第334話 領主候補達が出揃った
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正直なところ、ヴェルドレイク様が領主候補に名乗り出るとは思っていなかったので驚いたものの、よく考えなくても、人並みの欲があるなら立身出世を望むのは当然だし、領主を目指せる境遇にあるなら目指したいものだろうからね……。
ただ、私への強い感情も感じていた。それが絡んでいるかは不明だが、最近の噂もあるし、如何ともし難いものがある。まあ、当面は様子見かな。
今月の私の主な仕事は、王都から離れた領に対する巡回助言だ。
近年は精霊術士が100名以上精霊課に在籍していることもあり、私が行く必要性は減っているものの、構造上どうしても発生する中央との格差を是正するという目的でも行われていて、領政に関して相談に乗る場にもなっている。
去年はアルカドール領の状況を知っているためか、領内の資源の把握や領の特産品の育成に協力することが多かった。それと、景勝地付近に温泉が出ないか確認したりもした。
どうやら美容魔法の使用に関してアルカドール領と調整した結果のようで、使用人員や場所を限定し、相応の使用料を払うことで領内での使用が可能になるそうだ。残り塩もアルカドール領から購入しているため、かなりの出費になるようだが……それでも自領でやりたいのだろうな……。
第1週は、ビースレクナ領とカウンタール領の巡回助言を行った。
どちらの領も大きな問題は出なかったが、ビースレクナ領については、ファンデスラの森の開発について相談された。魔石のリサイクル施設を拡大したいとのことで、喜んで協力させて貰った。
魔物が多発する森の中に、施設の敷地や通路の整備を行うのは困難であるため、私が一気に樹木の移植を行い、更に周囲に土壁を作成した。これにより、敷地の確保が出来たため、今後は更に魔石のリサイクルが進むだろう。
カウンタール領については、トンネル工事以降、領内の道路を整備しており、以前よりかなり交通の便が良くなったものの、これと言った特産品や観光名所が少ないため、それらの育成に力を入れているらしい。
今回は昨年に続き、観光名所の整備を行った。山に囲まれた透明度の高い湖の近くにいい感じの場所があったので、温泉を掘って周囲を均した。なかなかの風景だったので、温泉に入りながら眺めるのは何とも楽しそうだ。
それと、巡回助言とは関係無いが、どちらの領もワターライカ領主候補者を推挙し、王都に送り出したそうだ。ビースレクナ領からは領軍の部隊長の一人が、カウンタール領からは行政官の一人が推挙されたそうで、どちらも聞いた限りでは優秀そうだが、実際見てみないと何とも言えない。
その他、精霊術士集中鍛錬の終了に伴い、西公領に赴き、挨拶やら撤収の支援を行った。今回は殆どの者が魔法強化を成功させたそうだ。鍛錬要領も確立されつつあるらしく、以前より効果的に鍛錬が行えているようだ。
そう言えば、西公領出身だったセフィリアが、退職してこちらで結婚しており、集中鍛錬の慰労会にも出席していたので、久し振りに話したが、相変わらず姉御肌な感じだった。
第2週は、ディクセント領とイクスルード領の巡回助言を行った。
ディクセント領は特に問題無かったが、イクスルード領については、最近ティボルナ山の活動が活発化していたそうなので、念の為火精霊と感覚共有して様子を見に行った。
火山活動を監視しているレフィメアに話を聞いたところ、先日火の大精霊がやって来て、暫くすると収まると言われたそうだ。週1回の定期報告にも記入して提出したそうなので、入れ違いだったようだ。まあ、火山の噴火は恐ろしいから、警戒が徒労に終わるくらいが丁度いいよね。
ディクセント領は、さつまいもの栽培が功を奏したらしく、領民の食生活が安定しつつあるようだ。また、セントチェスト国との交易が活発化しつつあるものの、肝心の経路が山地を通っているため、隊商の人達が苦労しているらしい。私が何らかの工事を行っても良いけれど、流石にそれは越権行為なので、外務省に情報提供するだけにとどめた。
イクスルード領では、さつまいもの栽培を広範囲で行っており、また、さつまいもを使った料理を色々研究しているそうだ。なので、芋羊羹や芋プリン、大学芋などを紹介してみたところ、かなり喜ばれた。さつまいも関連では、酒の研究も進めているらしいが、形になるのはまだ先の様だ。
あと、ミリナはこちらでは領兵達とも鍛錬を行っており、結構人気があるようだ。そのうち子供が出来たら、部分身体強化を教えるのも悪くないかな。
それと、どちらの領もワターライカ領主候補を推挙したようだ。ディクセント侯爵は、領政を手伝っていた次男を推挙したそうで、妥当な所だろうか。イクスルード侯爵は、行政官の一人を推挙したらしい。
どの領も領主候補を推挙しているので、巡回助言から戻った際に、アルカドール領からも誰かを推挙しているか気になって、お父様に聞いてみたところ
「何でうちから推挙せねばならんのだ。ただでさえ人材不足だというのに」
と、機嫌が悪くなった。詳しく話を聞いた所、選定基準に合致しており、推挙を希望する人自体は何人かいたらしいが、推挙の為に調べてみると、その全てが私目当ての人達だったらしく、全員断ってしまったそうだ。
そういう噂が流れているのを止めることは出来ないので、うんざりしているところだが、実害が出ないうちにさっさと領主を決めて貰いたいわ。
第3週になり、残りのオクトウェス領、ヘキサディス領の巡回助言を行った。
どちらの領も大きな問題は無かった。オクトウェス領は、光魔法の普及に伴い、大洞窟の全容解明と何らかの活用法を検討しているそうで、観光資源としての活用や、気温が一定であることから、蒸留酒を寝かせる場所に活用する、つまりはこちらで言うところの精霊酒を作ってはどうかと提案してみた。
この辺りは元々葡萄酒の産地でもあるから、出来るのはブランデーかな。それと、地精霊に確認してみたところ、変わった色の鉱物もそれなりに採掘出来るそうなので、紹介しておいた。
ヘキサディス領は、現在養蚕や絹織物により好景気となっており、特に相談は無さそうに思えたのだが、染料についての相談があった。
今の所、赤っぽい色、青っぽい色、黄色っぽい色に染めることは出来るようだが、もっと鮮やかな色を出す染料や、染める手法は無いかという話だった。手法については正直判らないが、染料については、作物研究所を通じて、品種改良してみることを勧めておいた。
なお、オクトウェス伯爵は行政官の一人を、ヘキサディス伯爵は次男を推挙していた。まあ、普通は自領の利益に繋がるかもしれないから、推挙しておくよね……やはりお父様も親馬鹿なのだろうか。
第4週は、カラートアミ教と協力して、魔力循環不全症の治療を行った。神域で3日間、ひたすら施術を行った結果、かなり多くの患者達が回復した。
予防法についてもある程度周知されたためか、重度の患者が発生する頻度はかなり減ったらしいが、中程度の患者はまだそれなりの頻度で発生している。それに、カラートアミ教の支部が存在しない大陸もあるため、その大陸の状況は判らないそうだ。小国が群雄割拠しているため、支部を置けるほど政情が安定していないという話らしいけれども。
そんなこんなで1か月間それなりに忙しく過ごしていたが、月末の政府全体定例会議にて、ワターライカ領主選定に関する話が出た。
どうやら、現段階で推挙された候補者は25名。大臣級に配布された名簿に目を通したところ……結局お父様は誰も推挙しなかったが、殆どの領主は1名を推挙したようだ。
領主は3公5候16伯で計24名なのだけれど、何故か現東公、つまりクリフノルド様だけ2名推挙している。最高の人材を推挙した、というアピールのため、1名だけ推挙するという不文律があったようなのだが……そこはよく判らない。
それと、陛下の実弟であり、臣籍降下して外務大臣となっているアラヴェスタード・ザルスカレン公爵も1名推挙しているため、合計25名となるのだが、推挙された人物の名前を見て、驚いた。
何と、オスクダリウス殿下を推挙していたのだ。確かに条件には合致するが……聞いていた話では、ザルスカレン公爵同様、臣籍降下して大臣をやる筈だったのだけれど……? 領地の無い法服公爵より、領地を持つ伯爵の方が良い、ということなのだろうか?
多くの会議参加者も困惑していたようで、会議に参加していたオスクダリウス殿下の方に視線を向ける人達も多かった。
ただ、前提を全く考えずに見た場合、家柄は十分過ぎるくらいだし、能力も申し分ない。そして、空動車隊を率いてウェルスーラ海軍を殲滅し、ワターライカ沖海戦において勝利を収めたという、これ以上は無い実績がある。最終的には試合で決定するので何とも言えないが、現時点では最有力候補ではなかろうか。
会議が終了して、退出しようとしたところ、オスクダリウス殿下がこちらにやって来た。
「名簿を見たので知っているだろうが、私もワターライカ領主に立候補させて貰う」
「確かに非の打ち所が無い人選となりましょうが……理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「貴女が誕生させた島を、統治してみたくなった……そして……領主の座を勝ち取った暁には……ああ、今から勝った先の事に言及するのは宜しくないな。だが、その時には、貴女に告げよう」
そう言って、オスクダリウス殿下は去って行ったが……領主選定戦に、何故か言い知れぬ不安を覚えた。
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