。ということで、地精霊もいないことを考えると、風か水系統の技術を使った方が良いかもしれない。
そうなると、まず考えられるのは、風系統の技術……電気などを使うものかな。大きなモーターとそれに連動するスクリューを備え付けられれば動かせそうな気はするけど、出力……というより魔力が足りないかな。船を運行させるのにどれだけの魔法士が必要なのかを考えると、難しそうだ。
であれば、ワターライカ島で使用している、風を魔力に変換する魔道具を使うという事になるが、それならばそもそも帆を利用すれば良い話だ。補助的な動力にするのは良いかもしれないが、主要な動力にするのは、現状では意味が無い。
では、水ではどうだろうか……水流を生み出して船を押し出したり、船と水との間の抵抗を下げることなら出来そうな気はするけれど……それでも大きい船を動かすには魔力が足りない。
ということで、現状で魔法技術を利用した船を造るのであれば、風の場合でも水の場合でも、魔力がネックになりそうだ。
そんな感じで造船所の見学を終え、王都に戻った。
次の日、魔力を大量発生させる仕組みが作れないか検討するため、魔道具研究所準備室にやって来た。準備室長に話してみたが、皆目見当が付かない、ということであった。まあ確かに、そのような技術が実用化されたならば、産業革命並みの歴史的偉業だろうから、簡単に思いつくわけが無いよね……。
ついでに、研究所移行への準備状況についても確認した。ヴェルドレイク様が領主になるためにここを辞めたため、進捗は遅れているそうだが、他の職員がカバーして、何とかなっているそうだ。まあ、一人がいなくなると動かなくなる組織があったならば、それは組織として成り立っていない、ということだからね……。
その他、研究員の様子なども確認したのだが、その際
「まあ! 何という僥倖でしょうか! 導師様がいらっしゃるなど!」
と、ネリスが私を見つけて叫んでいた。放置するのも何だし話を聞いてみよう。
「コルドリップ研究員、如何されたのでしょう?」
「も、申し訳ございません! 開発していた魔道具が完成し、良い被写体は無いか探しておりましたところ、至高の被写体たる導師様がいらっしゃいましたので、感激のあまり、昂ってしまいました」
おお、カメラが完成したのか! それは確かに嬉しいだろうけれど……私を撮りたいの?
「魔道具の完成は喜ばしいことですが……私を撮る意味はあるのでしょうか?」
「勿論です! 私の様な有象無象であれば、適当に写れば問題ございませんが、導師様は違います! この美しさを、少しでも表現出来る物であるならば、魔道具としての価値は桁違いとなります! どうか、被写体となって頂けないでしょうか!」
必死で懇願しているネリスに呆れつつも、仕方ないので、1枚撮って貰うことにした。ちなみにこの魔道具の名前は……直訳すると「撮像具」というところかな。
「導師様! ではこちらの椅子に……室長、もっと綺麗な椅子を持って来て下さい! 導師様は、椅子に座りましたら、こちらの撮像具のこの点を見つめて、微笑んで下さいませ。撮像自体はすぐ終わりますので……ほら、室長、早くここに椅子を置いて!」
ネリスが室長をこき使っている場面は見なかったことにして、注文通り椅子に座ってカメラを見つめ、微笑んだ。
「ぐはあっ! ……いけないわきちんと撮らないと……では導師様、暫くそのままで……はい、終了しました! 動かれて結構ですよ」
撮像は終了したようだ。本当に数秒間だったが……きちんと撮れているのかな? ネリスを見ると、印刷用の魔道具らしきものに、カメラを繋いでいた。印刷用の魔道具は、原稿から本を作る時や、政府内で大量に同じ書類を作る時などに使用している。最近は紙が安くなったから、使用頻度も高くなり、改良もされていると聞いているが……。
「きゃーーっ! 素晴らしいわ!」
どうやら印刷出来たようなので見てみると、白黒ながら、なかなか解像度が高いようだ。ピンボケなども無いし、これなら肖像にも使えるな。
「どうやら上手くいったようですわね」
「はい! これまでは焦点が合わなかったり、印刷の品質が悪くて問題外だったのですが、焦点を合わせる機能を付けたり、印刷具の解像度を高めたり、紙を工夫することにより、このような素晴らしいお姿を残すことに成功いたしました! 改めて、光魔法を教えて下さった導師様に、深く感謝致しますわ!」
「素晴らしい発明と、それを生み出した努力に敬意を表しますわ」
「……ぁ有難き幸甚にぃございますぅ! 今後もぉ更に励みますぅ!」
何かネリスは感激のあまりか、最後には泣いていたが……まあ、凄い発明であることには変わりないからね……。
その後、カメラについては、近日中に陛下に献上するという話になり、私は準備室から魔法省に戻った。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。