第322話 王子殿下への対応に困っていた
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政府全体定例会議に参加した。その内容のうち気になったのは、ワターライカ島関連、特に今回はグアリスタ山の鉱脈についての話だ。
丁度入れ違いになったようだが、地人族に確認して貰った後に、商務省工業課の職員が中心となって調査が開始されたそうだ。地の精霊術士も協力しているそうで、それなりに精度は高いようだ。
鉄や銅をはじめ、他にも希少な金属が多く含まれた土壌が広がっているそうで、地人族にはあの付近に村を作って貰う予定だが、地人族だけでなく、鉱山や冶金に関する技術者を派遣して本格的に活動を行う方向で話を進めているらしい。そこには地人族から技術を吸収しようという目論見もあるようだが、ワターライカ島が更に発展するのであれば、歓迎すべきことだろう。
10月最後の休日をのんびりと過ごし、11月に入った。恒例の合同洗礼式に同席し、精霊術士候補を確認したところ、火属性の少女が1名精霊視を持っていたので、報告しておいた。
今月末には予算審議があるため、各省はその準備に忙しいようだ。魔法省は魔道具研究所の創設が大きな新規事業となる他、継続事業もそれなりにある。
私が主に関わるのは、ワターライカ島関係と各領巡回助言だが、魔法省以外からも、建設省や農務省から幾つか調整が入っているし、当然のことながら、災害対処の編成にも入っているので、緊急時に備えることも忘れてはいけない。ということで、今の時期は結構来客があるのだが
「導師殿、来年の予算審議に関して相談があるのだが……」
今日はオスクダリウス殿下が相談にやって来ていた。
「特別補佐官殿、私のような小娘の話など、参考にもならないかもしれませんが、宜しいでしょうか?」
「いや、導師殿の視点が、どうも私や周りの者と違っているようで、非常に参考になるのだ。宜しく頼む」
「承知致しました。具体的には、どのようにお考えなのでしょうか?」
「実は……」
といった感じで結構な頻度で相談に来ている。殿下の仕事は、新魔法である重力魔法をどう活用していくかという話なので、将来の絵図が必要になって来るから、前世を知っている私の視点が参考になるだろう、とは思っているので、それとなく前世の知識を活用して助言させて貰っているのだけれども。
「そうですわね……現段階では殿下の仰る通り、空動車などによって情報・流通面での改革が成されつつあります。他にも、王城などで昇降器の運用が始まり、鉱山など、特に重量物を運搬する場所への導入も検討されておりますわ。来年はそれらの強化を進めて行く、という方向性は宜しいですわね」
「そうか。それらの更なる深化を図ると。……成程、他にも考えがあるのだな?」
「ええ。現在私が考えているのは2点ですわ。まず1点目ですが、来年は一旦、国民から意見を聴取してみては如何でしょうか? こう申しては何ですが、我々の目線と一般国民の目線は違いますわ。生活様式が異なっておりますから、具体的に何が必要なのかも、当然異なります」
「しかし、政策に反映可能な意見が平民から出るかは、正直怪しい気がするが……」
「そこは、国民議会と連携すれば宜しいかと存じますわ。万に一つでも有用な意見が挙がれば、吸い上げることは可能でしょう。そしてこれは、国民に意識改革を求めるという目的もございます。重力魔法という存在を周知し、今後優れた使用者を増加させるとともに、事故の未然防止を図るための準備とも言えますわね」
「成程。そういった観点は無かった。参考にさせて貰おう」
「有難く存じます。2点目ですが、これは流通面での具体案の1つ……とまでは申しませんが、研究の1つとお考え下さい。空動車の技術を活用し、定期的な輸送経路を整備するのですわ」
要するに、前世で言うところの鉄道だ。恐らく今後は必要になって来ると思うんだよね……。
「ふむ……確かその話は、分科会でも似たような内容を聞いたことがあるな」
「はい。その際は『大量の魔力をどうするか』『需要はあるのか』といった疑問が解決出来なかったため、現在は検討されておりませんが、昨今の情勢を見る限り、ワターライカ島でならば、需要は発生するのではないかと考えております」
「成程。あの島であれば、そういった先進的な技術も取り入れやすいかもしれん。最近では良質な鉱脈の話も出ているし、将来的には面白い話かもしれんな」
「はい。それと、大量の魔力が必要、という点に関しましても、今後の研究次第ですが、解決する可能性も否定できませんわ。現に、風力を魔力に変換するという技術も実用化しておりますから、大量に魔力を発生させる、又は何らかの現象を利用できる技術も開発することが出来るかもしれませんわ」
蒸気機関など、何かしらの現象で発生するエネルギーを魔力に変換する技術とかが生まれれば良いのだけれど、そこは正直私も分からない分野だ。こちらの世界の技術と上手く組み合わせることが出来れば良いのだけれどね……。
「そこは見えない所ではあるが、研究命題として掲げるのには相応しい題材とも言えるな。有難く参考にさせて貰おう」
「特別補佐官殿の業務は、我が国の将来にも関わります。少しでも参考になるのであれば、光栄の極みに存じますわ」
「ああ。非常に助かっている。……それで……その……礼と言っては何なのだが……」
……ここ暫く、殿下の対応を少々間違えたか、と考えているのがこういった所だ。どうやら殿下は私をお気に召した、らしい? のだ。業務の話ならば問題無いのだが、結構頻繁に、お誘いを掛けて来る。勿論、基本的には例の神託もあるので、対外的にさしさわりの無い程度なのだが……感情が読めるのも考え物だね……。
「大変有難いのですが……実は……国防大臣との会食の予定を入れておりまして……」
「あ、ああ、そうなのか……それは申し訳ない……」
お断りする理由に結構使うのが、国防大臣であるお父様だったりする。……では今日も、昼食は事前調整無しの会食かな。お父様的には嬉しいらしいけれど。
ということで昼食の時間になったので、宰相府の建物に向かう。一応お父様の方にも連絡は入れたので、やっては来るだろう……何か喜び勇んで来たね。まあ、有難く合流させて貰おう。
お父様は基本的に、宰相府にある領主用食堂で昼食を取るから、一緒に食事をすると、自然と会食形式になってしまうのよね……それを利用しているのだけれども。というわけで昼食だ。最近はデザートも出るようになったので、結構気に入っている。
「それで……今日も殿下の誘いがあったのか? 全く困ったものだ。こちらは迂闊な対応が出来んというのに」
「殿下も私の事情はご存じでしょうに……そもそも、私よりも相応しい方がいらっしゃいますわ」
「体制派としてはそちらの方針なのだがな……」
オスクダリウス殿下については、特別補佐官として実績を積んだ後、臣籍降下して法服公爵となる予定らしい。つまり、現外務大臣と同様の扱いだ。なので、王太子殿下が即位した後も積極的にその治世を支える立場になって貰いたいわけだ。
そういった意味では、私がお相手になってしまうとあまり宜しくないそうで、下手をすると最近勢力が低下している改革派からの、何らかの工作が行われる可能性もあるそうだ。
なので、体制派としては本人の希望もあり、ライスエミナ様押しなのだけれど……噂によると、オスクダリウス殿下が乗り気でないそうだ。やはりここは、ライスエミナ様にもっと頑張って貰わなければいけないかもしれない。
美味しい食事で気分を盛り上げて、午後も問題無く過ごすことが出来た。そういえばそろそろ年末の王妃殿下主催の茶会の準備が必要だね……最近は体型もほぼ変わらないから、ドレスを作るのも予約さえ入れておけば、帰宅時に寄って簡単に測ったり合わせるだけになっていて、結構楽なのよね……クラリアに頼んでおこう。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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