第034話 色々試してみた
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私は、自分が転生者であることを家族に打ち明け、受け入れてもらうことが出来た。これまでの関係が壊れ、最悪、家を追い出されてしまう可能性すらあったのだから、私は、とても幸せ者だ。
これからも、色々面倒なことが起こるだろうけれど、何とかなりそうな気がしてきた。
先日、お土産に貰って来た誓約の樹の枝を、どのようにして棒にしてやろうかと悩んだので、鍛錬の合間に、経験豊富なオクターさんに相談することにした。
「ふーむ、お嬢様は、これを棒にして使いたい、と仰るのですな」
「ええ。ただ、珍しい木ですし、表面をある程度保護したい、と思っているのよ」
「……それならば、まずは棒の形を仕上げ、薄く金属で覆うのはどうでしょうか。まあ、鉄や銅だと重くなりますし錆びますので、安いですがお勧めできません。魔法銀であれば、軽く、堅く、錆びにくいのですが、かなり値段が高いのが難点です」
試しに魔法銀?という金属のコーティングの相場を聞くと、現在の私の小遣いでは到底無理だった。材料持ち込みなら問題無い値段なのだが……暫く保留だな。私はオクターさんに礼を言って離れた。
そういえば、女王様に聞きたいことがあったので、念話を使ってみた。えーと、女王様を強く念じて、と。
『精霊女王様、フィリストリアです。今お時間宜しいでしょうか』
『話せ』
『先日、クーリナルルドース様にお会いして、精霊術についてご教授頂きました。女王様にもお口添え頂いたそうで、誠に有難く存じます』
『うむ』
『1つ確認したいことがございます。クーリナルルドース様は、特別製の服を持たれていて、火精霊と同調しても問題ないと仰っていたのですが、私も同様の服を入手可能なのでしょうか』
『ああ、今お主用に作らせておる。ただ、時間がかかるので、先になる。待っておれ』
『御厚情有難く存じます。確認事項は以上でございます』
『では切るぞ。またな』
ふーっ、緊張した。慣れない敬語を使ってしまったよ。
さて、先日王都で感覚共有は上手くできるようになったので、今度は体の一部分や全体の同調を練習することにした。まずは一部分の方からやってみる。
火は危ないので、風、地、水について試してみた。感覚共有の時みたいに、脱力姿勢を取りながら同調してみると、やはりうまくいった。どうも我を張る思考を無くすことで、同調がうまくいくようだ。
一部分の同調については、やっている限り、さほど魔力を消費しない。また、身体強化の効能もあるようなので、従来の身体強化と比べてみた。地精霊との同調は、力がより増す感じだし、風精霊との同調は、速度がより増す感じだ。両足を風精霊と同調させると、通常の概ね倍の速度で移動できた。ただ、速すぎるので、使い方を検討する必要がある。
練習中にふと気づいたことがあり、試してみることにした。地精霊に、魔法銀を1かけら持ってきて貰った。何か銀と言うよりチタンっぽい。これと同じ金属を、地中から取り出してみよう。
両手を地精霊と同調させ、地面に手をついて魔法銀を探す。とりあえず、今いるうちの家の庭には成分を感じなかった。どういう所にあるのか、地精霊に確認してみると、この付近だと、地中深くに少しあるそうだ。では、意識を地中深くに伸ばしてみる……魔法銀は……ないのでまだ深く……あっ、何か同じ成分を感じた。よし。魔法銀を抽出して地上に出そう。
ということで、恐らく魔法銀が約10ログ、地球の単位で言うと、多分10kgくらいだと思うが、そのくらい取れたので、これで足りるかどうか、オクターさんに聞いてみた。1ログもあれば十分だそうで、早速枝を棒に加工して貰うことにした。
うーん、やれそうだと思ってやってみたが、こうも上手くいくとは……これなら、金とか集めれば大金持ちではないか。精霊導師が非常に危うい存在であることは、何となく理解した。しかし、怪しまれるのは嫌なので、当面金策の為に力を使うのはやめておこう。
次の日、部分的な同調はそれなりに出来るようになったので、いよいよ全体的な同調をやってみることにした。いつもは庭の奥まったところでやっているが、気絶するとまずいので、今日は見つけやすいところでやろう。では、風精霊と同調してみよう。
【我が魂の同胞たる風精霊よ。我と共に在れ】
おおっ、やはり景色に溶ける感じだ。しかし、ここで我を主張してはいけない。脱力脱力。
……暫くすると、景色に溶けつつも、自分の体が認識できるようになっていた。成程、精霊というのは、自然の摂理を司る存在とも言えるわけだし、世界の法則と一つになるようなものか。これは地球では味わえなかった感覚だな。
一度感覚をつかむと、最初に感じた恐怖は薄れていった。気が付くと体が浮いていた。クーリナルルドース様も浮いていたな。何かのエネルギーでも出しているのかね。
そういえば、無性に動きたくなっている。精霊と同調すると、精神にも影響を受けるのだろうか。とは言ってもこんなところで動き回ったら、何をやるか分からない。一旦同調を解いた。
……今くらいの感じなら、1時間くらいは魔力が持つかもしれない。ただ、練習するなら場所が必要だ。お父様に相談すると、今は領兵が演習に行っているらしく、領兵訓練場を使う許可が出た。早速護衛としてレイテアを連れて、訓練場まで移動した。訓練場内を風精霊で探ってみたが、私達以外には誰もいなかったので、同調の練習をすることにした。レイテアには驚かないよう再度言っておく。
風精霊と全体の同調を始めた。暫くして体が軽くなり、自分の体の感覚が戻っていく。レイテアを見ると、驚いて言葉も出ないような状態だったが、まあ当然だろう。少し離れたところで、体を動かしてみる。どうも体を動かすのが、楽しくて仕方がない。
風精霊は、いつもこんな気分なのか。通常の身体強化より、何倍も速く動いている感じだ。属性も操ってみる。施設を壊してはいけないので、上空に竜巻やかまいたちなどを作っては消し、作っては消し、といったことを暫くやっていた。次は、執事風精霊に説明を受けた際に、聞いていたことを確かめるために、レイテアの所に行く。
「お嬢様……そのお姿は……髪と瞳が緑色になっておりますが……魔法でしょうか?」
「あら?そんな魔法はかけていないのだけれど……影響が出たのかしらね。それより、少し私を見ていて頂戴。成功すれば姿が消えますので」
少し空に浮かぶと、レイテアが私を見上げている。そこで、体を属性の壁で繭のように包んでみた。レイテアが驚いたので、壁を払うと、また驚いていた。どうやら、姿を消すことに成功したようだ。これは、同調している時、精霊の様に、人に姿が見えなくなる方法らしい。精霊が見える人には効かないそうだが。
とりあえずこんなものだろう。同調を解く。流石に少し疲れた。
「お嬢様、一瞬姿が消えたのは魔法でしょうか?私は全く理解が追い付いていないのですが……」
「そのようなものと思って頂戴。先日の一件、聞いているでしょう?」
「つまり、詮索も他言も無用、ということですね。分かりました」
「有難う。いずれ話せるようになると思いますが、今は無理なのです」
「その時を待っております」
こうして数日間、レイテアと訓練場に通って練習し、大体の感覚はつかめるようになった。
今回精霊の力を直接使うことで判ったことがある。それは、この世界では、前世の自然科学の知識は、魔法に直接利用できるかどうかは判らない、ということだ。私は、世界が違う、ということを、解っていたつもりでしかなかったのだろう。
例えば、落とし穴を作るなら、地属性のエネルギーを掌握して、地面を押し広げるように操作すれば簡単にできる。何も、液状化現象によって地盤沈下じみたことをする必要はない。それを本気でやったら、集落や村くらいなら簡単に滅ぼせる。
精霊の力を使うにも、魔法を使うにも、もっと場合に応じて適切に力を使えるようにしなければならない。合気道をこの世界に合わせた形に変化させているように、やってみよう。望む望まずに関わらず、持ってしまった力を使いこなすことは、義務だと思うし、ね。
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(石は移動しました)




