第313話 武術大会初参加 4
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「一子様、決勝戦の時間となりました。試合場までお越し下さい」
係員が私を呼びに来た。流石に多少疲れてはいるが、試合は問題無く行える。改めて呼吸と魔力循環を整えながら、試合場まで向かった。合図により入場し、試合場の中央まで進むと、第2皇子もやって来た。
「ふっ、漸く貴女と戦えるか。だが、無粋な仮面越しであることが残念だ」
「これを付けねば参加が叶わなかったのですよ。しかし、皇子殿下と戦いたかったのは私も同じですわ」
「何と有難いことか。では私は、その言葉に報いるため、全力をもって相手をさせて貰おう」
「こちらも全力をもってお相手致しますわ」
決勝戦の審判である騎士団長、シンスグリム子爵の指示により、私達は試合開始の位置に移動し、構えた。
「始め!」
開始の言葉とともに、私は高速で接近したが、第2皇子も近付いている。どうやらどちらとも最初に牽制を入れようと考えていた様だ。しかし、間合いの関係上、こちらの方が先に攻撃する必要がある。
「たあっっっ!」
私は、牽制の為に突きを連続で、移動を妨げるような位置に向けて放っていく。しかし、第2皇子はまるで私の意図を見抜いたかのように、正確に剣で防ぎつつ、剣の間合いにまで入ろうと動いている。
これは……あちらもかなり意志を感知する能力が高いと見た方がいいな。流石は転生者、といった所か。この分だと、思考加速に近い事も出来そうだし、こちらも積極的に使っていかないと、一瞬の油断すら命取りになりそうだ。
ここは一旦仕切り直そうと思い、牽制しつつ離れようとしたが、第2皇子は追って来た。ということは何かを狙っているのだろう。離れようとしながらも様子を見ていると、それはやって来た。
「せいっ!」
微妙に遠間だが、私の左側面から、剣を振り上げる様に放って来た。恐らくは準決勝の様に、死角からの一撃により、私の防御態勢を崩そうとしているのだ。ここは一旦受けるべきだろう。
棒の中央付近で受けつつ、身体強化により一時的に力を上昇させて剣を弾き返し、棒先を再び喉元へ向ける。これで第2皇子は一旦間合いを取ったが……また棒の間合いを掻い潜られたら、棒で押し返すのも間に合わないかもしれない。その際は、一か八かあれを試さないといけないかもね……。
その後は、互いに読み合いの態勢となったのだが、近衛騎士隊長の時の様に完封することは出来ずに何度か攻め込まれたものの、防ぐことは出来た。ただ、その際に態勢を崩そうとすると、第2皇子は間合いを取った。私の戦い方も、それなりに読まれている。もっと第2皇子の隙を作らないと、崩せないようだ。
隙を作るための手を考えていると、間合いを取って離れていた第2皇子の雰囲気が変わった。あの場所から何かを仕掛けて来るようだ。ん? 魔力波に似た魔力の動きだが、剣に魔力が集まっている?
「はあっ!!」
第2皇子が剣を振ると、魔力の塊が剣から飛び出した! まずい!
最速で動いて何とか魔力の塊を躱したが、この機を逃す第2皇子ではなく、瞬時に迫って来た! 牽制のために棒で突いたが、それを躱して仮面の死界に当たる方向から突いて来た!
ここが勝負所だ!
これまでは敢えて死界があるように行動していたが、実際のところは死界など無いから、今回は引きつけずに棒の先で剣を払った。
ここで第2皇子は初めて動揺の感情を見せ、隙が出来たため崩しに入ることが出来た。しかし、その体勢が崩れそうになる瞬間、先程の技の応用なのか、魔力波に似た魔力の動きがあり
「でぇい!!」
第2皇子は物凄い剣圧をもって薙ぎ払ってきた。
棒が飛ばされてしまったものの、元々体勢が崩れていたから不十分だったのか、その剣圧自体は躱すことが出来た。とはいえ得物が無くなってしまった。こうなれば、素手で対応するしかない。間合いを見極めなければ。
「やぁーっ!」
第2皇子は気合とともに接近し、剣を振り下ろした。ここだ!
「はぁっ!」
私は剣を両手で挟み込みつつ、捻った!
所謂白刃取りによって第2皇子の剣を抑え、そのまま体さばきで体勢を崩し
「ぇやぁ!」
第2皇子を投げて床に叩きつけた!
「がはぁっ!」
そのまま取った剣を持ち直して、第2皇子の喉元に突き付けた。
「…………勝者、一子!」
シンスグリム子爵の判定が会場に響き渡り……大歓声が聞こえて来た。
第2皇子を起こしに行こうとして、仮面が取れていたことに気が付いた。どうやら白刃取りから投げを行った時に、紐に引っ掛かって取れてしまったらしい。まあ、不慮の事故で外れた場合は失格にはならない筈だから大丈夫だ。
シンスグリム子爵が仮面を拾ってくれたので左手で持って顔に当てながら、第2皇子を起こしに行った。最初は茫然としていたが、手を伸ばすと握りしめ、そのまま起き上がった。
「まさか、奥の手の魔力撃、魔力衝をもってしても貴女を倒せなかったとはな……」
「あれには私も驚きましたわ。魔力を大量に消耗するようですから、多用は出来ないようですが」
「まあそんな所だ。続けて放つのは避けたかったのだがな。それよりもその目……もしかして、あの時死界から攻撃したにも関わらず、通常通りの反応だったのは?」
「ええ。この仮面、視界が狭まりますから、それならば最初から目に頼らない方がましというものですわ」
「……成程……やられたよ。視界が狭いという不利を逆に利用し、こちらの隙を作るとはね……」
「このような搦め手を使わなければ、皇子殿下には勝てなかったかもしれませんわね」
「仮定の話は意味が無い。私は貴女に負けた……が、いつかまた対戦したいものだ」
「それについては同感ですわね」
もっと話をしていたかったが、退場せねばならない。棒を拾って開始の態勢に戻り、礼をして控室に戻った。早く着替えたいところだが、表彰式やインタビューがあるはずなので、暫くはこのままだ。とりあえずは、仮面の紐を直そう。
テルフィに手伝って貰い、仮面の紐を結び直して表彰式に出た。
私は優勝者として、陛下から王国の紋章の入った金の徽章を賜ったのだが、その際に
「素晴らしい戦いだった。が……周りを心配させる事は少々控えた方が良いぞ。侯爵など、今にも飛び出しそうであったからな」
とお褒めの言葉と、少々お小言を頂いた。ちなみに陛下は主催者なので、当然私が誰であるかを知っている。
閉会式の後、恒例の優勝者インタビュー? があったが、現在私は家名非公開者であり、仮面も装着しているので、質問されても話せることが殆ど無い。なので
【申し訳ございませんが、今はこの形ですので、回答を差し控えさせて頂きますわ】
としか言えなかった。仕方ないよね。
ということで、結構な人達が近付こうとするのを係員達が止めている間に、私は控室の荷物を回収したテルフィと一緒に馬車まで移動し、そのまま王都邸まで帰った。
自室に戻り、汗を流した後、部屋着に着替えると、カールダラスが呼びに来たので、談話室に移動した。
「お父様、お兄様、優勝致しましたわ」
「全く……怪我が無かったから良かったが、肝を冷やしたぞ」
「申し訳ございません。でも、そこまで心配して頂ける私は、幸せ者ですわね」
「私も心配はしたのだけれどね。それ以上に、あの凄まじい攻撃をも防いで勝ってしまうのだから、本当に、自慢の妹だよ」
「そう仰って頂けて、大変嬉しく思いますわ」
「それと、疲れている所悪いのだが、今すぐにエヴァに顔を見せに行って貰えないか?」
「母上は非常に心配していたからね。一緒に帰ろう」
当然了承して、転移門で領まで帰った。ちなみにその際は、お兄様が転移門を起動した。
談話室に行くと、お母様と、お祖父様がいた。
「フィリス! 怪我は無い? 大丈夫でしょうね?」
「お母様、疲れはしましたが、怪我はございません。一応、優勝致しましたわ」
「……もう、優勝したのは良いのだけれど、私は本当に心配したのよ?」
「心配をお掛けして、申し訳ございません。しかしこれは、私の人生において、どうしても成したかった事の一つなのです。どうか、お許し下さい」
「エヴァや。気持ちは解るが、子供の成長しようとする意志を奪ってはならんよ。フィリスは多少の困難など物ともせん。自慢の孫じゃよ」
どうやらお祖父様は、心配するお母様を宥めていたようだ。
「……分かりました。改めて、フィリス、おめでとう」
「お祖父様、お母様、有難うございます」
その後、ささやかながら祝勝会が行われた。
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