第325話 新領の発表は、各所に影響を及ぼしている
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予算審議後、宰相府の主導によりワターライカ島を伯爵領とするための調整が始まった。
領警備隊の編成や国軍からの引継ぎについては国防省に任せるようだが、領主の選定については各所から推薦者や選定基準の意見が挙がっているため、選定理由が普遍的で納得の行くものでないといけないようだ。
こればかりは鶴の一声で決まるものでもなく、全体定例会議でも領主選定に関して検討中である旨の話はあったが、なかなか進んでいないようだ。
政府全体が浮足立っている中、12月となり、早朝鍛練をしていても、王都はもうすぐ春だな……と感じるようになった。
そういえば今年は、チェルシー、アレク、ネリスが魔法学校を卒業する。チェルシーは15才になったらお兄様と結婚する予定だし、アレクは確か、同級生のデカントラル伯爵令嬢と婚約していたので、やはりそのうち結婚する筈だ。ネリスには婚約者はいないと聞いている。アルカドール領に帰ることなく、希望通り魔道具課で勤務することになっているようだ。
今年最後の御前会議は、領主選定に関して牽制し合う雰囲気のまま終了し、王都邸に戻ると、アレクが挨拶に来ていた。これまでも休日にやって来ることがあったので、そういった時はお茶をしたり鍛錬をしたりで、何だかんだと交流していたからね……。
「フィリス姉上、魔法学校を卒業しましたので、挨拶に参りました」
「まあ。卒業おめでとう。やはり男子は、暫く見ないと成長するわね。素敵になったわ」
「姉上にそのように褒められると、照れてしまいます……でも、有難うございます」
「暫く待っていて頂戴。着替えて来るわ。そのうちお父様もお戻りになるから、夕食でも如何?」
「有難うございます。では、暫く待たせて頂きます」
着替えて談話室で魔法学校在学中の話を聞いていると、お父様が戻って来たので、夕食を一緒に頂いた。最近お父様はワターライカ島関連で忙しかったが、アレクの在学中の話を聞いて、自分が学生だった頃を思い出したのか、機嫌が良かった。ただ、少々うんざりするような話もあった。
「学校でも、誰がワターライカ領主になるのかという噂で持ち切りでしたよ。私はテトラーデ領を継がねばなりませんから対象外ですが、多くの同級生が、自分こそが新領主になるのだ、と騒いでいました」
「現在有資格者を検討しているところだから何とも言えんが、能力、家柄、実績など、文句が出ないように選定する筈だ。今年魔法学校を卒業する者では、厳しいのではないか?」
「そうですよね……ただ、私より成績の良い者もその中におりましたので」
「素晴らしい領主となるためには、学校の成績だけではなく、どれだけ領や民のことを考え、行動するかが重要だと思いますわ。アレクなら、大丈夫ですわ」
「フィリス姉上……有難うございます」
その後も和やかな雰囲気の中夕食を終え、アレクはテトラーデ王都邸に戻った。
次の日、王妃殿下主催の茶会に参加するため、休みを取って朝から準備し、午後から王城に向かった。今回の参加者で大きな変化があるのは、東公夫人だろうか。聞くところによると、クリフノルド様が急遽家を継ぐことになったため、急いで結婚したらしい。この国ではなく、別の国の出身らしいが、今の所、あまり変な噂は聞かない。実際に話したことが無いので何とも言えないが。
茶会は王城の中庭で実施され、入場は三公夫人の入場後……ということで案内された。レクナルディア様とペルスラムナ様、それと初めて見る女性が座っていたので、こちらが東公夫人だろう。
知り合いの2人は軽い礼で終わったが、私と初めて顔を合わせる東公夫人は、私に対して通常の礼をした。緊張しているようなので、手早く挨拶を終わらせよう。
「フィリストリア・アルカドールです。宜しくお願いしますわ」
「お初にお目にかかります。アシュリノーゼ・イストルカレンです。今後とも宜しくお願いします」
「今後はフィリストリア、とお呼び下さいな。アシュリノーゼ様、とお呼びしても宜しいかしら?」
「承知致しました、フィリストリア様」
と、挨拶しているうちに、王妃殿下とレイナルクリア様が入場したので、全員が礼をして迎え、王妃殿下のお言葉で茶会が開始された。当初はやはり王妃殿下からのお声掛けからだ。
「フィリストリアは、今年も様々な方面で活躍したと聞いているわ。貴女のおかげで本当に助かっているわ」
「恐悦至極に存じます。今後も励ませて頂きます」
私へのお声掛けはいつになく簡単に終わり、他の3人に移ったが……この茶会にアシュリノーゼ様が初めて参加するということで、王妃殿下が気を配っているように思えた。
その他、近況を話していたのだが、どちらかというとレイナルクリア様の挨拶の為に開かれた茶会の時のような話題選びかな。他国から来たアシュリノーゼ様がいるからかな。
話を聞く限り、ティロケープ国の公爵家出身ということだが……ティロケープ国はメリゴート大陸の国の1つで、東公との関係が深い国の一つだ。特筆すべき点は無いものの、安定した治世を行っている国であり、現当主であるクリフノルド様の姉君であるエルミナリア様が嫁いだりしているから、関係強化を図っているのだろう。
アシュリノーゼ様は如才なく皆の質問に対応しているので、それなりの教育を受けているように見える。
レイナルクリア様はやはりお菓子に関する話題を振っていた。普通に他国のお菓子が気になっているのだろう。ティロケープ国は、蜂蜜や輸入した砂糖でお菓子を作っているそうだが、高価なのでさほど広まっていないそうだ。どちらかというと以前のロイドステア国に近いかな。
ただ、今後は帝国以外にも砂糖の輸出を開始するという話を聞いているので、お菓子のレシピを含めてティロケープ国にも輸出する可能性もあるけれども。
そのように和やかに会話をしていた中、王妃殿下が何気なく出したように見えた話題は、表面上はともかく、皆が警戒心を上げた。
「新たに領を任う者を選ぶとすれば、貴女達の立場から見て、何を重視するかしら?」
つまり、現在各所で議論されているワターライカ領の領主を選定する上で、領主夫人としての立場からは何を重視するのか、と王妃殿下は聞いているのだろう。雰囲気からすると、ここにいる全員に確認しているようだ。この場合、各派閥の領袖の夫人達にも意見を聞いたという事実が重要であるわけだ。
王妃殿下の考えをいち早く理解したと思われるレクナルディア様が、まず口を開いた。
「重要な事は、王家への忠誠と、統率力ですわ」
続いて、ペルスラムナ様が発言した。
「領の統治には、自主自立の精神や、それを支える知識や経験も重要ですわ」
また、様子を見ていたアシュリノーゼ様も回答した。
「新しい事を為すには、慣例に囚われない決断力も重要となりましょう」
やはりそれぞれ派閥を背負っている者として、派閥のアピールを含めて回答したようだ。まあ、私の場合、家自体は体制派だけど、それとはあまり関係なく発言した方が良さそうだ。なので、個人の見解を述べてみよう。
「領の統治者は、健康であることが第一ですわね。暗殺者などから身を護る術も必要でしょうから、いっそのこと、対象者を集めて試合で決めてみては如何でしょうか」
最近の雰囲気を見ていて、殴り合ってでもさっさと決めてしまえばいいのに……と内心思っていた私の回答を聞いた王妃殿下は、暫くすると、笑い始めた。
「ふふ……ふふふ……流石、フィリストリアですね……。他の意見も尤もだったのだけれど、貴女の意見も、陛下に伝えておくわね……ふふふ……」
私の回答は、どうやら王妃殿下の笑いのツボを突いたようだ……ちなみにレクナルディア様とペルスラムナ様も笑っていた……つまり、私らしい回答だったということかな。
その後、例のごとく自由に分かれて会話することになったが、私については知人の所を回ったり、今回の新作のお菓子についてレイナルクリア様と話をしているうちに終了となった。まあ、今回の件がどう転ぶかは、暫く様子見という所かな。
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