第345話 モリコルチ大陸の魔物暴走対応 2
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風龍様と現状について話し合い、まずは行動範囲を広げつつある魔物の群れを、2つの地域に集めるよう神獣達が誘導し、集まったところを私が殲滅する、という話になった。
また、魔物の群れを殲滅する際は、人間の都市近郊で行うことで、今後は魔物暴走対応にも積極的になるよう促したい、と風龍様が仰ったので、その辺りは何らかの方策を考えることにした。
当面の間、私は待機するということになり、ピリコノーメさんに案内され、客間? にやって来た。ちなみにここはルーレラ峡谷と呼ばれる、モリコルチ大陸の中央部にある大峡谷で、常に風が吹いているらしい。風龍様は峡谷の中央付近にいて、眷属の神獣はその周辺に洞穴を作って過ごしていて、私が案内された場所もその一つだそうだ。
「人が住むには不便かもしれませんが、要望があれば可能な限り対応させて頂きます」
「ピリコノーメさん、ご配慮有難うございます。ところで、もしかすると貴女は、精霊が見えるのでしょうか?」
先程から、私に付いている精霊が見えているかのような目の動きをしていたから、少し聞いてみた。風属性のようなので、見えているとすれば風精霊だろうか。
「ええ。私がここに住まわせて頂いているのも、それがご縁となったからです」
ピリコノーメさんは、簡単に自身の境遇を話してくれた。年は18才で、生まれ育った国が滅ぼされ、逃げた先がルーレラ峡谷だったらしい。その際、風精霊に案内されてやって来たことで、風龍様もここでの在住を許したそうだ。
ここならば、少なくとも魔物に襲われることは無いから、そのまま居候させて貰っているらしいが……生活基盤としては、かなり不便のようだ。
食事については、峡谷に流れる川で魚を獲ったり、食べられる草や実を精霊達から教えて貰ったりしているらしい。それと、たまに神獣が近くの森で動物を狩って来てくれるらしく、干し肉などにしているそうだ。
こちらの舌に合うかは判らないが、ここにいる間の食事は、収納しておいたパンなどを提供した方がいいかな。
ついでなので、地精霊と同化して、水を汲む際などに良く使う道を整備したり、簡易的なトイレ、風呂などを作ってみたところ
「愛し子様には、そのような力があるのですか?! 有難うございます!」
と喜んでくれた。まあ、暫くの間は私も使うからね……。それと、ここには火種となるものが無さそうなのでどうしているのか聞いてみたところ、実はここの神獣達は雷魔法が使えるそうで、小さい雷で薪などに火を付けて貰っているそうだ。
ピリコノーメさんは、この地で暮らしているからか、精霊視を持つ割に魔力量が多く、魔法もそれなりに使えそうなのだが……通常の風魔法しか使えないようだったので、雷魔法を教えてみることにした。簡単に理論を教え、目の前で雷魔法を使ってみたところ
「この魔法って、本当に人でも使えるんですね! それに……愛し子様は、地だけでなく風属性の力も使えるんですね……」
と驚かれた。そう言えば久しく忘れていたけど、全属性の人間は私くらいしかいないから知らない人は結構いる筈なんだよね……。
とにかく気を取り直して、火種に使える程度にはなるよう練習して貰うことにした。まあ、私が帰っても、ある程度は風精霊か神獣に聞けば判るだろうし、頑張って下さいな。
誘導には2日程かかるらしく、その間私は、モリコルチ大陸の状況を、風精霊と感覚共有して確認させて貰った。魔物暴走はルーレラ峡谷の北西に広がる大森林が発生源らしく、そこから大きく2方向に分かれて移動しているのが上空から見て分かった。
一方の群れはそのまま北上しており、もう一方の群れは、東の方に移動しているらしい。魔物でも簡単に壊せないような壁で囲まれた場所が幾つか発見できたが、既に魔物達によって破壊された集落も、結構発見された。
ただし、そこに人間はいなかったので、壁の中に避難したのだろうか。それはそれで対策とも言えるのだろうけれど、一旦荒廃した土地を回復させるのは相当な時間と労力を必要とするだろうから、以降の発展も難しい。
私達の国が必ずしも良いとは言えないが、魔物暴走に対処できるだけの力は保有した方が良い、と実感できた。
2日後、少し広い部屋で身体を動かしていた私の所に、狼神獣がやって来た。
『愛し子よ、主の元へ来て頂きたい』
と言って私を先導し、風龍様の所へとやって来た。
『愛し子よ、概ね準備は終えた。まずはこの峡谷の近傍にある群れから対処を願いたい』
「承知致しました。その際、気を付けることはございますか?」
『もし可能であるならば、今後は自ら対処するように、促してやっては貰えぬだろうか』
「そうですわね……今後、この大陸において文明を発展させるためには、その方が望ましいでしょうから……その際、風龍様の御名をお借りしても宜しいでしょうか?」
『ふむ……どのようなことを行うのだ?』
私は、魔物暴走に対処する際に、街に呼び掛ける旨を説明した。
『成程……宜しく頼む』
「承知致しました」
私は狼神獣に案内され、風龍様の眷属の鳥神獣に乗り、魔物の群れに対処する地点、街壁に囲まれた街がある荒野の付近までやって来た。私は、重力魔法を使って壁の上まで浮上し、伝声魔法により、街中に呼び掛けた。
『私は、フィリストリア・アルカドール。ここより遠く離れたロイドステア国より参った。此度は魔物暴走に対処するために風龍様に呼ばれた。私が、これからこの地を襲う魔物を倒すので、壁の中から見ているが良い』
そう言ってから地面に降りた。狼神獣からは
『四半刻もせぬうちに、群れがこの荒野に現れるであろう』
と連絡が来た。暫く待機していると、壁の上から誰かがこちらに、伝声魔法で呼び掛けて来た。
『貴殿は何者だ! それに、魔物を倒すだと? 訳の解らぬことを申すでないわ!』
『私は精霊女王様の加護を賜った者。我が国では『精霊導師』と呼ばれている。四半刻後、この場に魔物の群れが押し寄せる。貴国は手出し無用だ』
『精霊導師など、聞いたことも無い! 魔物が来るなら逃げ帰れば良い! 我等は関与せんぞ!』
壁の上からの声は、それ以降聞こえなくなったが、暫くすると、魔物達が移動する音が、地響きとなって聞こえて来た。更に待つと、魔物達が姿を見せ始めた。そろそろ和合を開始しよう。
【我が魂の同胞たる風精霊よ。我と共に在れ】
和合を完了し、周囲の風属性のエネルギーを体に集め始めた。ここは風龍様がいるだけあって、風属性のエネルギーが集めやすい。派手に倒した方が理解しやすいだろうから、今回は荒魂で一気に片付ける。
魔物達が接近する中、エネルギーが体に満ちた。今一度心を鎮め、脚を大きく開いた状態でしっかり大地を踏みしめ、右の掌を前に出し、左手を右手に添えた。今回は拡散型で、広範囲に亘る魔物達を狙うのだ。脳波を感じて……よし、今だ!
「はっ!!」
瞬間、右掌から風属性のエネルギーと魔力が混在した力が撃ち出され、放たれた緑の光線は拡散しながら、街と私に近付く魔物達を薙ぎ払った!
光が収まった後、荒野には死屍累々たる魔物の群れがあった。
後続がいないことを確認して、私は和合を解き、再び伝声魔法を使って話し掛けた。
『此度の対処は最後通牒だ。今後は心を入れ替え、団結して魔物暴走に対処せよ。対処できぬのであれば、風龍様は人を見限り、街も集落も気に掛けることなく御力を揮われるだろう』
私はそう言った後、狼神獣とともに迎えに来た鳥神獣に乗って、風龍様の所に戻った。
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※ 四半刻 : 30分