第323話 ワターライカ島の様子を見た
あけましておめでとうございます。
お読み頂き有難うございます。
今年も宜しくお願いします。
今週については、状況確認及び必要な支援を行うために、ワターライカ島に出張だ。特に、先日移住した地人族の生活環境や、米、大麦、さつまいも、各種豆類、野菜類やカカオなどの生育状態を確認して、適宜改善することになっている。
まずは仮行政舎から地人族の集落に向かった。
現地の職員に案内されて到着した地人族の住居は、やはり穴の中だった。
「集落長殿? 生活環境の確認に参りましたわ。改善を要する箇所がございましたら、仰って下さいな」
「おお、導師様! こんな凄ぇ鉱脈のある場所を紹介してくれて感謝しきれねえぜ! 環境は……俺達で何とかする……と言いたいところだが、俺たちゃ鍛冶がやりたくてこっちに来た訳だからな。出来りゃあ穴掘りするより槌を使いたいのよ。何やら凄ぇ力で工事してくれるってそこの人に聞いたからよ、図面を作ってみたんだが……こんな感じで棲み処を作って貰えねえか?」
渡された図面を見て、説明を受けながら集落の洞穴を作っていく。右手を地精霊と同化させ、左手で図面を見ながら作業を行った。それぞれの住居や集会場、鍛冶などの作業を行う場所を図面の通りに作っていく。
特に重要なのが、空気穴だ。いくら地人族とは言っても、空気が無ければ生きていけない。そして、鍛冶を行う際にも空気が重要だ。きちんと空気を送り込まないと、石炭や薪が不完全燃焼になるし、温度も上がらないからね……。その辺りは、当然地人族も知っているようで、空気穴については、かなり細かい注文が付いた。他にも排水の便を良くする処置は、衛生面もあるので念入りに行った。
「この図面に描かれている所は、概ね終わりましたわね」
「いやーっ、本当に導師様の力は凄ぇなあ! 居住空間だけじゃなく、空気穴はしっかり出来ているし、排水溝もそうそう詰まることは無さそうだ。天井も雨漏りしない様に補強してくれたし、これなら炉の作成に取り掛かれそうだぜ! 有難うよ」
「……そう言えば……ここの広間の様な所はまだ作っておりませんわね」
「ああ、そこはほら、あれだ、導師様が持って来た酒を造りたいんだが、その施設が今一つ判らんからな。俺達で検討しようとしていたんだ」
「そうですか? では、私の領地で造っておりますので、どなたか確認に来られますか?」
「何? それは願ってもないことだが、構わんのか?」
「ワターライカ島の移住の状況も安定して参りましたので、今後は単なる食糧の生産だけでなく、そういった文化面の発展を考えなければいけませんの。その一環ということですわ。そうでしたわよね?」
「はい、導師様の仰る通り、住民からは酒などの嗜好品を増やして欲しいという要望が相次いでおりますが、他領からの買い付けだけでは割高ですので、島内での酒造を開始いたしました。その際、強い要望のございました精霊酒の製造については、特殊な施設が必要ですので、アルカドール領での研修が予定されております」
この数年で、多くの領において精霊酒の製造が始まっている。当然特許使用料のようなものを貰った上で、製法を教えているのでアルカドール領は非常に儲かっているが、製造先が増えることで、味わいも様々なものになるだろうし、ウイスキーだけでなくブランデーなども研究している領があると聞いている。
ワターライカ島でも精霊酒を作るのはその流れの一環で妥当な話だ。土地が違うと味も変わるわけだし、他では造れない美味しい酒が出来る可能性もあるからね……。
ということで、酒造りを希望する地人族の人達も研修要員に加える調整を進めたりして、その日は終了した。
次の日は、仮行政舎において、各領巡回助言で実施しているような、精霊による島内の状況確認を行った。さつまいもについては、早い所では既に収穫されており、収穫されたさつまいもに問題は無かったが、やはりまだ小ぶりで細いものが多く、土壌の改善が必要だった。
もう少し排水を良くするといいらしいので、そのように助言した。田んぼについては早い所ではそろそろ収穫の時期らしく、問題無く育っていることを確認した。こちらはその後の様子を別途確認しよう。
その他、大麦や豆、野菜類などについても、幾つか肥料の変更などの話はあったが、概ね良い感じで栽培されていた。カカオ豆や南国フルーツについては、今のところは問題無さそうだが、結果が出るのは数年後なので様子見だ。
その他、島内のそれぞれの町や村についても概ね確認した。ここでは、基本的に生産者の生活拠点を村、工場や流通拠点周辺の生活基盤が集約した地域を町と呼んでいるが、住民数によって定めたものではなく、発展に伴い人口も増加するだろうから今後は変化するかもしれないが。
ワターライカ島と他領を比較した時、明確に異なるのが、地域内の魔物の有無だ。ワターライカ島は治安維持のために約2千名が配備されており、その他海兵団や飛行兵団の一部も常駐している。周りが島だからそういう編成なのだけれども、島内に魔物が全くいないので、歩兵は減らす方向で進んでいる。
精霊達にも確認しているが、ワターライカ島は基本的に精霊の力で作った島なので、魔物の発生や疫病の原因となる魔素溜まりが発生しづらいらしい。その影響もあってか、島の近海には魔素溜まりが発生しやすく、魔魚が頻繁に出没する海域があるけれども、それは海兵団が対処してくれている。
伯爵領であれば、領警備隊は3千名規模で配備されている。殆どが陸上の兵だし、治安維持の他にも魔物への対応も行っている。その他、国軍の派遣隊が配置されていて、国道や国境などの重要地域の警備などを行っているが、当然、魔物への対応も任務に含まれている。
魔物対応のために柵を作ったり警備したりする関係上、領の中心都市などの特定の地域を除き、そこまで町村を大きくすることは出来なかったのだが、ワターライカ島についてはその縛りは無い。そういった意味では、島の面積は分領以上伯爵領未満だが、人の住む領域として発展する余地は十分にある。
島の面積は、前世で考えると四国くらいに相当し、その上グアリスタ山付近を除けば全体的に平坦なのだから、潜在的な力は非常にあると考えて良い筈だ。将来どこまで発展するのか、非常に楽しみだ。
それと、島の主要施設である、それぞれの港も確認した。西にあるライカル港は、移民の輸送をはじめ、大陸側との流通の拠点でもあるので最も栄えている。港町もかなり人口が増えているようだ。
東にあるターレス港は、現在大きな船舶でも入れるように、埠頭を整備している。職員から聞いた話では、帝国などからも船がたまに来ているそうだが、商談と称してやって来るものの、実際は調査目的らしい。まあ、ターレス港の本格始動は暫く先だな。
北にあるハリス漁港は、現在かなり人が入って来ていて、漁師もそうだが、カマボコなどの魚介類加工産業施設を作っているため、そちら方面の関係者が多い。それに、島内では氷魔法の活用により、加工せずとも主要な町には魚が届くようになったので、島民は魚料理に親しんでいるようだ。米もあるわけだし、そのうち寿司を食べることも出来るようになるかもしれない。
一方、南にあるボルク漁港は、魚も獲ってはいるものの、どちらかというと海兵団が頻繁に魔魚、たまに魔鮫の対処に出て行く所という認識が島民には出来ているそうで、あまり人気が無い。
かなり海岸に近い所に魔素溜まりが発生しやすい海域があるそうで、島民の生活に影響を及ぼしそうな程に多いのであれば、何とかすべきだろうかと考えている所だ。
基本的には魔物化するのは大型魚なので、魔素溜まりが発生しやすい海域を石柱などで柵を作って囲んでしまえば、船舶が通行する際には気を付ける必要はあるが、魔物の発生は防止することが出来る。現地調査を行って、検討してみよう。
次の日、ボルク漁港に行って、水精霊達から魔素溜まりの発生しやすい海域を確認したところ、漁港から少し東の海岸に、見た感じで大体1kmくらいの範囲で、100mくらい沖までの範囲を囲めば良いという話だった。
幸い、この付近一帯の海底は10m程度に見えるので、石柱をあらかじめ大量に作って収納して運び、適宜設置していけば、そこまで大変な工事にはならないので、提案してみよう。
担当者に確認したところ、やはり魔魚の頻繁な発生には困っていたそうなので、発生を防止する処置については賛成して貰えた。現在、島民の住居や各施設の工事の為に大量に土砂を大陸側から運んで来て集積している所があるそうで、そこで石柱を作成してはどうかという提案があり、有難く利用させて貰った。
3日かけて大量に石柱を作り、何度か往復して石柱を運び、両足と左手を水精霊、右手を地精霊と同化させ、全体的に長方形のように海域を囲う形で石柱を沈めていった。柱はジグザグに置いて、海水の出入りが可能なように配置していった。
柱が設置できるように概略海水を避けるように操作し、石柱を置いて固定した。流石に1日では終わらず、2日かかったが、何とか囲うことが出来た。
沖の角に目印代わりに大きい柱を置いたし、目印を置いてくれるらしいので、以降の作業を行政舎の職員達に任せることにして、私は王都に戻った。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。