第326話 帰省して情報共有を行った
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茶会が終了して王都邸に戻り、お父様と夕食を取っていて、茶会での話をしたところ、お父様が少し考えた後、私に言った。
「成程。では、恐らくお前の言ったように、何名かの候補者を選定して試合を行い、勝った者が領主に選ばれるだろうな」
「私の個人的な意見が採用されるのでしょうか?」
「実際、候補者を何名か選定する所までは難しくない。それを誰か一人に決定するのが難しいのだ。その点試合で決定するなら、誰の目にも明らかだから、結果に反対であっても文句は出し辛い。そして、今回の選定において王家は、その意見を反映させるべきである者を、理解している筈だ」
「……もしかすると、私のことでしょうか?」
「その通りだ。勿論、三公夫人達の意見も尊重されるだろうが、ワターライカ島は、精霊の助力があったとはいえ、お前が生んだ島とも言える。お前の意見が反映されていないと、選定を覆す口実にされかねんからな。そういった意味で、今回のお前の意見は妥当性があり、かつ実際に反映し易いものだったから、非常に有り難かったろうな」
ううむ……そこまで深く考えた上での発言ではなかったが……まあ良しとして、領主選定戦? が行われるのを楽しみにしよう。
次の日、私達は帰省するために準備を……整えたのは使用人達だが……行い、一緒に連れて帰る人達を待った。パティを始めとする精霊課のアルカドール領出身者達や、今年魔法学校を卒業したネリス、現在騎士学校に通っているリーズが揃った所で、供をする使用人達も連れて、アルカドール本邸に転移した。
それから、迎えに来た人達と合流してそれぞれの家へ帰ったり、途中までうちの馬車で送ったりはしたが、ようやく落ち着いた感じだ。
久しぶりに家族全員で昼食を頂き、情報共有の為、談話室において家族会議を行うことになった。
まずは王都の話だ。主にお父様が話したが、私が主に関与したものについては補足を行った。
「成程……諸外国との関係は一部を除き良好、国内は全般的には産業の発展が継続するものの、ワターライカ島が新領として封じられることが不和の元となりそうじゃのう」
「ええ、父上。体制派としては、改革派の者が領主となるのだけは阻止したいという考えですね」
「ならば、いずれ行われる領主選定戦に向け、準備を開始しておるじゃろうのう」
「恐らくは……今回は剣も魔法も、そして魔道具をも使用を可能とする総合戦の試合形式を採用するでしょうから、良い武具と魔道具を入手しつつ、候補となり得る人材には情報提供を行い、試合に参加するための準備を促したのではないでしょうか?」
……新たな上級貴族の枠を勝ち取るための準備は、既に始まっている、ということか……。
「それだけではないわ。今回は、フィリスが試合を望んだのですもの。その事実だけで参加者全員、目の色を変えるのではないかしら?」
……えーと、どういうこと?
「それも問題ではあるな……まあ、フィリスはこういうこともある、と理解しておくように」
お父様とお母様の説明によると、国一番の美女との呼び声が高い(らしい)私の望みを叶えたがるのは、世の男性の本能であり、あまり気にすることなく普通に観戦すればいい、ということだそうだ。
あと、選定戦には未婚者も出場すると思われるが、私が18才になって結婚の相手の選考を再開する際に、今回の選定戦で私の興味を惹けたら、相手に選ばれるかもしれないと考える可能性も否定できないそうだ。なので、参加者からの接触には注意した方が良い、とも言われた。
「全く……そのような不埒な輩は、私が蹴散らしてやりたい所だ」
お兄様は、アルカドール領の次期領主ですから、試合に参加出来ませんが……。
そのような感じで、王都の方の情報共有は終了し、次はアルカドール領の状況を、お兄様やお母様が教えてくれた。砂糖や精霊酒の生産は拡大し、また、品種改良した作物の栽培も良好であり、人口は引き続き増加傾向ではあるものの、人手は常に募集中ということで、良い状態のようだ。
領軍の整備も進んでおり、許容されている2万に達しそうな勢いだそうだ。更に、王都に修行に出していた地魔技士が、最近帰って来たらしく、領でも空動車を作成し、飛行兵を養成しようかと検討しているそうだ。それは是非協力しないとね。
その他観光についても、冬はともかく、夏には大人気の観光地となっており、貴族を含む多くの観光客が来ているそうだ。美容魔法やお菓子、牛肉や乳製品、海鮮料理、水晶像など、様々な売りがあるところだが、最近は片栗粉を利用した料理も人気が出ているそうだ。製造工場を作ったので、お菓子だけではなく料理にも使えることを教えたのだけれど……。
「フィリスが教えてくれた揚げ物や麺への利用が、領民に好評だったみたいでね。そこから観光客にも広がっているみたいだよ。私も揚げ物は特に気に入っていてね、よく料理長にお願いしているんだ」
どうやら唐揚げや竜田揚げは、お兄様を始め、多くの人達に好評だったらしい。他に片栗粉麺なども、じゃがいもの生産が多くなるならあってもいいかな、と考えたので料理長に教えてみたのだけれども。そばやうどんも今では普通の家庭食にもなっているようなので、そのうちラーメンなどを作っても良いかもしれない。
プトラムの港についても、ワターライカ島のライカル港やターレス港とまでは行かなくとも、国内の運行船であれば十分使用できる港になっており、砂糖の輸出やその他物資の流通などにも使われ、発展しているらしい。
一方、北の国境に隣接するノスフェトゥス国は荒れており、貧しさから国を捨てる者が増加しているそうで、それは当然、アルカドール領の方に流れて来ることになる。ここ数年は、その対処に追われているが、最近は更に増えているため、追い返すのも限界に来ているそうだ。
「流民の中に、諜報員や暗殺者が紛れ込む可能性も高いからね。正直、どうしようかと頭を悩ませているんだ」
……もうこうなったら、受け入れて監視をした方が良いような気がする。……そうだ!
「では、一旦流民を受け入れ、開拓村を作って開墾などを行わせれば宜しいのではないでしょうか?当然、我々の監視下となりますが……」
「それも考えたのだけれど、監視の目が行き届かない可能性が高いんだ。私が遠視で確認しても良いのだけれど、常に行い続けるわけにはいかないからね」
「人数の確認を、常に村の警備兵に行わせるとともに、定期的に精霊術士を向かわせ、精霊に悪意などを確認させれば宜しいのではないでしょうか。昨年から我が領にも精霊術士がおりますから」
丁度ロナリアが領に住んでいるからね。領内の状況確認が仕事らしいから、問題無いだろう。
「……成程! 定期的に開発の支援という名目で向かって貰いつつ、悪意を調査して貰うんだね! 父上、祖父君、フィリスの案は、素晴らしいものだと考えます」
「流石は精霊導師といったところか。精霊を使う術を心得ている。それなら問題無かろう」
「居住地を集中させることで、監視も容易になるからの。そうじゃな……この辺りが良かろう」
お祖父様は、説明の為に準備していたのか、懐から領の地図を取り出し、国境に近い平地を指し示した。
「成程。ここならいざという時に兵を差し向けることも容易だ。……まずは、馬鈴薯と食用の大麦を栽培して貰うことにしよう。それならある程度、自活出来よう」
このような感じで、懸念事項などについても話し合った。
あと、主要な人物の近況なども教えて貰ったのだが
「ティルカニア嬢もマールセレナ嬢も、婚姻するという連絡は受けておりましたが……式に参加出来なかったのは残念ですわね」
ルカもセレナも、分領の行政官と結婚したのだ。ルカの相手は、鉱山を管理する担当者だから、分領でもかなり重要な人だと思うが……光魔法を普及して採掘作業の効率化を図っていたところ、求婚されたそうだ。セレナの相手は、港湾管理の担当者らしく、一緒に仕事をしているうちに、そういう関係になったようだ。
「今の所、夫婦仲は双方とも悪くないようよ?」
まあ、幸せなら何よりだ。
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