第316話 人材交流は進展しているようだ
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収穫祭が終了し、通常の生活に戻った。今月は業務的には大きなものは無いが、人材交流の件で、王太子夫妻とともにサウスエッドに行くことになっている。
今回については、サウスエッド国の技術を学んでいる人達の様子を見ることもあるが、サウスエッド国からワターライカ島に移住して作物の栽培を行う人達を迎えることが目的だ。
出張当日となり、王太子一家、すなわち王太子殿下、レイナルクリア様、リーディラゼフト王子殿下、そして昨年お生まれになったメイリスデニア王女殿下や侍女達、人材交流関係の職員達に同行し、サウスエッド国に転移した。
喜色満面なサウスエッド国王が出迎えているのはいつものことなので適切に対応し、私の方は任された仕事を進めよう。
まずは、精霊術士に関した内容だ。宮廷魔導師長と合流して、精霊視を持つ少女達を確認させて貰った。今回もかなりの数が集まっていたが、火属性と地属性の子が1人ずつ、精霊視を持つことが確認出来た。
この子達は、サウスエッド国で基礎教育を受けた後、2年間ロイドステア国で研修することになっている。現在は水属性の子1名が研修中で、第1期に該当するロストナ・ラゲールとセナデア・ビークスについては研修を終了し、こちらの政府で働いている。
今日はロストナだけいるとのことで、セナデアは各地を回って農作物の様子を見ているそうだ。まあ、セナデアは地属性だから、そうなるよね……。
ということで、ロストナに会って、精霊術士の仕事に関して相談に乗ることにした。
「ロストナさん、お久しぶりね。調子は如何かしら?」
「導師様、お久しぶりです! こちらでは色々仕事があって忙しいです。早く精霊術士を増やしたいです! 何とかなりませんかね」
「今回候補の方を確認しましたが、火属性と地属性の方が1名ずつおりましたわ。確証はありませんが、基本的に精霊の活動が活発な国ほど、精霊視を持つ者は増加する傾向にありますから、貴女達が活躍すれば、今後精霊術士は増加していくかもしれませんわね」
「それでは、まだまだ楽は出来そうにありませんね……」
その後ロストナにこちらの話を聞いたところ、セナデアはやはり各地の農地の状態を確認するのに忙しいそうだが、おかげでサウスエッド国内の収穫量が上がっているらしい。ロストナは基本的に王都にいるものの、王都周辺の天気予報を行ったり、魔法士達の訓練などに参加したり、王城で開かれる宴などでは毒見や警備支援などを行ったりと、引っ張りだこらしい。
「ロストナ嬢もセナデア嬢も期待した以上に成果を出してくれておりますので、貴国には本当に感謝しております」
「彼女達が真摯に研修に取り組んだ結果ですわ。我が国も技術を学ばせて頂いておりますから、お互い様ですわ」
それから、ロストナを激励した後別れて、王太子殿下に合流した。
土木工事業者、鍛冶屋、工芸品店、料理店など、研修者が配置されている所を回った。研修の終了については、関係省の担当者が判断するところなので何とも言えないが、どこもかなりの成果が出ているようだ。
昼食も、研修者が作ったサウスエッド風の料理を頂いたが、非常に美味しかった。
「そういえば導師殿、サウスエッド国でも『こめ』は育つだろうか?」
「王太子殿下、米は元々、現ラルプシウス国が原産ですから、問題無いとは思いますわ」
「近年我が国で『こめ』の人気が高まっているのを知り、サウスエッド国でも栽培してみたいと言われてね。特に我が国で開発した料理、辛み煮掛け飯を大使が大層気に入って、政府に働き掛けたそうだよ」
「まあ、それは光栄ですわ。こちらでも米を使った新しい料理などが作られて欲しいものですわね」
人や物の交流によって、新しい物が生まれていくのは、やはり面白い。とは言え、気候や植生が違うわけだから、こちらでそのまま栽培するのが良いのかは微妙なところだな……。
現在ロイドステアで作っている米は、前世でいうところのジャポニカ米だから、サウスエッドの料理を考えると、インディカ米のような感じに品種改良した方が良いかもしれないな。まあ……そこはこちらの人達次第だけれども。
その後は歓迎の宴などに参加したが……まあ、いつも通り壁の花になっていたので特に面白みは無かったが、レイナルクリア様がテーブルに並んでいたお菓子について、私の所で少々不満を漏らしていた。
「サウスエッドでも、甘味を研究するべきですわ。確かに伝統的な甘味も良い物ですが、近年のロイドステアはそれに加えて革新的な甘味が続々と作られているのですから、このままでは取り残されてしまいますわ」
「お気持ちは解りますが、その辺りは今ロイドステアに来ている職人達がサウスエッドに戻られてからの方が宜しいですわね」
「確かにその方が効果的ですわね。では、今いる職人達には、現在の研究成果を確実に覚えて貰わないといけませんわね……帰り次第着手しましょう!」
相変わらず、お菓子に関しては凄い情熱だな……。
次の日、私はレイナルクリア様と一緒に、ワターライカ島に移住してくれる人達に会った。サウスエッド国で南国フルーツやカカオ豆を栽培していた人達だ。
「わ、わたすたちが、王女様の、お、お役に立てるとは、こ、光栄、です」
「貴方達の働き、期待していますよ」
私については、各種フルーツやカカオの種を幾つか貰い、異空間に収納した。これらはワターライカ島で実際にこの人達から意見を貰って品種改良しつつ、適地に植えて行くことになる。畑なども作っていく必要があるし、しっかり話を聞いて、良い環境で栽培しないとね。
昼食は、サウスエッド国政府の要人達と一緒に頂いたのだが、今回の主な話題は、サウスエッド国海軍の話だった。特に、我が国との共同開発により装備化された風魔弾発射具を搭載した艦艇が完成し、引き続き量産する体制を作っているそうだ。
「先日、2隻の海賊船に向けて、船が重なった所に1発撃ったところ、2隻とも沈んでしまいましてな! 風魔弾発射具があれば、ウェルスーラ国海軍も物の数ではないでしょうな」
「『国防のための実力』を高めるのは宜しい事ですわね……」
サウスエッド国がどこかに侵略することは今の所無さそうだが……それっぽく釘を刺しておいた。
あと、昼食の場で、少々不穏な話を聞いた。
サウスエッド国から西に3千kmほど離れた所に、カナイと呼ばれる大陸があり、そこには3つの国があるのだが、その中の1か国、ウィサワーゴ国から現在使節が派遣されて来ているそうだ。交渉の内容は話して貰えなかったが、あまり良い話ではなさそうな雰囲気だった。まあ、ロイドステア国とは国交が無い国だから、何とも言えないところだな……。
その他、色々現状を確認したりして、昼食会は終了した。
暫く休憩を取った後、私達はロイドステア国に帰るわけだが……今回も某国王が娘&孫達との別れを非常に惜しんでいた。特に、今回はメイリスデニア王女殿下が初めてサウスエッドに来られたこともあり、別れる寸前まで王女殿下を抱っこしていたというね……。
確かに、見た感じレイナルクリア様に似ているような気がするし、親ば……子煩悩な国王にとってはとても可愛いのだろう。今回はワターライカ島への移住者達もいるのだけれど……まあ、仕方ないか。
というわけでロイドステア国に帰って来た。ワターライカ島への移住者については、来週私が連れて行くので、それまで王都に待機して貰うことになっている。故郷とは離れてしまったけれど、頑張って暮らして欲しいものだ。
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