第342話 アブドーム国の式典に参加した
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奪魔掌はとりあえず形にはなったが、当面は休日に時間があればビースレクナ領にお邪魔して研究させて頂く方向で調整させて貰った。魔力の大部分を一気に奪うだけではなく、他の使い方が出来ないか、色々検証しておきたいからね……。
それと、魔物への攻撃方法として使えそうなことを知り、フィル叔父様や同行していた護衛達もかなりの興味を持ったようだ。ミリナが魔力波を習得してから、謎? の技にも理解を持たれているようで、既に何人かは魔力波を習得していて、魔力視も使えるそうだから、その人達に要領を説明して、奪魔掌を練習して貰うことになった。
まあ、こちらとしても全属性者でなくても奪魔掌が使えるかどうかを検証したかったから、丁度良かったのだけれど。
月末の政府定例会議では、国防省から、麻薬の密輸量が増加しているため取締を強化しているという話があった。外務省からは、恐らく国交の無い国が麻薬を生産していて、幾つかの国を経由してロイドステアにも流れて来ているという説明があった。
取締を強化しているにも関わらず、被害が拡大した場合、精霊課にも捜査の支援依頼が来るかもしれないな……。
あと、私の所には事前に調整があったのだが、5月1週から2週にかけて、アブドームに行く事になっている。
月末の週末になり、予定されていたヴェルドレイク様の領主選定を祝う宴が、セントラカレン王都邸で開かれた。お父様や私は、休みを取って参加しているほか、体制派の主要な面々が揃っている。
まあ、体制派の領が新規で増加すると考えれば、それだけで喜ばしいことだし、選りすぐりの青年貴族の中で勝利したわけだから、同じ派閥としては鼻が高いよね。当然、宴自体も大変に盛り上がった。
主賓のヴェルドレイク様には、改めてお祝いの言葉を伝えたが
「空に輝くどの星よりも美しい貴女の姿を拝見出来たことが、私には何よりの褒美となりました」
と、相変わらず私を誉めてくるので、恥ずかしい様なもどかしいような気分になってしまった。
あと、先日誕生日のプレゼントで頂いた装飾品を着けて出席していたのだが、やはりというか何と言うか、ダイヤモンドをちりばめた髪飾りが皆さんの目を引いたようで、特にご婦人方からの問い詰め? が凄かった。
一応、お父様とは事前に「金剛石の一種」ということで、話を合わせていたので、そのように回答しておいた。まあ、あれから話を聞いたところ、実はお祖父様は、かなり無理をして私の誕生日に間に合うようにこれを作ったらしい。
水晶像の生産も中断して火魔法士を総動員で支援させて、力業で漸くこれだけ作れたそうだ。今は、要領を洗練して製造できるよう検討中らしく、それが終わらないとダイヤモンドの製造は難しいということだった。まあ、周囲の注目度からすると、作れたらそれだけ利益になる筈だから、楽しみに待っていよう。
5月に入った。まずは恒例の合同洗礼式で精霊術士候補を確認したところ、水属性の少女1名が精霊視を持つことを確認出来た。定期的に人材を獲得出来るのは、やはり有難いね。
その2日後、私はアブドーム国に派遣される、外務大臣を長とする使節団に参加した。
まず王都からカウンタール領に転移し、そこでアブドーム国と隣接しているカウンタール侯爵家代表であるライスベルト様と合流し、私が収納していたワゴン型空動車4台をもってアブドーム国王都に前進する、という予定だ。
空動車で移動すれば、余裕を持って進んでも2日もあれば、アブドーム国王都に到着出来る。1台は要人、あと3台は警護騎士が主体で乗車しているが、私がいつも使っているものが要人用、政府所有の3台が警護用というわけだ。
今の所、空動車を保有しているのは我が国だけなので、本来もっと多くしなければならない警護の数も減らして運用することが可能というわけだ。あと、多数の空動車で移動されると、侵略と勘違いされかねないため、配慮しているらしい。その辺りは加減が難しいよね……。
途中宿泊した町では、養蚕と絹織物が盛んになっていて、かなり栄えているようだった。そして、カイコをもたらしたのが私だという話が伝わっていたらしく、非常に歓迎されてしまった。まあ、生活が豊かになるのであれば良い事だろう。
なお、ライスベルト様も話していたが、最近カウンタール領でも、養蚕業を始めようという声がかなり大きくなっているようだ。カウンタール侯爵は、今でも乗り気でないらしいが、ライスベルト様自身は、カウンタール領は養蚕に向いている筈なので、経済効果を考えると、養蚕を行わないのは勿体ない、と考えているそうだ。
まあ、隣のヘキサディス領は、養蚕と絹織物で儲かっているからね……。
次の日も順調に移動し、アブドーム国王都に到着した。外務大臣、ライスベルト様と私は、アブドーム国王に謁見した後、迎賓館の宿泊施設に宿泊した。その日はささやかな宴……とは言われつつも、それなりに豪華な夜会が行われた。
一応ドレスを準備していたので普通に参加したのだが、アブドーム側の参加者、特に女性達が全員絹製の豪奢なドレスを着ていて、かなり圧倒された。まあ、絹織物に自信と愛着を持って貰ったようで、何よりだ。
その次の日は、式典前の会合ということで、外務大臣以下、外務省の人達は会合に行ってしまったが、私は暇なので、部屋で軽く運動した後に、風精霊と感覚共有し、王都内を見て回った。
数年前から比べて現在は景気が良くなったと聞いているが、確かに活気に溢れていた。特に騒がしかった市場を見回ってみたところ、根菜や里芋に似た芋、キャベツらしき野菜などが多く売られていた。
また、穀物はライ麦や大麦が主体らしく、小麦は殆ど売っていなかった。果物なども多く見かけたが、品種改良する前のりんごや野いちごなどが売っていた。果実酒らしきものも売られている。確かにこれらの食物は、こちらに来てから料理によく使われているな。割とアルカドール領に似ている感じだ。
少し違う所は、はちみつが割と普及している所かな。はちみつと言えば妖精族、ウォールレフテ国を思い出すけれど、あそこも森が多いからね……。そのような感じで、アブドーム国の食生活などを垣間見て楽しんだりした。
さて、今日は式典本番だ。式典の名目は、ロイドステアとアブドームの友好関係の深化を祝うもので、特に、養蚕が始まった時から5年が経過したところで、更なる発展を祈念するという話だ。
まあ、最近だとウェルスーラ国の勢いも落ちているから、勢いのあるロイドステアと協力した方が、アブドームにとって好ましいし、ロイドステアも、アブドームの絹織物が欲しいというのもあるけれど、アブドームが政治的に安定するのが有難いから、支援を行っていく方針は、今後も継続するようだ。
ということで、今回の式典は、式典だけの話ではなく、この機会に併せて今後の政策などに反映させるものを公表する場でもあり、外交的にはむしろそちらがメインのようだ。それで昨日は、その最終調整を行っていたというわけだ。
式典の壇上に、両国の外務大臣が登壇し、今後の両国の友好と発展を祝す言葉を告げ、併せて今後の政策を公表していった。
両国ともに、街道の整備と人材の交流を挙げている。街道の整備とは、ロイドステアとアブドームを繋ぐ主要経路である、南北街道を整備するということで、人材の交流というのは、養蚕に関する人材交流を図っていくということらしい。
また、アブドームの食糧事情の改善のため、ロイドステアから、じゃがいもやりんご、いちごの種や苗を有償で渡すという発言があった。これは私も事前に聞いており、式典後、アブドームの地にそれらを根付かせる役目を担っている。
式典が終了し、多くの人達が王都郊外の農地に移動した。私はここで、収納していたじゃがいもの種芋を取り出し、指定された畑に地魔法と重力魔法を使って均等に植えて行き、最後に地精霊・水精霊と両手を同化させ、ある程度まで成長させると、周囲のアブドームの人達は驚いていた。
いちごについては、重力魔法で種を等間隔に飛ばして、同様に成長させ、株の状態にした。りんごについては、事前にりんごの木を集めて貰っており、それらの木の枝を切って、あらかじめ収納していたりんごの木の枝を接ぎ木して、最後に枝を定着させた。これで私の役目は終わったので、その場で
「両国の友好が、末長く続きますように」
と結びの言葉を告げ、退場した。
こうして、アブドーム国での式典は終了し、私達はロイドステアに帰国した。
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