第341話 新しい攻撃法を編み出した
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通常の業務を行っているところだったが、1件臨時で魔力循環不全症の治療の依頼が入った。
治療については基本的にはカラートアミ教が取りまとめて、年に1~2回実施するようになっているが、国内の場合は、軽易に移動できる分、その限りではないこともある。
今回の患者については、クインセプト伯爵嫡男の長女で、4才らしい。1か月ほど前に、高熱で寝込んだ後、熱が一旦下がった後もなかなか体調が元に戻らないことから、検査を行った結果、魔力循環不全症であることが発覚したそうだ。まだ罹ってからそれほど日が経っていないので、施術を行えばすぐに良くなるだろう。
私はキュレーニル研究員達と一緒に転移門を使ってクインセプト伯爵本邸に移動し、いつもの様に施術を行ったわけだが……勿論施術は成功した。しかしながら施術の際、何となく思い浮かんだことをまとめている所だ。
私が魔力循環不全症の患者に行っている施術は、私の魔力を患者の魔力に同調させた上で正規の魔力循環を起こさせているが、これを武術? に応用することは、出来ないだろうか。
そもそも私は人の体に流れる魔力を見ることによって合気道に活かしている。そういう意味では、相手の魔力を利用して技を掛けていると言っても良いわけだ。ならば、魔力そのものを操り、相手を制する方法があっても良いのではないだろうか。理論上は可能に思えるので、やってみる価値はあるかもしれない。
ただし、全属性者の私であれば、誰であっても魔力を操ることは可能だが、通常の人は、同属性の相手しか魔力を操ることは出来ない。それを技と呼んで良いのか微妙なところかな。
……そうだ、いっそのこと、対魔物の技ということにしてしまおうか。魔物については、属性が無くなっている筈だから、私でなくとも魔力? を操ろうと思えば操れるかもしれない。私以外による検証は必要だろうけれど。
ただ、こういった技がもし可能ならば、現段階では力技や魔法などでしか対応出来ない魔物に対しても、力を利用して倒せる形が見えるかもしれない。そう考えると、久し振りにワクワクして来た。
色々考えた結果、暫くの間、休日にビースレクナ領に行って魔物を相手に試してみることにした。人を相手に試すのは論外なので、魔物を相手にしないとまずいからね……。まあ、とりあえずは領主のフィル叔父様に手紙を出して、許可を貰おう。
それから暫くは特に問題無い日々が続いた。ヴェルドレイク様が退職の挨拶に来て、今後の領主の業務について話したりすることはあったが、それ以外は変わりない日々を送っていたところ、漸くフィル叔父様から承諾の手紙がやって来たので、早速今度の休日からお世話になることにした。
休日となったので、早速導師服に着替え、護衛のテルフィを伴って、朝から空動車でビースレクナ王都邸を訪ねた。当然話は通っており、一旦空動車を収納した後、転移門を使用して、ビースレクナ本邸に転移した。
フィル叔父様達に挨拶をした後、収納していた空動車を取り出し、近くの魔物が出やすい所に行くことにした……のだが、念の為ということで、護衛が4人程付いた。その中には、以前案内を頼んだデリアスさんもいたので、今回も案内をお願いすることにした。
「では、とりあえず魔狼などが多く出没する場所に向かいましょう」
皆にも空動車に乗って貰い、30分程で目的地に到着した。少し広まった場所を選定したが、降りる前に精霊に周囲を確認して貰ったところ、近くに魔犬が1体潜んでいたので気を付けて降りたのだが、空動車に襲い掛かって来たので、仕方なくレーザーで倒しておいた。
空動車から降りて、配置に付いた。単体で現れた場合はそのまま私の方に誘導して貰い、複数いた場合は先に間引いて貰ってから、こちらに誘導して貰うことにした。先程の魔犬は放置して、他の魔物をおびき寄せる餌にした。すると、それほど間を置かず、魔狼が1体やって来た。さあ、検証させて貰おう。
まずは突進してくる魔狼の牙を躱して、魔力を同調させながら背中の辺りに触ってみた。魔力を掴んだかのような感触はあったものの、特に何が起こるわけでもなく、魔狼は私の方に向きを変えて再び襲って来た。
何度か試してみたが、魔力を操る、とまでは行かず、魔狼の動きが鈍って来たので、魔力波で倒し、収納した。
うまく行かなかったのは、素早く動く魔物の魔力に同調させるのが難しかったのか、それともそれ以外の要因があるのか……同調自体は出来ていた気がするのだが、それを操るのが難しかったように感じる。
そもそもの話、操るのにも「理」が必要な気がする。理があってこそ、技たり得るのだから当たり前か。つまり、操るためのポイントのようなものを見出さないとね。
それから何度か魔犬や魔狼がやって来た。複数でやって来た場合もあったので、何体かをレーザーで倒し、また、護衛達にも倒して貰い、残り1体になったところで相手をした。やはり、同調は出来ているが、魔物の魔力を意のままに操るというのは難しそうだ。
ただ、操るというより、魔力を魔物の体から抜き取るのは可能かもしれないと感じた。魔物に触れて同調させることを何回かやっていると、魔物が弱体化するのだ。最初は、戦っていて疲れたのだろうと考えていたのだが、デリアスさん曰く
「攻撃を受けたわけでもないのに、あれほど早く動きが鈍るというのは、変ですね」
ということだったので、同調することで何らかの変化をもたらしているのではないか、と考えたところ、同調させた状態で体を離すと、その分魔力が消耗するのではないか、という結論に達した。
簡単に言えば、同調した分の魔力を魔物の体から抜き取っている、というわけだ。魔物も魔力切れになったら動けなくなるだろうし、多量の魔力を抜き取ることが出来るなら、魔物が行動不能になるわけだから、魔物と戦う人達にとって、大きな武器になるのではなかろうか。
色々検討していたところ、時間になったのでビースレクナ本邸に戻った。
今回倒した魔物については、魔犬は現地に埋めたが、魔狼はデリアスさん達に渡した。解体して、毛皮を取って売るようだ。その際解体を庭で行ったのだが、初めて解体を見たテルフィが興味を示して、解体の仕方を習っていた。
その後フィル叔父様達に挨拶し、次の週もお世話になることを話し、王都に戻った。
それから、効果的に魔力を抜き取る方法を考えながら日々を過ごし、休日を迎えた。今回も同様に、朝からビースレクナ王都邸に向かい、転移門によって本邸に転移し、デリアスさん達を加えて森に入った。
今回試したい点は、魔力を抜き取り易い部分があるかどうかだ。例えば、魔力が多く溜まっている部分を見極めてその部分と同調する、又は、魔力を一つの塊のように同調出来る部分、人間で言うならば丹田の様な所を見極めてその部分と同調する、といった感じだ。どちらにしろ、魔力視が重要であり、今回はそういった所をしっかり見極めて同調してみよう。
暫くすると、やはり魔狼が現れた。今回は1体だから、護衛達は私のいる方に誘導してくれる。良く魔力を観察しながら……とりあえず攻撃を避けて……攻撃の際に口の周りや牙、前足などの魔力が高まっているようだ。
次はそれらのどこかに触れて同調してみよう。魔狼の突進を跳んで躱しながら、口の辺りに触れて同調させたが……魔力を奪うことを意識したためか、これまでより目に見えて魔力量が減少して動きが鈍ったが、決め手となるものでもなかったので、魔力波でとどめを刺した。
やはり、丹田のような部分を見極めないとだめだろうか。
そうなると……思い付く候補としては重心だろうか、犬や狼だと……人間の様に腰の部分ではなく、前足に近い感じかな。詳しい呼び方は判らないが、概ね首と胴体の境目付近になるのだろうか。その辺りに、魔力が溜まっている部分を見つけてみよう。
暫くすると、再び魔狼がやって来た。3体だったので2体は護衛達に任せ、残り1体の相手をした。魔力の流れを良く見て……何度か突進を躱しているうちに、前足の間の部分に、それらしき場所が見えた。だが、躱しているだけではそこに手を触れることは出来ない。ならば
「えいっ!」
襲い掛かって来た魔狼を投げ、その瞬間に手を触れ、同調させて魔力を抜き取った!
すると魔狼は地面に転がったが、怪我があるわけでもないのに起き上がらなかった。2体の魔狼を片付けたデリアスさん達に、動かなくなった魔狼を確認して貰った所
「何だか判りませんが、この魔狼、目立った外傷も無いのに死んでますぜ。導師様、何をやったんですか?」
と言われた。恐らくは急に大量の魔力を抜き取ったことで、ショック死したのだろう。
デリアスさん達には簡単に説明し、その後も何回か試したが、やはり同様の結果となった。精々魔力切れの症状が出るくらいだと思っていたので、人で試さなくて良かったよ、本当に。
次の週は場所を変え、魔熊や魔猪、魔鹿などでも試したが、魔熊はどちらかというと人間に、魔猪や魔鹿は魔狼に近い場所にそのポイントがあり、突進の威力を利用して投げ飛ばした時に、隙を突いてそのポイントに手を触れて魔力を同調させ、大量に抜き取ることでやはりショック死した。
これで、この付近にいる魔物であれば対処出来ることが判った。この大陸にいない魔象などにも恐らく通用するだろうが、同調させる隙を作れるかが問題かな……。
こうして私は、魔物に対する新たな攻撃方法を編み出した。名前は「奪魔掌」とでも呼んでおこう。もう少し研究するところはあるが、とりあえず人に向かって使うのはやめておこう。
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