第311話 武術大会初参加 2
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
そろそろ試合なので観戦をやめ、感覚共有を解いて再び仮面を装着し、待機していると、係員が呼びに来たので、試合場まで移動した。
一回戦の私の対戦相手は、対戦表によると、騎士団所属らしい。
合図により入場して、試合場の中央まで進んだ。得物は……剣だな。そこまで強そうには見えない。まずは中央で礼をした。
「ふっ、お嬢さん、怪我をしたくなければ、棄権することをお薦めするよ」
「お気遣い有難うございます。そのお言葉、お返しいたしますわ」
軽く挨拶をしつつ、少し離れて構えたところで、開始となった。
暫く様子を見ようと思ったのだが、相手は攻めて来ない。訝しんでいると
「先手は譲るよ。どこからでも攻めて来るといい」
と言われた。間合いの関係で受けに回りたいのか、それともこちらの実力を測りかねているのかは判らないが、誘いに乗ってみるか。
棒を少し引いて溜めながら、高速で近寄りつつ右に回り込み、相手がこちらに対応しきる前に視線に向けて真っ直ぐに突いた。
「はっ!」
相手は突きに反応して棒先を剣で払って来たが、その力を利用して左に回り込みながら逆の棒先で、剣の柄を打ちつつ相手の手を絡め取り、その勢いで懐に入って体勢を崩し、相手の体を回転させた。
相手が床に仰向けに倒れたので、その喉元に棒先を置いた。
「これで終わりですわね」
「……勝者、一子!」
審判の判定から暫くして、歓声が聞こえて来た。試合が終わったので開始位置に戻ったが、相手はのろのろとやって来た。
「一体……何がどうなっているんだ……?」
混乱しているらしい相手に礼をして、退場した。とりあえずはこんな所だろう。
控室に戻って、一旦仮面を外す。テルフィから
「流石はお嬢様ですね。対戦相手は、自分がどう負けたのか分かっていませんでしたね」
「まあ、私の戦いは変則的に思えるでしょうからね。テルフィ、次の相手を確認して来て頂戴」
「承知致しました」
テルフィが次の対戦相手を確認しに行っている間、軽く体操をしつつ、お兄様の気配にも手を振って無事を伝えた。暫くすると、テルフィが戻って来た。
「お嬢様、次の対戦相手は、この20番の人です。冒険者だそうですが……」
「もう試合は終わっていますから、どのような戦い方をするかは判りませんが、力を尽くすのみですわ」
「お嬢様なら、そこいらの冒険者には負けないとは思いますが、お気を付け下さい」
「ええ。では、そろそろ準備を致しますわ」
仮面を装着して暫く待機していると、係員が呼びに来たので、案内に従い試合場まで向かう。入場して対戦相手を見ると、体格が良く、大剣? を持っているようなので、恐らくは力が強い人なのだろうが……身体強化もなかなかのようだ。ただ、ぶれが割と大きい。力任せの我流、といったところか。
礼をすると、相手から話し掛けられた。
「おー、あんたが噂の貴族令嬢かい。可愛い声で泣き喚いてくれるのが楽しみだぜ」
「噂通りかは判りませんが、一応貴族令嬢とは言われておりますわね。どちらが泣くかは、この後判りますが、楽しみですわね」
「言うねえ。まあ、殺さずにはいてやるから安心しな」
開始の間合いを取って構えると、審判から開始が宣言された。
「おりゃあーーー!」
相手が剣を振りかぶりながら高速で接近し、剣を振り下ろした。なかなか速いが、それだけだ。
「ふっ」
身体を攻撃方向から左に逸らしつつ、振り下ろしに力が入る前に棒先を剣に当てて剣筋を右にずらす。そのまま高速で相手の間合いに入った。
「はっ!!」
そのまま左手を右脇腹に当て、魔力波を叩き込むと、相手はそのまま場外まで飛んで行った。肋骨くらいは折れているだろうが、死にはしないだろう。
「……勝者、一子!」
少し遅れて歓声が聞こえて来た。相手は場外で呻いていて、こちらには戻って来ない。暫くすると、救護員らしき人達が袖からやって来たので、後は任せよう。私は開始の態勢に戻って審判に礼をした後、退場して、控室まで戻って来た。とりあえず仮面を取ろう。
「やはりお嬢様の魔力波は一味違いますね。あの巨体が綺麗に飛んで行きましたよ」
「まあ、相手の突進力も利用しましたからね。この後は昼食時間などもありますから、時間が空きますので、軽く食事を取りながら休みますわ。貴女も次の対戦相手を確認したら、休憩を取って頂戴」
「承知致しました。まずは対戦相手の確認に向かいます」
テルフィに確認に行って貰っている間に、軽い食事を取りつつ、地精霊と感覚共有して会場の様子を見に行った。残念ながら2回戦は全て終わっていたが、パティを探してみたところ、ティーナだけでなくミリナもその場にいて、話していたので寄ってみた。
『パティ、楽しそうに話しているわね』
「あら、今貴女の話をしていたところよ。ミリナ様、ティーナ様、来ておりますわ」
「……そう! 好調のようですわね。先程の試合、思わず笑ってしまいましたわ」
「ええ~。気が付いたらあんなに大きな人が場外に落ちているのですもの~」
『体調は万全ですわ。あの方、勢いはありましたが隙が大きかったので、それを利用させて頂いただけですわ』
「体調は万全だそうです。あと、先程の対戦相手は、勢いだけで隙だらけだったそうで、相手の力を利用して簡単に吹き飛ばすことが出来たそうです」
「ああ……やっぱりそうですか。通常の方であれば力に振り回されるところでしょうが、貴女にとっては絶好の相手ですわね」
『今後は隙の少ない相手になると思いますが、そうでなければ面白くありませんからね』
「今後は隙が少ない相手に対して、どう隙を作ってやろうか楽しみだ、と言っておりますわ」
「まあ~。私達も楽しみにしておりますわ~」
「次の試合の相手は、試合場が遠かったので判りませんでしたが、下馬評通りですと、昨年の優勝者と対戦することになりますわね」
「本当ですか! ……怪我はしないでね?」
『ええ、大丈夫よ』
そのように話していたところ、テルフィが戻って来たので、対戦相手を確認するため控室に戻った。
「お嬢様、次の対戦相手は、昨年大会優勝者の近衛騎士隊長のようです。この方はお嬢様も昨年の大会を御覧になっておりましたから、説明は不要ですね。それと、恐らくその次、準決勝については、過去の大会で優勝経験のある、歩兵隊近衛歩兵隊長が勝ち上がって来る可能性が高いようです。こちらは、槍を使うそうなのですが、試合を見ておりませんので、何とも言えないところですね」
「有難う。次は近衛騎士隊長ですか……あの方は、毎年優勝候補に挙がっておりましたが、今一つでした。ただ、昨年は何かを掴んだのか、これまでとは別人のように相手を圧倒し、優勝されましたね」
「お嬢様……勝てますか?」
「ええ。恐らく連覇を目指しているところでしょうが、阻止させて頂きますわ」
対戦相手も分かった所で、軽く運動して休憩時間を過ごし、次の試合に備えた。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。