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第339話 ロイドステア国第3王子 オスクダリウス・カレンステア視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

俺は、多くの人間の思惑を無視し、一人の男としてワターライカ領主選定戦に参加している。現在、ヴェルドレイクとの試合を控え、これまでのことに思いを馳せた。




フィリストリア・アルカドール。我が国が誇る精霊導師であり、現在の我が国の興隆に大いに貢献している人物だが、初めて会った当時の個人的な印象は、どうしても目を奪われてしまう美貌を度外視すれば、悪いと言って差支え無かった。


しかしその後、重力魔法の習得などのために交流していくうちに、善良かつ賢明な、尊敬するに足る少女であることが判った。そしてあの日、俺が空動車隊を率いてウェルスーラ海軍を撃破し、凱旋を果たした時



見てしまったのだ、彼女の涙を。



その瞬間、それまで聞こえていた歓声が消え去り、俺は彼女から目を離せなくなった。思わず隊列を離れて駆け寄ってしまったが、彼女は


「殿下、申し訳ございません。殿下達の無事を見て、気が緩んでしまいました。お許し下さい」


と、可愛らしい声で謝罪したのだ。彼女は、俺の為に泣いてくれたのだ!


その後は式典などもあったのだが、上の空だった。疲れが残っていたということで許されたようだが、俺の心は、フィリストリアで一杯だったんだ! 父上、母上、兄上、申し訳ない。




それから俺は、寝ても覚めてもフィリストリアのことを想う様になった。正直な所、立場上それなりに女性とは接して来たし、セントラカレン家のライザとは良い関係を築いて来たと思っているが、それらとは全く違う。


何なんだこの、焦るような苦しい様な、それでいて彼女を見ると、この上ない幸せを感じてしまう、不思議な気持ちは。これが恋なのか?


と自分の状態を理解は出来たものの、何らかの行動を起こすことは出来なかった。彼女は、神託により事実上男性との交流を制限されていたからだ。


もどかしさに耐えながら、彼女と仕事の上での交流を続けていたのだが……ある時偶然、彼女の婚姻に関して、父上と母上、そして彼女の父君であるアルカドール侯爵の密談の内容を、一部ではあるが、知ってしまったのだ。


当初は俺も、彼女の婚姻相手の候補として検討されていた。それは、彼女との出会いの様子から明らかであり、現在もその線が継続していると考えていたのだが、俺については国内の派閥の関係から外されてしまったのだ。


それを知った時、怒りが俺を支配した……ものの、それを覆す力を俺は持っていない。ただ怒りに任せても、状況は悪くなりこそすれ良くはならない。俺は、ここ数年の活動でそれを嫌と言うほど学んだ。


何か打開策を考えるのだ、このままでは、俺の恋は終わってしまう。そうして悶々とした日々を送っていたところだったのだが、転機が訪れた。


国王直轄地だったワターライカ島を、新たな伯爵領とすることが決まったのだ。これは貴族達にとって大きな物議をかもした事態だったが、俺自身には大きな影響は与えないと考え、当初は傍観しているつもりだったが、ある噂を聞いて、考えを改めたのだ。


「殿下、ワターライカ領主となる者が数年後、フィリストリア嬢の婚姻相手に選ばれる可能性がある、という噂が流れています」


そう側近の一人が教えてくれた。こいつはなかなか情報通であり、最近は俺がフィリストリアに恋をしていることを知って、彼女に関する情報を持って来てくれる。先日の密談の内容もそうだったのだが……


「何? 領主と言っても伯爵だろう? 彼女が嫁ぐには家格が不足しているのではないか?」


「いえ、あの島は伯爵領と考えても狭いですが、魔物が出ない分、その価値は侯爵領と同等以上とも言われていますし、国防面においても非常に重要な島ですから、侯爵領に格上げされる可能性があるようです。彼女の輿入れがその理由付けの一つになる、というわけです。そもそもあの島は、彼女が作り上げたと言っても過言ではありませんから、彼女自身も深い思い入れがあると聞き及んでいます。精霊導師としての待遇の問題は様々な問題がありますから、そういった面も重視していると言われれば……十分あり得る話ではないかと」


成程、確かに彼女は、地位や名誉、金銭などで動かせる人物ではないから、そういう線もあるのか……と感心したが、その際閃いたのだ。俺が領主になれば、彼女を手に入れられると!


そもそも俺が彼女の婚姻相手の候補から外れたのは、法服公爵として、政府で要職に就くことを前提としているからだと聞いた。ならば、そうでなくなった場合は、彼女に堂々と求婚できるではないか!


そう気が付いた時、俺はいてもたってもいられず、いつもは遠慮している父上の執務室に駆け込んだ。俺は、ワターライカ領主になりたいと父上に伝えたが、父上の反応は芳しくなかった。それはそうだ。これまで積み上げ、目指したものをかなぐり捨てる発言だったからだ。


それに、いくら領主とは言っても伯爵、王族が臣籍降下するには格が低い。常識的に考えれば頷けないのは解る。だが、俺はそれでも、彼女を手に入れたいのだ! その心が通じたのか、父上は俺を突き放すことはせず、検討はしてくれた。




その後、ワターライカ領主の選定に関する通達が行われ、俺も領主候補になれることを知って早速行動に移った。ザルスカレン公爵、つまり叔父上に俺を推挙して貰うよう、頼み込んだのだ。訝しんだ叔父上がしつこく理由を聞くので、つい本音を話してしまったが、納得はしてくれた。ただし、こうも言われた。


「領主選定戦で勝つことが出来なかった場合は、フィリストリア嬢を諦めろ。それが推挙の条件だ」


つまり、今回の立候補は、ただ1度の我儘としてなら許される、ということだ。勿論俺は承諾した。そうでなければ、勝負にすらならないからだ。そして俺は、その勝負に勝算があった。ならばそれに賭けるだけだ!


その後、推挙された者達が明らかになった。その中に、俺の側近達もいたのは少し怒りを覚えたが……我が身を顧みると、彼女を手に入れられるならば、全てを投げ打っても惜しくはない。側近とは言え、既に友人となっている二人に本音を聞いたところ、やはりその気になっているようだったので、一人の男として、正々堂々戦おうと誓い合った。




そして、準備や鍛錬の日々は過ぎ、領主選定戦が始まった。予選とは言え、やはり推挙されているのは優秀な若者達であり、高度な試合が繰り広げられ、本選参加者が決定した。俺は無事に勝ち残ったが、側近達は惜しくも敗退した。


意外だったのが、魔力量の少ないヴェルドレイクが勝ち残ったことだ。従兄ではあるものの、その妹のライザに比してあまり交流して来なかったが……試合を観て、魔力量云々の考えを改めざるを得なかった。


あの男は、決して侮れない強者だ。現在の自分では、あの攻撃への対処方法が魔道具に頼る以外無く、それでも万全とは言い難い。気を引き締め、本選に臨んだ。


どの相手も選ばれた者達だけあって、戦闘にも長けているが、俺は彼女が教えてくれた、自分の得意魔法である重力魔法を駆使し、勝利を重ねて行った。現在、重力魔法を解除する魔道具が完成していないことも幸運だった。




そして俺は、今、この場に居る。フィリストリアを手に入れるために!




試合場に移動し、まずは魔道具の確認を受けた。所持している避雷用の魔道具を見せ、了承される。さて、ヴェルドレイクはどのような魔道具を使うのか……おや? 魔道具課長の反応が変だ。


それにあの見慣れない魔道具は……何! 重力魔法を解除する魔道具の試作品を持って来たというのか!


高名な魔技士であるヴェルドレイクが、この重大な場面で試作品の魔道具を使うということは、全てを賭けて試合に臨んでいるということだ。ふと視線が合う。そうか……お前も彼女の事を……ならば、全力で挑み、勝利させて貰う!




試合が始まった。ヴェルドレイクはこれまで同様、接近戦に持ち込もうとしているが、俺はまず、土塊を牽制の意味も含めて試合場にばらまきつつ、軽い重力魔法で接近を阻害した。


通常であれば動きが鈍くなり、こちらの攻撃の機会が出来るところだが、ヴェルドレイクの動きは一瞬鈍っただけで、すぐに接近して来た。恐らくは先程の魔道具だろう。


やはり重力魔法単体では隙を作るのも難しそうだと判断し、移動の阻害は通常の地魔法を併用することにした。そのために土塊を撒いたのだしな。


俺の妨害をものともせず、ヴェルドレイクは接近し、剣により攻撃を仕掛けて来た。幼い頃には何度か対戦を行ったことがあり、俺の方が年下だったからか、その時は負けていたが、今では互角以上の腕前だ。


だが、あちらはあの雷魔法がある。あれを剣撃に織り交ぜられるのは非常に厄介だ。従って俺は、剣を合わせる際は常に避雷魔道具を発動させている。正直、魔力の消耗もそれなりにあるが、やられるよりましだ。


しかし俺も、間合いを取る様に立ち回り、離れた時を狙って速度重視で地魔法により小さな瘤を作ったり、ごく狭い範囲の重力を変化させたり、剣の重さを変えたりすることで行動を阻害した。ヴェルドレイクの様に剣での攻撃と同時に魔法を放つことは出来ないが、この程度なら可能だ。


この小さな攻撃の積み重ねが、拮抗した状態を崩す鍵となる。それにあちらは魔力量が少ない。長期戦は俺の方が有利だからな。


互角の戦いが続いていたが、魔法の連続使用のために魔力の活性化をし続けるとやはり疲労が激しい。しかし俺は負けられないのだ、ここで耐えなければ、今も観客席で俺達を見ている、フィリストリアは手に入らない!




そして、我慢比べの状態に変化が訪れた。間合いを切った時に使った、効果範囲を極狭に絞った軽度の重力魔法に拘束され、ヴェルドレイクはその場から動けなかったのだ!


当然その好機を逃さず俺は剣で攻撃した。ただ、こちらも予想外だったことから攻撃が不十分だったらしく、ヴェルドレイクは苦しい表情をしながらも間合いを取った。ここで攻め切っていれば……と少し後悔しつつも、これまでのように攻めて来ないヴェルドレイクを見て、俺は確信した。


試作品の魔道具が壊れたのだ、と。


この勝機に、俺は飛び付いた。重力魔法を発動させ、距離を取ろうとしたヴェルドレイクの動きを阻害し、斬撃を放った!


決まった! と思った瞬間



動きを阻害されていた筈のヴェルドレイクが高速で俺の斬撃を躱し、回り込んだのだ!



虚を突かれた俺は、一瞬対応が遅れ、ヴェルドレイクの剣が俺の喉元に突き付けられた。




俺は……負けた。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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