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第347話 ピリコノーメ・ウナチャシー視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

私は現在、風龍様や眷属である神獣様達が住まうルーレラ峡谷に居候させて貰っている。8年前に、故郷の国が東の隣国によって滅ぼされ、命からがら逃げていた時に、精霊に勧められ、こちらにやって来たからだ。


不幸中の幸いか、風龍様や神獣様達は精霊と仲が良く、私についても保護して下さることになり、それからずっとここで生きて来たのだ。峡谷には人間の住む施設など何も無く、暫くの間は野宿とほぼ変わらなかったが、魔物や悪意のある人間に襲われないだけ幸せだったのだろう。


私の一族は、お父様やお兄様は戦場で敵に討ち取られたという報告があったので、亡くなられた筈だし、都が落ちて、お母様達とも別れてしまったから、どうなったのかは判らない。戦に負けて滅んだ国の民は、勝った国において下人として扱われ、農耕や雑役に従事させられるから、今も生きている可能性はあまり高いとは言えないだろう。


精霊はこの大陸の状況なども教えてくれる。私の国を滅ぼした東の隣国は、今も別の国とも争っていて、秋になると戦を行っているそうだ。戦はそこ以外でも様々な国同士で行われており、毎年どこかの町や村が滅んだりしている。


何故人はこんなに争うのだろうか、私には正直判らない。もっと助け合って生きればいいのに、と私は思うのだけれど、そういった事を語り合える人は、ここにはいない。


そのような中、私に生きる価値はあるのだろうかと自問自答しながら過ごす日々だった。いつ死んでも構わないと思いつつも、そういった時は必ず一人の男の子の顔が思い浮かび、死のうとまでは思えなかったのだ。


私と彼は、親同士仲が良く、年も近かったことから、会合に同行した際は、よく遊んでいた。彼は一国を治める一族の者として、剣術や馬術なども良く学んでいるようだったが、いつも私の事を気遣ってくれる優しい人だった。私は多分、彼の事が好きだったのだ。一目でも会って話をしたい、と思うくらいには。




何かを為したいのに何も出来ない、忸怩たる思いを抱いていたある時、神獣様から


『主が精霊女王様の愛し子を峡谷にお連れするとのことなので、身の回りの世話を頼む』


と言われた。どうやら、人の世話を行うのであれば、同じ人が良いだろうとのお考えの様だが……私はその、精霊女王様という方や、愛し子という人のことを知らない。とりあえず、精霊の方が詳しそうなので確認してみたところ


『精霊女王様は、私達の主だよ。物凄く偉いんだ! あの方の前では、恐れ多くて私達は平伏するんだよ。それで『愛し子』というのは、主が特に目にかけていて、加護を与えているんだ。だから私達はその子にも逆らえないし、守らなくちゃならない。それに、その子の周りは、聞いた話では凄く心地いいらしいんだよ。来るのが楽しみだな』


他の精霊に聞いても、大体同じような回答だったので、精霊女王様はとても偉い、愛し子様にも粗相があってはならない、ということは分かったけど……ここはあまり住みやすい所ではない。


少しでも片付けておこうと思って掃除を開始したのだが、それから暫くして、愛し子様がやって来たとのことで、私は風龍様の所に呼ばれた。来るのが早すぎる!


でも変な態度を取って怒らせてはいけないから……落ち着いて対応しようと思って、神獣様の後に付いて移動した。すると、風龍様の前に、精霊達に囲まれている人がいた。あれが愛し子様だろう。


風龍様に紹介され、挨拶をしようと良くお顔を拝見すると、あまりに美しい方だったので驚いたが、粗相があってはならない、という気持ちの方が強かったからか、一応は挨拶できた。


それから、愛し子様は、風龍様と話をしていたのだけれど、どうやら愛し子様は、先日から発生している魔物暴走に対応するため、この大陸に来たらしい……ということは、話の流れからすると、愛し子様が魔物の大群を相手に戦う、ということ? え? 愛し子様って、そんなに強いの?


お顔だけでなく、立ち居振る舞いも見ただけで貴人と判る。私なんかとは全然違う、そんな方が魔物討伐?


でも、風龍様達は、愛し子様が魔物暴走に対処することを前提として話をしている……ということは、とてもお強い方でもあるのだろう。つい、このような方がこの地にいれば、もっと国がまとまるかもしれない、と、どうしようもないことまで考えてしまった。


話が終わった後、私は愛し子様に当面住んでもらう部屋……ではなく洞穴や、周辺の施設……とは名ばかりの場所を案内した。正直、怒られやしないか不安だったのだが、そういったことはなく、加えて、私も精霊が見えることをあっさりと見抜かれたので、ここで生活する上で何かの足しになるかもしれないので、私の身の上も話してみた。


それが功を奏したのかは判らないが、愛し子様は、そのお力で、生活に必要な施設を整えて下さったのだ! しかも、魔道具? というものまで使い、風呂や用足しの場なども作って下さった。


ここにいる間は自分も使うから、と愛し子様は仰っていたが、人の社会に詳しい狼神獣様が言うには、魔道具は貴重品だそうで、それをわざわざ備え付けて下さるのだから、愛し子様はお優しい方なのだろう。


それに、神獣様にしか発生させられないと思っていた雷も、人でも雷魔法として使えるということを教えて下さったので、早速練習することにした。雷の素か……何だか面白い。




そのようなことをやっているうちに、魔物暴走に対処する準備が整ったそうで、愛し子様が現場に向かった。暫くして、特に怪我も無く帰って来たので、本当に何かを行ったのか疑問に思ったので、精霊に確認したところ


『愛し子が、何か凄い光を出したら魔物達がみんな死んじゃった! 凄かったんだよ?』


と言っていたので、間違いなく愛し子様が魔物暴走を終息させたのだろう。そして愛し子様はもう1つの魔物の群れの対処を終了し、国に帰られた。


その際、少しお話をしたが、愛し子様の国は、私の様に精霊を見ることが出来る者を「精霊術士」と呼び、重要な仕事を任っているそうだ。確かに精霊は、日々の天気や遠くで起こった出来事も教えてくれる。


それに、精霊術士は人の使う魔法の威力を高めることが出来るそうだ。もしかすると私も、この力を人の世に役立てることが出来るかもしれないと思うと、自分を誇らしく感じるようになった。




そして暫くして、風龍様の呼び掛けにより、大陸内の国の王達が集まって、会議を行うことになった、ここにはカラートアミ教の偉い人もやって来ていた。聞いた話では、この大陸に大きな聖堂を作るか検討するそうだ。


これまではいつ滅ぼされるか判らない小国しか無かったので、宣教師が来ることはあっても、大規模な施設を作ることはしていなかったらしい。魔法や精霊、風龍様などもいるので、神の存在や教えを疑う者はいない。だから、そういった施設が出来るならば、その地にいる王は、神に認められた者であるようにも思えるから、確かに有用なのかもしれない。


とは言っても、小国をまとめるということは、誰か一人を代表の王にして、他の王は王でなくなるのだから、会議は全く進まなかった。そして私は、会議に同席している狼神獣様の付き添いだったのだが……そこで思わぬ再会を果たした。


「もしや貴女は……ウナチャシー国のピリコノーメ姫ではございませんか?」


何と、幼馴染の彼、ラメオカイト・ターラシレ様だった! 休憩時間に、再会を喜び、互いの現状を語り合った。彼にはお兄様がいたのだが、戦争で亡くなったため、今では彼が次期国王として、この会議に父である国王に同行しているとのことだった。


私の事をずっと探していたが見つからず、私の家族が全員亡くなっていることから、諦めかけていたそうだ。


「まさか貴女が、風龍様の所に身を寄せているとは思わなかった」


「精霊から、身を守るには一番良いと教えられ、お世話になっていたのです」


「確かに貴女は、精霊と意思疎通が出来た。だから私も、望みを捨てられなかった」


「ええ。精霊がいてくれたから私は生きていられた。でも、それだけでは駄目だと先日愛し子様から教わったわ。私は、この力をこれから出来る国で生かすことが出来ないか、考えているの」


「そうか……私も先日、街壁の上からあの方が魔物の群れを一掃するのを見た。しかし、今後は皆が力を合わせて魔物に立ち向かわなければならない。先程神獣様も、これまでのように風龍様が魔物暴走に対処していては大陸が荒廃するため、人の手で対処して貰いたい、と仰っていたが、確かに人同士が争っている場合ではない、と強く感じたよ」


「愛し子様の国は、私達が知らない魔法も沢山あるらしいわ。魔道具も色々あって、大層栄えているそうよ。魔物暴走も、水龍様の警告はあるけれど、人の手で対処出来ているようよ」


「だけど、先程の会議を見る限り、皆が力を合わせるなど、とても無理だ」


「その場合……もしかすると、愛し子様がここを去る前に仰っていたことを、風龍様が仰るかもしれないわ」


「それは一体何のことだい?」


「国王、又は次期国王の間で試合を行って、勝者を国王にしてはどうか、という話だったわ。愛し子様の所でも、先日領主を決めるのに、そうしたのですって」


「……ふふふ、確かにそれなら決定するだろうね」


そのような事を話した後、会議が再開したのだけれど、やはり話が進まなかったので、風龍様が狼神獣様の体を借りて発言し、予想通り試合で統一国王を決めることになり、会議は終了となった。


会議参加者達が試合の準備をするため急いで帰国する中、ラメオカイト様は私にこう言って、帰国した。


「試合には私が出るよ。そして統一国王となれた時、貴女には、私と共に生きて欲しい」


その言葉を聞いた時、私は嬉しさのあまり、涙を流してしまいました。私も彼と共に生きていきたい、彼の役に立ちたい、彼と再会してから、ずっとそう思っていたんですもの。勿論、勝ち負けに関わらず、貴方と共に生きたいです、と返しました。




彼は努力を重ね、今では相当な達人だと聞き及びましたが、他国の方も強者が揃っています。私は試合まで、彼の無事を祈りつつ生活する毎日ですが、一方で雷魔法などについて練習しています。彼に相応しくなれるよう、励まないといけませんからね!

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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