第327話 各所で領の話を伺った
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お父様が、不在間の状況を確認するため、お兄様と一緒に領行政舎に行くそうなので、私も同行させて貰った。領行政舎に到着すると、コルドリップ先生が迎えてくれた。
「コルドリップ首席行政官、御苦労」
「領主様、御曹司様、お嬢様、帰領早々お越しになられるとは、我々一同感激しております」
「宜しく頼む」
私達は、コルドリップ先生の案内で、会議室に移動した。ちなみにコルドリップ先生は、首席行政官となり、子爵になった。前首席行政官が高齢の為、奥さんと一緒に温泉街に館を建てて隠居したので、後釜に指名されたのだ。こちらに来てから、色々活躍していたからね……。
それから私達は、行政官達から領内の様々な状況の報告を受けた。お兄様達から聞いた内容から更に詳細に、データも含めて確認出来たので、簡単に理解出来た。
「成程。特に砂糖、塩、馬鈴薯、精霊酒、観光関連が領の活況に繋がっているな」
「その通りです。道路や港の整備により、更に往来が容易となったことも一因です。それと、民の生活水準が向上したことで、領の人口についても他領からの流入だけでなく、出産等により増加傾向にあります」
「そうか。幼少期は疾病による死亡が多い。医療体制を充実すべきだろうな」
「それでは、人材育成、設備の充実化、補助金の交付などを検討させて頂きます」
「その方向で検討せよ」
「承知致しました」
このような感じで、報告を受けつつ、現状での問題点などへの対処の方向性を示していった。昨日話し合った、ノスフェトゥス国からの流民への対処についても概要を話したところ、早速検討してくれるそうで、とりあえずは安心かな。
お父様からも王都や政府の最新情報について話していた。
特に、領軍を拡充中のアルカドール領としては、編成や魔法兵、飛行兵の運用など、国防省に確認したい内容が沢山あるそうで、現国防大臣であるお父様がいるのは非常に有り難いようであった。
それに加え、来年王都でカーボンナノチューブ素材の技術を普及するという話が予算審議の際にあったので、情報提供をしておいた。
それと、今回の帰省中に私が出来そうな作業なども確認した。通常の工事などは、今の所無いらしいが、1件相談ベースでの話があった。ドミナス分領の鉄鉱山について、区画整理をしたいらしく、精霊から話を聞いて進めたいとのことだったので、時期を調整してドミナス分領に行く事になった。
領行政舎で会食を行ったあと、私はお父様達と別れ、収納してあった空動車に乗り、甘味研究所に向かった。
外から見た限り、相変わらず物販側は盛況のようだが、私は研究所側の入口から入り、いつものごとく所員からの歓迎を受け、現在の研究や販売の状況について、確認させて貰った。
「製法の販売だけでなく、料理人の受け入れも増えましたわね」
「砂糖が普及しましたし、観光客も多いからでしょうな。最近では、洗礼後に見習いとして働かせて欲しいという者が何人も来ておりまして、後進育成も進んでおります」
「それは良かったわ。現在我が国での甘味の本場と言えば、王都かここですもの」
「何とも光栄な話ですな。では、来年は最優秀賞を奪還せねばなりませんな」
「期待しているわ」
王都では、収穫祭の時期に甘味品評会を開催しているが、これが最近の研究員達のモチベーション維持に大きく貢献しているらしく、来年の品評会に向けて、頑張って研究しているそうだ。今年は残念ながら優秀賞だったからね……。
現在研究している品についても確認させて貰った。
ある研究員は、小麦粉に米粉を混ぜることによって、ケーキなどがもちもちした食感になるのが面白いらしく、配分を色々試しているそうだ。
他にも、最近多種多様なフルーツを作るようになったことから、寒天を使ってゼリーにしたり、飴にしたり、ドライフルーツにして様々なお菓子に加える研究をする研究員がいたりして、今後の進展が楽しみな研究も幾つかあった。私も試食して、様々な感想を述べさせて貰った。
「あと、お嬢様にはこちらを試して頂きたく存じます」
研究員の一人が持って来たそれは……
「まあ! これは白殻葵糖ではありませんか」
何と、研究中と聞いていたホワイトチョコレートを持って来たのだ!
「先日何とか形になりましたので。ご意見を頂けると幸甚です」
小さいブロック状に固められたホワイトチョコレートをつまんで食べる。苦みは無く、乳成分のまろやかな味わいと甘味が良く出ている。これはかなりの出来栄えだ。
「ここまで仕上げるには、相当な努力が必要だったでしょう。素晴らしいわ」
「お褒めに与り誠に有難く存じます。今後はこれを使った甘味も研究して参ります」
「期待しているわ。……ただし、白殻葵糖は、通常の殻葵糖より保存性が低くなる筈だから、注意すること。それと、砂糖はもう少し抑えめの方が良いかもしれないわ。粉乳についても、生臭さが出ない様に慎重に取り扱って頂戴」
「承知致しました。肝に銘じます」
アルカドール領の美味しい牛乳を使って作ったホワイトチョコレートは、恐らく非常に人気が出ることだろう。今から楽しみだ。
研究員達を激励して家に帰り、しっかり鍛錬してカロリーを消費した。
次の日は、お母様がこのところ毎年主催している、私の帰省に合わせた茶会に参加した。行政官夫人達の中には、ロナリアもいる。現在は男爵夫人であり、貴族籍に入った際に改名してロナリアーナとなったらしいが、個人的な会話の中ではロナリアと呼んでいる。
「導師様、お久しゅうございますわ」
「ロナリアーナ様、お久しぶりですわ。こちらではフィリストリアと呼んで下さいな」
「有難く存じます、フィリストリア様」
それからこちらの状況、特にご婦人方の視点での状況を確認させて貰ったが……まず気になったのが夫人達の肌艶が素晴らしいということだ。例の雪花会なるエステサロン? のおかげだろうか。先日お子さんをお産みになった方もいるし、旦那さん方の反応も良さそうだ。
他にも、領内だけでなく他領の知り合いから得た情報なども含め、様々な会話を行ったが、アルカドール領は、最近では夏に避暑地として来る貴族が増え、社交の機会が増えたそうだ。このため、ドレスなどについても春頃から準備したり、装飾品なども商会から取り寄せているらしい。
ちなみにお母様は、実家のテトラーデ家から、真珠のネックレスを取り寄せたらしく、注目を浴びたそうだ。まあ、養殖された真珠の中から特に品質の良かった粒を集めて作ったものだったらしいからね……。
アルカドール領は、今の所服飾関係は他領に頼っている感じか。何かあれば提案してもいいけど、前世でもあまり着飾った経験は無いし、残念ながら特に思い浮かぶものは無いな。
色々なことを話し、私は令嬢達の席に移動した。
こちらは、パティ、ネリス、リーズの他に、今回初めて領軍長の娘さんが来ている。私と同い年で、昨年セントラカレン領にあるセントリード高等学校を卒業し、その後、元々住んでいたカルセイ町からセイクル市に館を移したそうで、先程は夫人とも挨拶をしたところだ。皆が席を立って礼をしたので、挨拶をした。
「皆様、ごきげんよう。初めての方がいらっしゃるわね。貴女が領軍長のご息女で宜しいかしら?」
「は、はい、レニデロアナ・グラドナートと申します。此度は、お招きに与り誠に有難く存じます」
「ふふ、フィリストリア・アルカドールですわ。今後とも良しなに。私のことはフィリスと呼んで下さいな」
「フィリス様、有難く存じます。私のことは、レニ、とお呼び下さい」
「では、レニ様、セイクル市での話などを聞かせて下さいな」
去年までなら、ルカとセレナもいたのだけれど、今は結婚してそれぞれの分領に住んでいるからね……。レニ以外は皆王都から帰って来たから、こちらの情報を知らないのよね。私がいない間も、色々聞いていたようだ。
レニはなかなか話し上手で、色々教えてくれたが……セイクル市の流行はともかく、ご婦人方に最近人気の行政舎職員とか、領軍の格好良い兵士とか語られても反応出来ないのですが……。
まあ、楽しいかどうかはともかく興味深い話を色々聞いて、茶会は終了した。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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