第318話 ウィサワーゴ国の火山対応 1
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
休日に入り、午前中はいつものように鍛錬を行い、午後は読書を行っていたところ、火精霊が
『今から大精霊様がこちらに来るらしいよ?』
と言った。一体何だろう?
暫くすると、火の大精霊が現れた。
『愛し子よ、お久しぶりですね』
「火の大精霊殿、お久しぶりですわね。それでどのようなご用件なのでしょうか?」
『実はご助力をお願いしたいのですよ』
と言って、状況を話してくれた。カナイ大陸にあるウィサワーゴ国に、大きな火山があるのだが、大噴火が迫っているため、被害を最小限にしたいということだった。一旦噴火させてしまうと、火山灰などにより、ウィサワーゴ国だけでなく世界中が何十年も寒冷化してしまうそうで、噴火する前に、別の場所からマグマを噴出させることで解決したかったそうなのだが……。
「そこに問題が発生しているのですね?」
『ええ。噴出させる候補地は幾つか絞ったのですが、そこにも人が生活していますので、私の一存で行うわけにもいきません。つまり、人達の話を聞いた上で処置を行いたいのです』
「成程。ちなみに、その国には精霊術士はいないのでしょうか?」
『いることにはいるのですが、若い個体のようで、交渉が全く進まないのですよ。あまりこちらの意図が伝わっていないようにも見えますし。ですのでいっそのこと、貴女に力を貸して頂いて、私が姿を現して交渉しようと考えた次第です』
うーむ、確かに精霊術士自身に会話能力が無いと、なかなか話が進みそうにない案件だし、そもそも精霊との意思疎通能力が高くないと、込み入った話をするのも難しいだろう。
「分かりましたわ。ちなみにその火山の噴火は、今にも起こりそうなのでしょうか?」
『いえ、人の避難にかかる日数も考慮しておりますので、まだ猶予はあります』
「では、明日宰相閣下にご相談したいのですが、宜しいでしょうか?」
『そうですね。貴女の都合もあるでしょうから。私も同席させて頂いても宜しいでしょうか?』
「そうですわね。お願いしますわ」
『では、宜しくお願いします』
そうして、火の大精霊は消えて行った。
とりあえず、お父様には簡単に説明したが、特に反対はされなかった。まあ、今回は話を進める手助けに行くだけなので、危険な要素も少ないからね……。まあ、警護の編成は考えるそうだけれど。
それと、念の為ナビタンにも、カナイ大陸に行く用事が出来そうなことを伝えたが、出身であるサットパータ国との交流の状況が良く分からないそうで、こちらの生活も気に入っているから、無理にあちらに行きたいとは思わないそうだ。まあ、ウィサワーゴ国は地人族の国らしいしね……。
次の日、宰相閣下の所に行き、火の大精霊も呼んで姿を見せて貰い、状況を話した。
「成程。確かに精霊導師殿がウィサワーゴ国に行き、調整の支援をするのが最良かもしれませんな。避難が進まず、余計な被害を出してしまうのは宜しくない。ましてや火山を噴火させてしまうと、ウィサワーゴ国だけの問題ではなくなるのですから。ただ……国交の無いウィサワーゴ国に精霊導師殿を派遣できるかどうかは、微妙なところかもしれませんな」
「先日、サウスエッド国に行った際、ウィサワーゴ国から使節が来ていたとのことでしたから……もしかするとこの件に関する交渉だったのかもしれませんが……少なくともサウスエッド国を介するのであれば調整可能と思われますわ」
「そうだな……では、外務省に確認してみよう」
宰相閣下はそう言うと、宰相補佐官の一人にウィサワーゴ国担当の者を呼ぶよう命じた。
暫くすると、外交課長と、各国資料課? の職員がやって来た。ちなみに現在、外務大臣は出張中だ。外交課長達は、私と、隣にいる火の大精霊に驚いたようだが、気を取り直して宰相閣下に礼をした。
「……宰相閣下、参りました。何用でございましょうか」
「実は、ウィサワーゴ国で問題が起こっているようでな」
と言って、状況を説明した。
「成程……それでサウスエッド国から、情報提供の体を取った調整の案件が来ていたのですな」
「む? それはどのような話だ」
「要約すれば、地人族を大量に移民として引き受けることが可能か、という内容ですな」
「それは、状況が見えぬと判断に困る内容だな。多少であれば、ワターライカ島に受け入れる余地があるだろうが……」
「はい。私どももそのように回答したいと考えておりましたが、どうも地人族は、鉱山の近傍が良いと主張しているようでして……」
地人族の特徴は、一言で言えば職人集団で、特に鍛冶や建築の技術に優れていて、それを誇りに生きていると聞いたけれど……何か付き合い辛そうな人達だな……。
そう言えば、ワターライカ島の環境を整える際、重金属を一か所に固めたけれど、現在は手を付けてないんだよな……。かなりの量が埋蔵されている筈なんだよね……。
「ワターライカ島であれば、鉱山……と申しますか、重金属類をグアリスタ山の南部に集中させておりますので、その要望にも応えられると思いますわ」
「何と! それならば、地人族に移民を勧めることも可能ですな」
地人族の部落があることで国全体の技術が発展しているサウスエッド国の例があるため、地人族の受け入れ自体は国としても悪くない話らしく、外交課長は乗り気だった。
「話を総合すると、火山対応のため、現在ある地人族の集落の幾つかを廃する必要があるが、意思疎通が上手く行かないことから絞り込みのための調整が進んでおらず、避難者数も見積もれない状況のようだ。なお、我が国はワターライカ島に幾分受け入れの余地がある、ということだな」
「恐らくはそのような状況なのでしょう。我々もようやく合点がいきました。であるならば、ここは導師様に調整の補助をお願い頂き、可能であれば地人族の移民を勧めては如何でしょうか?」
「精霊導師殿、頼めるだろうか」
「宰相閣下、承知致しましたわ。大精霊殿、それで宜しいでしょうか」
『私としては、火山の対応が進むのであれば問題ありません』
ということでこちらの話はまとまり、私はウィサワーゴ国に出張することになった。外務省はサウスエッド国の駐在大使にここで決めた内容で回答し、火の大精霊は、ウィサワーゴ国の精霊術士を通じて、私がそちらに出向くことを説明するそうだ。
移動自体は、災害対処の名目でカラートアミ教の転移門を使わせて貰うよう外務省が調整した。なお、メンバーは私とテルフィの他、外務省から担当職員が1名、宰相補佐官が1名と、護衛として近衛騎士隊から10名が選抜された。私の空動車に加え、宰相府用の空動車も使えることになったので、あちらでの移動も問題無いだろう。
出張がどのくらいの期間になるかは不明だが、とりあえず2週間程度と見積もり、業務調整を行った。
話合いから3日経過したところで、火の大精霊が私の所にやって来た。
『愛し子よ、ウィサワーゴ国の方は、貴女が出向かれることを承諾しました』
「では、出発させて頂きましょう」
『有難うございます。ただ、幾分認識の齟齬があると思いますので、その辺りは申し訳ありませんが現地で対応願います』
「現状では仕方ありませんわね。皆に連絡して、準備致しますわ」
それからメンバーに集まって貰い、空動車に乗って大聖堂まで移動した。
ここからは一旦空動車を収納して、転移門を使った移動だ。大聖堂から神域を経由し、ウィサワーゴ国の大聖堂に移動しよう。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。