第307話 女子会? を開いてみた
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魔法省の定例会議に参加して、セントチェスト国に行っていた間の省内の動きについて把握した。
最近は魔道具課がかなり忙しいようで、来年以降の人員増や体制の変更を検討しているそうだ。ワターライカ島の開発の過程で、魔道具についても色々進歩したし、新魔法の魔道具化にも成功したことから魔道具関連は需要が伸びているので尤もな話だが……。
特に、研究部門の独立を考えているそうで、構想としては当初は魔法研究所の一研究室として魔道具研究室を作り、人員を増やして魔道具研究所として独立させるという話だ。そうなると、ヴェルドレイク様などは研究所員になるのかな。今だと勤務場所が同じ庁舎内だから気軽に会えるが、魔法研究所だと王都の外れの方にあるから、会える頻度も減るのだろうか……?
魔法課は魔法教育体制の、魔法兵課は魔法兵団の運用の改革中であり、体制を変化させるまでのことはないが忙しいそうで、大臣は適宜視察を行っているとのことだった。私ももう少し業務に余裕があれば魔法教育の現場を見に行ったりしたいのだが……来週はワターライカ島関係で出張だからね……。
休日はナビタンと合気道の稽古を行ったり、テルフィや他の護衛達と鍛錬を行ったりして過ごした。
第3週に入り、ワターライカ島に出張した。今回の出張の理由は、ワターライカ島の入植開始から1か月以上経ち、住居や農地が不足しているため、私が当座の不足分を準備することになったのだ。
当初の予想以上に入植希望者がいたことや、先日のセントチェスト国からの移民も受け入れたことが不足した原因らしい。農地は作って貰ってもいいかもしれないけれど、家が無いのは流石に問題がある。亜熱帯っぽい気候だから、今だと毎日の様にスコールが降るしね。
ワターライカ島では当分樹木の伐採は難しいから、家はもとよりベッドやテーブルなどの家具も地魔法で作成している。幸い、土地自体はまだまだ余っているので、私が不足分と今後暫く必要となる分を作っておけば、その後は住民となった人達に任せればいいだろう。
私は王城からワターライカ島の仮行政舎まで転移し、空動車で島内の各集落を巡回し、住居や公共施設、農地の需要を確認した後、両手を地精霊と同化させて、次々に所要の工事を行っていった。家に住めず、教会などで暮らしていた人達は、私にお礼を言って、新しく建てた住居に移って行った。
それと、田んぼは殆どの人にはなじみが無いため、食糧事情なども踏まえて私が作ってしまうことにしたのだけれど、田んぼの仕組みなどは今後稲作を行っていく人達に説明した。でないと今後自分達で開墾することが出来ないからね……。
今のところ、入植は仮行政舎地区を中心に、東西道及び南北道沿いに集落を作っていて、その近傍に田畑や牧場が作られている。東西のターレス港とライカル港、南北のボルク漁港とハリス漁港には、港湾管理関係者や漁業関係者が中心となっている。
島内の治安維持や周辺海域の警備を担当する国軍は、各所に配置されているが、大きな問題は出ていないそうだ。ちなみに、海兵団の船には現在、海域の調査員が常に乗り込んでいて、調査も併せて行っている。
海流や水深、住んでいる魚などを調査しているそうだが、水の精霊術士の島への派遣が決まれば、調査が更に進むと思われるが、現状だと、入植が安定して生活基盤がある程度整ってからの話になるだろう。
こうして、ワターライカ島のあちこちを回って工事を行い、概ね終わる頃には週末となっていた。
休日は午前中にいつもの鍛錬を行った後、とある甘味店に顔を出す事になっていたので準備をして向かった。ここは、アルカドール領の甘味研究所から人を出して店を出していて、当然店長達とも知り合いであるため、たまに顔を出しているのだ。
そして、今日はついでなので、アルカドール領出身の精霊術士達も呼んでみた。女子会……と称している訳ではないが、こういう集まりもいいかと思ったのだ。
現在、アルカドール領出身の精霊術士は12人いる。気の置けない友人というのはパティだけだが、他の子達ともそれなりには仲良くさせて貰っているつもりだ。まあ、あちらからすると上司だし領主の娘なので、付き合いづらいかもしれないが……。
この店は人気店なのでいつもは満席だが、今日は2階を貸し切りにして貰っているので、そちらでお菓子の食べ放題を行いつつ、同郷の者同士で親交を深めるのが今回の趣旨だ。
「今日は楽しませて頂きますわ」
「お嬢様、当店にお越し下さり有難うございます。他の方も来られていますので、お通ししました」
「皆さんお早いことですわね。では、向かいますわ」
2階に上がると、既に皆来ており、席に座って話し合っていたが、私が来たので皆席を立って礼をした。私は自分の席の位置で止まって答礼をした後着席し、皆にも座るよう言った。では、始めましょうかね。
「皆様集まられたようですので、始めましょう。今日は特に茶会や宴でもありませんから無礼講とさせて頂きますわ。様々な甘味を心行くまで楽しみ、同郷の者同士、親交を深めましょう」
私がそう言うと、店の人達が様々なお菓子を持って入って来た。皆が拍手をしながらお菓子に目を輝かせている。前世でいうところのケーキバイキングみたいなもので、無くなったら次のお菓子が出て来る仕組みにしている。さて、皆も食べ始めたし、私も食べようかな。とりあえずはアップルパイから頂こう。
ふむ……やはり、アルカドール領産の紅玉でアップルパイを作ると一味違うな。
アップルパイを味わっていると、パティがやって来た。
「フィリス、今日は集まりを開いてくれて有難う。最近忙しかったから、丁度良かったわ」
「どういたしまして。私も最近来る機会が無かったから、つい食べたくなったのよ」
「すぐに新作が出て来るから、期間を置きたくないのよね。ほら見てよこの台粉。乳酪と殻葵糖が一緒になって、甘酸っぱさとほろ苦さがいい感じに混ざっているわ」
パティが食べているのは、チョコレートチーズケーキだ。イチゴも乗っていて、非常に美味しそうなのでこの次に食べよう。
パティと世間話をしつつ、チョコレートチーズケーキを取って来て食べる。確かに美味しい。そういえば、ホワイトチョコレートの研究も進めているそうだから、そのうちホワイトチョコレートを使ったお菓子も作れるようになるかな。
食べ終わったので、他の所に行ってみようか……と、周囲を見てみると、レミファの食べているイチゴが沢山乗ったタルトが目に入った。どうやらレミファはイチゴが好きらしい。何となく話してみる。
「レミファさんは、苺が好きなのですか?」
「フィリストリア様、ええ、大好きです! 帰省した時は良く苺の砂糖煮を食べていますよ。最近は苺飴というものもあって、そちらも良く買って食べています。でも、やはり新鮮な苺が一番ですね!」
うーむ、あのおとなしいレミファがここまで喜んでくれるなら、品種改良した甲斐もあるというものだ。ここ数年で、他にもメロンやスイカ、桃や柿、さくらんぼなども色々品種改良していて、逐次お菓子に取り入れられているが……ワターライカ島は南国フルーツを作ることが出来るから、バナナやパイナップル、マンゴーなども似た品種があれば、改良して作って貰おうかな……?
私も何か食べようと思って周りを見たところ、ラステナがシュークリームを食べているのが目に入った。すごく幸せそうな顔をして食べているので、私も食べようかと思って皿を見てみたが、既に無かった。どうやらラステナが全部食べてしまったようだ。
「あ……フィリストリア様、申し訳ありません! 美味しかったので全部食べてしまいました!」
「いえ、大丈夫ですわ。貴女が非常に美味しそうに頂いていたので、寄ってみただけですから」
恐らく結構な数があったと思うのだが……小さめに作っていたとは言え、全部食べてしまうとは、相当シュークリーム、又はカスタードクリームが好きなのかな。
まあ、何も取らないのも何なので、近くにあったチョコチップクッキーを食べた。これはこれで、普通の茶会に合うだろうな。この会では脇役になっているけど。
さて、皆も結構食べただろうし、締め……みたいなもので、アイスクリームを出そう。合図をすると、皆の分のアイスクリームが出て来た。なるほど、今回はさっぱりとしたヨーグルトアイスにしたのか。オレンジも少し入っていて、こちらも非常に美味しい。皆の反応を確認しようと周囲を見たところ、レブネアが不思議そうな顔をしていた。
「これが牛乳から出来ているなんて……本当に不思議だ……」
確かレブネアは、実家が酪農家なので、他とは違った感想を持っているのだろう。
こうして、何となくやってみた会合だったが、お菓子を食べる以外でも、案外楽しめた。たまにはこういう休日を過ごすのもいいかな。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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※ 造語
台粉:ケーキ 殻葵糖:チョコレート
※ 難語
乳酪:にゅうらく。チーズ