第321話 ウィサワーゴ国の火山対応 4
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私が火龍様に呼ばれた話は、王城ではニュースになったらしく、国王に報告が終ってからも、他の王族や重臣らしき人達に呼ばれて同様の話をした。
特に、幼い王子や王女には火龍様の容姿などの話が受けたらしく、簡単にイラストを描いて渡したり、実は導師服の材料が四龍のたてがみであるということなどを話すと、非常に喜んでくれた。導師服をあげるのは無理だけどね。
そんなことをやっていると、例の集落の長達が王城にやって来たので、会議室らしき所で話を聞く事になった。地人族は、妖精族などと同様、王と民との距離が近いようだ。我が国や他の人間族の国だと、こんな風に直接話したりすることは無いだろうからね……。集落の長達は、事前に用件は聞いていたようで、国王に対して懇願した。
「王様、儂らにあの地を捨てろと仰るのか! 後生ですからあの地にいさせて下され!」
「ならん。あの地以外では、国土への被害が更に増すことになる。そして、お主らも死んではならぬ。今、新天地となる場所を探して居る所だ」
「だが王様……そんな都合のいい所なんぞあるのか? この国でさえ、鉱脈は取り合いで、とてもじゃないが儂ら300名の入る余地など無いし、他国なら猶更だ。それならいっそのこと、あの地に埋まりたいわい」
「待て。確かにこの国にも、周辺国にもその様な都合の良い所は無かったが……実は、ここにいる精霊導師殿がいるロイドステア国に、現在使っていない鉱脈があるそうなのだ。そしてお主らに、そこに住んではどうかと申されておるのだ。お主達さえ良ければ、国から離れることにはなるが、そこに住むという案がある」
「ロイドステア国……聞いたことが無い。もし使ってない鉱脈があるなら、大抵の環境には耐えられると思うが……その話は誠なのでしょうか……あー、精霊導師殿? で宜しいか?」
「そうですわね……貴方達がお気に召すかは正直な所、判りかねますが、実際にご案内することは可能ですわよ? ご都合さえ宜しければ、今からでも」
念の為に、案内が可能なように、事前調整を行っていたのだ。まあ、実際に見てみないと判断出来ないだろうからね……。
そして、集落の長2名、文官らしき人1名を連れて、テルフィや警護騎士達も同行し、転移門を使って一旦ロイドステアに戻り、更にワターライカ島に移動した。そこから件の鉱脈? のあるグアリスタ山南部に空動車で移動した。この際、ワターライカ島の職員にも同行して貰った。
そして、地人族達に土地を見て貰ったのだが……
「なんじゃこりゃあ! この国は、こんな土地を放置しておるのか! 勿体なさ過ぎるわい!」
「儂はあの付近まで確認して来る。お主はあちらの方を見て来い。宝の山じゃぞ!」
「精霊導師様? あの2つの集落の者以外でも、こちらへの移民を許可して頂くことは、可能でしょうか?」
等々、想像以上に好評だった。私も地精霊に聞いて確認したのだが、元々この一帯は、金属分が通常よりかなり多かったらしく、それを一か所に集めたから、質においても量においても物凄く良い鉱脈になっているそうだ。元々海底だったから、熱水鉱床などが出来ていた可能性もあるし、底の方からもマグマを引っ張ってきたから、重金属成分が沢山含まれていたのかもしれない。
それと、職員に確認したところ、集落民が合わせて約300名程度という話であれば、多少増えても問題は無いそうなので、あちらの文官には問題無い旨の回答をしておいた。
地人族は、土を見たり、匂いを嗅いだだけで、大まかな成分などが判るそうで……私達には、はしゃぎまわっているようにしか見えなかったが……地人族の人達が簡易的に調査をして、その日は終了した。
仮行政舎の宿泊施設に宿泊し、今後この地の主な食事となりそうなものを出したが、特に問題は無いとのことであった。あと、地人族は酒が好きだという話だったので、試しに精霊酒を出したところ
「何じゃこの酒は! 儂らの酒より美味い!」
「精霊導師様! この酒はどうやって造っているのだろうか?」
等々、非常に好評だった。簡単に製法を話すと
「成程……儂らの国では造れんわけだ。恐らく地熱が高すぎるのだろうな」
「この地ならこの酒は造れそうだな……うちの集落に何人か、酒造りの上手い奴がいるぞ」
「うちにも何人かいるぞ。造らせてみるか?」
と、相談しだした。どうやら、移住の話は、乗り気になってくれているようだ。
次の日、転移門を伝ってウィサワーゴ国の王城に移動して、再び国王と話した。集落の長達は、皆を説得するから、是非移住させて欲しいと懇願していた。同行していた文官も、働き口が無い者のうち、移住を希望する者がいたら、許可を頂きたい、と話していた。
どうやら地人族は、集落の人数が増えすぎると、集落から追い出してしまうことが頻繁にあるらしく、そういった人達は軍に入るか、運が良ければ他国の鍛冶屋や鉱山などで働いたり、そうでなければ冒険者になって他国を回ったりしているそうだ。
確かに資源は有限だし、仕方の無いところではあるのだけれど、悲しいものがある。だから今回の話は、地人族からすれば、非常に幸運な事らしいが、そう思って頂けるなら、こちらとしても有難い。
集落の長達は、集落民を説得するため戻って行った。空動車で輸送したので、その日のうちにそれぞれの集落に到着した。その際頼まれて、精霊酒をいくらかお土産に持たせた。説得に有効らしい。
それから数日の間、王城でウィサワーゴ国やカナイ大陸の情勢を聞いたり、ラプハラに精霊術士の鍛錬の要領を教えていたところ、火の大精霊がやって来た。
『愛し子よ。当初の予想より早く、6日後には大規模な噴火が発生するようです。急がねばなりません』
「まあ、それは大変ですわ。直ちに伝えましょう」
ウィサワーゴ国王や、大臣達に状況を伝え、直ちに対策を取って貰うことにした。集落民の移動が可能なように、軍を派遣することになった。集落までの移動には、3日掛かるらしい。地表に出て移動するので魔物達に襲われる可能性もある。余裕は無い状態だ。
私達はそれぞれの集落に先行して、状況を知らせた。幸い、どちらの集落民も、移民に賛成してくれたそうで、移住の準備をすることになった。地人族はがっしりした見た目通り、かなり力のある種族らしく、重そうな鍛冶道具なども簡単に持ち出していた。ただ、炉などは持ち出せる物ではないので諦めて貰ったが、非常に残念そうに見えた。
移住の準備は任せて問題無いだろう。後は、噴火の防止だけれど、こちらは手伝うことは無いか、火の大精霊に聞いてみよう。
噴火が近いからか沢山いる火精霊の一体に、大精霊への仲介を頼んだところ、暫くして、火の大精霊がやって来たので、何か手伝うことは無いか、聞いてみた。
『丁度良かった。岩漿を湧出させる際、出来れば海には入れないで欲しいと、水のから要望がありましてね。手伝って頂けるのは助かります』
「では、この周辺に地の壁を作り、岩漿が壁を超えそうであれば、適宜熱を奪い、固めますわ」
『宜しくお願いします』
それから数日間で、マグマの湧出地点を中心として、概ね半径10kmくらいの円状の地壁を作った。空動車に乗りながら、左手を地精霊と同化させて作ったので、さほど問題のある作業では無かったが、それより遥かに広がっている荒野を見て、改めて火龍様の力の凄まじさを感じた。
その間に、避難は順調に進み、人がいなくなったのを確認したので、火の大精霊と力を合わせて噴火を収めることにした。
火の大精霊が湧出地点からマグマを噴出させたため、凄い勢いでマグマが広がって行く。重力魔法で浮かび、少し離れた上空から状況を確認していた私は、予想通り地壁に到着しそうになっても全く湧出が収まらないのを確認して、和合を始めた。
【我が魂の同胞たる火精霊よ。我と共に在れ】
火精霊と和合した私は、湧出地点を中心とした地域を掌握して、マグマが地壁を超えそうになったら熱を奪い、固めていった。火の大精霊はまだまだマグマを湧出させている。噴火が収まるまでは、まだ湧出させる必要があるようだ。
私は引き続き、マグマを固めていった。暫くすると、火の大精霊から
『そろそろ終了します。これなら、当分の間は噴火の心配は無いでしょう』
と言われたので、湧出が止まったのを確認して、溜まっていたマグマを固めていき、終了したので和合を解いた。結果的になだらかな山の様になってしまったが、問題無いだろう。
火の大精霊にお礼を言って王城に戻り、国王に状況を報告した所、非常に感謝された。後は、避難して来た地人族を、移民として我が国に迎えないとね。
2日後にやって来た避難民達には、魔力の都合上何日かに分けてロイドステア国まで移って貰った。流石にワターライカ島まで行くと、都合6回も転移門を使うことになるので、王都からは自分達の足と船で行って貰うことになった。
地人族達の、ロイドステア国までの移送も終了し、国王達に見送られて王都に戻って来た。結局2つの集落民300名以外にも、100名ほど追加となったが、特に問題は無かったようだ。彼らはプレドックまで徒歩で移動し、海兵団の船でワターライカ島まで移動することになっている。
私は陛下や宰相閣下、お父様達に、今回の内容を報告して任務完了となった。お疲れ様でした。
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