第338話 ワターライカ領主選定戦 3
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日は領主選定戦本選、予選を勝ち抜いた5人で総当たり戦を行い、勝ち数の多い人がワターライカ領主に任命され、併せて伯爵に叙爵又は陞爵されることになる。
基本的には血筋、能力、実績等、誰が選ばれても問題無い中、最終的に総合的な戦闘力をもって選定するという趣旨の元開催されているため、本選に残っているだけで相当なエリートなのだけれど、領主になれるのは1人だけだからね……。
勿論、領主となった場合はそれに応じて大きな責任を背負うことにもなる。候補者達は皆、その責任を全うする覚悟を持ってこの選定戦に挑んでいると思われるが、その胸中に何があるのかまでは、流石に聞いてみないと判らない。それを聞く資格が私にあるかは不明だが。
今日については、候補者達の関係者は勿論の事、各領主や大臣など、主要な貴族達の多くが観戦をしている。当然、陛下や王妃殿下、王太子殿下達も観戦されているが、立場上オスクダリウス殿下の家族枠……ではないだろうね……。
第1試合は、第1組で勝ち抜いたエルステッド伯爵次男、ノードレクス・エルセトーダ男爵と第2組で勝ち抜いたウェルスカレン領軍部隊長、ナルマドーク・ペリクイルダ男爵の試合だ。
双方とも、予選では相当な戦闘巧者だったので、激戦が予想されるが……。そういえば、本選については、予選と1つ異なるルールがある。試合で使用する魔道具を事前に公表することだ。この辺りは、所持している魔道具を隠していたりすると、試合後に物言いなどが発生して面倒になるから、その対策なのだろう。
両者とも、試合場で審判の一人である魔道具課長に使用する魔道具を提示している。どうやらエルセトーダ男爵はスタンガン魔道具、ペリクイルダ男爵は氷を水にする魔道具を使用するようだ。試合運びを想定して選んだのだろう。
第1試合が始まった。まずは相手を牽制するためか、双方魔法により攻撃するが、魔法が得意で、かつ属性が火に対する水ということで有利なエルセトーダ男爵の方が優勢だ。
しかしペリクイルダ男爵はそれを予想していたようで、身体強化をして魔法の回避を行いつつ、接近戦に持ち込むことにしたようだ。エルセトーダ男爵が氷弾を連発し、幾つかは避け切れない軌道だったところ、氷弾を水に変え、勢いを殺すことで躱しつつ、接近していった。
ここでエルセトーダ男爵は、氷弾だけでなく水弾も織り交ぜ攻撃し、幾つかはペリクイルダ男爵に当たるが、なおも接近し、剣の間合いに入った所で斬撃を放った。エルセトーダ男爵は躱すが、ペリクイルダ男爵が追撃をしようとしたところで、火花が起こった。エルセトーダ男爵がスタンガン魔道具を発動したのだ。
水弾により濡れているペリクイルダ男爵が、その火花に一瞬怯んだところでエルセトーダ男爵が氷弾を放ち、ペリクイルダ男爵は躱しきれずに左肩付近に命中した。
負傷により動きが鈍くなったペリクイルダ男爵に対し、エルセトーダ男爵が氷弾、水弾を織り交ぜて攻撃し、進退窮まったペリクイルダ男爵が降参して、第1試合はエルセトーダ男爵の勝利で終わった。
第2試合は、第3組で勝ち抜いたヴェルドレイク様と、第4組で勝ち抜いたヘキサディス伯爵次男、ユレスリーグ・ヘキサディスの試合だ。
両者とも試合に使用する魔道具のチェックを受けていたが……ヴェルドレイク様は……あれは対レーザー用の防護壁を張る魔道具か。確かに一番警戒しなければならないのはレーザーだろうからね。
ヘキサディス卿は、雷魔法で攻撃された際に使用すれば、電気を地面に流すことが出来る、所謂アース魔道具を使うようだ。確かに雷は怖いけれど、それだけでヴェルドレイク様への対策が出来るかというと、どうだろうね……おっと、試合が始まった。
ヴェルドレイク様は、防護壁を張りつつ身体強化により高速で接近した。対してヘキサディス卿は、レーザーを使わず、通常の火属性弾で攻撃するが、ヴェルドレイク様はそれら全てを躱し、剣で攻撃を仕掛けた。
ヘキサディス卿は剣で受けつつ距離を取ろうとしたが、ヴェルドレイク様は速度を活かして回り込んだりしており、距離を保ったまま攻撃した。時折雷魔法で攻撃していたようだが、それはアース魔道具で防がれていたようだ。
しかしながら、全ての攻撃に魔道具を併用して対処せねばならないヘキサディス卿に対し、ヴェルドレイク様はたまに雷魔法を使うだけで良いわけだ。当然疲労度が段違いとなり、次第にヘキサディス卿は剣を受けられなくなってきた。
光魔法で目晦ましをする気配も何度かあったが、光魔法は一旦火属性のエネルギーを集めないといけないから発動に少し時間がかかるし、初動も判り易いからレーザー以外なら躱すことは可能だ。
そういった中で隙を突いてヴェルドレイク様が放った雷魔法によりへキサディス卿は気絶し、ヴェルドレイク様の勝利に終わった! まあ、そうなるだろうね……。
少し時間を置いて行われた第3試合は、第5組で勝ち抜いたオスクダリウス殿下と、エルセトーダ男爵の試合だ。
今回のオスクダリウス殿下の立候補について、体制派としての考えを先日お父様から確認したのだが、どうやら派閥の思惑外の話であり、一個人としての立候補らしい。つまり、王族であろうと勝ちに行って問題無いそうだ。
そうは言ってもオスクダリウス殿下は剣術もかなりの腕前だし、重力魔法にも長けている。更に、魔法を主体とした戦いになると、属性の相性も無視出来ないものとなる。つまり、エルセトーダ男爵は今回かなり不利な試合になると思われる。
使用魔道具については、オスクダリウス殿下は融氷魔道具を、エルセトーダ男爵はスタンガン魔道具を使用するようだ。本当は重力魔法をキャンセルする魔道具を使いたかったかもしれないが、まだ開発されていないからね……。
そして試合が始まった。これまでの試合とは打って変わって、魔法中心の戦いだ。オスクダリウス殿下は土壁を展開してエルセトーダ男爵の水弾を防いだ。氷弾も飛んで来るが、水に変えられることで勢いが落ち、全て土壁に防がれてしまう。
攻撃の勢いが弱まったところでオスクダリウス殿下が重力魔法によりエルセトーダ男爵を場外に運ぶ。何とか途中でキャンセル出来たものの、続いて土弾が飛んで来る。エルセトーダ男爵も躱そうとしたが、更に重力魔法により回避行動が阻害され、土弾を躱しきれず数発命中したところでエルセトーダ男爵が降参し、オスクダリウス殿下の勝利で終わった。
第4試合は、ペリクイルダ男爵とヴェルドレイク様の試合だ。使用魔道具については、ペリクイルダ男爵はアース魔道具、ヴェルドレイク様は水弾を放つ魔道具だった。
試合が始まったと同時に、ペリクイルダ男爵が猛然と斬り掛かって来た。恐らくは速攻により勝負をつけようと考えたのだろう。それに対し、ヴェルドレイク様は距離を取りながら水弾を放って牽制した。
ペリクイルダ男爵は水弾を全て避けていたが、試合場の至る所に水たまりが出来てしまった。こうなると上手くアース魔道具を使わないと、電気を逃がすことが出来なくなるから、難易度が格段に上がる。後は剣で対応しながら雷魔法を織り交ぜると……
「ぐぎぃっ!」
感電による痛みで隙が出来たペリクイルダ男爵の喉元に剣先を突き付け、ヴェルドレイク様が勝利した!
なお、ペリクイルダ男爵はここで2敗となったため、次以降は不戦敗扱いとなる。退場する際に、負けた悔しさと怒りが強く表情に現れていたが、真剣勝負にやり直しは無いからね……。
第5試合は、ヘキサディス卿とオスクダリウス殿下の試合だ。魔道具については、ヘキサディス卿が火属性弾を撃つ魔道具、オスクダリウス殿下が対レーザー魔道具を使用するようだ。
試合が始まった。オスクダリウス殿下はレーザー防護壁を張りながら接近したが、ヘキサディス卿は魔道具を使用して通常より多くの火属性弾を放って迎え撃った。
この中で、幾つかをオスクダリウス殿下の近くを通った際に光に変え、目晦ましの効果を持たせたようだ。流石にこれにはオスクダリウス殿下もたまらず、接近が止まった。
そこをヘキサディス卿は大量の火属性弾で攻めた。しかし、オスクダリウス殿下は土壁を作って防護しつつ、魔力を目に集中して視力を回復させた。
ここで、ヘキサディス卿が逆に攻め込んだ。防護壁が無い方向から接近し、火属性弾を放った後に剣を構えて突撃したのだ。だが、すんでの所で視力を回復させたオスクダリウス殿下は、火属性弾を躱しつつ、重力魔法によりヘキサディス卿の接近を阻害し、体勢を崩した。
その機を逃がさずオスクダリウス殿下は剣で連撃を行い、暫く撃ち合っていたが、重力魔法で体が重くなっていたヘキサディス卿の隙を突き、オスクダリウス殿下が剣を払い落としてヘキサディス卿の喉元に剣先を突き付け、オスクダリウス殿下の勝利で終わった。
そしてここでヘキサディス卿は2敗となったため、次以降は不戦敗扱いとなる。負けたショックか、ヘキサディス卿は暫く茫然としていたが、審判長のシンスグリム子爵が何度か呼び掛けると、開始の位置に戻って礼をした後、退場した。
第6試合は、エルセトーダ男爵とヴェルドレイク様の試合だ。魔道具については、エルセトーダ男爵がアース魔道具、ヴェルドレイク様が融氷魔道具を使用するようだ。
試合が始まった。身体強化により高速で接近するヴェルドレイク様に対し、エルセトーダ男爵は水弾を放ちつつ距離を取ろうとした。この際、退路に水溜まりを併せて作り、ヴェルドレイク様が通り掛かる寸前に水を噴き上げ、目晦ましを行ったため、ヴェルドレイク様の接近速度が鈍った。
暫くこの繰り返しであったため、試合場の多くが水浸しとなった。併せてそれらの水をエルセトーダ男爵が凍らせていったため、足場が滑りやすくなり、高速の接近は難しくなったようだ。
なおもエルセトーダ男爵は距離を取って水弾により攻撃した。ヴェルドレイク様はかろうじて水弾を避けつつ、氷を這わせるように雷を発生させ、エルセトーダ男爵を攻撃した。
エルセトーダ男爵は魔道具により雷を逸らしたが、水弾による攻撃は止んだため、ヴェルドレイク様は弱い雷を発生させて同様に攻撃しつつ、接近した。
その甲斐あってか剣の間合に持ち込んで攻撃することが出来、隙を突いてスタンガン魔法でエルセトーダ男爵を気絶させたヴェルドレイク様が勝利した!
様子を見た限りではギリギリの戦いだったようで、魔力も殆ど残っていないようだが……魔力回復用の魔道具もあり、試合間での使用は許可されているそうなので、少し休憩すれば、疲労はともかく魔力は回復するだろう。
なお、ここでエルセトーダ男爵も2敗となったので、以降は不戦敗扱いとなった。
そして、第7~9試合は、不戦敗・不戦勝により試合自体が行われず、暫く休憩を行った後、第10試合、ヴェルドレイク様とオスクダリウス殿下の試合が行われることになった。頑張って下さい!
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。