第329話 新年の挨拶会に参加した
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今日は、毎年行っている、精霊視を持つ少女達の確認を行うために聖堂に行ったり、久し振りにメイリースの所に顔を出す予定だ。
とりあえずは聖堂に向かったが……相変わらず、対象者以外が多いな……。近年では、こういった精霊術士候補を確認する場においても警備体制も厳重にしているらしく、衛兵だけを見るとかなりものものしいが、悪意は感じられないから、あまり気にせず普通に応対している。
今回は地属性の少女1人が、精霊視を持つことが確認出来たので、担当者にその後の処置を任せて、集まった皆に手を振りながら聖堂を退出した。
私付のメイドだったメイリースも、今では3児の母親だ。嫁ぎ先の商会も、主に宝石関係を取り扱っていたことから、水晶像の人気が上がるに伴い業績も格段に上がり、王都や各公府などにも支店を出したりして、非常に繁盛しているそうだ。
ネストイル商会を訪ねると、事前に連絡済みだったからか、空動車が店の前に到着した所でメイリースが出迎えてくれて、奥へと案内された。
「貴女も奥様としての貫禄が付いてきたわね」
「お嬢様こそ、うちの商品全てを集めたよりも美しくなられておりますね」
「ふふ。店が改築されて大きくなっているわね」
「お嬢様のお力添えもあり、大変繁盛しております。まあ、主人の不在が多いのは難点ですが……」
「それは仕方ないのでしょうが……そう言えば、お子さん達は元気かしら?」
「長女のアメリアは、本日は初等学校に通っていて不在ですが、次女のラメイスと長男のミラルクは家におります。3人とも、おかげさまで元気に過ごしておりますわ」
メイリースは使用人を呼んで、ラメイスとミラルクをこちらに連れて来てくれた。4才と2才なので、あまり挨拶は出来ないようだが……ラメイスの視線が、私の背後に向かっている。もしや……?
「ラメイス、貴女は精霊が見えるのかしら?」
ラメイスの属性は風なので、風精霊を手に乗せて、ラメイスの前へ差し出した。風精霊に挨拶をしているので、やはり見えているようだ。
「メイリース、ラメイスは精霊視を持っているようよ?」
「まあ! では、いずれは精霊術士として働くことになるのでしょうか?」
「そうなるわね……。親としては、成人前に親元を離れることになるから心配でしょうけれども」
「承知致しました。主人とも話し合って、洗礼後にはお仕え出来るよう、しっかりと教育致します」
「有難う。そうね……出来る限り、人と触れ合えるよう、育てて頂戴」
精霊術士は人とのコミュニケーションが苦手になりがちになる所があるため、現段階で少々内気な感じがするラメイスを、今のうちから慣れさせることにした。その辺りは、私付のメイドであったメイリースなら、理解してくれるだろう。
護衛達と鍛錬したり、追加の空動車の車体を作ったりしているうちに年が明け、1526年となった。これまでは基本的に新年の行動は家族内のものだけだったが、私も成人したため、昼に行われる新年を祝う挨拶会に、初めて参加する。戦勝祝いの宴があった時には参加したのだけれどね。
朝食時に家族で神様に年初めのお祈りをして、お父様の「新たな年を祝おう」という言葉と共に、飾りつけを行っている縁起物の料理を頂いた。
それから、新年の挨拶会の準備を行い、家族全員で領行政舎に移動した。
挨拶会は1階の広間が会場となっているが、私達は一旦領主室と応接室に待機し、皆が揃ったところで職員に案内され、広間に入場した。いつもは飾り付けられているわけではないが、今日についてはお祝いっぽく、花などが飾られている。また、動物などを象った水晶像が何か所かに飾られ、綺麗に光っていた。
お父様が新年の祝いの言葉を述べ、新年の挨拶会が開始された。とは言っても、基本的には通常行われている宴と同様だ。参加者である、セイクル市内の貴族や主要な役職に就いている人達が、領主家に対して挨拶を行っていき、その後は立食形式で食事を取りつつ、歓談を行う、という流れだ。
あと、新年のお祝いということで、合間を挟んで舞踏などが行われたりするが、市内の広場で行われているものをこちらに持って来た感じで、そこまで形式ばったものでもないらしい。なので、飛び入り参加も可能だそうだが、少なくとも私は飛び入りをする気は無い。
挨拶が終了したので、私は年明けそばを食べつつ、知っている参加者を確認してみた。
コルドリップ先生を始めとする行政官や、ミニスクス執政官などのセイクル市の主要な役職の人達は当然ながら、領軍長や商工組合長なども顔見知りだ。
お母様が開催している茶会に参加している婦人達も、基本的には参加しているようだ。そして、そういった人達の子女についても、成人していれば参加しているらしい。
とりあえず、パティは来ていて、先日知り合った領軍長の娘さんのレニもいるようだ。ネリスはまだ成人していないから来ていない。それと、リーズは成人していないのもあるが、プトラム分領に帰っている筈だから、ここにはいない。
パティと話そうと思って近寄ったところ、パティが少し変な反応をした。何かあったのかな。
「改めまして、新年おめでとうございます。今年も宜しくお願いしますわ」
「こちらこそ、新年おめでとうございます。精霊課の方でも宜しくお願いします。それと……」
すると、こちらに二人の男性が寄って来た。
「こちらは私の兄達ですわ。この機会に、是非とも挨拶させて頂きたいとのことです。宜しいでしょうか」
何だかパティが面倒そうな表情をした。成程、まあ挨拶程度なら別に問題無い。
「まあ、パトラルシア様の兄君様達ですか」
「は、はい! お初にお目に掛ります! 私はエデルナイク・ミニスクスと申します! セイクル市行政に携わっております」
「お、お初にお目に掛ります、私はカルサラード・ミニスクスと申します! 領軍に勤めております」
「まあ。領政や治安に貢献されていらっしゃるのね。お父上の様に、細部まで目の届く素晴らしい仕事を行えるよう、励んで下さいませ」
「は、はい! この身に代えましても!」
……パティと普通に話す雰囲気では無かったので、その場を離れ、別の場所に移動した。お兄様がいたので、近くに行ってみた。どうやら、商工組合長と話をしているらしい。
「ああ、フィリス、丁度良かった。今、君の話をしていたところだったんだよ」
「まあ、それは光栄ですわね。組合長殿、改めまして、新年おめでとうございます。今年も宜しくお願いしますわ」
「お嬢様、こちらこそ、新年おめでとうございます。今年も宜しくお願いします。ところで、小耳に挟んだのですが、何やら先日、面白いものを見つけられたとか」
ああ、なるほど。炭鉱を発見した件か。領行政舎の方で試掘の準備を始めたらしいから、その辺りから情報を仕入れたのかな。まあ、儲け話のネタだし、積極的に情報を集めたいよね。
「ええ。精霊から聞いた話では、少し深く掘る必要はあるようですが、それなりに埋蔵量はあるようですわね」
「成程。折角の資源ですからな。組合としても、力を尽くしましょう。ちなみに、活用の方向性などはどうお考えなのでしょうか?」
「質や量にもよるけれど、当面は暖房用の燃料と、冶金などでの活用だね」
「それと、今後は新素材の材料としても活用した方が良いと思われますから、王都の方に研修に行かせてみては如何かと、父や兄には申しているところですわ」
「ふむ……職人達に当たってみましょう」
商工組合長とは、その他にもフリーズドライ食品工場などの話で談義を咲かせた。最初は工場で働く人の確保が大変だったようだが、最近は魔法教育の成果が出て来たようで、募集が楽になったそうだ。やはり教育は重要だな……。
そういえば今回、場に出ているお菓子の中に、餅が入っていた。意図して入れたわけではない筈だが、何となく嬉しくなって、幾つか頂いた。その他、知人達と話しているうちに、挨拶会は終了した。
帰宅後、暫く休んでから夕食となったが、やはり家族との食事は気楽だね……。
夕食後、地精霊と感覚共有をしてパティの所に話に行ったところ、謝られた。
「ごめんなさい。兄達から、どうしても貴女に挨拶したいと言われたの。そうしたい気持ちも分かるのだけれどね……」
大人になると、社交が増えるからこういう話が増えるのよね……全く面倒だ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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