第340話 領主選定戦はヴェルドレイク様の勝利で幕を閉じた
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
ヴェルドレイク様とオスクダリウス殿下の試合は、双方凄まじい気迫で死力を尽くして行われていた。一つ一つの動作、眼差し、活性化を持続することにより周囲に伝わる魔力の波動、それら全てが彼らの本気を伝えて来る。最初は歓声などもあったものの、次第に二人の戦いに飲み込まれ、観客席の皆は、固唾を飲んで見守っていた。
一進一退の攻防が続いていたが、この状態の持続は難しいだろう……と思い始めた頃、動きがあった。
それまではキャンセルしていた重力魔法がキャンセルされず、ヴェルドレイク様が劣勢に立ったのだ。オスクダリウス殿下も予想外だったためか攻めきれず、一旦ヴェルドレイク様が間合いを切ったが、これまでの様に果敢に攻め込むことはせず、様子を見ているようだった。
もしや、試作品であった魔道具が壊れたのか? という考えが頭を過った。私の心を不安が押し寄せる。そこにオスクダリウス様が攻め込んで行った!
しかし、私の想像とは裏腹に、オスクダリウス殿下が放った重力魔法は土壇場でキャンセルされ、隙を突いてヴェルドレイク様がオスクダリウス殿下の喉元に剣を突き付けた!
どうやら、先程重力魔法をキャンセルしなかったのは、魔道具が故障したと思わせるための演技だったようだ。
私もそうだが、恐らくオスクダリウス殿下も演技に騙されてしまったために、あそこで大きな隙が出来てしまったのだろう。
重力魔法をキャンセルせずに防御側に回った場合、疲労度は格段に上がるし受けきれなくなる可能性も大きいわけだから、非常にリスキーな賭けだったわけだが、ヴェルドレイク様は、その賭けに勝ったわけだ。
正直、観ていてこんなに心躍った試合は多くない。今でもこんなに心臓の鼓動が聞こえるくらいに高鳴っている。本当に、おめでとうございます!
一方、敗れたオスクダリウス殿下も、私が評価するのも何だが、賞賛に値する戦いだったと思う。領主となれなかったのは残念だが、あれほどの戦いが出来るのなら、陛下の治世を補佐するに相応しいと、皆も認めてくれるだろう……。
死力を尽くして戦った2人は、暫くして主審であるシンスグリム子爵の声掛けにより、開始位置に戻って互いに礼をして、退場していった。観客席からは拍手が鳴り響いていた。
選定戦に閉会式などは無いが、勝利者については、この場で陛下に謁見することになっている。私は今の自分の気持ちを伝えたくて、陛下の席の近くに行き、ヴェルドレイク様を待った。観戦していた他の貴族達の多くは、同様に陛下の席の近くに集まった。
暫くすると、ヴェルドレイク様がやって来て、陛下の前で跪いた。
「ヴェルドレイク・セントラークよ。そなたがワターライカ領を任せるに足る者と認めよう」
「陛下に私の真姿を御照覧戴けたこと、この上なき幸せにございます」
実際に領主に任じられるのは少し先になるので、簡単な受け答えをした後、陛下や王妃殿下はお帰りになった。ヴェルドレイク様はその後、まずは推挙者であるセントラカレン公爵にその場で勝利を報告した。
セントラカレン公爵夫妻は凛とした態度で報告を聞いていたが、とても嬉しそうだった。その後は周囲の方々にも礼を告げると、改めて皆から拍手が贈られた。そして、ヴェルドレイク様は、私の目の前にやって来た。思わず心臓が跳ねる。
「導師様、運も味方してくれたのか、なんとか勝利することが出来ました。以前貴女から頂いた言葉のおかげです」
その熱い眼差しが、非常に心地良い。
「素晴らしい戦いぶりでしたわ。最早貴方の魔力量の多少など、気にする方などおりませんわ。そして、そのお力を、ワターライカ領の統治で、存分に発揮して下さいませ」
「はい。貴女が生んだ島を、どこの領にも負けないくらい発展させて見せましょう。しかしながら、まだまだ貴女のお力が必要であるのは否めません。今後もご助力頂けると助かります」
「ええ。当面は政府事業の一環として、協力を惜しみませんわ」
何となく言い回しがプロポーズの様に聞こえてしまったので、照れ隠しに堅めの表現になってしまった。
こうして、領主選定戦はヴェルドレイク様の勝利に終わり、終了した。
そして2日後に行われた御前会議において、正式にヴェルドレイク様の優勝と、秋の収穫祭の時に正式に領主に任命される運びとなることが、宰相閣下から陛下に報告された。
ちなみに、ヴェルドレイク様の今後の動きは、御前会議前の省定例会議にて話題になっていたのだが、今後は魔法省を退職し、ワターライカ島の仮行政舎で勤務しつつ島内の状況を把握していくらしい。
ただし彼の場合、魔技士としての能力や実績を考え、魔道具課との協力体制を取って、魔道具の研究などを行えるように処置をするそうだ。まあ、あの才能を活かさないのは惜しいからね……。
それと、一月後にヴェルドレイク様の領主選定を祝してパーティーが行われるらしい。これは、体制派の貴族が主体で開かれるそうなので、まあ、私も参加することになるだろう。ドレスを準備しておかないとね……。
その他、領主選定戦とは全く関係無いが、御前会議において、最近国民が増加傾向にあるという喜ばしい話があった。各種産業振興や流通の整備、米やじゃがいも、さつまいもなどの生産拡大がその要因となっているそうだ。まあ、働ける場所があって、食糧事情も良くなれば、自然と人は増えるということだろうね……。
4月になり、私は16才になった。普通の誕生日なので、特に大きいパーティーを開くわけではないが、毎年各所から誕生日プレゼントが贈られて来る。その対応が面倒なので、臨時で業者を雇ってリストを作って貰い、把握しているが……国内の主要貴族だけならまだしも、国外からも結構贈られて来ている。
婚約者候補……的な方やら、中には王家から贈られて来ている場合もあって、業者がたまに悲鳴を上げているが、その分お礼は弾むので、頑張って下さい。
夜には家族でささやかながらパーティーが行われた。ちなみにアルカドール領から、お兄様、お母様、お祖父様がやって来ているが、お兄様が自身の魔力のみで転移門を起動している。今でもあの鎧を着て鍛錬を行っているため、転移門の起動もかなり楽になったそうだ。
家族の皆に祝われて、食事を取った後で、プレゼントを渡された。その中で特に驚いたのは
「お祖父様、これは……」
「ああ、先日漸く作成出来たのでな。まあ、小さい物ばかりじゃから、髪飾りに加工したがの」
そう、お祖父様は、ダイヤモンドをちりばめた髪飾りを作って来たのだ。
「まあ。これほど光り輝く宝石は注目を集めるわね。しかも、それを付けているのがフィリスですもの」
「時を忘れるくらい、君に見惚れてしまうよ」
「全く、選定戦も終わって漸く静かになったと言うのに、これではまた騒がれてしまうではないか」
「有難うございます、お祖父様。何より、皆の努力の結晶ですもの、喜ばしい限りですわ」
ダイヤモンドは加工が難しいから、水晶の様に像などは作れないが、普通に宝石として装飾品に使えるから、作れる人を増やすことが出来れば、相当な利益になる。それに、現在は無色だが、そのうち着色も出来るようにすれば、面白いかもしれないし、研究の価値はあるだろう。
他にも領内と王都の情報をやりとりしたりして過ごし、翌日お兄様達は領に帰って行った
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。