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第033話 ロイドステア国王 ギルスジェラルド・ロイドステア視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

余はロイドステア国王、ギルスジェラルド・ロイドステア。


11年前に即位し、大過なく国を治めていると自負している。次の世代も育ちつつあり、そろそろ王太子を第1王子であるウィルディナルドに定めようと考えていたところ、アルカドール侯爵から緊急の謁見申請があった。


あの領地領民第一の侯爵が何用だ、と思いながら、秘密指定された謁見理由を見て納得した。奴の娘が、精霊女王の加護を得た、と記載されていたからだ。それが本当ならば、直ちに会わせて貰わねばな。転移門で移動する筈なので、明後日にはその娘の顔が拝めるということか。

妃とウォールレフテ国大使にも内容を話し、引見後に茶会を開き、真偽を確認することにした。


引見の日、普段領地外に出ない侯爵が来るということで、謁見の場は情報収集を行う輩がいつもより多かった。そのような中、余の前に来た侯爵夫妻の横に、何とも愛らしい少女がいた。見た感じでは所作も問題ない。あれは前国王である父が、早く世継ぎを作らねばならない立場から泣く泣く諦めたという、前侯爵夫人によく似ているではないか。さぞや世の男を惑わす美女になるだろう。そう思いながら挨拶を聞いていた。


出来れば王家に取り込みたいと思い「アルフラミスの蕾」と褒めたところ、早速周りが騒ぎ始めた。この様子では、今この娘を精霊導師として公表すると、下手をすると国が荒れるやも知れん。ただでさえ、精霊導師は国の在りようすら変え得る存在。下手な貴族、ましてや他国に渡せるものではない。


その後茶会で、精霊女王の加護を得ていることを大使に確認して貰い、幾つか話をした。あの娘は先日7才になったばかりと聞いたが、うちのオスカーよりよほどしっかりしている。まあ、流石に嫁ぎ先の話をした時は、動揺を隠せなかったようだが。


侯爵も、余と似たことを考えていたらしいが、あの侯爵は野心とは程遠い。これがもし東公辺りなら、王家に食い込み、央公を出し抜くための駒にした筈だ。婚姻の話も、嬉々として進めたであろうな。逆に、侯爵も夫人も、娘を可愛がっているのが良く解った。今は、事を荒立てない方が良い。


ただ、周囲への牽制も兼ねて、年の近いオスカーに会いに行かせてみたが、娘を取り込むには荷が重かった様だ。三男だからと、野心を持たせぬよう教育を慎重に行っていたのが裏目に出たか。まあオスカーは央公の所の娘を気に入っているから、気が乗らんだろうというのは解っていたのだが。


「さて、ウィル。お主ならあの娘をどう扱う?」


ここは余が密談をする際に使用する部屋。長男のウィルを呼び出し、あの娘の件を伝え、次期国王として、約300年振りに誕生した精霊導師についての考えを確認しているのだ。


「当座は父上同様、秘匿した上で様子を見る以外ないと考えております」


「ほう、それは何故だ」


「彼女の扱いは、王家に取り込むのが最善、国内で国の為に働いて貰うのが次善、そうでなければ排除しなければなりません。他国にやるなど愚の骨頂です。しかし、取り込むのは現段階では難しいようですね」


先日のオスカーの件を踏まえた話だろう。社交をもう少し覚えさせていれば、精霊導師を口説いて来い、くらい言えたのだが、オスカーに今それを言うのは、情報漏洩以外の未来が見えん。


「私が娶ることが出来れば良かったのですが、彼女の為に法律を変えると、精霊術士が各領地に分散してしまうのは明らかです。それは悪手と言わざるを得ません」


20才以上の未婚の娘を行き遅れとする世の中で、精霊術士を25才まで未婚で勤務させるのは、中央を強く維持するためだ。まあ精霊術士は美しい娘が多いので、それでも婚姻相手は引く手数多なのだが。


「そうであるならば、国内に縁を多く結ばせ、国外に出づらくなるよう仕向けた方が良いでしょう」

「まあ、そのような所だ。では、あの娘が謀反や国外脱出を図った場合、殺害は可能か」


「聞いている限りでは、彼女の暗殺は、恐らく無理でしょう」


「理由は?」


「精霊術士でさえ、通常の暗殺には注意が必要です。精霊は悪意に聡いと聞きますので。しかも彼女は全属性者。四精霊が味方です。大抵の攻撃は察知されるでしょう。その上、精霊女王の加護を持つということは、暗殺は精霊女王を敵に回すも同然です。彼女への攻撃が露見した場合、暗殺首謀者や実行者へどのような報復があるのか。その危険性を知る者なら、暗殺に加担することは無いでしょう」


「その通りだ。あの娘の力は、削ぐのではなく、利用するのだ。敵対するのは、愚か者の所業よ」


とは言っても、脅迫などを行った挙句、それを理由に国外脱出をされては元も子もない。脱出先で婚姻相手を見繕えば、協定もあるので手が出せん。それよりも、あの娘の望む方向を誘導するのだ。


「まあ、現段階では王家に敵対する意思もないようですから、当面は情報収集だけで良いと思われます。また、婚姻に関し、王家が関与するわけですから、そこで恩を売ることも可能でしょう」


「その通りだ。ただ、嫁ぎ先には注意せねばならん。力関係が変化し、謀反すら起こされる可能性がある。三公ならば……央公の嫡男は、年が離れておるし、現状では問題無かろう。西公はそもそも男子がおらぬ。フェルドを婿にやるよう、調整している位だ。問題は東公よ。奴は野心家だ。丁度長男がオスカーと同い年でもある。精霊導師の公表まで、娘を取り込めぬよう、お主も働きかけよ」


「承知致しました、父上」


ウィルにあの娘の取り扱い方を確認したが……余が譲位した後、国を滅ぼされてはかなわんからな。あの様子だと、適切に対応できるだろう。国内の方はウィルに任せて問題あるまい。問題は国外だ。


あの謁見だけでは動くまいし、ウォールレフテにも転移門で秘密裏に行かせた。大使殿は大樹に誓って守ると言っていたのだから、外に秘密を漏らすことは恐らくない。3年も秘匿できれば、他国が関与する隙を与えぬ態勢を作ることができるだろう。


問題は不測の事態が発生し、公表せねばならなくなった時だ。我が国は伝統的に侵略を抑制し、国内の発展に力を注いでいるが、その分、外交が弱い。ウィルの相手も国外の姫を選び、外交力を強化しようとしているくらいだ。


出身国だからと精霊導師を無理やり囲い込もうとしていると喧伝された場合、多くの国から非難される可能性がある。そうなると、外交上問題だ。また、最近ノスフェトゥスが軍事力を強化している。精霊導師の解放を侵攻の理由にされては面倒だ。


アルカドール領は、ノスフェトゥスに隣接しているから、下手をすると、アルカドール領ごと奪われかねない。当座は近傍のトリセント駐屯部隊を、アルカドール領軍に直ちに増援できるよう準備しておく位か。こちらから大きな動きを見せれば、警戒を強めたノスフェトゥスによりこの件が暴露される可能性もあるからな……。


……様々な危険性を考えたが、精霊導師は基本的に非常に有用な存在、しかも、あの娘は全属性者だ。エスメターナ様すら出来なかったことが出来る可能性が高い。天候を操り、多くの地下資源を開発し、敵を焼き尽くす。その様な強大な力を7才の小娘に持たせるのは危険極まりない。とはいえ、奪い去るなど人の身に出来ることではない。ある意味、天災と言っても過言ではない存在であろうか。


さて、敢えて放置していた他国の間諜どもを一旦片づけるか。特に、ノスフェトゥスの間諜は、アルカドール領に最も多くいるはずだ。娘の為だと侯爵に言えば、喜んで排除してくれるだろう。


注意すべきは帝国か。あそこは一枚岩ではないから、間諜の動きも掴み辛い。まあ、基本的には帝国との貿易を管理している西公周辺にいるのは間違いないので、フェルドの件で領内を安定させたいと言えば、西公も乗ってくれるだろう。


一時的にでも間諜がいなくなれば、他国からの求婚などそうそう成功する筈がない。各国が手を拱いている間に、国内の誰かを当て込めばいい。そうすれば、我が国は更なる繁栄を迎えるだろう。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


(石は移動しました)

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