第310話 武術大会初参加 1
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収穫祭2日目、武術大会が開催される日だ。体調は万全、全く問題は無い。早朝にテルフィやナビタンと一緒に軽く体を動かし、早めの朝食を頂いた。家を出る頃になって、お父様とお兄様が顔を出した。
「会場では話せないからな。怪我だけはせぬよう、気を付けるのだぞ」
「君の雄姿を観客席から見させて貰うからね。健闘を祈っているよ」
「お父様、お兄様、応援有難うございます。では、行って参ります」
お父様とお兄様に見送られて、武術大会の会場へ向かった。なお、お母様とお祖父様は応援には来ない。他人のふりをして平然と応援できそうにないからだそうだ。そこまで周りを気にしなくてもいいのに。
会場に到着し、テルフィと一緒にフード付きのマントを着て馬車を降り、指定された控室へ向かう。今回の措置に伴い、控室は個室になっている。
ちなみに現在の私の呼び名は、家名非公開者のための名前になっている。受付した際に付けられるそうだ。日本風に呼ぶなら、男性は一郎、二郎……、女性は一子、二子……といったところだ。なお、今回は部屋数を見る限り二郎さんまではいるようだが、女性の家名非公開者は私だけだ。
控室で試合用の服に着替え、例の仮面を装着した。私の現在の格好は、大会の規定に則ったもので、身体の線があまり出ないゆったりとしたジャージっぽい服だ。色も薄い茶色で、物凄く地味だ。髪は後ろで束ねて巻いてまとめている。服に付いているフードをかぶってしまうと、髪の色なども良く分からない。その上、仮面を付けているのだから、普通に見れば不審者にしか見えないが……大会に参加するためだから仕方ない。
今回の私の得物は棒なのだが、試合用に新調した。やはりいつもの棒は、殺傷能力が高いし結構多くの人に知られてしまっているので、違う棒を作ったのだ。
材料に誓約の樹の枝を使う所は変わらないが、カーボンナノチューブと誓約の樹の切り屑を混ぜて作った素材でコーティングしているので、普通の木の棒に見えるが非常に堅い。当然魔力も保持しやすいから使用感も殆ど変わらない。折れにくいし真剣であってもそうそう斬り落とされない筈だから、問題無いだろう。
軽く体を動かし、異常が無いことを確認した。
「これで準備は完了ですわね」
「はい。……ところでお嬢様、私も仮面を装着する必要があるのでしょうか?」
「貴女が私の専属護衛であることは知られておりますから、仕方ありませんわね。私の様に、顔全部を隠すわけではないからそこまでおかしくないと思いますわ」
テルフィは、アイマスクのような仮面を付けている。控室から試合場までの通路も護衛として同行するので、大会規定上付けて貰っている。面倒だとは思うけれど、我慢して欲しい。
時間が空いたので、様子を見るため地精霊と感覚共有を行い、観客席の方に行ってみた。いつも通り、既に多くの観客が入っている。知っている人達もちらほら見かける。
貴族用の席の方に行ってみると、お父様やお兄様がいた。それに、少し離れた所には、ミリナやダリムハイト様がいた。遠いイクスルード領から出て来たようだ。殿堂入り席には、シンスグリム子爵夫人であるレイテアがリンダを抱いて座っていたので、近くに寄って話し掛けてみたが、反応されなかった。残念だ。
あと、ティーナとパティがいたので、パティに話し掛けた。
『パティ、ごきげんよう』
「あら、フィリス、試合前なのにこちらに来て大丈夫なの?」
『ええ、今は待機中ですから。あと、今日の私は『一子』ですわ』
「そうなの? 色々気にしないといけないから、大変ね。どこで試合を行うの?」
『予選は、あちらの第2試合場ですわ。今回は参加者が多いから、乱戦方式らしいわ』
「勝てそうなの?」
『強い人がいないのであれば、大丈夫だと思いますわ』
「パティ~、先程から誰と話しているの? 精霊さん?」
「ティーナ、これからあそこの第2試合場で試合をするらしいわ」
「……あぁ~。応援していますわ。頑張って下さいね!」
『ええ。では、そろそろ戻りますわね』
控室に戻って感覚共有を解いた。暫くすると、係員らしき人が呼びに来た。
「一子様、予選が始まりますので、第2試合場へお越し下さい」
「ええ。では参りましょう」
係員の指示により、試合場へ移動した。途中まではテルフィも一緒だが、入場口付近で待機することになる。試合場付近は魔法禁止になっているから、精霊達も入ることは出来ないが、その近くまでは付き添ってくれるようだ。今一度心を落ち着けつつ、進んで行く。各試合場の場所や形状は頭に入っているから迷うことは無いが、階段などは判り辛いから、精霊達が案内してくれている。
第2試合場までやって来た。観客席からは声援が聞こえてくるが、中には私を見て、からかうようなことを叫んでいる人もいるようだが……気にする必要は無い。試合に集中しよう。
今日もいつも通り人の魔力を感じられている。参加者は私を含めて7名、体格やそれぞれの得物も、纏われている魔力で認識出来ている。それに加えて審判らしき人達も分かる。背後であっても認識出来ているから、乱戦でも全く問題無い。
「第2試合場、予選、始め!」
審判の掛け声と同時に、後ろから迫って来た一人を躱し、すれ違う時に軽い魔力波で弾き飛ばし、場外へ落とした。まずは1人。乱戦だから、とりあえず数を減らさないとね。
背後に人がいない所に陣取り、様子を見ようとしたところ、右側から大柄そうな人が突きを放って来たので、躱しつつ呼吸投げで場外の方向に投げる。これで2人。
改めて様子を把握したが、私が場外に落とした2人以外にも、2人が倒されたようだ。
残りの2人は、様子を見ているようだが……うち1人が私の方に殺気を向けて来た。もう一人から遠ざかりつつ、私の背後を取るように回り込んだ。
恐らく私の視界が狭いことを利用しようとしているのだろうが、甘い!
下から上に向けて斬り込んで来た剣を撥ね上げ、身体が浮いた所を棒で足を払い倒した。これを見た残りの一人が今のうちに私を倒そうとしたのか襲い掛かって来た。
倒した人の喉元に軽く棒先を当てつつ、もう一方の棒先を残りの一人に向けると、隙が無いと判ったのか一瞬動きが鈍った。そこで私は逆に相手に詰め寄り、フェイントの突きを放つと、相手が棒を払おうとして剣を薙いだので、軽く手首を返して逆に棒で剣を払い、体勢を崩して転がし、仰向けになった相手の喉元に棒先を当てた。
「しょ、勝者……一子!」
戸惑ったような審判の判定とともに、私の予選通過が決定した。観客席からの声援を聞きながら、入場口の方に戻る。途中で精霊達やテルフィと合流し、控室まで戻って来た。仮面を取ってとりあえず一息つこう。
「お嬢様、まずは予選通過、おめでとうございます。流石に余裕でしたね」
「有難う。まあ、この格好ですからね。侮っていた者もいたようですが、それを逆手に取ると簡単に反撃できるのですよね……ある意味戦い易いですわね」
「乱戦形式ですと、大番狂わせも少なく無いのですが……お嬢様にはその心配は不要でしたね」
「第2皇子のような実力者がいた場合は、正直判らないところでしたけれどね」
「優勝候補筆頭ではないですか。そんな人がいたら、普通は判りますからね」
ちなみに昨日、参加者一覧を館に届けて貰ったので、私の思惑通り、第2皇子が参加しているのは確認したのだが、他にも3名、過去の大会で優勝した人がいるし、名のある冒険者も参加しているそうなので、気を抜けるわけではない。
ただ、達人は身体に纏われた魔力の感じが違うので、見ただけで判る。剣道で言うところの「気剣体の一致」と表現すべきだろうか、意志と魔力と動作にぶれがないのだ。特に第2皇子など、惚れ惚れするほど一致しているからね。試合が楽しみだ。
「テルフィ、本選の対戦表を貰って来て頂戴。私はここで体調を整えているわ」
「お嬢様、承知致しました」
テルフィに対戦表を取って来て貰う間に軽く体操をしていると、お兄様の遠視の気配がしたので手を振っておく。暫くすると気配は消えたので、体操を続けた。
テルフィが対戦表を持って帰って来たので確認した所、私は18番で一回戦は第9試合、第3試合場だった。第2皇子は第3試合か。戦えるとすれば決勝戦だな。とりあえず一回戦の様子だけは見ておこうか。
地精霊と感覚共有して、パティと話しつつ、第3試合を観たのだが、あっさり終わってしまった。やはり別次元の強さだ。現状で勝てるかは戦ってみないと判らないが、全力を尽くそう。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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