第337話 ワターライカ領主選定戦 2
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予選第4日目、くじ引きで16番から20番を引いた候補者の試合だ。
16番は商務大臣でもあるヘキサディス伯爵が推挙した伯爵次男、要はリゼルトアラのお兄さんで、私は顔を合わせたことが無いが、領政の補佐を行っているそうだ。なので今日はリゼルトアラも応援に来ている。
17番はデカントラル伯爵が推挙した伯爵次男、現在は騎士団の隊長として勤務している。18番はオクトウェス伯爵が推挙した領行政官、19番はイストルカレン公爵、つまりクリフノルド様が推挙したもう一人で、現在は財務省予算課で勤務している。
20番はテトラーデ伯爵、つまりマーク叔父様が推挙した領行政官で、会ったことは無いが、名前を見る限り、以前聞いたハトーク分領太守のアイスロイズ子爵の息子さんと思われる。今日も優秀な人達のようだが、誰が勝利するのだろうか?
第1試合を観て、少々驚いた。ヘキサディス伯爵次男が、光魔法を使っていたからだ。かなり使いこなしているようで、低出力ながらレーザーも放っていた。相手のデカントラル伯爵次男は、終始光魔法に翻弄され、得意の剣による攻撃が振るわず、結局ヘキサディス伯爵次男が勝利した。これは今後も注目だな。
第2試合でも驚かされた。イストルカレン公爵推挙者の放つ数々の風魔法、雷魔法の威力が高く、オクトウェス伯爵推挙者は機動を制限されたところに感電して、気絶してしまった。あれだけの出力の魔法を連発出来るということは、私が聞いていなかっただけで凄い魔導師なのかもしれないが……何となく違和感があった。
その後も試合が続き、今は第5試合、イストルカレン公爵推挙者とアイスロイズ子爵の息子さんが試合を行っている。
アイスロイズ子爵の息子さんは先程1敗しているから後が無いため、必死の様だが……イストルカレン公爵推挙者は、距離を取りながら魔法でアイスロイズ子爵の息子さんを攻撃し、雷魔法で感電しないよう大きく避けた所で、強力な風魔法により場外に押し出し、勝利した。
アイスロイズ子爵の息子さんは2敗となり、この時点で残りは不戦敗となるわけだ。相手が悪かったと思うが、一方でやはり違和感がぬぐえず、私は近くで漂っていた風精霊に周囲を探るよう頼んだ。
第8試合、ヘキサディス伯爵次男とイストルカレン公爵推挙者の試合が始まろうかという時に、風精霊が私の所にやって来て、報告してくれたことを確かめるために感覚共有を行い、移動した。
すると、イストルカレン公爵推挙者の控室で、ラフトリーザが魔法強化を行おうとしていた。
『ラフトリーザさん、何をされているのですか』
「はっ? 精霊さん……じゃない! も、もしかして……導師様……でしょうか?」
ラフトリーザは、基本的に人と話さないので、私も声をはっきりと聞いたことはないが、こんな声だったのか……精霊術士にありがちな、精霊とは結構話をするタイプだったのだろうか。
『ええ。現在は風精霊と感覚共有を行っておりますわ。それで、休暇を取っていた貴女が、何故こちらにいらっしゃるのでしょうか?』
確か、ラフトリーザはもうすぐ25才になるため、退職して故郷のリーデカント領に戻り、行政官の一人と結婚するという話で、今はその調整のために休暇を取って帰省していると聞いていたのだが……。
「……も、申し訳ございませんでした!」
それから、ラフトリーザが懺悔するかのように、私に経緯を話してくれた。
今回の領主選定戦にあたり、魔法強化を使って候補者を支援するよう、クリフノルド様に命令されたそうだ。リーデカント家は改革派であるため、その領袖であるクリフノルド様には逆らえず、隠れて控室にやって来て、魔法強化を行っていたそうだ。
領主選定戦には、魔法強化を行ってはいけないというルールは無いが、単に魔法強化という新しい事象に対応していなかったというだけで、試合の趣旨を考えれば反則だ。今後はきちんとルールに明記しないといけないな……と思いつつ、ラフトリーザに話し掛けた。
『今回は、試合方式に禁止であるとされていないこともありますので、敢えて公言致しませんが、次はありませんわ。公爵には、私からも伝えておきますので、もうこのような真似はなさらないで下さいな』
「は、はい! このような事はもう致しません!」
ラフトリーザに言い含めて感覚共有を解き、試合の方に意識を戻したが、第8試合は既に終わっており、勝利したヘキサディス伯爵次男が、残りを不戦勝で終え、全勝で本選に出場を決めていた。
また、少し離れた観客席が騒がしかったので見たところ、観戦していたクリフノルド様が悔しさのあまりか、周囲に当たり散らしていた。丁度良いので、話しに行こう。
「イストルカレン公爵、その辺りにして頂けないでしょうか?」
威圧を込めて話し掛けると、流石におとなしくなってくれた。
「今回試合を行っている候補者達は皆、自身の持てる力の全てを懸けて、戦っているのですわ。それに悖る行為を先程見かけたのでお止めしましたが、もう二度と行わせないように、お願いしますわ」
「ま、まさか……」
「ええ。今度あのような真似をされるのであれば……お判りですわね」
「ひいぃーーっ!」
威圧を強めて話したところ、クリフノルド様は判ってくれたようなので、私は威圧を解いてその場を離れ、試合場を後にした。
予選最終日、くじ引きで21番から25番を引いた候補者の試合だ。
21番はイクスルード侯爵が推挙した領行政官、22番は農務大臣でもあるリーデカント伯爵が推挙した伯爵三男、現在は領政の補佐を行っているが……風属性なので、昨日のように魔法強化が行われる可能性も否定できなかったので、一応風精霊に確認して貰ったが、ラフトリーザはいないようなので、とりあえず安心かな。
23番はセクテート伯爵が推挙した人で、現在は建設省土木技術課で勤務している。24番は法務大臣でもあるペンタデウス伯爵が推挙した人で、現在は法務省法制課で勤務している。
そして25番は外務大臣でもあるザルスカレン公爵が推挙した、オスクダリウス殿下だ。最有力候補として挙がっているだけに、実力は高いものの、他の候補者から対策をされる可能性もある。結果がどうなるのか、注目の組だ。
第1試合、第2試合が終了し、第3試合、オスクダリウス殿下の初試合だ。相手はイクスルード侯爵推挙者だ。先程観ていた感じでは、魔法よりは剣の方が得意そうだったが、地魔法でうまく障害を作ったり、たまには軽い重力魔法を掛けたりして相手の行動を阻害して勝利していた。
同属性の相手に対し、オスクダリウス殿下はどのように戦うのだろうか。
試合が始まると同時に、オスクダリウス殿下が猛然と距離を詰めた。相手は重力魔法で移動を阻害しつつ、土塊弾を放とうとしたが、オスクダリウス殿下はすぐに重力魔法をキャンセルしてそのまま近接し、剣による攻撃を仕掛けた。
なるほど、土を使った魔法攻撃は、この試合場では発動に時間が掛かるから、そこを狙った攻撃か。同じ地属性だから、重力魔法のキャンセルも楽だし、同属性だからこそ出来る攻撃だね。
しかし、相手も剣術の腕は確かのようで、剣による攻撃に対抗し、暫くは互角に切り結んでいた。ところが、オスクダリウス殿下が何かを懐から取り出しつつ剣を出し、剣で受けた相手の右腕にそれを押し付けたところ
「ぐわっ!」
と相手が叫んで剣を落とした。その際にオスクダリウス殿下は、相手の喉元に剣を突き付け、試合に勝利した。どうやらオスクダリウス殿下が取り出したのは、以前ヴェルドレイク様が開発した、スタンガンの様な魔道具だったらしい。
恐らくは奇襲という意味合いで準備したのだろうか。まあ、同属性で手札も似通っているから、まともに戦うと長引きそうだったからね……。
その後は、オスクダリウス殿下が剣と重力魔法を使い分けつつ戦って勝利を重ね、全勝して本選に出場することになった。重力魔法は対人戦においても使い勝手がいいし、他属性だとキャンセルに時間がかかるからね……他の候補者達は、別の属性だったから対策を諦め、自身の得意なもので勝負をしようとしていたが、残念な結果に終わった様だ。
これで本選出場者が決定したわけだ。明日にはこの5人が争い、ワターライカ領主が決定するわけか……どのような結果になっても、勝者を讃えないとね……。
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