第312話 武術大会初参加 3
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試合の準備をして待機中のところ、係員が来たので試合場まで移動した。体調は問題無し、気負わず今の力を発揮しよう。
準々決勝の相手は、近衛騎士隊長だ。これまで伸び悩んでいたところが、昨年はまさに一皮剝けた、という感じで優勝したのだが、観ていた限りでは、先読みが鋭くなっていたようだった。
合図により入場し、試合場の中央まで進んだ。やはりなかなかの達人の雰囲気を醸し出している。礼をすると、あちらから話し掛けて来た。
「先程の試合、見させて貰った。貴女も魔力波を使えるのだな。相手にとって不足は無い。堂々と戦おう」
「正々堂々、戦いましょう」
成程、ここ数年、レイテアの尽力で魔力波を使える者が増えた。当然、魔力や視線などに対する感覚が鋭くなった筈だ。そして騎士隊長は、それを切っ掛けとして高みに昇った、ということか。それは面白くなってきた。こちらも出し惜しみせず、思考加速なども併用して臨もう。
試合開始の態勢を取ったところで、審判から開始の声が上がった。
暫く様子を見ながら、軽くフェイントを掛けてみたが、騎士隊長はなかなか動かず、逆にフェイントを掛けて来る。暫くその応酬となっていたが、これでは埒が明かないのは明白だ。ここは、打たれる前に間を支配して打つ気を外しながら、追い込むことにしよう。
私は騎士隊長に少しずつ近付きながら、その上で剣を出す瞬間を狙って棒先を変化させ、フェイントすらも許さない態勢を取った。騎士隊長は、大きく横に移動して間合いを切ろうとしたが、それも動作を起こす前に少し膝付近に意識を遣ることで止まり、騎士隊長はじりじりと後ろに下がって行った。
焦りの色が見え出してきたが、それでもなお少しずつ近付いたところ、遂に騎士隊長が私の牽制があるにも関わらず、動いた。今だ!
「ぃやぁっ!」
騎士隊長は、正眼に構えていた所から高速で踏み込み、棒を抑え込みながら接近しようとした。一気に棒の間合いの内に入る気だろうが、棒先をくるりと回して逆に軽く剣を抑え込んだ。
「はぁっ!」
そのまま自分を中心に半回転して、剣先を逸らしつつ逆の棒先を騎士隊長の喉元に当てた。暫くして
「……勝者、一子!」
審判の声とともに、観客の声が聞こえて来た。大きく深呼吸をして、開始の態勢に戻る。
「……良い試合でした。流石は近衛騎士隊長殿ですわ」
「有難う。貴女と戦えて光栄だった。出来れば今後も勝って貰えると有難いな」
「精一杯励ませて頂きますわ」
互いに讃え合った後、礼をして退場した。個人的には白熱した試合だった。精神的に疲労したところはあるが、なかなかの充実感だ。
控室に戻り、一旦仮面を取って休憩した。
「先程の試合、レイテア先生との対戦に似たところがありましたね」
「互いに先読みをやっているのですから、結果的には似てしまいますわね。良い経験でしたわ」
レイテアとはたまに対戦していたが、妊娠するまでは大体あんな感じだったからね。そういった点で今回は私の方が戦い慣れていたのかもしれない。
テルフィに次の相手を確認して貰っている間、軽く体操をしていると、またお兄様の気配がしたので手を振ると、安心したのか気配が消えた。暫くして、テルフィが戻って来た。
「お嬢様、準決勝の相手は、やはり近衛歩兵隊長のようです」
「有難う。そういえば、今回槍の試合相手は初めてね」
「王都邸の護衛の中には数名おりますが……歩兵隊では多くの兵が槍を使いますからね……」
「その辺りは戦ってみなければ判らないわね。……そろそろ準備の時間ね」
試合場から大きな歓声が聞こえたのだ。恐らくは準決勝第1試合が終了したのだろう。恐らくは第2皇子が決勝に進出している筈だ。私は仮面を装着して、待機した。
暫くすると係員が呼びに来たので、試合場まで移動した。合図により入場し、試合場の中央まで進み、礼をした。
「まさか嬢ちゃんの方が勝ちあがるとはな。あいつ、去年優勝したからといって増長していたのかね」
「近衛騎士隊長殿は、昨年の優勝に恥じない戦いぶりでしたわよ」
「なら、嬢ちゃんを倒せば歩兵隊の面子は保てそうだな」
「それが出来るのであれば、の話ですわね」
「いいだろう。全力で行かせて貰うぜ」
近衛歩兵隊長も、近衛騎士隊長と同等かそれ以上の腕前のようだし、こちらも真っ向勝負だ。
試合開始の態勢に移り、審判の声で試合が始まった。
開始と同時に歩兵隊長はフェイントを織り込みながら鋭い突きを幾度も放って来た。私も棒で払い続けるが、流石に高速の突きが数多く放たれるため、攻撃には転じることが出来ず、間合いを取りつつ回り込もうとすると、歩兵隊長は私の仮面による死界、即ち斜め下の方向から槍を突いて来た。
頭近くを槍の穂先が掠めたが、歩兵隊長はそこから攻めて来ず、今度は私の死界に回り込もうとして来た。なるほど、先程の攻撃で恐怖心を煽りつつ、死界を攻めることで私の隙を作ろうということらしい。面白い!
私は、前の試合でやったように、相手の行動を抑えるように牽制を始めたところ、歩兵隊長は死界に入ろうとしたりフェイントをかけたりを繰り返した。そのような中、歩兵隊長の動きが鈍ったように見えた。
「やっ!」
私が棒で突きを放つと、歩兵隊長は棒先を払いつつ、死界の方から槍を突いて来た。
「ぇやぁ!」
やはり誘いだったか。だが、勝負はここからだ!
「はあっ!」
私は棒の中央部分で迫って来た槍を押しのけつつ、歩兵隊長の懐に高速で入り込んだ。すると、歩兵隊長は右手を槍から離した!
「おう!」
歩兵隊長が私の顔面を殴ろうとした。しかしそれは私の望むところ、棒を手放して迎え撃った。
「ぇい!」
歩兵隊長の手を取り、小手返しで斜め前に投げ、うつ伏せになったところで、右腕を極めた!
「ぐあっっっ! 参った!」
「……勝者、一子!」
審判の判定から暫くして、歓声が上がった。私は魔力が残留している棒を拾い、開始の態勢に戻った。
「おー、痛てて……まさか、嬢ちゃんに徒手で負けるたぁ、思わなかったぜ」
「歩兵隊長殿も、流石の試合巧者ぶりでしたわ。でも私、徒手を最も得意としておりますのよ?」
「それが見抜けなかった所が敗因かね。まあ、決勝戦、頑張んな!」
「応援有難うございます。全力を尽くしますわ」
双方礼をして退場し、控室に戻った。
暫く休憩の後、決勝戦だ。とりあえず仮面を取る。
「お嬢様、やはり決勝は、帝国第2皇子殿下のようです。準決勝は一昨年の大会優勝者だったのですが、短時間で勝利したそうです」
「……流石ですわね。あと、恐らくあの方は、私の試合も観戦されていることでしょうね」
「お嬢様は観戦の機会が取れませんでしたからね……前段の組は有利なんですよね……」
「今更ですもの、仕方ありませんわ。それより、決勝戦まで体調を整えますわ。3位決定戦もございますし、それなりの時間が取れますからね」
「お嬢様、お手伝いします」
それから、体操やペアストレッチなどを行い、体調を整えた。その間、お兄様の気配が現れて激励? をしてくれたが、他にも応援してくれる人達がいる。その人達に誇れるような試合にしよう。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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