第306話 レイテアが女の子を出産した
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セントチェスト国の鉱毒対応も現段階での私の仕事は終わったので、ロイドステア国に帰って来た。報告などが終わり執務室に戻ると、20日以上も出張していたので、書類が結構溜まっていた。暫くは不在間の状況把握をしないとね……。
家に帰って夕食を取っていた時、お父様がレイテアの出産について教えてくれた。
「先日、騎士団長の第一子が生まれたそうだ。女の子らしい。母子ともに健康という話だ」
「お父様、教えて下さり有難うございます。では、何か出産祝いを贈らねばいけませんね」
「アルカドール家として出産祝いを贈る予定だが、フィリスも個人的に贈るのだろう? 重複しないよう準備してくれ」
「承知致しましたわ。私が今度の休日にシンスグリム邸に向かいましょう」
何か買うのも悪くないけれど、役に立ちそうなものを自作してもいいかもしれない。考えておこう。
現在精霊課は、既に恒例となっている魔法兵団との協同訓練を行っていて、今日が最終日だ。
最近は実戦的な訓練が増えているそうで、夜間訓練なども行っているらしい。精霊術士の役割も増えたらしく、魔法強化だけではなく、精霊に陣地周辺の警戒などをお願いすることもあるそうだ。確かに、夜間や悪天候、人の目が届きにくい所なども確認することが出来るからね……。
また、最近は飛行兵団の一部も訓練に参加しているらしい。飛行兵団には元々魔法兵団所属だった兵士が多いから、意思の疎通も容易だし、先導役に精霊術士が配置されていることもあって精霊課とも縁がある。精霊から得た情報を元に飛行兵団が奇襲を行う、などといった訓練も行われているそうだ。
この際、精霊術士も空動車に同乗して、魔法強化を併用して強力な魔法で攻撃するらしい。飛行兵団はまだ数が少ないから、その分威力を高めて攻撃する、ということなのだろう。色々考えているなあ。
協同訓練が終了したので、私は参加した精霊術士達を労うため、家の料理人達に作って貰ったお菓子を届けて貰い、精霊課に顔を出した。アルカドール領では、王都とはまた違った美味しいお菓子が食べられると評判になっているので、最近は家で作ったお菓子をたまに精霊課に差し入れしているのだ。
先月治水工事支援から戻って来ていて、今回の協同訓練にも参加したパティは、かなり疲れた顔をしていたが
「皆様、協同訓練ご苦労様でした。家の者に甘味を作らせましたので、召し上がって下さいな」
と私が言ったところ
「まあ、導師様、お心遣い大変有難く存じますわ! 訓練で疲れていた所に甘味を頂けるなど、何たる幸甚なのでしょうか」
と、途端に元気になって、早速お菓子を持って来たクラリアにお菓子をねだっていた。
「ふふ、今回は薄皮糖泡の新作ですのよ。さあ、他の皆様も休憩いたしましょう」
周りに向かって言うと、待ってましたと言わんばかりに他の精霊術士達が寄って来て、クラリアからお菓子を渡され、各々お茶を入れて食べ始めた。今回のお菓子はエクレアだ。シュークリームは既に王都の店でも食べられるが、今回はそのバリエーションということで、エクレアに挑戦して貰ったのだ。
「導師様、何時も有難うございます! これが新作ですか! 薄皮糖泡に殻葵糖がかかっていますね!うーん、ほろ苦さが中の卵糖泡とも絶妙に合っていてとても美味しいです!」
「ええ、クロティナさん。お気に召したようで良かったわ。うちの者にも伝えておくわね」
最近は精霊術士が増えているので、少ない時でも20人くらいはいる。今回王都にいて協同訓練に参加した精霊術士は23人だ。精霊課長や他の職員にも配ったが、3つ余ってしまった。精霊術士達は前世で言うところのあみだくじを始め、余りは見事に当選した3名の物となった。
そのうちの一人であるパティに
「パティさん、食べ過ぎないように気を付けて下さいませ」
私がそう言うと、笑いが起こるも、パティは気にせず綺麗に食べてしまった。以前はお菓子の食べ過ぎで太りそうになっていたけれども、背が私より少し低いくらい、概ね160センチ位にまで伸びたから、少々お菓子を食べる程度は気にする必要が無いのかもしれないけれど。
休日になったので、出産祝いを渡しにテルフィを伴ってシンスグリム子爵邸に向かった。応接室に案内され、待っているとシンスグリム夫妻が入って来たので、お祝いの言葉を掛ける。
「シンスグリム子爵、レイテア、出産おめでとうございます。元気そうで安心しましたわ」
「お忙しいところ、わざわざお越し頂き有難く存じます」
「導師様、神官に治癒を行って貰ってから暇になったので、何時もの体操などを行っておりましたので、もう身体も元通りですよ。先程も夫と対戦をしていた所です。流石に体が鈍っていたので相手になりませんでしたがね」
「……相変わらずですわね。まあ、健康が何よりですわ」
子供を産んでも変わらないレイテアを見ていると、護衛であった頃を思い出して懐かしくなったが、それはそれとして、今回の目的である、出産祝いを渡しておかないとね。
「今日は、祝いの品を持って参りましたのよ。こちらは当家から。そしてこれは私からですわ」
「おお、有難く頂戴致します。……ところでこちらは一体?」
私は、アルカドール家からの祝いの品が入った箱と、私個人からの祝いの品を異空間から取り出し、二人に渡したが、私の祝いの品はこの世界では見かけないものだったので、シンスグリム子爵は何に使うものなのか尋ねて来た。
「こちらは、赤子が寝転んでいる時に、触って遊べるようにした玩具ですわ。自作の品ですので、大したものではありませんが」
何となく二人の子供には合いそうな気がしたので、ベビージムを作ってみたのだ。
「成程! これで赤子の頃から鍛えさせようということですね。このような素晴らしい品を、手ずから作って頂けるとは……必ずや娘をご期待に添うように育てて参ります!」
……いや、一応遊ぶためのものなのだけれど……まあ、間違ってないかな。
それから色々話した後、赤ちゃんを見せて貰った。「リンドルピア」と名付けたそうだ。
「リンダ~。こちらは精霊導師というとても凄い方なのですよ~」
と、赤ちゃんに私を紹介しつつ、抱っこをさせてくれた。風属性らしく、緑色の瞳をしている。
「リンダちゃん、私はフィリストリアと言う者ですわ。宜しくお願いしますね」
挨拶をして暫く抱いた後、テルフィも抱かせて貰っていた。ちなみに、ベビージムを設置したところ、早速リンダは反応していたが、今は身体がうまく動かない時期なので何だかよく判らない動きになっていたが、可愛らしい動きだった。
その後、庭で暫くぶりにレイテアと対戦してみた。流石に先程言っていた通り、ブランクがあるため以前の切れは無いが、勝負勘は衰えていないようだ。フェイントには引っ掛からないし、体勢も安定している。とは言え速度を上げて攻めると対応しきれなかったようで、簡単に1本取れた。
その後テルフィともレイテアは対戦したが、テルフィはかなりの接戦の末、何とか勝てた。
「テルフィ、今の私に手古摺るようではまだまだだな」
「いや、普通はもっと弱くなってませんか? 何でこんなに強いんです?」
「うーん、何というか、自分ではない重さが身体に付いている中で、何時もと同じ姿勢を保つのは大変だった、ということかな。テルフィも錘か何かで試してみるといい」
「理屈は解りますが……今度余裕のある時に試してみます」
レイテアが完全復活する日は近そうだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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※ 造語
薄皮糖泡:シュークリーム 殻葵糖:チョコレート 卵糖泡:カスタードクリーム