第343話 ワターライカ島の発展の状況を確認した
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ロイドステアに戻り、式典の報告などを行っているうちに休日になった。特に用事が無かったので、調整していた通りビースレクナ領に向かった。
ちなみに今回から、ナビタンも同行している。奪魔掌の話をしたところ、非常に興味を持ったようで、是非習得させて欲しいと頼まれたのだ。ナビタンの体は子供だが、身体強化も様になっているし、魔力波も習得した結果、魔力視も身に付いている。魔物と戦うのも良い経験になるから、無理はしないことを条件に、同行させた。
ビースレクナ本邸に到着し、護衛達に加えて奪魔掌習得のための鍛錬を行う人達を空動車に乗せ、いつもの場所に前進した。魔物が現れるまでは、魔力を同調させる練習を行わせ、魔物が現れると、私がまず手本を見せた。
「ほ、本当に魔狼に外傷を与えず、魔力だけを抜き取ることで倒した……」
「導師様は、魔力を奪うことが出来るというのか!」
……まあ、今の所は、奇抜だが実用性は少ない技なのだが、検証することで、使える技になると有難いかな。
それから暫く、襲って来た魔物を相手に奪魔掌の検証を行った。手を当てる部位を変えたり、長めに触れて魔力の同調度を上げてから抜き取ったりしてみた。すると、多くの魔力を抜き取った部位は、暫く動かなくなることが判った。
そこで、少々危なかったが、足を麻痺させた上で頭から多くの魔力を抜き取ると、魔物が意識? を失った。現段階ではまだ使えないが、同調の技術を高めることで、使えるようになるかもしれないな。
つまり、魔力同調の要領に習熟することが、奪魔掌の肝ということだろうか。なお、他の人達は、同調の練習のみ行っていた。基本的には、魔力による治癒と同種の技術なので、出来ないことはないのだが、素早く行えるように練習していたようだ。
休日を奪魔掌の研究に費やし、第3週に入った。急を要する用事が無かったため、ワターライカ島の現状確認に向かった。ワターライカ島中央区、領となった後は中心都市と呼ばれることになる地区だが、その行政舎に到着後、領主となる予定のヴェルドレイク様に挨拶をした。
「導師様、今回も御足労頂き、誠に感謝致します。環境を早急に整えるには、まだまだ貴女のご助力が必要でして、宜しくお願いします」
「現在は初期の整備が終了し、今後の人員増や島内での自給自足を考慮した整備を行っているそうですわね。事前調整にあった品も準備致しましたので、現状をお伺いしますわ」
それからヴェルドレイク様や行政官達に色々と島の現状を確認した。既にヴェルドレイク様は行政舎で勤務しており、現在は近傍の屋敷に住んでいるそうだが、建設中である領主邸が完成したらそちらに住むことになるようだ。
行政官達については、王都に帰る人もそれなりにいるが、若い人達についてはステア政府からこちらに移籍して、領の行政舎で働くという人達も多いそうだ。新天地のように感じられる面はあるだろうし、業務内容によっては、ヴェルドレイク様の領主任命に合わせた形で叙爵されたりもするからね……。
島内の産業の状況だが、ワターライカ島は亜熱帯性気候に似ているので、米の二期作などもやろうと思えばできそうだが、今のところは人の配置、土地や水路の様子を見て一期作にしている。ということで今頃が今年の米の収穫時期らしく、農村は忙しいようだ。
漁業については、北のハリス漁港の漁獲高はかなりのもので、島民が魚料理に親しむとともに、カマボコなどに加工して、他領などに売り出す方向で検討しているそうだ。また、調理後の魚の頭や内臓、骨などは魚醤の材料になっているほか、肥料にも加工されているようだ。
それと、以前は頻繁に魔魚が出没していたボルク漁港近海は、石の柱を作ってから殆ど出没しなくなり、現在漁師達を住まわせているところだそうだ。
畜産については、現在は頭数を増やすことを主にしており、当面は牛や豚の食肉は難しそうだが、牛乳は少しずつ供給が始まっており、また、鶏肉・鶏卵は提供出来るようになっているようだ。
他にも、ワターライカ領となる際の治安や防衛に関する話も聞いた。まず、島内の治安については、現在島に配置されている歩兵団第4歩兵隊の中から希望者を募って約1000人で領警備隊を編成するそうだ。国軍としては兵員が減少することになるが、当面は募集を強化して対応するらしい。
島外からの防衛に関しては、海兵団の一部移駐を継続するが、逐次領としても艦船を保有していく方向のようだ。
今は海兵団の海軍化も進めていて、外洋の航海も容易な大型船を建造する計画があるから、旧式の船を払い下げるという話もあるらしく、後は乗組員を育成すれば良いだけだと担当者は言っていたが、まずは海兵団を退役した人達を中心に人材を登用して、育成の体制を作っていくそうで、なかなか大変のようだ。
人材登用という面では、魔技士についてもかなりの優遇策を取って島内の数を増やす方針のようだ。ワターライカ島内は、インフラに魔道具を使っている所も多いから、他の領より魔技士が必要になる。その辺りは流石にヴェルドレイク様が一番解っているようで、自身の人脈を使い、移住者を募集しているようだ。
あと、省の定例会議で聞いた話だが、優れた魔技士として知られていたヴェルドレイク様が領主選定戦に勝利したことで、魔技士という職業が再評価され、人気が高まっているらしい。
最近は、魔石のリサイクル量が増加したため、死蔵されていた魔石が再び使用出来るようになり、国内を流通している魔石量がかなり増加していることから、魔技士の活躍の場が増えている。それと昨今の魔法や魔道具の発展もあり、今年は魔技士の資格試験を受験する人が多く、合格者枠を拡大するそうだから、こちらにも魔技士が渡って来るかもしれない。
そういえばネリスも受験するはずだが……まあ、あの子は既に魔道具の研究が出来るくらいなので、合格はするだろうが、魔道具課に勤めているからこちらに来ることは無いかな。
領主が決定して、統治の方向性が定まり、食糧事情も安定しだしたことから、現在は最初の入植で少数だった、内陸部の領を主体に声を掛けて入植を募集しているそうだ。
この際、医者や産婆も併せて募集している。というのは、現在島内では出産が多いが手が足りず、少しでも知識のある人を使って何とか回している状態らしい。また、幼少期は病気に罹り易いので、どうしても医者が必要になる。ということで、高額な移住支度金を提示して募集しているようだ。
ちなみに私は今回、各種薬草の種を持って来ている。それぞれの町に薬草園を作るためだ。これまでは本土から薬を持って来ていたが、人口も増加したため、今後はこちらでも薬を作っていくとのことで、調整を受けて農業課から種を貰って来たのだ。
ということで、担当者を連れて主要な町を回り、薬草園となる場所に薬草の種を植え、ある程度育てて現地の人に引き渡していった。
その作業の中で、例の地人族の村にも寄ってみたところ、アルカドール領の研修から帰って来た人が早速酒造りを始めていた。
それと、研修の中でアルカドール領の状況、特にドミナスの鉱山や水晶像などの話を聞いて、何人かが興味を示して別口で向かったそうだ。やはり、興味のあることには高い行動力を発揮する人達のようで、聞いていて苦笑してしまった。
他に気になったこととしては、相変わらず島内で通常より多くの精霊を見かけた。自然の中だけでなく、建物の中にも結構居るくらいなので、植物などの生長に良いのは勿論だが、ワターライカ島では精霊視を持つ子が増えそうな気がする。島で生まれた子が育ったら確認してみるのも面白いかもしれないな。
数日かけて島内の各所で薬草園を作りつつ、施設建設の支援や開墾した田畑への水路の工事などを行ったりして、今回分の整備を終了した。
その間、ヴェルドレイク様とは最初の挨拶以外では殆ど会えなかった。行政舎の業務の引継ぎや、島内の魔道具の増設などで大変忙しいらしく、それこそ寝る間も惜しんで仕事をしているそうだ。しかしながら、私が王都に戻る際に挨拶をした際には
「次に来られた際には、より島を発展させておきますね」
と言って、疲れた素振りを全く見せず、とても充実しているような雰囲気だった。今後もワターライカ島には来る予定だが、次が楽しみになるような笑顔だった。
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