第320話 ウィサワーゴ国の火山対応 3
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まだ2日程待機ということで、王城の部屋で本を読んでいたところ、窓に何かがやって来た。
『愛し子よ。我は火龍様の使い。我が主が貴殿と会いたいと仰っているのだが、来て頂けないだろうか』
……どうやら神獣の様だ。前世で言うところのマレー熊の様な姿をしている。
この国には火龍様が棲んでいるという事は知っていたが……急にこの国に来る話が出たのでこちらから会おうという考えは特に無かったが、今は自由時間だし余裕があるから、お誘いを受けようかな。
「神獣様、現在は時間的には問題無いのですが、いつ頃こちらに戻ることが出来るのでしょうか」
『ここから出た所に鳥を待たせている。それで移動すれば、今日中には戻れる筈だ』
「それならば問題ございませんわ。断りを入れて参りますので、少々お待ち下さい」
部屋を出て、城の侍従らしき人を見つけたので、断りを入れるため話し掛けた。
「実は今、私の所に火龍様の眷属の神獣様がいらしておりまして、お招きを受けているのですが、本日中には戻りますので、外出して宜しいでしょうか?」
「何と! 勿論宜しいですとも! 戻られましたら私共にもお話の内容をお教え下さい!」
……まあ、許可は頂けたし、後はテルフィ達に、火龍様の所に行く旨を伝えて、待機していた熊神獣に話し掛けた。
「神獣様、出発致しましょう」
それから熊神獣の案内により城を出て、重力魔法で移動して穴から地表に出ると、ややなだらかな山の山麓付近だったらしく、あまり周囲が見えなかったが、うっそうと繁った熱帯雨林のような森の中であることは分かった。
暦の上では季節は冬の筈だが、かなり暑いので、導師服は本当に有り難い。出て来た穴から少し離れた所に、確かに大きな鳥の姿をした神獣がおり、熊神獣と私は鳥神獣に乗り、移動した。
この国は、火龍様が監視しているだけあって、魔物が多く発生するらしいが、大抵は地人族が狩って食料にしているらしい。
聞いた話では、非常に優れた武具を沢山作っているそうで、それらを装備して大抵の魔物は難なく倒してしまうそうだ。たまに魔物暴走なども起こるが、犠牲は出るものの、対処は出来ているらしい。先程の対応を見る限りでは、火龍様ともそれなりに接触しているだろうし、魔物に関しては問題無いのだろうね。
「そういえば、火龍様は何方にいらっしゃるのでしょうか」
『主は、ここから北に向かった先にある、ケアルフィ山の中腹におわす』
確かその山は……現在の騒動の渦中にある活火山では?
「その山はもうすぐ大噴火を起こすと言われており、ウィサワーゴ国では騒ぎになっておりますが……火龍様や貴方達神獣様は、大丈夫なのでしょうか?」
『心配無い。我々は多少熱かろうが平気であるし、火龍様に至っては、気の向いた時には火口に入って湯浴みの様に溶岩と戯れておる。まあ、噴火自体は、火大殿が収めると聞いておるし、主は問題視しておらんな』
火龍様達は、人間の常識では測れない存在のようだ。まあ、神様が造った存在だしね。
鳥神獣に乗って暫く移動したところ、広範囲に亘って木が生えていない荒れ地が遠くに見えた。良く見ると、地表面がガラスの様になっているらしい。気になったので熊神獣に聞いてみた。
「神獣様、あの地は他と異なり、樹木が全く生えておりませんが、一体何が起こったのでしょうか?」
『あの地は昔、主が御力を振るわれたため、今でも不毛の地となっておる。確か人の間では『火龍の決戦場』という名で呼ばれていたな』
「では、地人族や火の大精霊殿が岩漿を湧出させようとしているのは、あの地なのですね」
『成程。あの地なら被害は少なかろうし、丁度良いのではないか?』
確かにあんな風になってしまうのでは……おいそれと力を振るうわけにはいかないよね。やはり魔物暴走は、出来れば人の力で収めるのが望ましいな。しかし……その時は、一体何があったのだろう。非常に大きな魔物暴走でも発生したのだろうか?
そのようなことを考えていると、大きな火山が見えて来た。あれがケアルフィ山だろう。灰も舞っているようだが、導師服の力で弾かれているようだ。
中腹に、岩に囲まれた広場のような所があり、更にそこには、大きな穴があり、強大な力を感じる。恐らくそこに火龍様がいるのだろう。広場に鳥神獣が降り、私は熊神獣に案内されて、大穴の前に来た。
『主、愛し子をお連れしました』
熊神獣がそう言うと、大穴の中で何かが動く気配があった。礼をして待っていると、全身が真紅の龍が現れた。
『愛し子よ、よくぞ参った。我は火龍、この地に任じられておる監視者だ』
「火龍様、お初にお目にかかります。私はフィリストリア・アルカドール。精霊女王様の加護を賜りし者です。此の度は、御目通りできましたこと、誠に有難く存じます」
『うむ。お主がこちらに来ていると火大から聞いたのでな。お主とは一度話しておきたかったのだ』
「まあ、それは誠に光栄でございます。それに火龍様には、たてがみを供して頂いておりますので、一度お礼を申したかったのですわ」
『成程、役に立っておるならそれで良い。ところで、この地の魔物についてどう思う』
「この地は多種多様な動物がおりますから、それらから生まれる魔物は、油断の出来ぬ相手ではございます。しかしながら、この地に住まう地人族は上手く対処しているようですわね」
『そうか。他の地を実際に見ておるお主が申すのであれば、問題は無さそうだな』
「そう言えば……こちらに移動する際に、以前火龍様が御力を振るわれた場所がございましたが……あの時には一体何が起こったのでしょうか」
『むう? あれは……人の魔物と戦った時のものだ』
おや? 人は魔物化しないと聞いていたのだけれど? いや、唯一の例外があったか。こちらの世界ではおとぎ話の様に話されている内容なのだが……。
「人の魔物? もしかするとそれは……『魔王』と呼ばれる存在のことでしょうか?」
『その通りだ。ここ1500年くらいの間に3度現れておるが……寿命のある人の世では伝わり辛いものなのだろうな……』
どうやら、今の時代でおとぎ話のように話されている「魔王」は、実在したらしい。初めて知ったよ。
それから火龍様は、当時の魔王との戦いの様子を語ってくれた。どうやら、1500年前に現れた最初の魔王は、火龍様の所にやって来たらしく、自身が倒すしかないと悟った火龍様が討伐したそうだ。
ただし、その地となった「火龍の決戦場」は、今でも不毛の地になっているし、そのような凄まじい戦いでも魔王は倒せず、最終的にはこのケアルフィ山の火口に、自分もろとも魔王を落として消滅させたらしい。その際に火龍様は瀕死の重傷を負って、10年ほど火口で過ごして傷を癒していたそうだ。
「火龍様ほどのお方でも相討ち同然のことをせねば倒せぬ『魔王』とは、どのような存在なのでしょうか」
『正直なところ、我にも細部は良く分からんのだ。あれが世界の破壊者であり、我等の敵である、ということは理解出来たがな。そして、我は戦闘の相性が良く、かつケアルフィ山の近くで戦ったから倒せたのだろうが、他の龍では、あれは倒せんだろう。我の所に真っ先に来たのは、ある意味良かったのかもしれんな』
「それと、魔王は先程、他に2回現れたという話でしたが……どのように討伐されたのでしょうか?」
『神の意志により討伐された、と聞いておるが……細部はカラートアミ教に伝わっている筈だ』
そう言えば……今はユレート歴1525年だ。そして、ユレート歴とは、カラートアミ教が創立した年を紀元とする数え方だ。もしかすると、カラートアミ教には魔王に関連する何かがあるのかもしれない。ただしそれは、一般に情報が流れていないところを見る限り、あまり広めて良い内容ではなさそうだ。火龍様にも確認したが
『あまりこの件は、流布しないようにして貰えると有難い』
と仰っていたので、とりあえず戻ってからの報告は、大規模な魔物暴走の話ということにしておこうか。
その他、年に何回か龍の間で念話での会合を行っているそうで、たまに私の話題が出て来ていたので、一度会ってみたかった旨の話を聞いた。今の所、風龍様とは会ったことは無いが、そのうち機会があれば、お呼びがかかるかもしれないな。
色々話をした後、火龍様の元を辞し、熊神獣と鳥神獣に連れられて、王城に戻って来たが……すぐに国王の所に連れて行かれ、どんな話をしたのか報告させられた。まあ、差し障りのない内容を報告させて貰ったのだけれども。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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