第331話 アルカドール領への助言を行った後に王都に戻った
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明日には王都に戻るので、その前に毎年行っているアルカドール領の分の巡回助言を行っておいた。
今回については、ドミナス分領において新たに炭鉱が見つかったことを踏まえ、他の場所にも何らかの資源が眠っているかもしれないということで、資源についても精霊に確認することにした。
これまでは自領であまり直接利益に繋がる調査を行うのも憚られるかと思い、確認していなかったのだが、見つけてしまったのだからこの際確認しておこう、という話になったのだ。まあ、多少確認に手間が掛かるが、セイクル市に実家がある風の精霊術士達に協力して貰えば、あまり変わらないからね。
ということで、レブネア達にも協力して貰って、巡回助言を行ってみたのだが……そう都合良く新たな資源を発見することは出来なかったが、凡その資源の分布を把握することが出来た。
それを見た限りでは、鉄についてはそれなりの埋蔵量だったが、石炭や石英についてはかなり多いようだ。特に、新規に発見された炭鉱がこれだけの埋蔵量を持つというのなら、安心して採掘を行えると行政官達は大喜びだった。
また、今回新たに判ったことがあった。どうやら、ノスフェトゥス国からこちらに来た流民達が、山間に集落を作り始めていたらしい。
10数名の規模であり、最初風精霊から聞いた時は野盗の可能性も考え、お兄様が遠視により現地を確認し、私も風精霊と感覚共有して現地に飛び、悪意などを確認したが、どう見ても流民が隠れ住んでいるようにしか見えなかった。
領民を襲うなど考えてはいないらしく、周辺の植物を採取したり、川魚を捕ったりして生活しているようだった。去年巡回助言を行った際にはいなかったので、ここ1年の間に移り住んだのだろう。幸い、1か所だけであったようなので、お父様の命を受け、直ちに領軍が現場に向かうようだ。
「まさか、流民達が密かに移り住んでいたとは……」
「父上、申し訳ございません。今後は監視の目を強化します」
「我が領が接している国境は広い。領軍やお前の遠視でも監視しきれまい。当面は主要な侵入経路を調査し、多数の移動が出来ぬよう封鎖するとともに、定期的な巡回を行うしか無いだろう。それと、来てしまった者達は追い返すわけにもいかぬ。先日話し合った内容で、準備を進めることにしよう」
「承知しました。祖父君から教示頂いた場所に開拓村を作ります」
お兄様は、コルドリップ先生を呼んで、新規の開拓村について検討し始めた。今回の流民達には開拓村に移り住んで貰い、当座は衣食住を支援しながら周囲を開墾し、じゃがいもや大麦を作って貰うようだ。
また、今後も流民をその開拓村に受け入れる方針だが、魔物などから警護するという名目で領軍の一部を配備するとともに、定期的にロナリアに悪意を確認して貰うことになるだろう。場所が把握出来ているからお兄様も遠視で確認するだろうし、後は任せても問題無いな。野盗化などされる前に把握出来て良かったよ。
次の日、王都に行くために、こちらに戻って来た時のメンバーが集まった。それと、先日精霊視を持つことを確認した、ミストラ・スツームも一緒だ。新たな精霊術士として、精霊課に勤務することになる。
「それでは行くとしよう。領の事を頼む」
「では行って参ります」
「行ってらっしゃい。気を付けて下さいな」
「父上、フィリス、次に帰った際には、更に発展した領をご覧に入れます」
「二人とも、元気でやっておくれ」
皆の見送りを受けて、私達は王都に転移した。
年末年始休暇が終わり、今日から通常勤務だ。
いつもの通り早朝鍛練を行い、朝食後、魔法省に出勤した。当面は状況の掌握と各所への挨拶回りなどだが……精霊課長の所に顔を出したところ、年末にちょっとした騒ぎがあったようだ。
ワターライカ島が新領になる影響で、暫く王都の様子が不穏になりそうだったので、精霊課にも精霊を使って様子を確認して貰っていたのだが、案の定と言って良いのか、とある体制派に属する貴族が、エルステッド領に観光に向かおうと王都を出たところで賊に襲われたらしい。
この時はたまたま、精霊が悪意を感知して精霊術士に知らせたため、そこから近衛騎士隊に連絡が入り、間一髪で救助されたそうだが、賊は全員が死亡し、背後関係は不明となったようだ。
襲われた貴族は、体制派が領主に押すだろうと噂されている人だったので、改革派が狙ったのだという憶測が流れているが、当然証拠は無い。そのため、政府内でも微妙な雰囲気のようだが……まあ、とりあえず普通に業務を行った。
数日後、年初めの省定例会議に参加した。
今回については、2月から魔法研究所に設置される、魔道具研究所準備室の話が主体だった。魔道具課の先任研究員が準備室長となり、約20名の研究員をもって編成されるそうだ。ヴェルドレイク様やネリスも編成に入っているらしい。準備室が出来たら様子を見に行ってみよう。
それと、月末から2週間、精霊術士集中鍛錬が予定されていて、精霊術士15名が参加することが精霊課長から報告された。この中には、先日精霊術士となったミストラも含まれている。まあ、ミストラは初等学校での教育により、アンダラット法を習得していたからね……。
その他、大臣から、次のような話があった。
「皆、現在の政府や王都の雰囲気に違和感を覚えているかもしれないが、業務に励んで貰いたい。また、今月中には、ワターライカ島の領主選定に関する方針が宰相府から示されるそうだ」
その言葉を聞いて、とりあえずは月末の政府全体の定例会議までは様子見かな、と思った。
今日は農務省からの依頼で、牧草に関する相談を受けるという話が入っていたので、作物研究所に顔を出した。所長の案内で担当者の所までやって来たところ、畜産研究所の人も同席していた。まあ、牛の話でもあるからね……。
「導師様、本日はお越し頂き、有難うございます」
「ええ。牛乳が美味しくなるような牧草を研究しているそうですわね。お話を聞かせて下さいな」
作物研究所と畜産研究所の担当者達の話を聞いたところでは、牧草は何種類かあるそうで、それらを環境や牛の状態に合わせて食べさせているそうだ。で、私が品種改良をしているのを知り、牧草の種類を増やしてみてはどうか、と思い浮かんだそうで、今回の話になったそうだ。
現在は資料に載っている挿絵などを見る限り、シロツメクサやアカツメクサ、アルファルファのような植物を牧草としているらしい。そういえば、前世では牛が食べる牧草は、マメ科の植物とイネ科の植物だったような? 現在牧草になっているのは、見た感じマメ科だよね……。
ということで、イネ科の牧草を作ってみるかな。麦などもイネ科だが、これまで派生した牧草が使われていなかったわけだから、念の為、以前入手した米の原種? から作ることにしよう。
「では一度、これまでに無かった植物から牧草を作ってみましょう」
「成程! それなら判り易い成果が出るかもしれませんな」
原種? の種籾を異空間から取り出し、右手を地精霊と同化させて種籾を握り、地属性のエネルギーを加えながら、牧草っぽく育つようにイメージした。担当者に牧草用の地積に案内され、早速種を植え、左手を水精霊と同化させ、地と水の2つの力で草を成長させ、更に種を植えて一面に生やしてみた。
「これは最近栽培を奨励している、米を牧草に品種改良したものですわ」
「……では、一度牛に食べて貰いましょう」
そう言って、畜産研究所の担当者が、牝牛を連れて来た。牝牛は、私が生やした牧草をむしゃむしゃと食べ出した。とりあえずは、問題無く食べられそうだ。
「暫くこの牧草を食べさせて、様子を見てみます。研究への協力有難うございます」
担当者達にお礼を言われ、私は作物研究所を後にした。この研究が良い結果を生んでくれた場合は、アルカドール領の方にも普及できれば嬉しいかな。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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