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第031話 第3王子がやって来た

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

私は王都侯爵邸に戻った。暫くすると父様と母様が帰って来たので、ウォールレフテ国では大変歓迎されたことを話すと、二人とも安心した様だ。しかし、申し訳なさそうな顔をして父様が言った。


「フィリス、明日、オスクダリウス殿下がここへ来られる。お前に会いたいそうだ」


何と!また面倒くさい案件が。妖精族との交流でいい気分だったのが、台無しだ。


「貴女と年の近い王族を会わせて様子を見たいのでしょうね。あわよくば王家に取り込みたいと」


婚約はさせられないけど、自由恋愛なら文句は言われないから、ということね。了解しました。


先日の謁見の準備の際に、オスクダリウス殿下の情報は聞いている。第3王子で、年は9才。魔法より剣が得意だそうだ。社交はまだ得意ではなく、気に入った者と深く交流する傾向にある、とのことだ。万が一気に入られでもしたら、後々面倒になりそうだが……流れ次第だろうか。


また、打ち合わせの際、アルカドール家としての、私の嫁ぎ先についての考えを父様と母様に確認している。ぶっちゃけ、兄様が家を継ぐので、家名を落とさない程度に自由にして良いそうだ。私、この世界基準では婚期遅れそうだしね。


それと、できれば王家の方とは結婚して欲しくないらしい。ただでさえ私が精霊導師になってしまったのに、更に王家と縁が近くなると、変な敵が増えるからだそうだ。そいつらを簡単に一掃できるならともかく、面倒事が増えるだけだし、過ぎたるは及ばざるがごとしという考えは、フィアースにもあるようだ。我が家は権力欲が薄くて良かったよ。




次の日、父様、母様と私は、朝から屋敷で待機していた。暫くして、殿下が到着されたという連絡があり、玄関前で待っていると、王家の紋章の入った馬車が到着し、中から少年が降りて来て、前に立った。金髪で、やや濃い茶色の瞳、整った容姿、気品を感じさせる所作、これが王子様、ね。


「久しいな、侯爵。今日は娘に会いに来てやったぞ。有難く思え」


……何だ、俺様系の王子か。早めに帰って貰いたいものだ。


「殿下、ご機嫌麗しゅう。こちらが娘のフィリストリアです。さあ、殿下にご挨拶を」


「殿下、お初にお目にかかります。アルカドール侯爵の娘、フィリストリアです」


挨拶をすると、殿下は暫くこちらを見て、言った。


「美しいと聞いていたのだが、何だ、まだ子供ではないか」


いや、7才はどう見ても子供だ。そもそもあんたも子供だよ。


「若輩者故、殿下の御威光に触れ、更に精進させて頂きます」


「そうだな、話でもするか」


とりあえず殿下を談話室に案内し、2人で話すことになった。当然、殿下の護衛はいるけど。特に話したいこともないので、今回私に会いに来た理由などを聞いておこう。


「本日私などの為にお越しになられたのは、何故でしょう」


「ああ、父上と母上がうるさくてな。有難く思え」


「殿下の御厚情、誠に有難く存じます」


「……お前の瞳は、変わった色をしているな」


「私は全属性者ですので、瞳は黄金色なのです」


「ふーん、もしや俺の気を惹くために、薬か何かで色を変えているのではあるまいな」


は?気を惹くって何だよ。あんたには何とも思っちゃいねーよ。


「では、少々魔法を使ってみましょう。とは言ってもここは手狭ですので、属性の力を集めるだけですが」


「ふむ、なるほど。おいお前、こちらに来い」


殿下は護衛の一人を呼び寄せた。彼は風属性の様だ。


「では、地と風の属性の力を集めてみましょう」


右手に地属性、左手に風属性の力を集めてみた。


「ふむ、右手に地属性の力が集まっているな」


「殿下、アルカドール様の左手に風属性の力が集まっております」


「確かに、全属性というのは嘘ではない様だが……単に珍しいだけではないか」


「殿下の仰る通りでございます。お目汚しでございました」


……殿下が何をやりたいのかが分かった。陛下達に無理やり来させられたのが不満で、その不満を解消すべく、私を否定したいだけ、ということだろう。了解、適当にあしらって、早々にお帰り願おう。


その後、適当に会話をしつつ、殿下の文句にも概ね同意するように合わせていると、つまらんと言って帰って行った。父様と母様には、失礼に当たることはしなかったと、報告しておいた。


嵐は去ったが、父様と母様は、王都に来た名目があるので、知人を訪ねるのに結構忙しそうだ。流石にそこについて行く気はないが、さりとて、一人で外出するための馬車が無い。転移門でやって来たからね。折角王都に来たのに出歩けないのはもったいないが、仕方ない。




ということで、部屋の中でも出来る、精霊の使役と感覚共有について、練習することにした。後片付けの心配が不要な風精霊で練習してみよう。


使役については、最初は口に出して簡単なことを命じていたが、次第にアイコンタクトだけでもそれなりのことをやってもらえるようになった。最初に強く意識を精霊に向けて見ると、精霊がこちらを向くのでその時にやって欲しいことを考えると、概ねその通りに行動するようになった。ただ、細部は私が強くイメージしないといけないので、口にした方が良いようだ。これは今後も練習ということで。


感覚共有については、一度魔力循環を意識して、脱力姿勢をとることで、うまく共有させることができた。「天地の気に合する道」である合気道の考え方と精霊術は、相性が良いようだ。そして、視覚を共有したまま、風精霊に王都上空を飛んでもらった。


風精霊は四精霊中最も速く飛べるが、正直そのスピードを舐めていた。動体視力は鍛えていたつもりだったが、これはそんなものでどうにかなるレベルではなかった。目で追えないなら、別の要領で周囲を把握するしかないが、魔力では人や動物は把握できても、建物が把握できない。なので、のろのろ飛行しかできないのかと思っていたが、触覚も同調させることで、風精霊の力により、高速飛行している時でも周囲を把握することができた。発想の転換は大事だ。


ということで、王都見物の代わりに、色々なところを見回ってみた。流石にセイクル市とは比べ物にならない。王城、大聖堂、貴族街、国軍施設、学校、職人街、市場、平民街等々。次来るときは、自分の足で歩いてみたいものだ。




と、こんな風に領地に帰るまでの間、のほほんと過ごしていたのだが、ここ一週間で周りの状況が大きく変化したので、色々考えてもいた。


私はこの世界に転生し、家族をはじめ、周囲の温かい人達に助けられ、これまで何だかんだ好きなことをやって暮らしてきた。最近は色々なものに縛られて、身動きが取りづらくなってきているが、それでも、私は「私」でありたい。そうでなければ、ここにいる意味がない。


しかし「私」のことを私だと思っている人達は「私」をどう思うだろう。これまでは、考えるのをやめていただけだ。しかし、他者から発覚する可能性に気付かされてしまった以上、話さなければ私は自分を許せない。たとえ今の幸せな環境が壊れてしまったとしても、家族として愛してくれる人達を裏切ることなど、したくない。




私は、覚悟を決めた。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


(石は移動しました)

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