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第333話 セントラーク男爵 ヴェルドレイク・セントラーク視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

私には、恋焦がれる人がいる。今やこの世界で最も高名な女性の一人である、フィリストリア・アルカドールだ。


私と彼女との出会いからして衝撃的な物であり、強く心に残っている。あれが世に言う一目惚れというものだったのだろう。そしてその想いは、日々募っている。


彼女は、様々な面で私の心を奪っていく。今ではステアのアルフラミスとも噂されている、類い稀なる美貌や、高位貴族としての教育を修めた素晴らしい所作、精霊から得たというだけではない、本人自身の知性や、国や民の為に惜しげも無く振るわれる強大な力なども素晴らしいのだが、私が一番心惹かれるのは、目標に一途に向き合っている所だ。


彼女は、どうやらその令嬢の中の令嬢と噂される外見とは裏腹に、武を極めたいらしい。そう思っている理由は教えては貰えなかったが、それでも、その想いの強さは理解出来た。


私が出会う以前から、彼女は自分に可能な範囲で努力を続け、今も日々努力を続けているようだ。執務室に会いに行くと、必ず彼女は何かしらの鍛錬を行っている。ただ椅子に座っているだけでなく、魔力操作や、重力魔法により、身体に負荷をかけるなどの鍛錬を日々行っているそうだ。


私は彼女の様に魔力が見えるわけではないが、以前話している際に不自然な動きが見られたことから質問したところ、そのように答えてくれたのだ。彼女は、単純に剣を振るだけでなく、それ以外の魔力なども含めた観点から自身を鍛えることで、武を極めるつもりのようだ。


正直、鍛錬や対戦などで彼女に傷ついて欲しくないという気持ちは強いが、あのように美しく輝いた瞳で語られると、それだけで全てを許してしまいたくなる。本当に彼女は罪作りな存在だ。


かくいう私も彼女を見習い、余裕のある時は魔力操作や雷魔法の練習を密かに行っている。おかげで魔道具作成だけではなく、護身においてもそれなりの腕前になった……と内心思ってはいるものの、誰に言うものでもないが。




そのような彼女を我が物にしたいと思う者は、私以外にも当然数多くいるが、精霊導師として公爵級の扱いを受けていることや、更には神託の一件もあり、表面的には沈静化している。


しかし、婚姻が解禁となる18才までの間に、神託に逆らわない範囲で良い位置を狙って暗躍している国や貴族も多い筈だが、恐らくは目に見える所だけではなく、影においても厳重な防護体制が取られているのだろう。とてもではないが有象無象が近付ける状態ではなく、ましてや婚姻を考えるのであれば、相応の立場であることが必要だ。


そもそも彼女は侯爵令嬢であり、少なくとも伯爵若しくは次期伯爵でなければ婚姻候補にすら挙がらない。しかも精霊導師としての力や実績を鑑みれば、一国の王の求婚を断ることすら許されるだろう。


そんな彼女は国内どころか世界各国の耳目を集め、婚姻を含めた取り込みの画策が随所で行われ、時には排除、暗殺等についても未遂ながら発生していた。そのような話を聞く度、無力な自分への悔しさに身が苛まれ、住む世界が違う、という現実に打ちのめされた。


それでも私は、彼女を諦めることなど出来ず、彼女を娶っても問題の無い地位に就こうという思いが益々強まった。




現在私は、魔技士としてそれなりの評価を得ているが、元々は自身が活躍出来る分野は何かを考え、魔技士であろうと結論付けたことから進路に選んだだけであったのだが、始めてみると非常に楽しかった。その上、彼女の助力と、私に対する期待が感じられたのだ。


それらの要素が相俟って、夢中になって仕事に取り組んだ結果評価されたのだから、巡り合わせが良かったのだろう。


私は、公爵家の出とは言え次男であり、伯爵となるためにはこの国の制度上、王都執政官になる道しか無かった。幸い、現在の執政官は大叔父であり、そろそろ引退を考える時期にもなっていたことから、私が実績を積んで子爵となれた暁には、執政官に任命されるよう、内々で調整していた。


魔技士としての想定以上の成功は、調整を後押しするものであったが、彼女を娶ることを考えた場合、なお地位が不足していた。追加の手立てを考えていたところだったが、降って湧いたような新領主の話に、私は光明を見た。


ワターライカ島は、領地の広さ自体は他の伯爵領より狭いが、我が国が威信を懸けて開発している点や、新規開発した魔道具の実験場となっている点、他にも島内には魔物が出ないという特性などもあり、領の生活は豊かになるであろうことが予想されていた。


それに加え、国防上非常に重要な地域であり、海上勢力からの防衛のため、将来的には侯爵領に格上げされる可能性もあると聞いている。故に私は、ワターライカ領主になることこそ、今の自分が彼女を娶るただ一つの道筋である、と結論付けたのだ。




私は両親に、ワターライカ領主に推挙して欲しいと頼み込んだ。しかし両親の反応は芳しくなかった。選定の基準が定まっていない中での推挙は、陛下にご負担を掛ける行為であり、体制派の領袖としては許容出来ない、ということであった。


ただし、選定の基準が定まったのであれば、内容次第で推挙しよう、とも言われたため、私は時を待った。暫くして、王妃殿下主催の茶会が終了してから、王都邸に戻って来た母上に私は呼び出された。そして


「精霊導師様は、領主候補を集め、試合によって領主を決めてはどうか、と言っていたわよ。あの方らしいわね、ふふふ」


と告げられたのだ。母上が敢えて私を呼んだ上で告げたということは、ほぼ間違いなく、領主選定のための試合が行われるのだ!


私は母上に深く礼をして、早速試合の準備に取り掛かった。


まずは、基本的な戦闘の組み立て方を検討した。恐らく試合は、領主としての資質を確認するという観点から、魔法や剣はもとより、魔道具も使用可能の総合戦になるだろう。


その中で、どのような攻撃手段を主軸とすべきなのか……勿論常勝の方策などは存在しないが、それに近いことならば出来る。要は自身に有利な状況を作り出せれば良いのだ。


とは言っても、私は魔力量が少ないという欠点がある。アンダラット法を早期に習得したためか、魔力量不足はかなり改善されたが、それでも貴族としての魔力量の平均には届いていない。つまり私は、距離を取られて魔法勝負に持ち込まれると勝てないということだ。


一方、接近して剣で攻撃した場合でも、それなりに剣の鍛錬はしているものの、自身に有利かというとそこまで秀でているわけではない。


では、何を頼りに戦えば良いのか。


ここで私は、以前彼女から魔力操作が巧みだと誉められたことを思い出した。あれは彼女の心遣いという面はあったのだろうが、あれ以降魔技士としての研鑽を続けるうちに、精密な魔力操作を極短時間に行うことが可能になった。


魔技士は魔力量が少ない者の方が向いていると言われているが、それは魔力量が大きくなるほど魔力操作が難しくなるからだ。つまり、魔技士として培った能力を活かす戦い方こそ、私の必勝法なのだろう。


即ち、基本的には接近戦、素早く距離を詰めた上で、剣での攻撃に魔法を織り交ぜるのだ。魔法の発動所要時間は、魔力操作の一分野である魔力活性化、その時間によって決まるため、魔法の発動所要時間を競うなら、私が有利となる。つまり接近戦で魔法を使うことが、勝利の鍵になるのだ。これなら私の属性である風とも相性が良いため戦いやすい。後は鍛錬あるのみだ。


それと、魔道具については相手の魔法を防げるものを用意しよう。すぐに取り掛からないと、欲する魔道具が無くなってしまう可能性が高い。そういった意味でも、先行的に試合の情報を入手出来たことは大きい。改めて母上に感謝した。




新たな年の1月も終わる頃、遂に政府から領主選定の要領が通達され、条件に合致した私は、領主たる父上から推挙され、正式な領主候補となった。すぐに父上には感謝を伝えたが


「私はお前こそがワターライカ領主に相応しいと思ったから推挙したのだ。お前は魔道具の開発を通じ、この国の発展に大きく貢献しているのだからな。現状では、王都だけではなく各領からも優秀な者が続々と推挙されているが、お前ならば必ず勝てる。そして、その先の争奪戦も、一歩先に進めることを、期待している」


と告げられた。


現在王都では、ワターライカ領主になった者が、彼女の婚約者候補となるのではないか、というまことしやかな噂が流れている。それが原因かは判らないが、各所で候補者選定が過熱しているという話も伝わって来ている。


そんな中、親の欲目もあるかもしれないが、直ちに私を推挙して下さった、その思いに応えるべく、必ず選定戦に勝利してみせる。そして、彼女に求婚出来る地位を手に入れるのだ!

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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